『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第114話 鳴柱の休日

鬼殺隊本部。

 

珍しく任務のない朝。

 

「……暇だな」

 

鳴柱・獪岳は縁側に座り、庭を眺めていた。

 

柱になってからというもの、任務、鍛錬、隊士の指導、報告書。

 

毎日のように何かしらの仕事がある。

 

だからこそ。

 

「今日は何もない」

 

そう言って、獪岳は茶を一口飲んだ。

 

「……悪くない」

 

静かな朝。

 

鳥の声。

 

風に揺れる木々。

 

「こういう日も必要だな」

 

そこへ。

 

「獪岳さん」

 

聞き慣れた声。

 

振り返ると、しのぶが立っていた。

 

「何だ」

 

「今日はお休みなんですよね?」

 

「ああ」

 

「では――」

 

しのぶが微笑む。

 

「一緒に出かけませんか?」

 

「……」

 

獪岳は少し考える。

 

「どこへ?」

 

「秘密です」

 

「……嫌な予感しかしない」

 

「ふふ。大丈夫ですよ」

 

しのぶは獪岳の手を取る。

 

「行きましょう」

 

「おい、引っ張るな」

 

「早くしてください」

 

「分かった、分かった」

 

こうして。

 

鳴柱・獪岳の休日が始まった。

 

 

二人がやって来たのは、町外れの小さな茶屋だった。

 

「ここか?」

 

「はい」

 

「随分と普通だな」

 

「普通が一番ですよ」

 

しのぶは席につく。

 

「今日は任務のことを考えない日にしましょう」

 

「……努力する」

 

「努力ではなく、忘れてください」

 

「無茶を言うな」

 

二人の前に茶と菓子が運ばれてくる。

 

獪岳は団子を見る。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

「甘いものはあまり食べない」

 

「知っています」

 

しのぶは一本の団子を取る。

 

「でも、今日は食べてもらいます」

 

「……」

 

獪岳は渋々一本取る。

 

一口。

 

「……」

 

「どうです?」

 

「……悪くない」

 

「ふふ」

 

「何だ」

 

「いえ。獪岳さんが素直に褒めるのは珍しいなと思って」

 

「……うるさい」

 

しのぶは楽しそうに笑う。

 

「でも、こうしていると普通の恋人みたいですね」

 

「……」

 

獪岳の手が止まる。

 

「……普通の恋人」

 

「はい」

 

「俺たちが?」

 

「嫌ですか?」

 

「……いや」

 

獪岳は少しだけ顔を逸らす。

 

「悪くない」

 

しのぶが嬉しそうに微笑む。

 

「私もです」

 

 

茶屋を出た二人は、町を歩く。

 

「今日は何をします?」

 

「お前が決めろ」

 

「では、買い物をしましょう」

 

「何を買う?」

 

「獪岳さんの新しい羽織です」

 

「必要ない」

 

「必要です」

 

「まだ着られる」

 

「古いです」

 

「問題ない」

 

「私が選びたいんです」

 

「……分かった」

 

店に入る。

 

しのぶは黒を基調とした羽織を手に取る。

 

「これなんてどうです?」

 

「派手だ」

 

「そうですか?」

 

「俺には似合わん」

 

「では、こちらは?」

 

「……」

 

しのぶが別の羽織を差し出す。

 

黒地に、薄い紫の模様。

 

「……」

 

獪岳はそれを見る。

 

「悪くない」

 

「でしょう?」

 

「これにする」

 

「決まりですね」

 

しのぶは嬉しそうに笑う。

 

「獪岳さん」

 

「何だ」

 

「私が選んだもの、ちゃんと着てくださいね」

 

「……ああ」

 

 

夕方。

 

二人は町を離れ、静かな川辺へ向かった。

 

「……」

 

川のせせらぎ。

 

夕日に照らされる水面。

 

獪岳は腰を下ろす。

 

「静かだな」

 

「ええ」

 

しのぶも隣に座る。

 

しばらく二人とも何も話さなかった。

 

「……獪岳さん」

 

「ん?」

 

「最近、変わりましたね」

 

「またそれか」

 

「はい」

 

しのぶは川を見る。

 

「以前のあなたは、誰かに頼ることを嫌っていました」

 

「……」

 

「自分一人で全部背負おうとしていた」

 

獪岳は黙っている。

 

「でも今は違います」

 

「……そうだな」

 

「隊士たちにも慕われています」

 

「慕われているのか?」

 

「はい」

 

「俺にはよく分からん」

 

「ふふ」

 

しのぶは笑う。

 

「でも、私には分かります」

 

「何が?」

 

「あなたが変わった理由です」

 

獪岳はしのぶを見る。

 

「……何だ」

 

しのぶは微笑む。

 

「守りたいものが増えたからですよ」

 

「……」

 

獪岳はしばらく黙った。

 

そして。

 

「そうかもしれないな」

 

「私も、その中に入っていますか?」

 

「……」

 

獪岳はしのぶの手を取った。

 

「当たり前だ」

 

しのぶの頬が赤くなる。

 

「……ずるいですね」

 

「何がだ」

 

「そういうことを不意に言うところです」

 

「本当のことを言っただけだ」

 

しのぶはそっと肩を寄せる。

 

「なら――」

 

「今日は、このままでいましょう」

 

「ああ」

 

二人は夕暮れの川辺で静かに過ごした。

 

 

夜。

 

屋敷へ戻ると。

 

「お帰りなさい、獪岳様!」

 

「お帰りなさい!」

 

数人の隊士たちが出迎える。

 

「……」

 

獪岳は少し驚いた。

 

「何だ?」

 

「今日はお休みだったので、どこかへ行かれたのかなと思って!」

 

「……」

 

「楽しめましたか?」

 

獪岳はしのぶを見る。

 

しのぶは笑っている。

 

「……ああ」

 

獪岳は答えた。

 

「久しぶりに、ゆっくりできた」

 

「それはよかったです!」

 

隊士たちが笑う。

 

獪岳も。

 

ほんの僅かに笑った。

 

その夜。

 

布団に入った獪岳は、今日一日を思い返していた。

 

任務もない。

 

戦いもない。

 

誰かを守る必要もない。

 

ただ。

 

しのぶと歩き。

 

食事をして。

 

話をした。

 

「……」

 

これが。

 

普通の人間の休日なのかもしれない。

 

「悪くないな」

 

隣の部屋から、しのぶの声が聞こえる。

 

「獪岳さん?」

 

「何だ?」

 

「今日は楽しかったです」

 

「……俺もだ」

 

「また一緒に出かけましょうね」

 

「ああ」

 

「約束ですよ」

 

「約束だ」

 

獪岳は目を閉じる。

 

そして。

 

静かな夜の中で。

 

初めて、自分が手に入れた「普通の幸せ」を噛み締めた。

 

戦うためだけに生きるのではなく。

 

守るために生きる。

 

そして。

 

守った者たちと共に笑う。

 

それが――。

 

鳴柱・獪岳にとっての、新しい人生だった。

 

 

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