『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第二話 炭治郎、鬼と対峙する

藤襲山の森は、夜になると一段と暗くなる。

 

 昼間は紫藤の花が美しく咲き誇っていた山も、月が昇れば別の顔を見せる。

 

 木々の隙間から差し込む月明かり。

 

 風に揺れる紫藤の花。

 

 そして――。

 

 森の奥から漂ってくる、異様な臭い。

 

 竈門炭治郎は、足を止めた。

 

「……善逸」

 

「な、なに?」

 

「鬼がいる」

 

「……!」

 

 我妻善逸の顔が一瞬で青ざめる。

 

「ど、どこ!?」

 

「前方……いや」

 

 炭治郎は鼻を利かせる。

 

「右だ」

 

「右!?」

 

「近い」

 

 ガサッ。

 

 茂みが揺れた。

 

 善逸が炭治郎の背中へ隠れる。

 

「炭治郎……!」

 

「大丈夫だ」

 

「大丈夫じゃない!」

 

「刀を抜いて」

 

「無理!」

 

「善逸」

 

「だって怖いんだよぉ!」

 

 炭治郎は一瞬だけ善逸を見る。

 

 震えている。

 

 顔も青ざめている。

 

 それでも――。

 

 善逸の手は、刀の柄を握っていた。

 

「……善逸」

 

「なに……?」

 

「怖くてもいい」

 

 炭治郎は静かに言った。

 

「獪岳さんも言っていただろう?」

 

「……」

 

『怖いままで行け』

 

『怖くても、足を止めるな』

 

 善逸は唇を噛む。

 

「……うん」

 

「俺も怖い」

 

「え?」

 

「俺だって、この山にいる鬼が怖い」

 

 炭治郎は刀を抜いた。

 

「でも、だからこそ戦う」

 

 その瞬間。

 

 茂みが弾けた。

 

「グルルルル……!」

 

 現れたのは、一匹の鬼だった。

 

 身長は人間の倍近く。

 

 身体中には古い傷跡が刻まれ、両手には鋭い爪。

 

 口元からは鋭い牙が覗いている。

 

「人間……」

 

 鬼が笑う。

 

「人間の匂いだァ……!」

 

 善逸が震える。

 

「ひっ……!」

 

 鬼が二人を見つめる。

 

「最終選別に来たガキか……」

 

「……そうだ」

 

 炭治郎は刀を構える。

 

「俺たちは鬼殺隊士になる」

 

「鬼殺隊士ィ?」

 

 鬼は腹を抱えて笑った。

 

「まだ何も知らねぇガキが、偉そうに!」

 

 次の瞬間。

 

 ドンッ!!

 

 鬼が地面を蹴った。

 

「炭治郎!」

 

「水の呼吸――」

 

 炭治郎も踏み込む。

 

「壱ノ型・水面斬り!」

 

 ザンッ!

 

 刃が鬼の腕を斬り裂いた。

 

「グアッ!?」

 

 鬼が後退する。

 

 しかし――。

 

「浅い……!」

 

 炭治郎は歯を食いしばる。

 

 首を狙ったはずだった。

 

 だが鬼は寸前で身体を捻り、致命傷を避けていた。

 

「なるほど……!」

 

 鬼が傷口を押さえる。

 

「ただのガキじゃねぇな!」

 

 傷が見る見るうちに塞がっていく。

 

「再生……!」

 

 炭治郎の目が鋭くなる。

 

 鬼は笑った。

 

「そうだ!」

 

 腕を大きく振る。

 

「人間とは違うんだよォ!」

 

 ドゴォン!!

 

 木が一本、根元からへし折れた。

 

「うわぁぁぁ!!」

 

 善逸が叫びながら飛び退く。

 

「善逸!」

 

「無理無理無理!」

 

「落ち着いて!」

 

「こんなの落ち着けるかぁぁ!」

 

 鬼が善逸へ向きを変える。

 

「まずは黄色い髪のガキから喰ってやる!」

 

「ひぃっ!」

 

 善逸の身体が硬直する。

 

 鬼の腕が迫る。

 

 その瞬間――。

 

「善逸!」

 

 炭治郎が割り込んだ。

 

 ガキィン!

 

 鬼の爪と日輪刀がぶつかる。

 

「ぐっ……!」

 

 重い。

 

 炭治郎の腕が震える。

 

「炭治郎!」

 

「逃げるな、善逸!」

 

「……!」

 

「今は、俺が止める!」

 

 鬼が口を歪める。

 

「仲間を庇って死ぬかァ!」

 

「死なない!」

 

 炭治郎は刀を押し返す。

 

「俺は死なない!」

 

 踏み込む。

 

「水の呼吸――弐ノ型!」

 

 刃が円を描く。

 

「水車!」

 

 ザシュッ!

 

 鬼の肩が大きく斬り裂かれた。

 

「グオオオオッ!!」

 

 鬼が後退する。

 

 炭治郎は追撃しようとする。

 

 だが――。

 

「待て!」

 

 善逸の声。

 

「炭治郎、上!」

 

「!」

 

 見上げる。

 

 鬼が木の枝へ飛び移っていた。

 

「逃げる気か!」

 

 鬼はニヤリと笑う。

 

「馬鹿が!」

 

 枝を蹴る。

 

 炭治郎の頭上から急降下する。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 炭治郎は刀を構えた。

 

 しかし――。

 

 身体が間に合わない。

 

「炭治郎!」

 

 善逸が動いた。

 

「雷の呼吸――!」

 

 足元に力が集中する。

 

「壱ノ型……!」

 

 炭治郎の横を、一筋の閃光が駆け抜けた。

 

「霹靂一閃!!」

 

 バリィィィン!!

