『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第117話 桑島慈悟郎の涙

――山奥の道場。

 

夕暮れ。

 

「……」

 

桑島慈悟郎は、一人で縁側に座っていた。

 

かつて雷の呼吸を教えた弟子たち。

 

獪岳。

 

善逸。

 

二人のことを思い出すたび、胸の奥が痛む。

 

「……獪岳」

 

元・弟子の名を呟く。

 

以前の獪岳は、強さを求めるあまり、周囲を見ようとしなかった。

 

そして善逸は、才能がありながら自信を持てず、いつも泣いていた。

 

「儂の教え方が……悪かったのかもしれんな」

 

慈悟郎は目を閉じる。

 

その時。

 

「じいちゃん!」

 

聞き慣れた声が響いた。

 

「……善逸?」

 

「うん!」

 

善逸が駆け込んでくる。

 

「どうしたんじゃ、こんなところまで」

 

「会わせたい人がいるんだ」

 

「人?」

 

善逸が振り返る。

 

そこには――。

 

「久しぶりだな」

 

「……!」

 

慈悟郎の目が見開かれる。

 

黒い羽織。

 

腰には日輪刀。

 

そして。

 

以前とは比べものにならないほど、堂々とした姿。

 

「……獪岳」

 

「そうだ」

 

鳴柱・獪岳。

 

慈悟郎は立ち上がる。

 

「お前……」

 

「元気そうだな、爺さん」

 

「……馬鹿者」

 

慈悟郎の声が震える。

 

「何年も顔を見せんかったくせに……」

 

「悪かった」

 

獪岳は頭を下げる。

 

慈悟郎はしばらく何も言わない。

 

そして。

 

「柱になったのか」

 

「ああ」

 

「鳴柱……」

 

「そうだ」

 

慈悟郎の目に、涙が浮かぶ。

 

「そうか……」

 

声が震える。

 

「お前が……柱に……」

 

獪岳は少し気まずそうに顔を逸らす。

 

「俺一人の力じゃない」

 

「……?」

 

「しのぶやカナエ、仲間たちがいた」

 

そして。

 

隣にいる善逸を見る。

 

「こいつもな」

 

「えっ、俺?」

 

「お前も俺の弟弟子だろ」

 

「……!」

 

善逸の目が潤む。

 

「兄貴……」

 

慈悟郎は二人を見つめる。

 

「二人とも……」

 

かつて。

 

この二人は同じ道場で剣を学んでいた。

 

片方は才能を持ちながら、自分を信じられなかった。

 

もう片方は才能への執着に苦しんでいた。

 

それが今。

 

「……兄弟弟子が、こうして並んでいる」

 

慈悟郎の頬を涙が伝う。

 

「爺さん」

 

「……すまん」

 

「何がだ」

 

「儂は、お前たちをちゃんと導けなかったと思っておった」

 

「……」

 

「二人を同じ弟子として見てやれなかった」

 

獪岳は黙って聞いていた。

 

「獪岳」

 

「何だ」

 

「お前は、儂を恨んでおるか?」

 

長い沈黙。

 

やがて。

 

「……昔はな」

 

慈悟郎が息を呑む。

 

「でも、今は違う」

 

「なぜじゃ」

 

獪岳は静かに答える。

 

「爺さんが俺に雷の呼吸を教えてくれたことは、今でも感謝している」

 

「……」

 

「俺が鳴柱になれたのも、始まりはあんたの教えだ」

 

慈悟郎は顔を覆った。

 

「……そうか」

 

涙が止まらない。

 

「そうか……」

 

善逸も涙を拭う。

 

「じいちゃん……」

 

慈悟郎は笑った。

 

泣きながら。

 

「獪岳」

 

「ん?」

 

「お前は、もう儂の誇りじゃ」

 

獪岳の目が僅かに見開かれる。

 

「……」

 

「そして善逸」

 

「はい!」

 

「お前もじゃ」

 

「……!」

 

善逸の目から涙が溢れる。

 

「二人とも……儂の大切な弟子じゃ」

 

「……」

 

獪岳は俯く。

 

「……参ったな」

 

「何がじゃ?」

 

「そういうことを言われると……」

 

獪岳は目元を拭う。

 

「泣きたくなるだろ」

 

慈悟郎が笑う。

 

「泣けばよい」

 

「……」

 

「泣くことは恥ではない」

 

獪岳はしばらく黙った。

 

そして。

 

「……爺さん」

 

「何じゃ」

 

「ただいま」

 

その一言に。

 

慈悟郎の涙がまた溢れた。

 

「……おかえり」

 

静かな道場に。

 

師と弟子の声が響く。

 

 

その後。

 

三人は道場で茶を飲んでいた。

 

「ところで兄貴」

 

善逸が獪岳を見る。

 

「何だ」

 

「俺、もっと強くなったら兄貴みたいになれるかな?」

 

「俺みたいになる必要はない」

 

「え?」

 

「お前はお前の雷を極めろ」

 

獪岳は善逸を見る。

 

「壱ノ型しか使えないなら、それを極めればいい」

 

善逸は拳を握る。

 

「……うん!」

 

「そして――」

 

獪岳は微笑む。

 

「いつか俺を追い越せ」

 

「えっ!?」

 

善逸が驚く。

 

「本気?」

 

「ああ」

 

「……」

 

善逸は嬉しそうに笑う。

 

「分かった!」

 

「負けないからな、兄貴!」

 

「言うようになったな」

 

その二人を見ながら。

 

慈悟郎は目を細めた。

 

「……」

 

師として。

 

これほど嬉しいことはない。

 

かつて自分の道場で学んだ二人の少年。

 

その二人が今。

 

互いを認め合い、同じ雷の道を歩いている。

 

「……雷の呼吸を教えて、本当に良かった」

 

慈悟郎は空を見上げる。

 

夕焼けが山々を赤く染めていた。

 

「獪岳」

 

「何だ?」

 

「善逸」

 

「はい!」

 

「これからも……兄弟弟子として、支え合うのじゃぞ」

 

二人は顔を見合わせる。

 

そして。

 

「ああ」

 

「うん!」

 

同時に頷いた。

 

慈悟郎は再び涙を流す。

 

それは悲しみの涙ではない。

 

師としての後悔も。

 

弟子たちへの愛情も。

 

そして。

 

二人が救われたことへの喜びも。

 

すべてが混ざった涙だった。

 

「……ありがとう」

 

誰に向けた言葉なのか。

 

慈悟郎自身にも分からなかった。

 

ただ。

 

その日。

 

桑島慈悟郎は――。

 

生涯で一番嬉しい涙を流した。

 

 

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