――無限城。
「雷の呼吸・改――」
獪岳が踏み込む。
「帝釈天!」
――轟ォォォン!!
幾筋もの雷が、無惨へ殺到する。
しかし。
「無駄だ」
無惨の肉塊が巨大な鞭のようにしなり、雷撃を次々と弾き飛ばす。
「……!」
獪岳は後方へ跳ぶ。
着地した瞬間、床が砕けた。
「兄貴!」
「来るな、善逸!」
「でも!」
「まだお前の出番じゃない!」
獪岳の視線は、無惨から一瞬たりとも離れない。
目の前にいる鬼は、これまで戦ってきたどの鬼とも違う。
速い。
強い。
そして――しぶとい。
斬っても。
焼いても。
砕いても。
瞬く間に再生する。
「……化け物め」
「今さら気づいたか」
無惨が嗤う。
「人間が私に勝てると思うな」
無数の触手が一斉に伸びる。
「――!」
獪岳が跳ぶ。
右。
左。
上。
背後。
あらゆる方向から迫る攻撃を、雷の如き動きでかわしていく。
しかし。
「ぐっ……!」
一本が肩を掠めた。
血が飛ぶ。
「兄貴!」
「来るな!」
獪岳は傷口を押さえながら立ち上がる。
「俺が道を作る」
「……!」
「お前は、その道を走れ」
善逸は拳を握る。
「……分かった!」
◆
その瞬間。
「獪岳!」
聞き慣れた声。
「!」
無限城の奥から、しのぶが駆けてくる。
「しのぶ……!」
「無茶をしすぎです!」
しのぶが獪岳の傷を見る。
「大丈夫だ」
「大丈夫な人は、そんなに血を流しません」
「……悪い」
しのぶは小さく息を吐く。
「私も戦います」
「危険だ」
「あなた一人に背負わせるつもりはありません」
しのぶは刀を構える。
「私も柱ですから」
獪岳は一瞬だけ目を細める。
そして。
「……分かった」
二人が並ぶ。
「行きましょう」
「ああ」
その時。
遠くから地響きが聞こえた。
――ドンッ!!
「来た!」
炭治郎の声。
悲鳴嶼。
カナエ。
そして他の柱たち。
鬼殺隊が集結する。
無惨はそれを見て、目を細めた。
「……鬱陶しい」
無惨の肉体が大きく膨れ上がる。
「ならば、まとめて消してやる」
凄まじい殺気。
「散開!」
悲鳴嶼の声が響く。
全員が一斉に動いた。
◆
「火雷神!」
――バァン!!
善逸が無惨の懐へ飛び込む。
「!」
無惨が触手を振る。
しかし。
「させない!」
獪岳が割り込む。
「雷の呼吸・改――帝釈天!」
――轟ッ!!
雷撃が触手を切り裂く。
その隙に善逸が走り抜ける。
「今だ!」
炭治郎が続く。
「水の呼吸!」
「獣の呼吸!」
伊之助も飛び込む。
柱たちの攻撃が次々と重なる。
無惨の身体に無数の傷が刻まれる。
しかし。
「……!」
瞬時に再生。
「無駄だ!」
無惨が咆哮する。
無数の触手が爆発的に広がった。
「ぐあっ!」
「きゃあっ!」
隊士たちが吹き飛ばされる。
獪岳も大きく後退する。
「くっ……!」
息が苦しい。
身体が重い。
血が流れ続ける。
それでも。
「……まだだ」
刀を握る。
「まだ終わってない」
◆
その時。
善逸が隣に立った。
「兄貴」
「……何だ」
「俺が道を作る」
「!」
「兄貴は――」
善逸が笑う。
「最後の一撃を頼む」
「馬鹿を言うな」
「兄貴ならできる」
「……」
「俺、もう怖くない」
善逸の瞳には、確かな覚悟があった。
「兄貴の隣で戦ってきたから」
「……善逸」
「俺の雷を、全部使う」
善逸が構える。
「火雷神」
獪岳も刀を構えた。
「……分かった」
二人の刀に雷が集まる。
「俺も全部出す」
無惨が迫る。
「消えろ!」
無数の触手が二人を包囲する。
「今だ!」
善逸が叫ぶ。
「雷の呼吸――」
「――改!」
二つの声が重なる。
「「極限――」」
雷鳴が無限城を震わせる。
「火雷神!!」
「帝釈天!!」
――轟ォォォォォン!!
二つの雷が走った。
善逸の雷が、無惨の攻撃を切り裂く。
獪岳の雷が、その隙間を縫う。
一歩。
二歩。
三歩。
獪岳は走る。
「――!」
無惨の首が見えた。
「させるか!」
無惨が触手を集中させる。
しかし。
「兄貴!」
善逸が最後の力を振り絞る。
「行って!」
「……!」
獪岳が踏み込む。
「善逸!」
「俺は大丈夫!」
獪岳は前を見る。
そして。
全身の力を刀へ集めた。
「雷の呼吸・改――」
世界が静かになる。
音が消える。
視界には。
無惨の首だけ。
「これが――」
獪岳の脳裏に、仲間たちの顔が浮かぶ。
しのぶ。
カナエ。
善逸。
炭治郎。
伊之助。
悲鳴嶼。
桑島慈悟郎。
そして。
これまで守ってきた全ての隊士たち。
「俺が積み重ねてきた――」
刀身に雷が集束する。
「最後の雷だ!!」
――轟ォォォォォォォン!!
獪岳が消えた。
一閃。
無惨の首を――。
「……!」
斬り裂く。
「な……に……?」
無惨の目が見開かれる。
首が宙を舞う。
「馬鹿な……!」
獪岳は着地する。
「……」
刀を握ったまま。
息を切らす。
そして。
「……終わった」
――否。
無惨の肉体が蠢く。
「まだだ!」
無惨が叫ぶ。
「私は死なん!」
身体が巨大化する。
「まだ終わっていない!」
獪岳の表情が変わる。
「……そう簡単にはいかないか」
善逸が隣に立つ。
「兄貴」
「ああ」
「もう一回だ」
獪岳は頷く。
「……ああ」
二人は再び刀を構える。
しかし。
遠くから。
朝の気配が――。
ほんの僅かに。
無限城の向こうから差し込み始めていた。
「……」
獪岳は空を見上げる。
「夜明けが近い」
善逸が笑う。
「じゃあ――」
刀を握る。
「最後まで耐えよう」
獪岳も笑った。
「ああ」
二人の雷が。
最後の夜を照らす。
そして。
遠くで――。
一羽の鴉が鳴いた。
「夜明けまで、あと少し!」
獪岳は前を見る。
「行くぞ、善逸」
「うん!」
最後の戦いは。
まだ終わっていない。
だが。
夜は確実に――。
明けようとしていた。