『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第119話 火雷神と帝釈天

――山奥の道場。

 

早朝。

 

まだ朝靄の残る山中に、二人の少年剣士が立っていた。

 

「……」

 

善逸は刀を握り締める。

 

向かいに立つのは――兄弟子、獪岳。

 

「準備はいいか?」

 

「うん」

 

善逸は頷いた。

 

今日の鍛錬は、いつもの打ち込みではない。

 

互いの奥義をぶつける。

 

それが、獪岳から善逸へ出された課題だった。

 

「お前は自分の雷を完成させろ」

 

獪岳が言う。

 

「俺の雷を追う必要はない」

 

「……分かってる」

 

善逸は目を閉じる。

 

呼吸を整える。

 

心臓の鼓動。

 

足裏から伝わる大地の感触。

 

そして――。

 

自分の中にある雷。

 

「俺の雷は……」

 

善逸が呟く。

 

「一瞬に全部を懸ける」

 

獪岳が頷く。

 

「そうだ」

 

「だから――」

 

善逸が刀を抜く。

 

「俺は、俺の一撃で兄貴に届く!」

 

獪岳の口元が僅かに上がった。

 

「来い」

 

次の瞬間。

 

「雷の呼吸――」

 

善逸の姿が消える。

 

「漆ノ型――」

 

空気が震える。

 

「火雷神!!」

 

――ドォンッ!!

 

凄まじい雷鳴。

 

黄色い閃光が山道を一直線に駆け抜ける。

 

その速度は、これまでの善逸とは明らかに違っていた。

 

「……!」

 

獪岳の目が見開かれる。

 

「速い!」

 

獪岳は刀を構える。

 

「雷の呼吸・改――」

 

大地を踏み抜く。

 

「帝釈天!」

 

――轟ッ!!

 

獪岳の周囲から雷光が爆発的に広がった。

 

一条の雷ではない。

 

幾重にも分岐した雷撃が、まるで天から降り注ぐ稲妻のように走る。

 

火雷神。

 

帝釈天。

 

二つの雷が正面から激突する。

 

――ズガァァァン!!

 

山全体が揺れた。

 

鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

木々の葉が激しく舞い上がる。

 

そして。

 

「……っ!」

 

善逸が地面を滑る。

 

獪岳も数歩後退した。

 

「……」

 

二人とも、しばらく動かなかった。

 

やがて。

 

善逸が顔を上げる。

 

「兄貴……」

 

「ああ」

 

「今の……」

 

「見事だった」

 

獪岳は即答した。

 

「……!」

 

善逸の目が輝く。

 

「本当に!?」

 

「ああ」

 

獪岳は自分の刀を見る。

 

刃こぼれこそしていない。

 

だが。

 

「俺の帝釈天を、正面から抜けるとは思わなかった」

 

「……!」

 

善逸は嬉しそうに笑う。

 

「やった……!」

 

だが獪岳は続ける。

 

「ただし」

 

「え?」

 

「まだ甘い」

 

「……やっぱり?」

 

「当然だ」

 

獪岳が笑う。

 

「俺を倒したわけじゃない」

 

「うっ……」

 

「だが――」

 

獪岳は善逸の肩に手を置く。

 

「お前の火雷神は、もう立派な奥義だ」

 

善逸は黙った。

 

「……俺の雷とは違う」

 

「うん」

 

「速さに全てを懸ける」

 

「うん」

 

「だからこそ強い」

 

善逸は嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう、兄貴」

 

「礼などいらん」

 

「でも――」

 

善逸は刀を握り直す。

 

「いつか絶対に勝つから」

 

「……」

 

獪岳は笑う。

 

「なら、次は俺も本気で迎え撃つ」

 

「えっ!?」

 

「当たり前だ」

 

「ちょっと待って! 今でも十分本気だったでしょ!?」

 

「まだ余裕はあった」

 

「嘘だぁ!」

 

「嘘ではない」

 

