『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第112話 村田と名無しの隊士たち

蝶屋敷。

 

竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助が揃ってからというもの、屋敷は以前にも増して騒がしくなっていた。

 

「だから俺は猪じゃねぇ!」

 

「猪だろ!」

 

「違う!」

 

「じゃあその頭は何なんだよ!」

 

「格好いいからだ!」

 

「意味分かんないよ!」

 

廊下の向こうから聞こえてくる騒ぎ声。

 

村田は深いため息をついた。

 

「……相変わらず元気だな」

 

彼は数日前の任務で負傷し、蝶屋敷で療養している隊士の一人だった。

 

炭治郎たちと比べれば、どこにでもいる普通の隊士。

 

特別な才能があるわけでもない。

 

柱でもない。

 

ましてや、名前すら覚えられていない隊士も大勢いる。

 

「俺たちは……」

 

村田は自分の手を見る。

 

「本当に普通なんだよな」

 

鬼殺隊には、圧倒的な強さを持つ柱がいる。

 

鳴柱・獪岳。

 

花柱・胡蝶カナエ。

 

蟲柱・胡蝶しのぶ。

 

そして、他にも多くの柱たちがいる。

 

その一方で。

 

村田のような隊士たちは、日々鬼と戦いながら命を繋いでいる。

 

「柱と比べたら……」

 

「弱い」

 

背後から声がした。

 

「……!」

 

村田が振り返る。

 

獪岳だった。

 

「鳴柱様……」

 

「何をしている」

 

「いえ……少し考え事を」

 

「そうか」

 

獪岳は村田の隣に立つ。

 

「今、柱と比べて自分は弱いと思っただろ」

 

「……」

 

図星だった。

 

「はい」

 

村田は正直に答える。

 

「俺なんか、柱どころか……炭治郎たちみたいな新人にも追い抜かれそうで」

 

「……」

 

「鬼と戦うたびに怖くなるんです」

 

獪岳は黙って聞いている。

 

「任務に行くたびに、次は死ぬかもしれないって思う」

 

「それは普通だ」

 

「え?」

 

獪岳は村田を見る。

 

「怖くない人間などいない」

 

「……」

 

「恐怖を感じるのは、弱さじゃない」

 

村田が顔を上げる。

 

「じゃあ……何なんですか?」

 

「生きたいという意思だ」

 

獪岳は淡々と言った。

 

「怖いから逃げるのではなく、怖くても刀を握る」

 

「それが剣士だ」

 

村田は黙り込む。

 

「……」

 

その時。

 

廊下の向こうから、数人の隊士が姿を見せた。

 

「村田!」

 

「おう」

 

彼らも負傷した隊士たちだった。

 

誰もが目立たない。

 

名前を呼ばれることも少ない。

 

だが。

 

彼らも鬼殺隊士だ。

 

一人が口を開く。

 

「俺たちも、柱にはなれないだろうな」

 

「……」

 

「それどころか、次の任務で死ぬかもしれない」

 

別の隊士が苦笑する。

 

「でもさ」

 

「ん?」

 

「それでも、誰かを守れるならいいんじゃないか?」

 

村田はその言葉を聞いて、少し驚いた。

 

獪岳も黙って隊士たちを見る。

 

「お前たち」

 

「はい!」

 

「名前は?」

 

隊士たちは顔を見合わせる。

 

「……え?」

 

「名前だ」

 

「俺は……」

 

一人が名乗る。

 

続いて。

 

二人目。

 

三人目。

 

獪岳は全員の名前を聞いた。

 

そして。

 

「覚えておく」

 

「……!」

 

隊士たちは驚いた。

 

「鳴柱様が……俺たちの名前を?」

 

「当たり前だ」

 

獪岳は言う。

 

「お前たちも鬼殺隊士だ」

 

「柱だけが鬼を倒しているわけじゃない」

 

「一人の隊士が一人の人間を救うこともある」

 

「その積み重ねが鬼殺隊を支えている」

 

村田は拳を握った。

 

「……」

 

その言葉が胸に響く。

 

獪岳は続けた。

 

「だから、自分を名無しだと思うな」

 

「……はい」

 

「お前たちには名前がある」

 

「生きてきた人生がある」

 

「そして――」

 

獪岳は静かに隊士たちを見る。

 

「守った人間がいる」

 

誰も言葉を返せなかった。

 

「それだけで十分、誇っていい」

 

村田の目が少し潤む。

 

「……鳴柱様」

 

「何だ」

 

「俺……」

 

村田は刀に手を添える。

 

「もう少しだけ、頑張ってみます」

 

「そうしろ」

 

「柱にはなれなくても」

 

「なる必要はない」

 

「……!」

 

「お前はお前の戦いをしろ」

 

獪岳は背を向ける。

 

「生き残れ」

 

「はい!」

 

村田たちの声が重なる。

 

「必ず!」

 

獪岳が去っていく。

 

その背中を見つめながら。

 

村田は小さく笑った。

 

「……柱って、怖い人ばかりじゃないんだな」

 

すると。

 

「村田さーん!」

 

炭治郎が駆けてくる。

 

「何してたんですか?」

 

「ちょっと鳴柱様と話してた」

 

「そうなんですか!」

 

炭治郎が嬉しそうに笑う。

 

「獪岳さん、優しいですよね」

 

「お前、あの人の昔を知らないからそう言えるんだよ」

 

「昔?」

 

「……いや」

 

村田は首を振った。

 

「何でもない」

 

その後ろから善逸がやってくる。

 

「村田さん!」

 

「何だ?」

 

「獪岳さん、怖くなかった!?」

 

「……まあ、少しは」

 

「だよね!?」

 

善逸が安心した顔をする。

 

「俺だけじゃなかった!」

 

「お前は少し静かにしろ」

 

「酷い!」

 

そこへ伊之助も現れる。

 

「おい村田!」

 

「何だよ」

 

「俺と勝負しろ!」

 

「嫌だよ!」

 

「逃げるのか!」

 

「病み上がりなんだから無理に決まってるだろ!」

 

「なら治ったら勝負だ!」

 

「だから何で俺なんだよ!」

 

再び屋敷が騒がしくなる。

 

村田は思わず笑った。

 

「……悪くないな」

 

鬼殺隊には。

 

柱だけがいるわけではない。

 

名もなき隊士たち。

 

負傷しながらも戦い続ける者たち。

 

恐怖を抱えながら刀を握る者たち。

 

そして。

 

そんな彼らを支える柱たち。

 

その全てが。

 

鬼殺隊という一つの組織を作っている。

 

獪岳は廊下の先で、騒がしい声を聞いていた。

 

「……」

 

隣に来たしのぶが微笑む。

 

「随分と慕われていますね」

 

「俺が?」

 

「ええ」

 

「……そうか?」

 

「はい」

 

しのぶは優しく笑う。

 

「昔の獪岳さんなら、絶対にしなかったでしょうね」

 

「……」

 

獪岳は少しだけ空を見上げる。

 

「変わったのかもしれないな」

 

「いいえ」

 

しのぶが答える。

 

「変わったんじゃありません」

 

「?」

 

「本当の獪岳さんが、少しずつ表に出てきただけですよ」

 

「……」

 

獪岳は何も言わなかった。

 

ただ。

 

遠くで笑う隊士たちの声を聞きながら。

 

ほんの僅かに口元を緩めた。

 

名もなき者たちにも。

 

守るべきものがある。

 

そして。

 

その命を守るために戦う者たちこそ――。

 

鬼殺隊の本当の強さなのかもしれなかった。

 

 

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