『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第113話 獪岳、隊士たちに慕われる

蝶屋敷。

 

朝。

 

「おはようございます、鳴柱様!」

 

「……ああ」

 

廊下を歩く獪岳に、若い隊士が頭を下げる。

 

「おはようございます!」

 

「おはようございます、獪岳様!」

 

「……」

 

獪岳は少し困惑していた。

 

以前なら。

 

自分が廊下を歩けば、隊士たちは道を開けるだけだった。

 

だが、今は違う。

 

「鳴柱様、お身体の調子はいかがですか?」

 

「問題ない」

 

「それならよかったです!」

 

「……」

 

また一人。

 

「獪岳様!」

 

「何だ」

 

「この前教えていただいた足運び、実戦で使えました!」

 

「そうか」

 

「ありがとうございます!」

 

「礼を言うほどのことじゃない」

 

「いえ! 凄く助かりました!」

 

隊士は嬉しそうに去っていく。

 

獪岳はその背中を見つめた。

 

「……妙な感じだな」

 

そこへ。

 

「獪岳さん」

 

しのぶがやってくる。

 

「何だ」

 

「最近、隊士たちに随分慕われていますね」

 

「俺が?」

 

「はい」

 

しのぶは微笑む。

 

「以前は近づくだけで怯えられていたのに」

 

「……余計なことを言うな」

 

「ふふ」

 

その時。

 

「獪岳様!」

 

遠くから隊士が走ってくる。

 

「何だ?」

 

「お願いがあります!」

 

「言ってみろ」

 

「雷の呼吸の足運びを、もう一度教えてください!」

 

「……」

 

「お願いします!」

 

獪岳はため息をつく。

 

「仕方ないな」

 

「ありがとうございます!」

 

訓練場。

 

十数人の隊士が獪岳を囲んでいる。

 

「まず、雷の呼吸は速さだけを求めるな」

 

獪岳が言う。

 

「重要なのは踏み込みだ」

 

「はい!」

 

「足の位置が崩れれば、どれだけ速くても意味がない」

 

「はい!」

 

「そして――」

 

獪岳が一歩踏み込む。

 

――バチッ!

 

小さな雷光が弾ける。

 

「こうだ」

 

隊士たちの目が輝く。

 

「すげぇ……」

 

「今の一歩だけで……」

 

「鳴柱様はやっぱり凄い……!」

 

獪岳は少し眉をひそめる。

 

「見ているだけじゃ身につかん」

 

「実際にやれ」

 

「はい!」

 

隊士たちが一斉に構える。

 

「もっと腰を落とせ!」

 

「はい!」

 

「右足が遅い!」

 

「はい!」

 

「踏み込みすぎるな!」

 

「はい!」

 

獪岳の指導は厳しかった。

 

だが。

 

誰一人、嫌そうな顔をしない。

 

むしろ。

 

「もう一回お願いします!」

 

「今の動き、もう一度見せてください!」

 

「俺にもお願いします!」

 

「順番に来い!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「一度に全員見ることはできん!」

 

「はい!」

 

そこへ炭治郎がやってくる。

 

「獪岳さん、凄いですね」

 

「何がだ」

 

「みんな獪岳さんに教えてもらいたくて仕方ないみたいです」

 

「……」

 

獪岳は周囲を見る。

 

隊士たちが真剣な表情で自分を見ている。

 

かつての自分なら。

 

「弱い奴に教えることなどない」

 

そう言っていただろう。

 

だが。

 

今は違う。

 

「……分かった」

 

獪岳は再び口を開く。

 

「次は二人ずつ来い」

 

「はい!」

 

隊士たちが嬉しそうに返事をする。

 

その様子を見ていた村田が呟いた。

 

「獪岳様、すっかり教官みたいになってるな」

 

善逸も頷く。

 

「そうなんだよ」

 

「善逸?」

 

「兄貴って、ああ見えて面倒見いいんだよ」

 

「……お前、よく分かってるな」

 

「そりゃ兄弟弟子だからね」

 

善逸は少し誇らしげに胸を張る。

 

「まあ、怒ると怖いけど」

 

「それは否定できない」

 

その瞬間。

 

「おい、我妻」

 

「ひっ!」

 

獪岳が振り返っていた。

 

「何を話している?」

 

「な、何でもありません!」

 

「そうか」

 

獪岳はため息をつく。

 

「なら鍛錬しろ」

 

「はい!」

 

善逸が慌てて走り出す。

 

その様子を見ていた伊之助が笑う。

 

「おい雷男!」

 

「誰が雷男だ」

 

「俺と勝負しろ!」

 

「断る」

 

「逃げるな!」

 

「お前は少し落ち着け!」

 

訓練場が笑いに包まれる。

 

獪岳は呆れながらも。

 

その光景を嫌ってはいなかった。

 

夕方。

 

鍛錬を終えた隊士たちが、獪岳の前に並ぶ。

 

「ありがとうございました!」

 

「ありがとうございました!」

 

「明日もお願いします!」

 

「……ああ」

 

一人の隊士が帰り際に振り返る。

 

「獪岳様」

 

「何だ」

 

「俺……もっと強くなって、いつか柱を助けられる隊士になります!」

 

獪岳は少し驚いた。

 

「……そうか」

 

「はい!」

 

「なら、まず生き残れ」

 

「はい!」

 

隊士が去っていく。

 

獪岳は静かに空を見上げる。

 

「……」

 

そこへしのぶが近づく。

 

「嬉しそうですね」

 

「そう見えるか?」

 

「はい」

 

「……そうか」

 

獪岳は否定しなかった。

 

「昔の俺は――」

 

ぽつりと呟く。

 

「自分一人が強くなれば、それでいいと思っていた」

 

「……」

 

「だが今は違う」

 

しのぶを見る。

 

「強くなる奴が増えれば、救える命も増える」

 

「ええ」

 

「だから教える」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「素敵ですね」

 

「……」

 

「獪岳さんは、もう立派な柱ですよ」

 

「柱だから教えているだけだ」

 

「違います」

 

しのぶは首を振る。

 

「あなたが優しい人だからです」

 

「……優しい、か」

 

獪岳は照れくさそうに顔を逸らす。

 

「柄じゃない」

 

「そんなことありませんよ」

 

その時。

 

訓練場の向こうから声が響く。

 

「獪岳様ー!」

 

「明日もよろしくお願いします!」

 

「おう!」

 

獪岳が返事をする。

 

その声を聞いたしのぶが微笑む。

 

かつて。

 

誰にも心を開かなかった少年。

 

強さだけを求めていた男。

 

それが今では。

 

多くの隊士たちに慕われ。

 

頼られ。

 

「この人の背中を追いたい」

 

そう思われる柱になっていた。

 

獪岳は最後にもう一度、訓練場を振り返る。

 

「……悪くないな」

 

その呟きは。

 

夕暮れの風に静かに溶けていった。

 

 

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