『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

13 / 26
第二章 雷の育手――桑島慈悟郎 第13話 桑島慈悟郎との出会い

寺を離れる日が来た。

 

朝靄の残る山道。

 

背中には小さな荷物。

 

腰には、まだ刀ですらない木刀。

 

獪岳は寺の門前に立ち、何度も振り返っていた。

 

「…………」

 

「獪岳兄ちゃん!」

 

子供たちが集まっている。

 

「本当に行っちゃうの?」

 

「修行するだけだ。死にに行くわけじゃねぇよ」

 

「でも、寂しい……」

 

「…………」

 

獪岳は困ったように頭を掻いた。

 

「泣くなよ」

 

「だって……」

 

「俺だって寂しいんだから」

 

「え?」

 

「……何でもねぇ」

 

子供たちが一斉に抱きついてくる。

 

「うわっ!」

 

「獪岳兄ちゃん!」

 

「帰ってきてね!」

 

「絶対だよ!」

 

「分かった、分かった!」

 

獪岳は一人ずつ頭を撫でた。

 

そして最後に。

 

「ちゃんと悲鳴嶼さんの言うこと聞けよ」

 

「はーい!」

 

「喧嘩するなよ」

 

「はーい!」

 

「飯はちゃんと食え」

 

「獪岳兄ちゃんみたい!」

 

「俺みたいになるな!」

 

思わず笑いが起こる。

 

少し離れた場所では、悲鳴嶼行冥が静かに見守っていた。

 

獪岳は子供たちから離れ、悲鳴嶼の前に立つ。

 

「悲鳴嶼さん」

 

「うむ」

 

「行ってきます」

 

「ああ」

 

「必ず強くなって帰ってきます」

 

「楽しみにしている」

 

「……それと」

 

獪岳は少しだけ照れ臭そうに言った。

 

「ちゃんと、家族のところに帰ってきます」

 

悲鳴嶼の目から涙が零れた。

 

「……ああ」

 

大きな手が、獪岳の頭に乗る。

 

「行っておいで。我が息子よ」

 

「…………」

 

獪岳は一瞬、固まった。

 

「……その呼び方、反則ですよ」

 

「そうか?」

 

「帰りたくなくなっちまうじゃねぇですか」

 

そう言いながら。

 

獪岳は笑った。

 

「じゃあ、行ってきます」

 

「ああ」

 

獪岳は山道を歩き始めた。

 

何度も振り返る。

 

寺が小さくなっていく。

 

子供たちが手を振っている。

 

悲鳴嶼も。

 

ずっと立っている。

 

「…………」

 

獪岳は前を向いた。

 

「よし」

 

ここからが、本当の始まりだ。

 

――雷の呼吸を極める。

 

そのために。

 

自分には師匠が必要だった。

 

そして。

 

原作知識にある人物の名を思い浮かべる。

 

「桑島慈悟郎」

 

元・鳴柱。

 

雷の呼吸を受け継ぐ育手。

 

そして――。

 

善逸の師匠。

 

「……俺の師匠になる人か」

 

獪岳は拳を握った。

 

「絶対に、気に入られる」

 

いや。

 

少し違う。

 

「……認めさせる」

 

獪岳らしい決意だった。

 

 

数日後。

 

山道を進んでいた獪岳は、奇妙な建物を見つけた。

 

古びた家。

 

その前に、一人の老人が立っている。

 

背筋は伸びている。

 

右脚には義足。

 

鋭い眼光。

 

獪岳は足を止めた。

 

「……あれが」

 

原作知識と一致する。

 

「桑島慈悟郎……」

 

老人がこちらを見る。

 

「む?」

 

獪岳は深く頭を下げた。

 

「突然すみません」

 

「何者じゃ」

 

「獪岳と申します」

 

「…………」

 

「雷の呼吸を学びたい」

 

桑島の眉が動いた。

 

「雷の呼吸?」

 

「ああ」

 

「お前、誰に教わった」

 

「まだ誰にも」

 

「ならば、なぜ雷の呼吸を知っておる?」

 

獪岳は一瞬、言葉に詰まった。

 

「…………」

 

前世の知識がある。

 

だが。

 

それを言うわけにはいかない。

 

「以前、鬼と戦った時に……」

 

獪岳は慎重に言葉を選ぶ。

 

「雷のような速度で動く剣士を見たことがあります」

 

「ほう」

 

「その剣技を、自分も身につけたいと思いました」

 

桑島はじっと獪岳を見る。

 

「……嘘ではないようじゃな」

 

「嘘は言ってません」

 

「しかし」

 

桑島が近づく。

 

「お前の目には、妙なものがある」

 

「妙なもの?」

 

「焦りじゃ」

 

獪岳の表情が固まる。

 

「…………」

 

「何かに追われておる」

 

「…………」

 

「未来か?」

 

「!」

 

獪岳の心臓が跳ねた。

 

「……何で」

 

「顔に出ておる」

 

桑島は鼻を鳴らす。

 

「若造が、そんな顔をするな」

 

「…………」

 

「強くなりたい理由を話してみろ」

 

獪岳は黙り込んだ。

 

何と言えばいい。

 

「鬼を倒したい」

 

それだけでは足りない。

 

「柱になりたい」

 

それも違う。

 

