『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第九話 柱合会議・竈門兄妹

 鬼殺隊本部。

 

 雲一つない青空の下、白砂利の敷き詰められた庭には、張り詰めた空気が漂っていた。

 

 その中央。

 

 竈門炭治郎は地面へ押さえつけられ、背中に木箱を背負っていた。

 

 箱の中にいるのは、妹――禰豆子。

 

 鬼となった妹を連れている。

 

 それだけで、鬼殺隊の中では重大な隊律違反だった。

 

「鬼を連れて歩くなど、到底許されることではない」

 

 低い声が響く。

 

 水柱・冨岡義勇。

 

 その隣では、炎柱・煉獄杏寿郎が腕を組み、真っ直ぐ炭治郎を見つめていた。

 

「鬼殺隊の隊士として、規律を破った責任は取らねばならない!」

 

 さらに――。

 

「鬼なんざ、殺しちまえばいいだろォ」

 

 不死川実弥が吐き捨てる。

 

 鋭い殺気。

 

 炭治郎は歯を食いしばった。

 

「違います!」

 

 必死に声を張る。

 

「禰豆子は人を食べません! 今まで一度も人を襲ったことはないんです!」

 

「鬼は鬼だ」

 

 実弥の声は冷たい。

 

「いつか腹が減りゃ、人を食う」

 

「そんなことは――!」

 

「なら証明してみろ」

 

 実弥が炭治郎を睨む。

 

「鬼が人間を食わねぇってことをなァ」

 

 炭治郎は唇を噛んだ。

 

 周囲には柱たちが並んでいる。

 

 岩柱・悲鳴嶼行冥。

 

 炎柱・煉獄杏寿郎。

 

 音柱・宇髄天元。

 

 水柱・冨岡義勇。

 

 風柱・不死川実弥。

 

 蛇柱・伊黒小芭内。

 

 恋柱・甘露寺蜜璃。

 

 霞柱・時透無一郎。

 

 そして――。

 

 蟲柱候補としてカナエの傍らに立つ胡蝶しのぶ。

 

 その全員が、禰豆子という存在を見定めている。

 

「俺は……!」

 

 炭治郎が顔を上げる。

 

「禰豆子を守ります!」

 

 その瞬間だった。

 

 ジャリッ。

 

 砂利を踏みしめる音が響いた。

 

 ゆっくりと近づいてくる足音。

 

「――おい」

 

 低く、よく通る声。

 

「実弥」

 

 全員の視線がそちらへ向く。

 

 黒地に雷の意匠を纏った羽織。

 

 腰には日輪刀。

 

 そして、鋭い眼差し。

 

「勝手な真似すんじゃねぇよ」

 

 鳴柱・獪岳。

 

 その隣には、穏やかな笑みを浮かべる花柱・胡蝶カナエ。

 

 さらに、その妹である胡蝶しのぶもいる。

 

「獪岳……!」

 

 実弥が眉をひそめる。

 

「お前、まさかこの鬼のことを知ってやがるのかァ?」

 

「ああ」

 

 獪岳は即答した。

 

「知ってる」

 

「だったら何で鬼殺隊に報告しなかった?」

 

「したさ」

 

「……何?」

 

「俺が見た事実をな」

 

 獪岳は炭治郎の前に立った。

 

 まるで壁のように。

 

「この鬼――禰豆子は人を襲わない」

 

 柱たちがざわめく。

 

「理由は?」

 

 伊黒が尋ねる。

 

「浅草だ」

 

 獪岳が答える。

 

「俺はそこで鬼舞辻無惨と遭遇した」

 

「――鬼舞辻無惨!?」

 

 その名が出た瞬間、空気が変わった。

 

 柱たちの表情が一斉に険しくなる。

 

「そして、その場で禰豆子が人間を襲うどころか、人を守ろうとしたところを俺自身が確認している」

 

 獪岳の声には一切の迷いがなかった。

 

「無惨の血を浴びて鬼になった人間でさえ、人を守ることはできる」

 

「……」

 

 実弥は黙っている。

 

「だから俺は、この鬼を即座に殺すべきじゃねぇと思ってる」

 

 獪岳が振り返る。

 

「それに――」

 

