『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第116話 悲鳴嶼行冥と「息子」

鬼殺隊本部。

 

昼下がり。

 

訓練場では、今日も隊士たちの鍛錬が続いていた。

 

「もっと腰を落とせ!」

 

「はい!」

 

獪岳の声が響く。

 

炭治郎、善逸、伊之助。

 

そして大勢の隊士たちが、必死に食らいついている。

 

その様子を、少し離れた場所から見つめる大男がいた。

 

「……」

 

岩柱・悲鳴嶼行冥。

 

両手を合わせ、静かに立っている。

 

「悲鳴嶼さん」

 

獪岳が気づく。

 

「来ていたのか」

 

「ああ」

 

悲鳴嶼は頷く。

 

「随分と熱心に教えているな」

 

「こいつらが強くなりたいと言うからな」

 

「そうか」

 

悲鳴嶼は炭治郎たちを見る。

 

「良い目をしている」

 

「そう思うか?」

 

「ああ」

 

悲鳴嶼の口元に、僅かな笑みが浮かぶ。

 

「必死に生きようとしている者の目だ」

 

その言葉に、獪岳は黙って頷いた。

 

すると。

 

「悲鳴嶼さん!」

 

炭治郎が駆けてくる。

 

「お久しぶりです!」

 

「うむ」

 

「今日も鍛錬を見ていただけますか?」

 

「ああ」

 

炭治郎は嬉しそうに笑う。

 

その後ろから伊之助がやってくる。

 

「岩柱!」

 

「何だ」

 

「俺と勝負しろ!」

 

「……」

 

悲鳴嶼は困ったように眉を下げる。

 

「今のお前では、まだ早い」

 

「何だと!」

 

「いずれ強くなれば相手をしよう」

 

「本当か!」

 

「約束しよう」

 

「よっしゃあ!」

 

伊之助が喜ぶ。

 

善逸は少し離れたところで震えていた。

 

「俺は絶対に勝負しない……」

 

「我妻」

 

「はい!?」

 

「お前も鍛錬するといい」

 

「はいぃ……」

 

その様子を見て、獪岳が苦笑する。

 

「相変わらずだな」

 

「……獪岳」

 

悲鳴嶼が呼ぶ。

 

「何だ?」

 

「少し話したい」

 

「分かった」

 

二人は訓練場を離れ、静かな庭へ向かった。

 

「……」

 

しばらく歩いた後。

 

悲鳴嶼が口を開く。

 

「お前は変わったな」

 

「またそれか」

 

「以前のお前なら、他人を鍛えることなど考えなかっただろう」

 

獪岳は黙る。

 

「……否定はしない」

 

「なぜ変わった?」

 

獪岳は少し考える。

 

「守りたい奴ができたからだ」

 

悲鳴嶼は静かに聞いている。

 

「しのぶ」

 

「ああ」

 

「カナエ」

 

「ああ」

 

「それに、あいつらもだ」

 

獪岳は訓練場を見る。

 

「俺一人が強くなるより、仲間が強くなった方が救える命が増える」

 

「……そうか」

 

悲鳴嶼は静かに頷く。

 

「それは良い変化だ」

 

「そう思うか?」

 

「ああ」

 

そして。

 

「私にも、そういう者たちがいた」

 

獪岳が振り返る。

 

悲鳴嶼の声が少しだけ寂しくなる。

 

「寺で暮らしていた子供たちだ」

 

「……」

 

「私はあの子たちを守りたかった」

 

悲鳴嶼は目を閉じる。

 

「血の繋がった子供ではなかった」

 

「だが――」

 

「私にとっては、皆、大切な子供だった」

 

獪岳は黙って聞く。

 

「だから私は、今でもあの子たちを忘れられない」

 

「……」

 

「守れなかったことを、今でも悔いている」

 

重い沈黙。

 

獪岳はしばらく何も言わなかった。

 

そして。

 

「悲鳴嶼さん」

 

「ああ」

 

「それでも、あんたは今も誰かを守っている」

 

悲鳴嶼の目が僅かに開く。

 

「柱として」

 

「隊士たちを守り」

 

「鬼に苦しめられる人間を守っている」

 

獪岳はまっすぐ言う。

 

「それなら、あんたは十分にあの子たちの『父親』だったんじゃないか」

 

「……」

 

悲鳴嶼の目から、一筋の涙が落ちた。

 

「南無……」

 

数珠が静かに鳴る。

 

「……ありがとう」

 

「礼を言われるようなことじゃない」

 

「いや」

 

悲鳴嶼は首を振る。

 

「その言葉は、私がずっと欲しかった言葉なのかもしれない」

 

獪岳は黙っている。

 

その時。

 

「獪岳さん!」

 

遠くから炭治郎の声が聞こえる。

 

「はい?」

 

「獪岳さんじゃない! 獪岳さん!」

 

「……」

 

獪岳が振り返る。

 

「何だ!」

 

「悲鳴嶼さんが俺たちを呼んでます!」

 

「……?」

 

悲鳴嶼が微笑む。

 

「少しだけ、あの子たちと話したい」

 

「分かった」

 

炭治郎たちが集まってくる。

 

悲鳴嶼は三人を見る。

 

「お前たちは、獪岳を慕っているな」

 

「はい!」

 

炭治郎が即答する。

 

伊之助も胸を張る。

 

「強ぇからな!」

 

善逸は頷く。

 

「怖いけど……頼れる兄弟子です」

 

「……お前ら」

 

獪岳が呆れる。

 

悲鳴嶼は優しく笑った。

 

「ならば、獪岳を支えてやってほしい」

 

「え?」

 

「強い者にも、支えは必要だ」

 

炭治郎が頷く。

 

「分かりました!」

 

「俺も!」

 

伊之助が叫ぶ。

 

「俺が強くなって、獪岳を助けてやる!」

 

「お前に助けられるほど俺は弱くない」

 

「何だと!」

 

「でも……」

 

獪岳は少しだけ笑う。

 

「期待しておく」

 

「おう!」

 

その光景を見ていた悲鳴嶼の胸に、温かなものが広がる。

 

「……」

 

いつしか。

 

自分の周りにも。

 

こうして若い命が集まっていた。

 

血の繋がりなどない。

 

それでも。

 

守りたいと思える者たち。

 

「……」

 

悲鳴嶼は静かに目を閉じる。

 

そして。

 

「獪岳」

 

「何だ?」

 

「お前は、良い兄だな」

 

「……兄?」

 

「この子たちにとってな」

 

獪岳は三人を見る。

 

炭治郎。

 

善逸。

 

伊之助。

 

「……そうかもな」

 

獪岳が笑う。

 

その瞬間。

 

「じゃあ俺、獪岳の弟な!」

 

伊之助が叫ぶ。

 

「俺も!」

 

炭治郎が笑う。

 

「俺も……兄弟弟子だし」

 

善逸も続く。

 

「勝手に決めるな!」

 

獪岳が怒鳴る。

 

「ふふ……」

 

悲鳴嶼は笑った。

 

「……賑やかだ」

 

そして。

 

悲鳴嶼行冥は思う。

 

血の繋がりがなくとも。

 

守り、守られ。

 

共に歩む者たちは――。

 

家族になれるのだ。

 

かつて守れなかった「子供たち」を思いながら。

 

岩柱は、静かに涙を流した。

 

「南無阿弥陀仏……」

 

その声は。

 

悲しみだけではなく。

 

新しい世代への、祈りでもあった。

 

 

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