「じゃあ俺、死ぬじゃん!」

 

「死なない程度には加減する」

 

「その言い方が怖いんだよ!」

 

そのやり取りを。

 

少し離れた場所から見ていた人物がいた。

 

「……」

 

桑島慈悟郎。

 

師は二人の弟子を見つめていた。

 

「火雷神……」

 

そして。

 

「帝釈天……」

 

かつて自分が教えた雷の呼吸。

 

それが今。

 

二人の弟子によって、それぞれ別の形へと進化している。

 

獪岳は雷の呼吸を改良し、帝釈天という強大な技を編み出した。

 

善逸は壱ノ型を極限まで磨き、自らの奥義――火雷神へと昇華させた。

 

「……」

 

慈悟郎の目から、涙が一筋流れる。

 

「見事じゃ……」

 

二人が振り返る。

 

「爺さん?」

 

「師匠?」

 

慈悟郎はゆっくり歩いてくる。

 

「二人とも……よくぞここまで」

 

「……」

 

「お前たちの雷は、もう儂の知っている雷の呼吸だけではない」

 

慈悟郎は二人を見る。

 

「それぞれが、自分自身の雷を見つけたのじゃ」

 

善逸が嬉しそうに笑う。

 

「兄貴の帝釈天も凄かったよ」

 

「お前の火雷神もな」

 

「……」

 

二人の視線が交わる。

 

昔なら。

 

互いを敵視していた二人。

 

だが今は。

 

「俺は兄貴の雷を超える」

 

「俺もお前の雷を認める」

 

「だから――」

 

善逸が拳を握る。

 

「もっと強くなろう!」

 

「ああ」

 

獪岳が頷く。

 

「共に、な」

 

慈悟郎は静かに微笑む。

 

「……これでよい」

 

師匠と二人の弟子。

 

三人の間に、温かな沈黙が流れた。

 

 

その日の夕方。

 

鬼殺隊本部。

 

「獪岳さん!」

 

炭治郎が駆け寄ってくる。

 

「善逸から聞きました!」

 

「何をだ?」

 

「凄い技を出したって!」

 

善逸が慌てる。

 

「ちょっと炭治郎! 言わなくていいって!」

 

「だって凄かったから!」

 

伊之助も飛び込んでくる。

 

「何だ何だ!?」

 

「火雷神と帝釈天だって!」

 

「俺にも見せろ!」

 

「今度な」

 

獪岳が答える。

 

「二人ともまだ鍛錬中だ」

 

そこへ、しのぶがやって来る。

 

「随分と楽しそうですね」

 

「しのぶさん!」

 

善逸が笑う。

 

「今日、兄貴と凄い勝負したんですよ!」

 

「まあ」

 

しのぶが獪岳を見る。

 

「どうでした?」

 

「善逸が強くなった」

 

「それは良かったですね」

 

しのぶが善逸を見る。

 

「火雷神、とても綺麗な名前です」

 

善逸が照れる。

 

「えへへ……」

 

「そして獪岳さんは?」

 

「帝釈天だ」

 

「獪岳さんらしいですね」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「二人の雷が、別々の形になったんですね」

 

「ああ」

 

獪岳は空を見る。

 

「同じ雷の呼吸から生まれた」

 

「だが――」

 

隣にいる善逸を見る。

 

「同じである必要はない」

 

善逸も頷く。

 

「うん」

 

雷は一つではない。

 

速く駆け抜ける雷もある。

 

天から幾重にも降り注ぐ雷もある。

 

それぞれの剣士が。

 

それぞれの生き方で磨き上げた雷。

 

そして。

 

その二つの雷はいつの日か。

 

鬼を討ち。

 

仲間を守り。

 

人々の未来を照らすために――。

 

並び立つことになる。

 

「火雷神」

 

「帝釈天」

 

二人の弟子が生み出した、二つの雷。

 

その名を。

 

桑島慈悟郎は、涙を流しながら胸に刻んだ。

 

 

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