『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第六話 浅草の血戦

浅草の夜を、凄まじい轟音が引き裂いていた。

 

 珠世の隠れ家はすでに半壊し、壁には大きな亀裂が走っている。畳はめくれ上がり、柱は何本も折れ、天井からは瓦礫が絶え間なく落ちていた。

 

 その中心で、二体の鬼が笑っている。

 

「ハハハハハッ! 柱だろうと何だろうと関係ない!」

 

 六本の腕を持つ朱紗丸が、巨大な手毬を次々と投げ放つ。

 

「鬼舞辻様のお命令だ! ここにいる全員、皆殺しにしてやる!」

 

 手毬が壁を砕き、床を抉り、柱をへし折る。

 

 その横では、矢琶羽が両手の目を見開いていた。

 

「逃げ場などない!」

 

 不可視の矢印が空間を走る。

 

 炭治郎の身体が強制的に引っ張られ、壁へ叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

「炭治郎さん!」

 

 珠世が声を上げる。

 

 愈史郎が血鬼術を発動させ、周囲の状況を探る。

 

「まずい……! 矢琶羽の術で、空間そのものを支配されている!」

 

「だったら――」

 

 獪岳が一歩前へ出た。

 

 その瞬間だった。

 

 空気が変わる。

 

 青白い雷光が、獪岳の身体から弾け飛んだ。

 

 バチィッ!!

 

 雷鳴のような音が屋敷を震わせる。

 

「……いい加減、うるせぇんだよ」

 

 獪岳が刀の柄へ手を添える。

 

「俺の仲間の家を好き勝手に壊しやがって」

 

 朱紗丸が笑う。

 

「仲間だと? 鬼殺隊の柱が鬼と仲良くするとは、随分と面白いではないか!」

 

「仲良しだろうが何だろうが関係ねぇ」

 

 獪岳の瞳が鋭く細められる。

 

「守るって決めた奴を傷つけられたら――」

 

 雷光がさらに膨れ上がる。

 

「俺は容赦しねぇ」

 

「殺せぇぇぇ!」

 

 朱紗丸が一斉に手毬を放った。

 

 十、二十、三十。

 

 無数の手毬が獪岳へ殺到する。

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

「獪岳さん!」

 

「黙って見てろ、炭治郎!」

 

 獪岳が踏み込んだ。

 

「雷の呼吸――」

 

 刹那。

 

 その姿が消える。

 

「壱ノ型・霹靂一閃――八連!」

 

 ドドドドドドドドッ!!

 

 八条の青白い閃光が屋敷を駆け抜けた。

 

 手毬が次々と切り裂かれる。

 

 一つ。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 十。

 

 二十。

 

 飛来した全ての手毬が、一瞬にして細切れとなって床へ落ちた。

 

「な……」

 

 朱紗丸の顔から笑みが消える。

 

「私の手毬を……全部……!」

 

 その背後。

 

「隙だらけだぞ」

 

「――!?」

 

 獪岳が立っていた。

 

 朱紗丸が振り返る。

 

 だが、その刀はすでに振り抜かれていた。

 

「まだ殺さねぇ」

 

 獪岳は刀を止める。

 

「まずは炭治郎、お前の仕事だ」

 

「俺の……?」

 

 獪岳は矢琶羽を指差した。

 

「あの矢印野郎を斬れ」

 

「でも、あの術は……!」

 

「お前は鼻が利くだろ」

 

 獪岳は笑う。

 

「相手の動きを読め。力で押し切る必要はねぇ」

 

 炭治郎は息を整えた。

 

「……はい!」

 

 その時。

 

「炭治郎さん!」

 

 愈史郎が札を投げる。

 

「これを使え!」

 

 炭治郎が札を受け取る。

 

「これは?」

 

「私の視界を共有する札だ。矢印が見えるようになる!」

 

「ありがとうございます!」

 

 炭治郎は札を額へ貼りつける。

 

 世界が変わった。

 

 空間のあちこちに、赤い矢印が浮かび上がっている。

 

(これが……矢琶羽の術!)

 

「面白い!」

 

 矢琶羽が笑う。

 

「見えたところで避けられまい!」

 

 無数の矢印が炭治郎へ殺到する。

 

「うおおおお!」

 

 炭治郎は刀を構える。

 

 水の呼吸。

 

 身体を流れる水のように動かす。

 

「水の呼吸――!」

 

 矢印の力を真正面から受けず、流れに乗せる。

 

「ねじれ渦!」

 

 ギュルルルッ!!

 

 水流のような斬撃が矢印の力を巻き込んでいく。

 

「なに!?」

 

 矢琶羽の目が見開かれる。

 

「俺は――!」

 

 炭治郎が踏み込む。

 

「お前の力を利用する!」

 

「馬鹿な!」

 

 刀が閃く。

 

「うおおおおお!」

 

 ――ザンッ!!

 

 矢琶羽の首が宙を舞った。

 

「ぐ……!」

 

 矢琶羽の身体が崩れ始める。

 

「この私が……!」

 

 炭治郎は荒い息を吐きながらも、刀を握りしめた。

 

「やった……!」

 

「上出来だ」

 

 獪岳の声が響く。

 

「え……?」

 

「自分より強い力に真正面から逆らうんじゃねぇ。流せるなら流して、利用できるなら利用する」

 

 獪岳は頷いた。

 

「覚えとけ」

 

「はい!」

 

 その瞬間――。

 

「よくも矢琶羽を!」

 

 朱紗丸が激昂した。

 

 残された手毬を両手に握りしめる。

 

「お前だけは絶対に許さん!」

 

「……来いよ」

 

 獪岳が刀を構える。

 

「今度は俺の番だ」

 

 朱紗丸が跳ぶ。

 

 巨大な手毬が迫る。

 

 獪岳は避けない。

 

 ただ、静かに息を吸う。

 

「雷の呼吸――」

 

 青白い雷が、周囲一帯を覆った。

 

 雷鳴。

 

 轟音。

 

 そして――九つの龍が姿を現す。

 

「漆ノ型・帝釈天」

 

 ドォォォン!!