本当の理由は――。

 

「……守りたいんです」

 

「何を?」

 

「家族を」

 

桑島の目が僅かに細くなる。

 

「家族?」

 

「はい」

 

獪岳は寺での出来事を話した。

 

鬼が来たこと。

 

子供たちを守ったこと。

 

悲鳴嶼と家族になったこと。

 

そして。

 

「俺は……もう、誰も失いたくない」

 

拳を握る。

 

「だから強くなりたい」

 

桑島はしばらく黙っていた。

 

やがて。

 

「……そうか」

 

老人は背を向けた。

 

「ついてこい」

 

「え?」

 

「修行をつけてやる」

 

獪岳の目が見開かれる。

 

「いいんですか?」

 

「勘違いするな」

 

桑島が振り返る。

 

「お前に才能があるかどうかは、まだ分からん」

 

「…………」

 

「雷の呼吸は甘くない」

 

「分かってます」

 

「死ぬほど苦しいぞ」

 

「望むところです」

 

「泣くぞ」

 

「泣きません」

 

「逃げるかもしれん」

 

「逃げません」

 

桑島がニヤリと笑った。

 

「ならば来い」

 

「はい!」

 

獪岳は力強く返事をした。

 

しかし。

 

家に入った瞬間。

 

「……む?」

 

獪岳は足を止めた。

 

「どうした?」

 

「誰かいます?」

 

「弟子がおる」

 

「弟子?」

 

その瞬間。

 

家の奥から。

 

「じいちゃん! 腹減ったー!」

 

少年の声が響いた。

 

黄色い髪。

 

眠そうな目。

 

そして。

 

獪岳の知っている顔。

 

「…………」

 

「…………」

 

二人の目が合う。

 

「誰?」

 

「…………」

 

獪岳は思った。

 

――来た。

 

原作では。

 

この少年と自分は、決して良好な関係ではなかった。

 

互いに反発し。

 

互いを見下し。

 

最後には――。

 

だが。

 

「お前、名前は?」

 

少年が尋ねる。

 

獪岳は答えた。

 

「獪岳」

 

「へぇ……俺、我妻善逸」

 

善逸は獪岳をじっと見る。

 

そして。

 

「なんか……怖い人だね」

 

「…………」

 

獪岳の眉がピクッと動く。

 

「初対面でそれ言うか?」

 

「だって怖い顔してるし!」

 

「……お前な」

 

思わずため息。

 

だが。

 

次の瞬間。

 

善逸の腹が。

 

ぐぅぅぅぅ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……飯、食うか?」

 

「食べる!」

 

即答だった。

 

「じいちゃん!」

 

「何じゃ」

 

「この人、いい人!」

 

「判断が早すぎるじゃろうが!」

 

桑島の怒声が飛ぶ。

 

獪岳は思わず吹き出した。

 

「……ははっ」

 

善逸が目を丸くする。

 

「笑った」

 

「うるせぇ」

 

「やっぱり笑うんじゃん!」

 

「黙れ」

 

「兄ちゃん!」

 

「……誰が兄ちゃんだ」

 

「だって俺より年上っぽいし!」

 

獪岳は頭を抱えた。

 

「……こいつ、本当に善逸かよ」

 

原作とは違う。

 

未来は。

 

もう少しずつ変わり始めている。

 

獪岳は善逸を見る。

 

「……まあ、いい」

 

「何が?」

 

「俺が兄貴になってやる」

 

「え?」

 

「雷の呼吸も教えてやる」

 

「ほんと!?」

 

「ただし」

 

獪岳は善逸の額を指で小突いた。

 

「泣き言は禁止だ」

 

「えええええ!?」

 

「嫌なら帰れ」

 

「帰らない!」

 

「なら鍛える」

 

「……はい!」

 

善逸は怯えながらも頷いた。

 

桑島はその様子を見て。

 

小さく笑った。

 

「……面白いことになりそうじゃのう」

 

こうして。

 

転生獪岳と我妻善逸。

 

後に雷の呼吸を担う二人の兄弟弟子としての物語が始まった。

 

そして獪岳自身の、長く険しい修行の日々も。

 

ここから始まる。

 

【大正コソコソ噂話】

 

桑島慈悟郎の家に来た初日。

 

獪岳と善逸は、食事の席で早速揉めた。

 

「その漬物、俺のだぞ!」

 

「兄貴なんだから弟に譲ってよ!」

 

「いつから俺がお前の兄貴になった!」

 

「さっき言ったじゃん!」

 

「…………」

 

「兄ちゃん!」

 

「……勝手にしろ」

 

すると桑島が一言。

 

「仲が良いのう」

 

「「どこが!?」」

 

二人の声が見事に重なった。

 

しかし翌朝。

 

善逸が寝坊すると、獪岳は――。

 

「起きろ、善逸!」

 

「あと五分……」

 

「修行に遅れたら置いてくぞ!」

 

「やだぁ!」

 

「なら起きろ!」

 

布団を剥ぎ取って叩き起こした。

 

この日から善逸は獪岳を、

 

「怖いけど頼れる兄貴」

 

と認識するようになったという。

 

なお獪岳本人は、

 

「俺は兄貴じゃねぇ!」

 

と最後まで否定していた。

 

――大正コソコソ噂話・終。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。