『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

108 / 137
第108話 大正コソコソ噂話・生き残った花柱

――蝶屋敷。

 

夜が明ける頃。

 

静かな部屋で、胡蝶カナエは布団の上で眠っていた。

 

「……」

 

顔色はまだ悪い。

 

肺には童磨の冷気による負担が残っている。

 

それでも。

 

命は助かった。

 

そして――。

 

「……ん」

 

カナエがゆっくり目を開ける。

 

「ここは……」

 

見慣れた天井。

 

「蝶屋敷……?」

 

「お姉ちゃん!」

 

「カナエ姉さん!」

 

襖が勢いよく開く。

 

そこにいたのは――。

 

「しのぶ……」

 

妹の胡蝶しのぶ。

 

そして栗花落カナヲだった。

 

「お姉ちゃん!」

 

しのぶが駆け寄る。

 

「よかった……!」

 

カナエは微笑む。

 

「心配をかけましたね、しのぶ」

 

「……本当に……」

 

しのぶの声が震える。

 

「死んじゃったかと思った……」

 

「ごめんなさい」

 

カナエがそっと妹の頭を撫でる。

 

「でも、私はここにいますよ」

 

「……はい」

 

しのぶは涙を拭う。

 

「本当に……よかった」

 

カナエはその顔を見つめる。

 

そして。

 

「しのぶ」

 

「何ですか?」

 

「ひとつ、伝えたいことがあります」

 

「……?」

 

カナエは優しく微笑む。

 

「あなたには……大切な人がいますね」

 

「……!」

 

しのぶの顔が一瞬で赤くなる。

 

「な、何を言ってるんですか、お姉ちゃん!」

 

カナエがくすくす笑う。

 

「やっぱり」

 

「何がですか!」

 

「ふふ……」

 

カナエは嬉しそうだった。

 

「獪岳さんが、あなたをとても大切にしていることは知っていました」

 

「……」

 

「でも今回、私もよく分かりました」

 

しのぶは黙る。

 

「獪岳さんは、私を守ってくれました」

 

「……!」

 

「そして、私を生きて帰らせるために、一人で童磨の前に残ったんです」

 

しのぶの表情が変わる。

 

「……あの人は」

 

小さく呟く。

 

「本当に……無茶ばかりします」

 

「ええ」

 

カナエは笑う。

 

「でも、とても優しい人ですよ」

 

「……はい」

 

しのぶの口元に、小さな笑顔が浮かんだ。

 

その隣で。

 

「……」

 

カナヲは黙って二人を見ていた。

 

そして。

 

「カナエさん」

 

「はい?」

 

「獪岳さんは……帰ってきますか?」

 

カナエは少しだけ目を伏せる。

 

「ええ」

 

迷いなく答える。

 

「必ず帰ってきます」

 

「……どうして?」

 

「約束したからです」

 

カナエは微笑む。

 

「私と、そしてしのぶに」

 

その頃――。

 

蝶屋敷から遠く離れた山。

 

「……」

 

獪岳は雪原に立っていた。

 

刀を握りしめ。

 

目の前には――。

 

「いやぁ……」

 

童磨。

 

「本当にしぶといね、君」

 

獪岳は息を整える。

 

「お前こそな」

 

二人とも傷だらけだった。

 

だが。

 

獪岳の目には、もう迷いはない。

 

「俺は帰る」

 

「誰のところへ?」

 

「しのぶのところだ」

 

「……ふふ」

 

童磨が笑う。

 

「いいねぇ」

 

「だから――」

 

獪岳は刀を構える。

 

「ここでお前を倒す」

 

再び雷鳴が轟いた。

 

――そして。

 

この戦いの後。

 

鬼殺隊の中で、ある噂が広まることになる。

 

「花柱・胡蝶カナエは――」

 

「上弦の弐との遭遇戦から、生還した」

 

「鳴柱・獪岳が救ったらしい」

 

「しかも……」

 

「一人で上弦の弐を足止めしたって?」

 

「本当か?」

 

「さあな」

 

隊士たちは声を潜める。

 

「でも、花柱様が生きて帰ってきたのは事実だ」

 

「だったら――」

 

「すごいことだな」

 

「うん」

 

そして。

 

大正コソコソ噂話――。

 

蝶屋敷の隅で。

 

アオイが小声で話していた。

 

「ねぇ、知ってます?」

 

「何を?」

 

「花柱様が生きて帰ってきた理由」

 

「え?」

 

アオイは周囲を確認する。

 

「鳴柱様が、上弦の弐を相手に一人で戦って時間を稼いだんですって」

 

「えぇ!?」

 

「しかも花柱様に――」

 

アオイは声を落とす。

 

「『必ず生きて帰る』って約束させたそうですよ」

 

「……」

 

「……格好いいですね」

 

「ですねぇ」

 

そして。

 

もう一つ。

 

「でも、もっと凄い噂があります」

 

「何です?」

 

「花柱様が帰ってきたと知った鳴柱様が――」

 

「何て言ったと思います?」

 

「……?」

 

「『約束は守った』って」

 

「……!」

 

「ですって」

 

二人は顔を見合わせる。

 

「……」

 

「……恋人って、いいですね」

 

「はい……」

 

その頃。

 

蝶屋敷の病室。

 

カナエは静かに目を閉じていた。

 

そして。

 

胸の中で、あの夜の言葉を思い出す。

 

――必ず帰ってきてください。

 

――約束だ。

 

「……獪岳さん」

 

カナエは小さく微笑む。

 

「私も……約束を守りましたよ」

 

生き残った花柱。

 

その命は。

 

一人の鳴柱によって繋がれた。

 

そしてこの出来事は――。

 

鬼殺隊の歴史を、大きく変える転機となったのである。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。