『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第105話 花柱の約束

白銀の雪原。

 

吹き荒れる吹雪の中、カナエは刀を杖代わりに立っていた。

 

「……」

 

目の前では、獪岳と童磨が再び激突している。

 

「雷の呼吸――!」

 

雷鳴が轟く。

 

「迅雷・閃々!」

 

獪岳の姿が一瞬で消えた。

 

「速いねぇ!」

 

童磨が扇を振る。

 

雷光と氷が激突し、雪原を白と青の光が駆け抜ける。

 

「……」

 

カナエはその戦いを見つめていた。

 

そして。

 

自分の胸に手を当てる。

 

先ほどの言葉が頭から離れない。

 

――しのぶを、よろしくね。

 

「……」

 

カナエは静かに目を閉じた。

 

しのぶ。

 

幼い頃から、ずっと一緒だった妹。

 

姉の背中を追いかけ。

 

姉の笑顔を真似して。

 

いつしか、自分よりも強くなった妹。

 

けれど。

 

「……あの子は」

 

カナエは小さく呟く。

 

「まだ、無理をしてしまう」

 

怒りを抱えていても笑う。

 

悲しくても笑う。

 

苦しくても笑う。

 

それが、しのぶの優しさだった。

 

「だから……」

 

カナエは刀を握る。

 

「私は約束する」

 

もう一度、立ち上がった。

 

「絶対に生きて帰る」

 

その瞳に、強い光が宿る。

 

「しのぶに……直接伝えなければ」

 

その瞬間。

 

「――カナエ!」

 

獪岳の声。

 

カナエが顔を上げる。

 

「!」

 

童磨の氷の刃が、獪岳の脇を抜けてこちらへ飛んできていた。

 

「……!」

 

カナエは反射的に刀を振る。

 

――ガキィン!

 

氷の刃を弾き飛ばす。

 

「危ない!」

 

獪岳が駆け寄る。

 

「大丈夫か!」

 

「はい」

 

カナエは微笑む。

 

「もう、大丈夫です」

 

「……?」

 

「少しだけ、迷っていました」

 

「何を?」

 

カナエは獪岳を見る。

 

「生きることを」

 

「……」

 

「もし私がここで死んだら、しのぶはどうなるのか」

 

獪岳は黙って聞いている。

 

「でも……」

 

カナエは刀を構える。

 

「やっぱり、死ねません」

 

「当然だ」

 

獪岳は即答した。

 

「生きて帰るぞ」

 

「はい」

 

二人の視線が重なる。

 

「約束です」

 

「ああ」

 

その時。

 

「いい話だねぇ」

 

童磨が二人を見つめていた。

 

「生きて帰る約束かぁ」

 

「……」

 

「でも残念」

 

童磨の扇が開く。

 

「僕がいる限り、そんな約束は――」

 

冷気が広がる。

 

「守れないよ」

 

カナエの瞳が鋭くなる。

 

「……いいえ」

 

「ん?」

 

カナエは刀を構えた。

 

「守ります」

 

「どうやって?」

 

「私には――」

 

一歩踏み出す。

 

「守りたい人がいるから」

 

童磨が笑う。

 

「またそれ?」

 

「ええ」

 

カナエは微笑む。

 

「あなたには分からないでしょうね」

 

「誰かを大切にする気持ち?」

 

「そうです」

 

「僕だって大切にしてるよ?」

 

「……」

 

カナエは童磨を真っ直ぐ見つめる。

 

「あなたが言う『大切』と、私たちの言う『大切』は違います」

 

「へぇ」

 

「あなたは人を食べる」

 

「うん」

 

「私たちは人を守る」

 

刀を握り直す。

 

「だから、絶対に相容れません」

 

「なるほどねぇ」

 

童磨は笑う。

 

「じゃあ、どちらが正しいか――」

 

扇を構える。

 

「戦って決めようか」

 

「望むところです」

 

カナエが踏み込む。

 

「花の呼吸――」

 

獪岳も並ぶ。

 

「雷の呼吸――」

 

二人が同時に駆ける。

 

「行きます!」

 

「合わせろ!」

 

「はい!」

 

花弁のような斬撃。

 

雷光のような一閃。

 

二つの刀が、童磨へ迫る。

 

「――!」

 

童磨が扇で受ける。

 

――ガキィィン!

 

「くっ……!」

 

童磨が後退する。

 

「……!」

 

「今です!」

 

カナエが叫ぶ。

 

獪岳が踏み込む。

 

「迅雷・閃々!」

 

雷光。

 

童磨の身体に斬撃が走る。

 

「――ッ!」

 

童磨が飛び退く。

 

しかし。

 

「逃がしません!」

 

カナエが追う。

 

「花の呼吸――」

 

斬撃が舞う。

 

童磨が防ぐ。

 

「凄いねぇ!」

 

「まだです!」

 

カナエはさらに踏み込む。

 

「私は――」

 

刀を振り抜く。

 

「約束したんです!」

 

童磨の扇を弾き飛ばす。

 

「しのぶのところへ帰るって!」

 

童磨の表情が変わる。

 

「……!」

 

カナエの刀が、童磨の首へ迫る。

 

「――ッ!」

 

しかし。

 

あと僅か。

 

童磨が身体を反らす。

 

刃は首を掠めるだけだった。

 

「惜しい!」

 

童磨が笑う。

 

「あと少しだったね!」

 

「……!」

 

カナエは悔しそうに唇を噛む。

 

獪岳が横から斬り込む。

 

「なら――」

 

雷光。

 

「俺が届かせる!」

 

童磨が扇を構える。

 

「来い!」

 

――ガキィィィン!!

 

三者の刃と扇が激突する。

 

そして。

 

獪岳の雷とカナエの花が、再び一つの攻撃となった。

 

「約束は――」

 

カナエが叫ぶ。

 

「絶対に守ります!」

 

「だから――」

 

獪岳も叫ぶ。

 

「お前はここで死ぬな!」

 

「はい!」

 

二人の声が重なる。

 

その声は。

 

遠く離れた蝶屋敷まで届くことはなかった。

 

しかし。

 

その約束だけは。

 

二人の胸の中に、確かに刻まれていた。

 

――必ず、生きて帰る。

 

それが。

 

花柱・胡蝶カナエが、この夜に立てた約束だった。

 

 

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