『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第九章 鬼殺隊無双――救済される者たち 第109話 竈門炭治郎との出会い

――数日後。

 

蝶屋敷。

 

「……ふぅ」

 

胡蝶カナエは縁側に座り、庭を眺めていた。

 

まだ本調子ではない。

 

童磨との戦いで受けた傷も、肺に残った冷気の影響も完全には消えていなかった。

 

それでも。

 

「こうして朝を迎えられるだけで……幸せですね」

 

柔らかな風が吹く。

 

その隣では、しのぶが薬を整理していた。

 

「お姉ちゃん、まだ無理は禁物ですよ」

 

「分かっています」

 

「本当に?」

 

「本当です」

 

「……怪しいですね」

 

「ふふ」

 

二人が笑い合う。

 

その時だった。

 

「失礼します!」

 

屋敷の外から、隊士の声が響いた。

 

「胡蝶様!」

 

しのぶが振り返る。

 

「何でしょう?」

 

「鎹鴉から連絡です! 負傷した隊士が一名、こちらへ運ばれてきます!」

 

「分かりました」

 

しのぶが立ち上がる。

 

「お姉ちゃんはここにいてください」

 

「はい」

 

だが。

 

カナエはふと、遠くから聞こえてくる足音に気づいた。

 

「……?」

 

妙な気配だった。

 

鬼ではない。

 

しかし。

 

ただの隊士とも少し違う。

 

「誰でしょうね」

 

しのぶと共に玄関へ向かう。

 

しばらくして。

 

「こちらです!」

 

隊士たちが、一人の少年を担いで運んできた。

 

額には包帯。

 

身体中にも傷。

 

そして、その背中には――。

 

「……!」

 

しのぶの表情が変わる。

 

少年が背負っている木箱。

 

その中から、微かな鬼の気配がした。

 

「しのぶ」

 

カナエが静かに呼ぶ。

 

「分かっています」

 

しのぶは少年へ近づく。

 

「あなた」

 

少年がゆっくり目を開ける。

 

「……ここは……?」

 

「蝶屋敷です」

 

しのぶが尋ねる。

 

「名前は?」

 

少年は苦しそうに答えた。

 

「竈門……炭治郎……です」

 

「竈門……」

 

カナエがその名を繰り返す。

 

炭治郎はゆっくり身体を起こそうとする。

 

「妹……禰豆子は……」

 

その瞬間。

 

木箱の中から。

 

「……」

 

小さな物音。

 

しのぶが箱を見る。

 

「妹さん、ですか?」

 

「はい……」

 

炭治郎は必死に答える。

 

「妹は……鬼になりました」

 

その言葉に。

 

周囲の隊士たちがざわめく。

 

「鬼……?」

 

「この少年、鬼を連れているのか?」

 

「まさか……!」

 

炭治郎は箱を抱きしめる。

 

「違います!」

 

「禰豆子は……人を食べません!」

 

「鬼が人を食べない?」

 

隊士の一人が刀へ手を伸ばす。

 

「そんな話、信じられるか!」

 

「やめてください!」

 

炭治郎が立ち上がる。

 

「禰豆子は俺の妹です!」

 

「鬼であっても――」

 

「人を傷つけさせない!」

 

その必死な声。

 

カナエは黙って少年を見つめていた。

 

「……」

 

その目には恐怖がない。

 

妹を守ろうとする強い意志だけがある。

 

「しのぶ」

 

「はい」

 

「その子の妹を、確認しましょう」

 

「お姉ちゃん?」

 

「少なくとも」

 

カナエは穏やかに言う。

 

「この子の話を聞く価値はあります」

 

炭治郎が顔を上げる。

 

「……!」

 

その時。

 

「何やってるんだ、お前ら」

 

低い声が響いた。

 

「……!」

 

全員が振り返る。

 

玄関に立っていたのは――。

 

鳴柱・獪岳。

 

「獪岳さん!」

 

カナエが声を上げる。

 

「帰ってきたんですね!」

 

「ああ」

 

獪岳は頷く。

 

「少し報告があってな」

 

そして。

 

炭治郎を見る。

 

「……そいつは?」

 

「竈門炭治郎さんです」

 

しのぶが答える。

 

「妹さんを鬼にされたそうです」

 

「……鬼?」

 

獪岳の視線が木箱へ移る。

 

炭治郎が身構える。

 

「……」

 

獪岳は何も言わない。

 

ただ、じっと箱を見つめている。

 

