『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第106話 カナエ救済

白銀の雪原。

 

吹雪の中、童磨と二人の柱は激しく刃を交えていた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

カナエの呼吸が乱れる。

 

冷気に侵された肺が悲鳴を上げていた。

 

それでも、刀を握る手だけは緩めない。

 

「カナエ!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「もう下がれ!」

 

「まだ……戦えます!」

 

「嘘をつくな!」

 

獪岳が童磨の扇を弾き飛ばす。

 

「お前の足元を見ろ!」

 

「……!」

 

カナエは自分の足を見る。

 

膝が震えている。

 

「……私は」

 

「十分戦った」

 

獪岳は童磨から目を離さない。

 

「ここからは俺がやる」

 

「でも……」

 

「約束しただろ」

 

「……!」

 

「生きて帰るって」

 

カナエは目を見開く。

 

先ほど交わした言葉。

 

――必ず、生きて帰る。

 

「……はい」

 

カナエは小さく頷いた。

 

その瞬間。

 

「逃がすと思う?」

 

童磨が扇を振る。

 

無数の氷の刃が二人へ襲い掛かる。

 

「――!」

 

獪岳が刀を振る。

 

「雷の呼吸!」

 

雷光が氷を斬り裂く。

 

しかし。

 

一枚だけ。

 

獪岳の脇をすり抜けた。

 

「カナエ!」

 

「――っ!」

 

カナエが避ける。

 

だが、足がもつれた。

 

「……!」

 

身体が雪の上へ倒れる。

 

童磨が一瞬で距離を詰めた。

 

「終わりだね」

 

扇が振り下ろされる。

 

「させるか!」

 

獪岳が割り込む。

 

――ガキィィン!

 

扇と刀が激突。

 

獪岳の身体が押し込まれる。

 

「ぐっ……!」

 

「邪魔だなぁ」

 

童磨が力を込める。

 

「君から先に――」

 

「……舐めるな!」

 

獪岳の身体から雷光が爆発した。

 

「雷鳴――!」

 

童磨が後退する。

 

その隙に。

 

「カナエ!」

 

獪岳が振り返る。

 

「立てるか!」

 

「……はい」

 

しかし。

 

カナエは立ち上がれない。

 

「……すみません」

 

「謝るな!」

 

獪岳は刀を地面に突き立てる。

 

「ここは俺が――」

 

「いいえ」

 

カナエが首を横に振る。

 

「二人で帰るんです」

 

「……!」

 

「だから、私も最後まで戦います」

 

カナエは刀を握り直した。

 

「ただ……」

 

「?」

 

「少しだけ、あなたの力を借りてもいいですか?」

 

獪岳は一瞬だけ目を見開く。

 

そして。

 

「……ああ」

 

カナエへ手を差し出した。

 

「掴まれ」

 

カナエはその手を握る。

 

獪岳が引き起こす。

 

「ありがとうございます」

 

「礼は帰ってから聞く」

 

「ふふ……そうですね」

 

二人が再び並び立つ。

 

童磨はその光景を見ながら笑った。

 

「本当に仲がいいねぇ」

 

「……」

 

「でも、二人とももう限界でしょう?」

 

「そうだな」

 

獪岳が答える。

 

「だから――」

 

刀身に雷が集まる。

 

「ここで終わらせる」

 

「……!」

 

童磨が構える。

 

「来るかい?」

 

「カナエ!」

 

「はい!」

 

「一度だけだ」

 

獪岳の声が低くなる。

 

「俺の雷に合わせろ」

 

「分かりました」

 

二人は呼吸を合わせる。

 

花の呼吸。

 

雷の呼吸。

 

異なる二つの呼吸が、互いの動きを補い始める。

 

「雷の呼吸――」

 

獪岳が踏み込む。

 

「迅雷・閃々!」

 

「花の呼吸――!」

 

カナエも同時に駆ける。

 

「弐ノ型・御影梅!」

 

童磨が迎え撃つ。

 

「血鬼術――凍て曇!」

 

猛烈な冷気が吹き荒れる。

 

「――!」

 

獪岳の雷が冷気を切り裂く。

 

その隙を、カナエの刃が抜ける。

 

「……!」

 

童磨の扇が弾かれた。

 

「なっ――!」

 

カナエの刀が、童磨の首へ迫る。

 

「今です!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「斬れ!」

 

「はい!」

 

カナエが刀を振り抜く。

 

――ザンッ!!

