『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

119 / 126
第120話 「兄貴、俺も強くなったよ」

鬼殺隊本部・訓練場。

 

夕暮れ。

 

「――雷の呼吸・壱ノ型!」

 

――バァンッ!!

 

善逸の姿が消える。

 

直後、訓練用の標的が真っ二つに割れた。

 

「……!」

 

周囲で見ていた隊士たちから、歓声が上がる。

 

「速い!」

 

「今の、見えたか?」

 

「いや、全然……!」

 

善逸は刀を収め、荒い息を整える。

 

「……どう?」

 

「何がだ?」

 

背後から聞こえた声。

 

善逸が振り返る。

 

そこに立っていたのは、鳴柱・獪岳。

 

「兄貴!」

 

善逸の顔が明るくなる。

 

「今の見てた?」

 

「ああ」

 

「どうだった?」

 

獪岳はしばらく黙って標的を見る。

 

「速くなったな」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

「やった!」

 

善逸が嬉しそうに笑う。

 

しかし獪岳は続けた。

 

「だが、まだ姿勢が甘い」

 

「……」

 

「踏み込みの瞬間、右肩が浮いている」

 

「えっ」

 

「それでは威力が逃げる」

 

「う……」

 

善逸が肩を落とす。

 

「やっぱり兄貴は厳しいなぁ……」

 

「当然だ」

 

獪岳は刀を抜く。

 

「俺に追いつきたいなら、それくらい直せ」

 

「……!」

 

その言葉に、善逸の目が変わった。

 

「追いつく」

 

「何?」

 

「俺、兄貴に追いつくよ」

 

善逸は刀を握り直した。

 

「いや……」

 

一歩前へ出る。

 

「追いつくだけじゃない」

 

さらに一歩。

 

「いつか、追い越す」

 

獪岳は目を細める。

 

「言うようになったな」

 

「兄貴がそう言ったんだろ?」

 

「何をだ」

 

「俺の雷を極めろって」

 

「……」

 

「だから俺は、俺の雷を極める」

 

善逸の瞳には、もう昔の怯えはなかった。

 

「火雷神も、もっと強くする」

 

獪岳は静かに笑う。

 

「なら――」

 

刀を構える。

 

「俺も負けるつもりはない」

 

「望むところだよ!」

 

二人が向かい合う。

 

その光景を、炭治郎と伊之助が見ていた。

 

「善逸、凄く変わったな」

 

「ああ」

 

伊之助が笑う。

 

「前はすぐ逃げてたのにな!」

 

「伊之助! 聞こえてるからね!」

 

「本当のことだろ!」

 

「うるさい!」

 

獪岳が声を上げる。

 

「お前たちも見ているだけじゃなく、構えろ」

 

「え?」

 

「三人まとめて相手をしてやる」

 

「ええ!?」

 

炭治郎が驚く。

 

伊之助は嬉しそうに笑った。

 

「やるぞ!」

 

「おい待て伊之助!」

 

「行くぞ!」

 

「待ってぇぇぇ!」

 

 

三十分後。

 

「……もう無理……」

 

善逸が地面に倒れている。

 

「まだまだだ!」

 

伊之助は元気だった。

 

炭治郎は肩で息をしている。

 

「獪岳さん……強すぎます……」

 

獪岳は汗を拭いながら答える。

 

「お前たちも強くなっている」

 

「本当ですか?」

 

「ああ」

 

そして。

 

獪岳は善逸を見る。

 

「特に善逸」

 

「俺?」

 

「今の一撃」

 

獪岳は地面に残った足跡を見る。

 

「俺の動きを見てから、途中で軌道を変えたな」

 

「……!」

 

「以前のお前にはできなかった」

 

善逸は驚いた。

 

「見てくれてたんだ……」

 

「当然だ」

 

獪岳は弟弟子を見る。

 

「お前の成長を見ない兄弟子がいるか」

 

「……!」

 

善逸の目が潤む。

 

「兄貴……」

 

「何だ」

 

「俺……」

 

善逸は立ち上がる。

 

「俺も強くなったよ」

 

獪岳は黙っている。

 

善逸は笑った。

 

「昔は兄貴の背中を追いかけるだけだった」

 

「……」

 

「でも今は、自分の足で立ってる」

 

「そうだな」

 

「だから――」

 

善逸は刀を握る。

 

「兄貴の隣に立てるくらい、強くなる」

 

獪岳は静かに頷いた。

 

「……ああ」

 

「待ってる」

 

その一言。

 

それだけで。

 

善逸の胸が熱くなる。

 

 

その夜。

 

鬼殺隊本部の縁側。

 

獪岳は一人で空を見上げていた。

 

「兄貴」

 

「……善逸か」

 

善逸が隣に座る。

 

「今日さ」

 

「ん?」

 

「爺ちゃん、嬉しそうだった」

 

「ああ」

 

「俺たちが一緒に鍛錬してるの、凄く喜んでた」

 

「……そうだな」

 

二人はしばらく黙っていた。

 

「兄貴」

 

「何だ」

 

「俺、昔は兄貴が怖かった」

 

「知っている」

 

「でも今は違う」

 

善逸が笑う。

 

「俺の一番尊敬する兄弟子だよ」

 

「……」

 

獪岳は少しだけ顔を逸らした。

 

「そうか」

 

「うん」

 

「なら、もっと強くなれ」

 

「え?」

 

「俺を尊敬しているなら――」

 

獪岳は立ち上がる。

 

「俺を超えてみろ」

 

善逸の目が輝く。

 

「……絶対に!」

 

「楽しみにしている」

 

二人の間に、静かな笑いが生まれた。

 

そして翌朝。

 

「兄貴!」

 

「何だ!」

 

「今日も鍛錬お願いします!」

 

「昨日あれだけやって、まだやるのか?」

 

「うん!」

 

善逸は笑っている。

 

「俺、もっと強くなりたいから!」

 

獪岳も笑う。

 

「……来い!」

 

「はい!」

 

朝焼けの中。

 

二人の雷が、再び轟いた。

 

兄の雷。

 

弟の雷。

 

かつては交わることのなかった二つの道。

 

今は――。

 

互いを高め合うために、同じ空を目指している。

 

そして善逸は、心の中で改めて誓った。

 

――兄貴。

 

――俺も強くなったよ。

 

だからいつか。

 

必ずあなたの隣に立つ。

 

兄弟子と肩を並べる、一人の雷の剣士として。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。