『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第四話 珠世と愈史郎

浅草の喧騒から離れた、静かな裏通り。

 

 炭治郎は珠世に案内され、血鬼術によって人の目から隠された屋敷へと入っていた。

 

 外から見れば、そこに屋敷があることすら分からない。

 

 しかし一歩中へ入れば、そこには清潔に整えられた診察室があり、薬品の匂いが漂っていた。

 

「ここが……」

 

 炭治郎が辺りを見回す。

 

 禰豆子も興味深そうに周囲を見ている。

 

 その隣では、鳴柱・獪岳が腕を組みながら畳の上に座っていた。

 

「……なるほどな」

 

 獪岳は室内を見渡す。

 

「鬼の屋敷って聞いて、もっと陰気臭ぇ場所かと思ってたが……随分とまともじゃねぇか」

 

「当然です」

 

 静かな声が返ってくる。

 

 珠世だった。

 

 鬼でありながら人間を診察し、病を治す医者。

 

 その隣には、従者の愈史郎が控えている。

 

 愈史郎は獪岳を睨みつけた。

 

「珠世様の屋敷をそのような言い方で評価するとは……! 無礼な男だ!」

 

「あ?」

 

 獪岳の眉が跳ね上がる。

 

「何だ、てめぇ」

 

「私は珠世様の――」

 

「愈史郎」

 

「はい!」

 

 珠世の一言。

 

 それだけで愈史郎は背筋を伸ばし、即座に正座した。

 

「……失礼いたしました」

 

 炭治郎は思わず目を瞬かせる。

 

「……」

 

 禰豆子も愈史郎を見る。

 

 獪岳は呆れた顔で鼻を鳴らした。

 

「お前、随分と素直だな」

 

「珠世様のお言葉だから当然だ!」

 

「はいはい」

 

「何だその態度は!」

 

「愈史郎」

 

「はい……!」

 

 再び静かになる。

 

 炭治郎は思わず笑いそうになった。

 

 そして鼻を小さく動かす。

 

(……なんだろう)

 

 この屋敷には、鬼の気配がある。

 

 けれど、不思議と嫌な匂いではない。

 

 珠世から感じるのは、深い悲しみと罪悪感。

 

 そして――。

 

 誰かを救いたいという、優しい匂いだった。

 

「竈門さん」

 

 珠世が炭治郎へ向き直る。

 

「先ほどは無惨の追手から守っていただき、ありがとうございました」

 

「いえ!」

 

 炭治郎は慌てて頭を下げる。

 

「俺は何も……獪岳さんが来てくれたから!」

 

「俺のことはどうでもいい」

 

 獪岳が口を挟む。

 

「話を進めろ」

 

「はい」

 

 珠世は微笑んだ。

 

「私は以前から、胡蝶しのぶ様と鬼を人間に戻す薬について研究を続けています」

 

 炭治郎の目が大きくなる。

 

「しのぶさんと?」

 

「ああ」

 

 獪岳が頷く。

 

「しのぶは昔から薬学に詳しい。カナエと一緒に鬼を殺すだけじゃなく、救う方法まで探してる」

 

「……そうなのですね」

 

 珠世が静かに頷く。

 

「胡蝶しのぶ様は、とても聡明な方です。文を通じて何度も意見を交換してきました」

 

「俺の恋人は優秀だからな」

 

「……」

 

 炭治郎が固まった。

 

「こ、恋人……?」

 

「あ?」

 

「獪岳さんと、しのぶさんが……?」

 

「何を驚いてんだ」

 

「い、いえ!」

 

 獪岳は少しだけ顔を背けた。

 

「……まあ、そういう関係だ」

 

 炭治郎は少し嬉しそうに笑った。

 

「そうだったんですね」

 

「ニヤニヤすんな」

 

「すみません!」

 

 珠世はそんな二人を微笑ましそうに眺めた。

 

 そして――。

 

 視線を禰豆子へ向ける。

 

「では、禰豆子さんについてお話ししましょう」

 

 禰豆子が顔を上げる。

 

「ムー?」

 

「禰豆子さんの血を調べさせていただきたいのです」

 

「もちろんです!」

 

 炭治郎は即答した。

 

「この子が人間に戻れるなら、何でも協力します!」

 

「ありがとうございます」

 

 珠世は頷く。

 

「禰豆子さんは普通の鬼とは大きく異なっています」

 

「異なる?」

 

「ええ。人を喰わず、長期間眠ることで生命を維持している。そして、鬼でありながら人間を守ろうとしている」

 

 珠世は禰豆子を見つめる。

 

「その血には、鬼を人間へ戻すための研究に役立つ可能性があります」

 

「本当ですか!?」

 

「はい。ただし――」

 

 珠世の表情が真剣になる。

 

「一つ、問題があります」

 

「問題?」

 

「より強い鬼の血が必要なのです」

 

 炭治郎が息を呑む。

 

「強い鬼……」

 

「はい」

 

 珠世は静かに告げる。

 

「鬼舞辻無惨の血を濃く受け継いだ鬼――十二鬼月」

 

「十二鬼月……!」

 

 炭治郎の拳が強く握られる。

 

 その隣で獪岳は――。

 

「……上等じゃねぇか」

 

 ニヤリと笑った。

 

「それなら話は早ぇ」

 

「獪岳さん?」

 

「上弦でも下弦でも構わねぇ」

 

 獪岳が腰の刀へ手を置く。

 

「出てきた奴から叩き斬って、血を採ってやる」

 

「ですが、十二鬼月は非常に危険です」

 

「知ってる」

 

 獪岳の声が低くなる。

 

「だから俺が行くんだよ」

 

