『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第107話 復讐の炎を消して

深夜の山中。

 

カナエが鬼殺隊の隊士たちに支えられ、山を下っていく。

 

何度も振り返りながら。

 

「……」

 

その胸には、ひとつの不安があった。

 

獪岳。

 

彼はまだ、あの鬼と戦っている。

 

「……大丈夫」

 

カナエは自分に言い聞かせる。

 

「獪岳さんなら……」

 

だが。

 

その声は僅かに震えていた。

 

一方。

 

山の奥では――。

 

「どうしたの?」

 

童磨が笑っている。

 

「さっきまでの勢いは?」

 

獪岳は刀を構えたまま、静かに立っていた。

 

「……」

 

息は荒い。

 

肩の傷も深い。

 

帝釈天。

 

九頭龍。

 

迅雷・閃々。

 

強力な技を何度も使った身体は、限界に近づいている。

 

それでも。

 

「……まだだ」

 

獪岳は呟く。

 

「俺は……負けない」

 

童磨が首を傾げる。

 

「どうして?」

 

「……」

 

「もう仲間はいないよ」

 

「……」

 

「一人きりだ」

 

童磨は笑う。

 

「なら、無理して戦う必要なんてないんじゃない?」

 

獪岳の眉が僅かに動く。

 

「君も、誰かを失ったことがあるんだろう?」

 

「……!」

 

童磨の言葉。

 

「鬼になった理由も、きっと復讐なんじゃない?」

 

「黙れ」

 

「怒ってるね」

 

「黙れ!」

 

獪岳の周囲に雷が弾ける。

 

「君のその怒り――」

 

童磨は楽しそうに笑う。

 

「僕は嫌いじゃないよ」

 

「……」

 

「怒りや憎しみって、とても強い感情だからね」

 

獪岳は刀を握り締める。

 

「……違う」

 

「ん?」

 

「俺は――」

 

雷光が弱まる。

 

「憎しみだけで戦っているんじゃない」

 

童磨の笑顔が僅かに止まる。

 

「……へぇ」

 

獪岳は目を閉じる。

 

脳裏に浮かぶ。

 

しのぶの笑顔。

 

カナエの笑顔。

 

そして。

 

仲間たちの姿。

 

「昔の俺は……」

 

静かに語る。

 

「何もかもが気に入らなかった」

 

自分より強い者。

 

自分より恵まれた者。

 

自分を見下す者。

 

「だから、強くなりたかった」

 

雷が僅かに揺れる。

 

「誰にも負けないために」

 

「誰にも馬鹿にされないために」

 

「……」

 

「怒りを力に変えた」

 

童磨は笑う。

 

「それは悪いことじゃないよ」

 

「……そうかもしれない」

 

獪岳は目を開く。

 

「だが――」

 

刀を握る。

 

「今の俺は違う」

 

「どう違うの?」

 

「守りたいものがある」

 

「……」

 

「しのぶがいる」

 

「カナエもいる」

 

そして。

 

「俺を信じてくれる仲間がいる」

 

獪岳の雷が、再び強くなる。

 

「だから俺は――」

 

童磨を睨む。

 

「復讐のためだけには戦わない」

 

童磨が首を傾げる。

 

「でも、僕を殺したいんでしょう?」

 

「ああ」

 

「それは復讐じゃないの?」

 

「違う」

 

獪岳は即答した。

 

「これは――」

 

一歩踏み込む。

 

「守るための戦いだ」

 

童磨の表情から笑みが消えた。

 

「……」

 

獪岳の声が響く。

 

「俺が怒っているのは、お前が人を殺したからだ」

 

「お前がカナエを傷つけたからだ」

 

「しのぶたちの大切なものを奪おうとしたからだ」

 

刀身に雷光が集まる。

 

「俺の怒りは――」

 

雷鳴が轟く。

 

「誰かを守るために使う」

 

童磨が笑う。

 

「綺麗事だねぇ」

 

「そうかもな」

 

獪岳は構える。

 

「だが――」

 

「俺はそれでいい」

 

童磨が扇を開く。

 

「なら、見せてよ」

 

「君のその『守る力』を」

 

「……ああ」

 

獪岳が踏み込む。

 

「雷の呼吸――」

 

雷光が雪原を走る。

 

「迅雷・閃々!」

 

童磨が迎え撃つ。

 

「血鬼術――凍て曇!」

 

雷と氷が激突する。

 

――ドォォォン!!

 

獪岳は吹き飛ばされる。

 

しかし。

 

すぐに立ち上がる。

 

「……!」

 

童磨が目を細める。

 

「まだ来るの?」

 

「ああ」

 

獪岳は刀を構える。

 

「何度でもだ」

 

再び雷光。

 

「俺は――」

 

一歩。

 

「復讐のために強くなった男じゃない」

 

二歩。

 

「誰かを守るために――」

 

三歩。

 

「強くなった男だ!」

 

――轟ッ!!

 

雷鳴と共に、獪岳が童磨へ突撃する。

 

その頃。

 

山を下っていたカナエは、遠くで雷鳴を聞いた。

 

「……」

 

足を止める。

 

「獪岳さん……」

 

隊士が声をかける。

 

「花柱様?」

 

カナエは空を見上げる。

 

そして。

 

微笑んだ。

 

「……もう、大丈夫ですね」

 

「え?」

 

「彼の雷は……」

 

カナエは静かに呟く。

 

「もう、復讐のための雷ではありません」

 

その瞳には確かな信頼があった。

 

「誰かを守るための雷です」

 

再び雷鳴が響く。

 

その音は。

 

かつて怒りと憎しみに満ちていた獪岳の心が。

 

少しずつ変わり始めた証だった。

 

そして山の奥では――。

 

「来い、童磨!」

 

鳴柱・獪岳が吠える。

 

「俺はもう――」

 

雷光を纏った刀を振り上げる。

 

「憎しみに負けない!」

 

――轟ッ!!

 

白銀の夜空を。

 

一筋の雷が駆け抜けた。

 

 

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