 炭治郎を見る。

 

「こいつは妹を人間に戻すために戦ってる」

 

「……!」

 

「泥をすすってでも、何度転んでも、妹を見捨てねぇって足掻いてる」

 

 獪岳の視線が実弥へ向く。

 

「お前だって同じだろ」

 

「……あァ?」

 

「弟を守りたかったんだろ」

 

 実弥の表情が変わる。

 

 獪岳は続ける。

 

「家族を失って、それでも弟だけは生きてほしいと思った」

 

「……」

 

「だったら分かるはずだ」

 

 獪岳の声が少しだけ低くなる。

 

「こいつがどれだけ必死なのか」

 

 実弥は拳を握りしめる。

 

「……余計なこと言いやがって」

 

「事実だろ」

 

「チッ……」

 

 実弥は顔を背けた。

 

 そのやり取りを見ていた炭治郎は、胸が熱くなった。

 

「獪岳さん……」

 

「黙ってろ」

 

「はい……!」

 

 その時。

 

「皆さん」

 

 穏やかな声が庭に響いた。

 

 柱たちが一斉に振り返る。

 

「おはよう」

 

 産屋敷耀哉。

 

 鬼殺隊の当主――御館様が、妻・あまねに支えられながら静かに姿を現した。

 

「今日はとても良い天気だね」

 

 その場にいた全員が頭を下げる。

 

「「お館様、おはようございます」」

 

 獪岳も静かに頭を下げる。

 

「獪岳。来てくれてありがとう」

 

「当然の仕事です」

 

「そう言ってくれるところが、君らしいね」

 

 御館様は微笑んだ。

 

 そして、あまねが一通の手紙を取り出す。

 

「鱗滝左近次からの手紙を読み上げます」

 

 静かな声が庭に響く。

 

 そこには、炭治郎と禰豆子についての詳細が記されていた。

 

 禰豆子が人を襲わないこと。

 

 炭治郎が決して妹を人喰い鬼にさせないこと。

 

 もし禰豆子が人を襲った場合には、鱗滝左近次、冨岡義勇、そして竈門炭治郎が責任を取り、腹を切って詫びること。

 

 そして――。

 

「鳴柱・獪岳もまた、この兄妹の行く末を自らの命を懸けて見届けると申し出ている」

 

「……!」

 

 炭治郎の目が大きく開く。

 

「獪岳さん……」

 

「勘違いすんな」

 

 獪岳が横目で炭治郎を見る。

 

「お前らがしくじったら、俺が直々に斬るって約束しただろ」

 

「でも……!」

 

「だから、その約束を守るための一筆だ」

 

 炭治郎の目から涙が零れる。

 

「ありがとうございます……!」

 

「泣くな」

 

「はい……!」

 

 その時だった。

 

「……お館様」

 

 実弥が一歩前へ出る。

 

「まだ納得できません」

 

「そうだね」

 

「なら、証明させていただきたい」

 

 実弥は腕をまくる。

 

 そして――。

 

 ザシュッ。

 

「!」

 

 自らの腕を刀で切りつけた。

 

 血が流れる。

 

 その匂いが、庭いっぱいに広がった。

 

 炭治郎が息を呑む。

 

「禰豆子……!」

 

 箱の蓋が開く。

 

「禰豆子!」

 

 実弥が血の流れる腕を差し出す。

 

「さあ、鬼なら食え」

 

 禰豆子の瞳が揺れる。

 

 血の匂い。

 

 鬼にとって、これほど甘美な誘惑はない。

 

 禰豆子の口元から牙が覗く。

 

「禰豆子……!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

 しかし――。

 

 禰豆子は震えながら顔を背けた。

 

 ぷいっ。

 

「……!」

 

 実弥の目が見開かれる。

 

 禰豆子は血から離れた。

 

 それどころか、箱の奥へ身体を引っ込める。

 

「……そうか」

 

 御館様が微笑む。

 

「禰豆子ちゃんは、人を襲わない」

 

 静かな声。

 

「これで十分だね」

 

 悲鳴嶼が数珠を握る。

 

「南無阿弥陀仏……」

 

 煉獄が大きく頷く。

 

「見事だ!」

 