 

童磨の首に刃が食い込む。

 

「――!」

 

しかし。

 

完全には斬れない。

 

童磨が寸前で身体を捻ったため、刃は首の半ばで止まった。

 

「惜しい!」

 

童磨が笑う。

 

だが。

 

「それで十分だ」

 

獪岳の声。

 

「――!」

 

雷光。

 

獪岳の刀が、童磨の首へ走る。

 

「雷の呼吸――九頭龍の雷!」

 

九本の雷撃が一斉に走った。

 

――轟轟轟轟轟轟轟轟轟!!

 

童磨の身体が吹き飛ぶ。

 

首に食い込んでいたカナエの刃も、雷撃の衝撃でさらに深く入る。

 

「――ッ!」

 

童磨の首が大きく裂ける。

 

そして。

 

「……!」

 

カナエの刀が抜けた。

 

童磨は大きく後退する。

 

「……まさか」

 

童磨の表情から、初めて余裕が消えた。

 

「僕が……押されている?」

 

獪岳は息を整える。

 

「これが――」

 

刀を構える。

 

「二人の柱の力だ」

 

童磨の首の傷は再生を始めている。

 

しかし、その再生速度は明らかに遅い。

 

「……!」

 

カナエも気づいた。

 

「獪岳さん」

 

「ああ」

 

「効いています」

 

「そうだ」

 

獪岳は頷く。

 

「あと少しだ」

 

しかし。

 

その言葉を聞いたカナエの身体が大きく揺れた。

 

「……っ」

 

「カナエ!」

 

獪岳が支える。

 

「もう限界だ」

 

「……でも」

 

「もういい」

 

獪岳はカナエを背負った。

 

「獪岳さん……?」

 

「俺が運ぶ」

 

「ですが……童磨が」

 

「心配するな」

 

獪岳は童磨を睨む。

 

「こいつは俺が止める」

 

「……」

 

「お前は生きろ」

 

カナエはしばらく黙っていた。

 

そして。

 

「……分かりました」

 

獪岳の背中に身を預ける。

 

「お願いします」

 

「ああ」

 

その時だった。

 

遠くから複数の足音が響いた。

 

「――!」

 

獪岳が振り返る。

 

山道の向こう。

 

鬼殺隊の隊士たちが駆けてくる。

 

「鳴柱様!」

 

「花柱様!」

 

「援軍です!」

 

獪岳は僅かに目を見開いた。

 

「……遅かったな」

 

「申し訳ありません!」

 

「いや」

 

獪岳はカナエを見る。

 

「ちょうどいい」

 

そして隊士たちへ告げる。

 

「花柱を連れて下山しろ」

 

「ですが、鳴柱様は?」

 

「俺は残る」

 

カナエが顔を上げる。

 

「獪岳さん」

 

「大丈夫だ」

 

「……必ず帰ってきてください」

 

「ああ」

 

「約束ですよ」

 

「約束だ」

 

カナエは微笑んだ。

 

そして隊士たちに支えられながら、ゆっくり山を下りていく。

 

獪岳はその背中を見送った。

 

「……これでいい」

 

振り返る。

 

そこには。

 

首の傷を再生させながら立つ童磨。

 

「……逃がしたね」

 

「ああ」

 

「花柱を」

 

「ああ」

 

「どうして?」

 

獪岳は刀を構える。

 

「俺が柱だからだ」

 

雷光が走る。

 

「仲間を守るのが、柱の役目だ」

 

童磨が笑う。

 

「じゃあ――」

 

扇を開く。

 

「君一人で僕を倒すつもり?」

 

獪岳の瞳が鋭くなる。

 

「そのつもりだ」

 

「面白いねぇ」

 

「俺には――」

 

雷鳴が轟く。

 

「帰りを待っている女がいる」

 

獪岳は刀を握り締める。

 

「だから、絶対に負けない」

 

その頃。

 

山を下るカナエは、静かに空を見上げていた。

 

雪の向こうに。

 

一筋の雷光が走る。

 

「……獪岳さん」

 

カナエは小さく微笑んだ。

 

「ありがとう」

 

そして。

 

胸の中で、もう一度だけ誓う。

 

――必ず、生きて帰る。

 

この夜。

 

本来なら失われるはずだった花柱の命は。

 

鳴柱・獪岳の雷によって、救われた。

 

そして運命は。

 

大きく変わり始めていた。

 

 

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