『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第111話 嘴平伊之助と鳴柱

蝶屋敷。

 

竈門炭治郎と我妻善逸が療養を続ける中、屋敷には新たな騒動が起きていた。

 

「――猪だ!」

 

「猪じゃない!」

 

廊下に響く大声。

 

「俺は嘴平伊之助様だ!」

 

「だから猪じゃないって言ってるじゃん!」

 

善逸が叫ぶ。

 

「頭に猪の皮を被ってる奴が何を言ってるんだよ!」

 

「うるせぇ!」

 

猪頭の少年が善逸へ飛びかかる。

 

「死ねぇ!」

 

「ぎゃああああ!」

 

その様子を、炭治郎が呆然と見ていた。

 

「伊之助、落ち着け!」

 

「俺は落ち着いてる!」

 

「どこが!?」

 

伊之助は胸を張る。

 

「俺は強い奴と戦いたいんだ!」

 

「だからって病み上がりの善逸を襲うな!」

 

「弱い奴が悪い!」

 

「伊之助!」

 

炭治郎が止めようとした、その時。

 

「……朝からうるさいな」

 

低い声が響いた。

 

「……!」

 

全員が振り返る。

 

廊下の奥。

 

漆黒の羽織を纏った男が立っていた。

 

鳴柱・獪岳。

 

「誰だ、お前!」

 

伊之助が身構える。

 

「俺か?」

 

獪岳は眉をひそめる。

 

「鬼殺隊の柱だ」

 

「柱ァ!?」

 

伊之助の目が輝く。

 

「つまり強いんだな!」

 

「……」

 

獪岳は嫌な予感がした。

 

「お前、名前は?」

 

「嘴平伊之助!」

 

「そうか」

 

獪岳は伊之助を観察する。

 

「獣の呼吸……」

 

「知ってるのか!」

 

「ああ」

 

「なら俺と戦え!」

 

「断る」

 

即答。

 

「何でだ!」

 

「朝から面倒だからだ」

 

「面倒だとォ!?」

 

伊之助が激昂する。

 

「俺様と戦うのが怖いのか!」

 

「……」

 

獪岳のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「お前」

 

「何だ!」

 

「柱を舐めるな」

 

次の瞬間。

 

――ドンッ!

 

獪岳が一歩踏み込んだ。

 

それだけで。

 

伊之助の身体が硬直する。

 

「……!」

 

本能が告げていた。

 

目の前の男は。

 

今まで戦ってきた誰よりも強い。

 

「これが……柱……」

 

伊之助が呟く。

 

獪岳は刀に手をかけることすらしない。

 

「お前の強さは悪くない」

 

「……!」

 

「身体能力も高い。感覚も鋭い」

 

伊之助が嬉しそうに笑う。

 

「そうだろ!」

 

「だが」

 

獪岳は続ける。

 

「戦い方が雑すぎる」

 

「なにィ!?」

 

「突っ込むだけ」

 

「……」

 

「相手の攻撃を見る前に動く」

 

「……」

 

「勝てる相手にはそれでいい」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

「だが、上弦には通用しない」

 

伊之助は黙り込んだ。

 

「……上弦?」

 

「ああ」

 

獪岳は炭治郎を見る。

 

「お前たちがこれから相手にする鬼は、今までの鬼とは違う」

 

「だからこそ」

 

刀の柄に手を置く。

 

「自分の強さを過信するな」

 

伊之助が拳を握る。

 

「……じゃあ」

 

顔を上げる。

 

「どうすればいい?」

 

獪岳は少しだけ驚いた。

 

先ほどまで喚いていた少年が。

 

今は真剣に自分を見ている。

 

「簡単だ」

 

獪岳は答える。

 

「考えろ」

 

「……考える?」

 

「お前は野生の感覚に頼りすぎている」

 

「……」

 

「その感覚に技術を加えろ」

 

伊之助の目が輝く。

 

「技術……!」

 

「そうだ」

 

獪岳は腰の刀を抜く。

 

「一度だけ見せてやる」

 

「!」

 

獪岳が構える。

 

雷の呼吸。

 

次の瞬間。

 

――バチィッ!