 甘露寺は胸元で手を握る。

 

「よかった……!」

 

 伊黒も静かに視線を逸らす。

 

「……少なくとも、今はな」

 

 宇髄が肩をすくめる。

 

「派手じゃねぇが、悪くない証明だ」

 

 無一郎も淡々と呟く。

 

「人を食べない鬼……か」

 

 そして実弥。

 

 血の流れる腕を見ながら、苦々しく笑った。

 

「……チッ」

 

 獪岳が隣へ立つ。

 

「どうだ?」

 

「……気に入らねぇ」

 

「だろうな」

 

「だが」

 

 実弥は禰豆子を見る。

 

「この鬼が本当に人を襲わねぇってことは、認めてやる」

 

 炭治郎の目から、また涙が零れた。

 

「ありがとうございます……!」

 

「礼なんかいらねェ」

 

 実弥は顔を背ける。

 

「俺はただ、事実を認めただけだ」

 

 獪岳が小さく笑う。

 

「素直じゃねぇな」

 

「うるせぇ、獪岳」

 

「お前も人のこと言えねぇだろ」

 

「……殺すぞォ」

 

「やってみろ」

 

 柱たちの間に、僅かな笑いが生まれた。

 

 御館様は穏やかに告げる。

 

「では、決めよう」

 

 庭園に静寂が戻る。

 

「竈門炭治郎と禰豆子を、鬼殺隊の一員として認める」

 

 炭治郎は深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます!」

 

「これからも、二人で歩んでいくといい」

 

「はい!」

 

 会議が終わり、柱たちがそれぞれ退いていく。

 

 炭治郎も禰豆子の箱を背負い直した。

 

 その背中を――。

 

「おい」

 

 獪岳が呼び止める。

 

「はい!」

 

 振り返った瞬間。

 

 バシッ!

 

「痛っ!」

 

 獪岳が炭治郎の頭を叩いた。

 

「何するんですか!」

 

「気が緩んでるからだ」

 

「えぇ……」

 

「ここで認められたからって、鬼がいなくなったわけじゃねぇ」

 

 獪岳は炭治郎を真っ直ぐ見つめる。

 

「むしろ、ここからが本当の戦いだ」

 

「……!」

 

「強くなれ」

 

 炭治郎は拳を握る。

 

「はい!」

 

「妹を守りたいなら、自分が死ぬな」

 

「はい!」

 

「仲間を守りたいなら、自分も守れ」

 

「はい!」

 

 獪岳は満足そうに頷いた。

 

「よし」

 

 その横で、しのぶが微笑む。

 

「頑張ってくださいね、炭治郎くん」

 

「はい、しのぶさん!」

 

 カナエも穏やかに笑う。

 

「炭治郎くん、禰豆子ちゃん。これから大変なこともあるでしょう。でも、あなたたちなら大丈夫ですよ」

 

「ありがとうございます!」

 

 炭治郎は三人の先輩を見つめる。

 

 鳴柱・獪岳。

 

 花柱・胡蝶カナエ。

 

 そして、蟲柱を目指す胡蝶しのぶ。

 

 自分たちを信じてくれる人がいる。

 

 背中を押してくれる人がいる。

 

 その事実が、何よりも心強かった。

 

「獪岳さん!」

 

「あ?」

 

「俺、絶対に強くなります!」

 

 獪岳は鼻で笑った。

 

「言葉じゃなく、行動で見せろ」

 

「はい!」

 

 炭治郎は走り出す。

 

 背中には禰豆子。

 

 胸には新たな決意。

 

 その背中を見送る獪岳の隣で、しのぶが静かに微笑んだ。

 

「……良い子ですね」

 

「ああ」

 

「あなたが気に入るのも分かります」

 

「別に気に入ってねぇ」

 

「ふふ」

 

 カナエが二人を見ながら笑う。

 

「獪岳は、本当に面倒見がいいですね」

 

「……姉貴まで言うなよ」

 

 三人の笑い声が、青空の下へ静かに響いた。

 

 霹靂の雷に導かれ。

 

 慈雨のような仲間たちに支えられ。

 

 竈門兄妹の新たな戦いが、今、始まる。

 

 

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