 その瞳には一切の迷いがない。

 

「しのぶにも血を届けてやる。二人で研究すりゃ、禰豆子を人間に戻す薬に近づけるだろ」

 

「……獪岳さん」

 

 炭治郎の胸が熱くなる。

 

 言葉は乱暴。

 

 態度も悪い。

 

 しかし、その根底には確かな優しさがある。

 

「ありがとうございます」

 

「あ?」

 

「禰豆子のために、そこまで……」

 

「勘違いすんな」

 

 獪岳は炭治郎の頭を軽く小突いた。

 

「俺はな、守るって決めた奴を途中で見捨てるのが嫌いなんだよ」

 

「……!」

 

「お前も禰豆子も、もう俺の知ってる奴だ」

 

 炭治郎は目を潤ませる。

 

「はい!」

 

「泣くな」

 

「はい!」

 

「返事だけはいいな、お前」

 

 獪岳が呆れたように笑った。

 

 その時だった。

 

 ――ゴゴゴゴゴゴッ!!

 

「……?」

 

 地面が揺れた。

 

 珠世が顔を上げる。

 

「まさか……」

 

 愈史郎が叫んだ。

 

「珠世様!」

 

 次の瞬間。

 

 ドガァァァン!!

 

 屋敷の壁が吹き飛んだ。

 

「うわああっ!」

 

 炭治郎が禰豆子を庇う。

 

 巨大な手毬が柱を粉砕しながら部屋へ飛び込んできた。

 

「ハハハハハ!」

 

 甲高い笑い声。

 

 屋根の上から女の鬼が姿を現す。

 

「見つけたぞ!」

 

 その鬼――朱紗丸は、楽しそうに笑っていた。

 

「鬼舞辻様のお命じになられた首を!」

 

 続いて、壁の向こうから男の鬼が姿を現す。

 

 両手の掌には不気味な目。

 

 矢印が空間を歪めるように浮かび上がる。

 

「珠世……」

 

 矢琶羽が低く呟く。

 

「貴様らを逃がすわけにはいかぬ」

 

 獪岳の表情が一瞬で変わった。

 

「……チッ」

 

 日輪刀を抜く。

 

 青白い雷光が刀身を包む。

 

「嗅ぎつけてきやがったか」

 

 朱紗丸が巨大な手毬を投げつける。

 

「遊びましょう!」

 

 獪岳が一歩踏み出した。

 

 ズドォン!!

 

 雷光が爆発する。

 

 飛来した手毬が空中で弾かれ、壁へ叩きつけられる。

 

「なっ!?」

 

 朱紗丸が目を見開く。

 

「お前……!」

 

「柱だよ」

 

 獪岳は刀を構える。

 

「鳴柱・獪岳」

 

 雷鳴が響く。

 

「てめぇらみたいな雑魚に名乗る必要もねぇけどな」

 

「何だとぉ!」

 

 朱紗丸が怒り狂う。

 

 無数の手毬が空中へ浮かぶ。

 

「愈史郎!」

 

「はい!」

 

「珠世さんを頼む!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

「獪岳さん!」

 

「炭治郎!」

 

 獪岳が振り返る。

 

「お前はあの矢印野郎をやれ!」

 

「俺が……?」

 

「あいつの術は方向を操る。まともに喰らえば吹っ飛ばされるぞ」

 

「はい!」

 

「頭を使え!」

 

「はい!」

 

「それと――」

 

 獪岳は禰豆子を見る。

 

「妹を死なせるな」

 

「もちろんです!」

 

 炭治郎が刀を抜く。

 

「禰豆子!」

 

「ムーッ!」

 

 二人が同時に飛び出した。

 

 矢琶羽の矢印が空間を歪める。

 

「吹き飛べ!」

 

「うわああっ!」

 

 炭治郎の身体が弾かれる。

 

 しかし――。

 

「まだだ!」

 

 炭治郎は木を蹴り、方向を変える。

 

 獪岳はその姿を見て、僅かに笑った。

 

「そうだ。それでいい」

 

 朱紗丸が手毬を投げる。

 

「死ねぇぇぇ!」

 

「遅ぇ!」

 

 獪岳の身体が雷光へ変わる。

 

「雷の呼吸――」

 

 青白い光が屋敷を駆け抜ける。

 

「壱ノ型・霹靂一閃!」

 

 ズガァァァン!!

 

 一閃。

 

 巨大な手毬が真っ二つに斬り裂かれる。

 

「なっ……!」

 

 朱紗丸が驚愕する。

 

「手毬が……!」

 

「お前の玩具は俺には届かねぇよ」

 

 獪岳の目が鋭く光る。

 

「さて――」

 

 雷光がさらに膨れ上がる。

 

「てめぇらの血、禰豆子を救うために使わせてもらうぞ」

 

 屋敷の中に雷鳴が轟いた。

 

 珠世は静かに禰豆子を見る。

 

「……この方なら」

 

 小さく呟く。

 

「本当に、この兄妹を守ってくれるのかもしれませんね」

 

 愈史郎が頷く。

 

「はい。あの男……口は悪いですが」

 

 外から轟音が響く。

 

「……間違いなく、強い」

 

 そして炭治郎もまた、初めて実戦で獪岳と肩を並べていた。

 

 恐怖に震えながらも、刀を握る。

 

 妹を守るため。

 

 そして――。

 

 人間に戻る可能性を掴むため。

 

「行くぞ、禰豆子!」

 

「ムーッ!」

 

 竈門兄妹の反撃が始まった。

 

 その先頭に立つのは、霹靂の雷を纏った鳴柱。

 

 獪岳だった。

 

 

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