――大正コソコソ噂話。
鬼殺隊本部。
今日も隊士たちは任務の合間に、ひそひそと話をしていた。
「なあ、知ってるか?」
「何を?」
「最近の鬼殺隊の噂だよ」
「噂?」
「ああ」
隊士が声を潜める。
「なんでも、鳴柱様の周りには若い隊士が集まってるらしい」
「知ってる!」
別の隊士が食いつく。
「竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助だろ?」
「そうそう」
「三人とも凄い勢いで強くなってるらしいぞ」
「特に我妻!」
「雷の呼吸の使い手だよな」
「そう!」
隊士は興奮した様子で語る。
「鳴柱様と一緒に鍛錬してるところを見たんだけどさ」
「どうだった?」
「雷が二つ同時に走ってた」
「二つの雷……」
「そう!」
「まるで兄弟弟子が並んで戦ってるみたいだった」
「実際、兄弟弟子だからな」
「それがまた凄いんだよ」
隊士たちの声が大きくなる。
「鳴柱様の技、帝釈天って知ってるか?」
「知ってる!」
「雷が何本も同時に走るっていう、もの凄い技だろ?」
「ああ」
「でも我妻の火雷神も凄いらしいぞ」
「火雷神?」
「一瞬で消えるほど速いらしい」
「へぇ……」
「鳴柱様の帝釈天と我妻の火雷神」
「二つの雷が並んだら、鬼は逃げる暇もないだろうな」
「……」
そこへ。
「お前たち」
「!?」
背後から声。
隊士たちが凍りつく。
振り返ると。
「獪岳様……」
鳴柱・獪岳が立っていた。
「何をこそこそ話している」
「い、いえ!」
「何でもありません!」
「……そうか」
獪岳はため息をつく。
「俺の噂話などする暇があるなら鍛錬しろ」
「はい!」
隊士たちが慌てて逃げていく。
だが。
「……」
獪岳は小さく笑った。
「帝釈天と火雷神……か」
悪い噂ではない。
むしろ。
弟弟子の成長を嬉しく思っていた。
◆
その頃。
別の場所では。
「ねえ、知ってる?」
「何を?」
隊士たちがまた話していた。
「蟲柱様と鳴柱様の噂」
「……!」
「聞いたことある」
「二人って、恋人なんだろ?」
「そうらしい」
「本当に?」
「うん」
「この前、二人で町を歩いていたって」
「へぇ……」
「しかも鳴柱様、蟲柱様の前だと少し雰囲気が違うらしい」
「え?」
「普段は怖いのに、蟲柱様と一緒だと柔らかいんだって」
「信じられない……」
「俺も最初は嘘だと思った」
「でも――」
隊士が周囲を確認する。
「笑ってたらしいぞ」
「鳴柱様が!?」
「声が大きい!」
「す、すまん!」
「……」
隊士たちは顔を見合わせる。
「恋人って……いいな」
「お前には関係ないだろ」
「うるさい」
その会話を。
少し離れた場所で、しのぶが聞いていた。
「……」
そして。
「ふふ」
口元を押さえて笑う。
「随分と面白い噂が広がっていますね」
「何が面白いんだ?」
隣にいた獪岳が聞く。
「私たちの噂ですよ」
「……」
獪岳がため息をつく。
「放っておけ」
「ええ」
しのぶは楽しそうに笑う。
「でも、皆さんが私たちのことを知っていると思うと、少し嬉しいです」
「そうか?」
「はい」
「……変わってるな」
「獪岳さんに言われたくありません」
「何だと?」
「ふふ」
二人はそのまま歩いていった。
◆
そして。
さらに別の場所。
「聞いたか?」
「今度は何だよ」
「岩柱様の噂だ」
「悲鳴嶼様?」
「ああ」
「最強の柱だろ?」
「そうだ」
隊士は声を潜める。
「でもな」
「何だ?」
「実は、凄く優しいらしい」
「知ってる」
「隊士たちの怪我を心配してくれるんだって」
「それだけじゃない」
「?」
「最近、鳴柱様とよく一緒にいるらしい」
「へぇ」
「若い隊士たちの鍛錬を一緒に見てるんだって」
「岩柱様と鳴柱様か……」
「二人が並ぶと凄い迫力だろうな」
「鬼が泣いて逃げそうだ」
「いや、鬼が逃げる前に倒されるだろ」
「確かに」
隊士たちは笑った。
◆
そして最後に。
本部の廊下。
「大正コソコソ噂話!」
炭治郎が突然叫ぶ。
「うわぁぁぁ!」
善逸が驚く。
「何だよ急に!」
「最近、鬼殺隊で色んな噂が流れてるんだって!」
伊之助が興味津々になる。
「何の噂だ!」
「鳴柱・獪岳さんと蟲柱・しのぶさんの恋人関係!」
「おお!」
伊之助が叫ぶ。
「あと、獪岳さんと善逸の兄弟弟子!」
「それは本当だよ!」
善逸が胸を張る。
「そして!」
炭治郎が続ける。
「悲鳴嶼さんは鬼殺隊最強!」
「当然だ!」
伊之助が叫ぶ。
「俺がいつか勝つ!」
「だから無理だって!」
善逸が突っ込む。
そこへ。
「……お前ら」
「!」
獪岳が立っていた。
「噂話が好きだな」
「す、すみません!」
炭治郎が頭を下げる。
獪岳は三人を見る。
そして。
「まあ、悪い噂でなければいい」
「え?」
「俺たちのことを知ってくれる人間がいる」
獪岳は少しだけ笑う。
「それも悪くないだろう」
三人は顔を見合わせる。
「……はい!」
こうして。
鬼殺隊には今日も様々な噂が流れている。
鳴柱・獪岳は怖い。
だが、隊士思い。
蟲柱・しのぶとは恋人同士。
岩柱・悲鳴嶼行冥は鬼殺隊最強。
そして。
鳴柱と雷の弟弟子は、二つの雷を並び立たせる。
どれもこれも。
鬼と戦う者たちの間で生まれた、ささやかな噂。
――そして最後に。
鬼殺隊士たちが密かに語る、最大の噂。
「最近の鬼殺隊……」
「なんだか、前よりずっと明るくなったよな」
「……ああ」
「これも、鳴柱様のおかげなのかもな」
そんな噂が。
今日も大正の夜に、ひっそりと広がっていくのだった。