 

 青白い九頭龍の雷が、朱紗丸を多方向から包囲する。

 

「な、何だこれは!?」

 

 逃げようとする。

 

 右。

 

 雷龍。

 

 左。

 

 雷龍。

 

 上。

 

 雷龍。

 

 下。

 

 雷龍。

 

 あらゆる方向から雷が迫る。

 

「逃げ場なんてねぇよ」

 

 獪岳の声が響く。

 

「これが――俺の雷だ」

 

 九頭の雷龍が一斉に牙を剥く。

 

「ぎゃああああああ!!」

 

 雷鳴が浅草の夜空を揺らした。

 

 朱紗丸の六本の腕が斬り裂かれ、身体が雷光に包まれる。

 

 そして最後の一閃。

 

 首が落ちた。

 

「あ……」

 

 朱紗丸の表情から怒りが消える。

 

「遊び……たかった……」

 

 灰が舞う。

 

 獪岳は刀を収めた。

 

「遊びで命を奪われた奴らは、遊びじゃ済まねぇんだよ」

 

 静かに朱紗丸を見つめる。

 

「……安らかに眠れ」

 

 朱紗丸の身体が完全に灰へ変わった。

 

 静寂が戻る。

 

 破壊された屋敷には、夜風だけが吹き込んでいた。

 

「終わった……」

 

 炭治郎が膝をつく。

 

「珠世さん!」

 

「はい」

 

 珠世が駆け寄る。

 

「炭治郎さん、お怪我を……」

 

「大丈夫です!」

 

 炭治郎は笑う。

 

 その横で、愈史郎が禰豆子を見つめていた。

 

「……」

 

「どうしました?」

 

 炭治郎が尋ねる。

 

 愈史郎は顔を背ける。

 

「……お前の妹は」

 

「はい?」

 

「……美人だ」

 

「え?」

 

 炭治郎が目を丸くする。

 

「禰豆子が?」

 

「そうだ!」

 

 愈史郎は顔を赤くする。

 

「悪いか!」

 

「いえ!」

 

 炭治郎は嬉しそうに笑った。

 

「ありがとうございます!」

 

「……ふん!」

 

 愈史郎はさらに顔を背ける。

 

 その様子を見ていた獪岳が鼻で笑う。

 

「何だこいつ」

 

「獪岳さん」

 

「まあ、禰豆子が可愛いのは事実だけどな」

 

「獪岳さんまで!」

 

 禰豆子が箱の中から「ムーッ」と声を上げる。

 

 獪岳は禰豆子の箱を軽く叩いた。

 

「安心しろ。お前の兄貴はちゃんと妹を守ってたぞ」

 

「ムー!」

 

 炭治郎が嬉しそうに笑う。

 

「はい!」

 

 獪岳は炭治郎の頭を荒々しく小突いた。

 

「痛っ!」

 

「よくやった」

 

「……!」

 

「矢琶羽の術を見切った判断も悪くなかった」

 

「ありがとうございます!」

 

「ただし、まだまだだ」

 

「はい!」

 

「もっと強くなれ」

 

「はい!」

 

 炭治郎の返事を聞き、獪岳は僅かに口元を緩める。

 

 そこへ珠世が静かに歩み寄った。

 

「獪岳様、竈門さん」

 

 二人が振り返る。

 

「お二人のおかげで、十二鬼月に近い血を手に入れることができました」

 

 珠世は小さな容器を大切そうに抱えていた。

 

「この血を研究します」

 

「……頼んだ」

 

「必ず」

 

 珠世は力強く頷く。

 

「禰豆子さんを人間へ戻す薬を完成させます」

 

 炭治郎は深く頭を下げた。

 

「お願いします!」

 

「顔を上げろ、炭治郎」

 

 獪岳が言う。

 

「ここからが始まりだ」

 

「……はい」

 

「無惨はまだ生きてる」

 

 獪岳の瞳に鋭い光が宿る。

 

「そして、奴の手下もまだ山ほどいる」

 

 炭治郎は刀を握り直した。

 

「俺は強くなります」

 

「ああ」

 

「禰豆子を守れるように」

 

「ああ」

 

「そして、無惨を倒します」

 

 獪岳は一瞬だけ黙った。

 

 そして――。

 

「その意気だ」

 

 夜が明け始めていた。

 

 東の空が少しずつ白んでいく。

 

 浅草の街に朝日が差し込む。

 

「おい、炭治郎」

 

「はい?」

 

「次の任務だ」

 

「もうですか!?」

 

「鬼は待ってくれねぇからな」

 

 獪岳が歩き出す。

 

「南南東だ」

 

「南南東……?」

 

「善逸にも会うだろうよ」

 

「えっ」

 

 炭治郎の脳裏に、泣き叫ぶ黄色い髪の少年が浮かぶ。

 

「善逸さんも一緒なんですか?」

 

「知らねぇよ」

 

 獪岳は肩をすくめる。

 

「ただ――」

 

 ほんの少しだけ笑う。

 

「俺の弟弟子なら、どこかで泣き喚いてるだろ」

 

「はは……」

 

 炭治郎も笑った。

 

 禰豆子の箱を背負い直す。

 

 浅草の血戦は終わった。

 

 だが、竈門炭治郎と鳴柱・獪岳の戦いは、まだ始まったばかりだった。

 

 霹靂の雷と、慈雨のような優しさ。

 

 二つの力に導かれながら、炭治郎は次なる戦場へ歩き出した。

 

 

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