やがて。

 

「出してみろ」

 

「……!」

 

炭治郎が驚く。

 

「いいんですか?」

 

「俺がいいと言ったわけじゃない」

 

獪岳は淡々と言う。

 

「だが、話を聞く前から斬るほど俺は短気じゃない」

 

しのぶが小さく笑う。

 

「それ、十分短気ですよ」

 

「うるさい」

 

「ふふ」

 

炭治郎は恐る恐る箱を開ける。

 

「禰豆子……」

 

中から少女が顔を出す。

 

竹を咥えた鬼。

 

しかし。

 

獪岳の姿を見ても襲いかかることはない。

 

「……」

 

獪岳は目を細める。

 

「本当に人を襲わないのか?」

 

炭治郎は答える。

 

「はい!」

 

「なぜ分かる?」

 

「禰豆子は……俺の妹だからです」

 

「理由になっていない」

 

「それでも……!」

 

炭治郎は拳を握る。

 

「俺は信じています!」

 

獪岳は黙る。

 

そして。

 

「……そうか」

 

意外にも、それ以上追及しなかった。

 

「お前」

 

「はい!」

 

「強くなりたいか?」

 

「……!」

 

炭治郎は驚く。

 

「はい!」

 

即答だった。

 

「妹を人間に戻すために」

 

「鬼を斬る覚悟はあるか?」

 

「あります」

 

「自分が殺される覚悟は?」

 

「……」

 

炭治郎は一瞬だけ黙る。

 

そして。

 

「あります」

 

獪岳は炭治郎の目を見る。

 

真っ直ぐな目だった。

 

「……なら、生き残れ」

 

「え?」

 

「強くなりたければ、生き残れ」

 

獪岳は背を向ける。

 

「死んだら何も守れない」

 

炭治郎はその言葉を胸に刻む。

 

「……はい!」

 

その時。

 

カナエが微笑んだ。

 

「獪岳さん」

 

「何だ」

 

「少し昔のあなたに似ていますね」

 

「……俺が?」

 

「ええ」

 

カナエは炭治郎を見る。

 

「誰かを守るために、強くなろうとしているところが」

 

獪岳は少しだけ目を伏せる。

 

「……そうかもな」

 

炭治郎は二人を見つめる。

 

「あなたは……」

 

「鳴柱・獪岳だ」

 

「鳴柱……!」

 

炭治郎の目が輝く。

 

「柱なんですか!」

 

「そうだ」

 

「凄い……!」

 

「別に凄くない」

 

「でも!」

 

炭治郎は勢いよく頭を下げた。

 

「俺も強くなります!」

 

「そうか」

 

獪岳は短く答える。

 

そして。

 

「なら、まずは呼吸を覚えろ」

 

「呼吸……?」

 

「お前が使っている水の呼吸」

 

「……!」

 

「基礎から叩き直せ」

 

炭治郎は驚いた。

 

「俺の呼吸を知っているんですか?」

 

「見れば分かる」

 

獪岳は刀の柄に手を置く。

 

「鬼殺隊の剣士なら、自分の呼吸くらい極めろ」

 

「はい!」

 

その声に。

 

禰豆子が小さく顔を上げる。

 

獪岳は彼女を見る。

 

「……」

 

鬼。

 

それでも。

 

人を襲わない鬼。

 

そして。

 

その鬼を命懸けで守る少年。

 

「……面白い兄妹だな」

 

獪岳が呟く。

 

「獪岳さん?」

 

「何でもない」

 

カナエが微笑む。

 

「この子たちも、きっと変わりますね」

 

しのぶも頷く。

 

「ええ」

 

そして。

 

蝶屋敷に集まった三人の柱と一人の少年。

 

その出会いは。

 

後に鬼殺隊の歴史を大きく変えることになる。

 

竈門炭治郎。

 

鬼となった妹・禰豆子を守るために戦う少年。

 

そして。

 

そんな兄妹を救おうとする、鳴柱・獪岳。

 

「炭治郎」

 

獪岳が振り返る。

 

「はい!」

 

「強くなれ」

 

「はい!」

 

「そして――」

 

一瞬だけ、獪岳は笑った。

 

「妹を守り抜け」

 

「……!」

 

炭治郎は力強く頷く。

 

「必ず!」

 

こうして。

 

鳴柱・獪岳と竈門炭治郎。

 

二人の剣士の物語が――。

 

静かに始まった。

 

 

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