 

雷光が走った。

 

獪岳の姿が消える。

 

「……!」

 

伊之助の目でも追えない。

 

そして。

 

獪岳は伊之助の背後に立っていた。

 

「――こういうことだ」

 

「……!」

 

伊之助は振り返る。

 

「見えなかった……!」

 

「速さだけじゃない」

 

獪岳は刀を収める。

 

「相手が動く前に、動きを読む」

 

「……!」

 

伊之助は震えていた。

 

恐怖ではない。

 

興奮だった。

 

「すげぇ……!」

 

そして。

 

「俺もやる!」

 

「無理だ」

 

「何でだ!」

 

「今のお前では無理だからだ」

 

「ぐぬぬ……!」

 

伊之助が悔しそうに唸る。

 

炭治郎が笑う。

 

「伊之助」

 

「何だ!」

 

「獪岳さんに教えてもらえばいいんじゃないか?」

 

「……!」

 

伊之助が獪岳を見る。

 

「教えてくれ!」

 

「断る」

 

「何でだ!」

 

「俺は忙しい」

 

「なら俺が強くなったら教えろ!」

 

「……」

 

獪岳は少し考える。

 

「なら条件がある」

 

「何だ!」

 

「仲間を傷つけないこと」

 

「……?」

 

「強くなりたいからといって、味方に無意味な勝負を仕掛けるな」

 

伊之助は黙る。

 

「……」

 

そして。

 

「分かった!」

 

力強く頷いた。

 

「俺はもっと強くなる!」

 

「そうしろ」

 

「そして!」

 

伊之助が獪岳を指差す。

 

「いつか絶対、お前に勝つ!」

 

獪岳は鼻で笑う。

 

「十年早い」

 

「何だとォ!」

 

善逸が横から叫ぶ。

 

「伊之助、やめとけって!」

 

「うるせぇ!」

 

「鳴柱だぞ!」

 

「だから何だ!」

 

「いや怖くないの!?」

 

「怖くねぇ!」

 

「俺は怖いよぉ!」

 

「お前は黙ってろ!」

 

炭治郎は三人を見ながら笑った。

 

「……なんだか、賑やかになったな」

 

しのぶも廊下の奥から眺めている。

 

「本当に」

 

そして。

 

獪岳は騒がしい三人を見つめる。

 

炭治郎。

 

善逸。

 

伊之助。

 

性格も。

 

呼吸も。

 

生い立ちも。

 

何もかも違う。

 

だが。

 

「……悪くない」

 

小さく呟いた。

 

かつての獪岳なら。

 

他人を気にする余裕などなかった。

 

強さだけを求め。

 

弱い者を切り捨て。

 

自分一人で上へ行こうとしていた。

 

だが今は違う。

 

「守るべき仲間が増えたな」

 

その言葉を聞いたしのぶが、隣に立つ。

 

「そうですね」

 

「……」

 

「嬉しいですか?」

 

「別に」

 

「ふふ」

 

しのぶが笑う。

 

「顔に出ていますよ」

 

「出てない」

 

「出ています」

 

「……うるさい」

 

二人のやり取りを。

 

炭治郎は微笑ましそうに眺めていた。

 

伊之助はまだ獪岳に勝負を挑もうとしている。

 

善逸は必死に止めている。

 

蝶屋敷に、また新たな騒がしさが加わった。

 

そして――。

 

水の呼吸。

 

雷の呼吸。

 

獣の呼吸。

 

三人の少年たちと鳴柱の出会いは。

 

これから始まる鬼殺隊の大きな戦いにおいて、確かな意味を持つことになる。

 

「炭治郎!」

 

「何だ、伊之助?」

 

「俺たちは絶対に強くなるぞ!」

 

「ああ!」

 

「……俺も頑張るよ」

 

善逸が弱々しく手を上げる。

 

「お前はまず泣くのをやめろ」

 

獪岳が呆れた声で言う。

 

「無理ぃ!」

 

「……」

 

獪岳はため息をついた。

 

しかし。

 

その口元には。

 

ほんの僅かな笑みが浮かんでいた。

 

 

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