 

 善逸の刀が鬼の脇腹を斬り裂いた。

 

「グアアアアアッ!?」

 

 鬼の身体が吹き飛ぶ。

 

 木に激突する。

 

 善逸は着地した。

 

 本人が一番驚いた顔をしている。

 

「……俺」

 

 震える手を見る。

 

「俺、今……戦った?」

 

「善逸!」

 

 炭治郎が嬉しそうに駆け寄る。

 

「すごい!」

 

「すごいって……」

 

「助けてくれた!」

 

「……!」

 

 善逸の目が少し潤む。

 

「俺……逃げなかった」

 

「ああ」

 

「怖かったのに……」

 

「うん」

 

「ちゃんと刀を振れた……」

 

 炭治郎が笑う。

 

「獪岳さんのおかげだな」

 

「……うん」

 

 善逸も小さく笑った。

 

「兄貴に……怒られるからな」

 

「違うだろ?」

 

「え?」

 

「獪岳さんに褒めてもらいたいんじゃないのか?」

 

「…………」

 

 善逸の顔が赤くなる。

 

「そ、それは……」

 

「図星だな」

 

「うるさい!」

 

 その時。

 

「貴様らァ……!」

 

 鬼の声が響いた。

 

 二人が振り返る。

 

 鬼が立ち上がっていた。

 

 傷口はすでに塞がり始めている。

 

「よくも……!」

 

 鬼が二人を睨む。

 

「よくも俺の身体を傷つけやがったなァ!!」

 

 炭治郎は刀を構える。

 

「まだ終わっていない」

 

「……そうだな」

 

 善逸も刀を握る。

 

 先ほどまで震えていた手。

 

 それでも今は、逃げるためではなく――。

 

 戦うために握られている。

 

「善逸」

 

「なに?」

 

「一緒に戦おう」

 

「……うん」

 

 二人は並んだ。

 

 鬼が突進する。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 炭治郎が前へ出る。

 

「水の呼吸――!」

 

 善逸が横へ回り込む。

 

「雷の呼吸――!」

 

 二人の呼吸が重なる。

 

 鬼の攻撃を炭治郎が受け流し。

 

 善逸が死角から斬り込む。

 

「グアッ!」

 

 鬼が善逸を狙う。

 

 炭治郎が割って入る。

 

「させない!」

 

 刀が鬼の腕を弾く。

 

「善逸、今だ!」

 

「分かった!」

 

 善逸が踏み込む。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

 閃光。

 

 鬼の首へ刃が迫る。

 

 しかし――。

 

 鬼は咄嗟に身体を捻った。

 

 刃が首を逸れる。

 

「くそっ!」

 

 完全には届かなかった。

 

 鬼が距離を取る。

 

 肩で荒く息をする。

 

 炭治郎は刀を握り直した。

 

(強い……)

 

 今まで戦った鬼とは違う。

 

 動きが速い。

 

 力も強い。

 

 そして何より――。

 

(首を斬らなければ、倒せない)

 

 炭治郎は鬼を見据えた。

 

 鬼もまた、炭治郎を睨み返す。

 

「小僧……!」

 

「……」

 

「その目……!」

 

 鬼の顔が歪む。

 

「気に入らねぇ!」

 

 再び突進。

 

「来る!」

 

 炭治郎が叫ぶ。

 

 鬼の爪が振り下ろされる。

 

 炭治郎は横へ避けた。

 

 その瞬間――。

 

「善逸!」

 

「任せて!」

 

 善逸が鬼の背後へ回る。

 

「雷の呼吸――」

 

 鬼が振り返る。

 

「何!?」

 

 善逸の姿が消える。

 

「壱ノ型!」

 

 閃光。

 

 鬼の首へ一直線。

 

「霹靂一閃!」

 

 ザンッ!!

 

 刃が深く食い込む。

 

「グオオオオオオ!!」

 

 だが、あと僅か。

 

 完全には斬れていない。

 

「善逸!」

 

「斬れないぃぃぃ!!」

 

「そのまま押さえて!」

 

「無理ぃぃぃ!!」

 

 炭治郎が走る。

 

 刀を両手で握る。

 

「俺が――!」

 

 鬼が善逸を振り払おうとする。

 

 炭治郎がその腕を斬る。

 

「させない!」

 

 そして――。

 

「水の呼吸――」

 

 呼吸を整える。

 

 足を踏み込む。

 

「肆ノ型――」

 

 水流のような一撃。

 

「打ち潮!!」

 

 ザンッ!!

 

 鬼の首が落ちた。

 

「……!」

 

 鬼の身体が崩れる。

 

「そんな……」

 

 鬼の顔から怒りが消える。

 

「俺が……こんな……ガキに……」

 

 炭治郎は静かに刀を収めた。

 

 鬼の身体が灰へ変わっていく。

 

 やがて――。

 

 何も残らなくなった。

 

     ◇

 

「……終わった」

 

 善逸がその場に座り込む。

 

「もう歩けない……」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫じゃない……」

 

「怪我は?」

 

「たぶんない……」

 

 炭治郎は善逸の身体を確認する。

 

「本当に大丈夫そうだ」

 

「炭治郎……」

 

「なんだ?」

 

「俺たち……生きてる」

 

「ああ」

 

「俺たち……鬼を倒したんだな」

 

「ああ」

 

 善逸は空を見上げる。

 

 木々の隙間から、月が見えていた。

 

「……獪岳に報告したい」

 

「そうだな」

 

「俺、逃げなかったって」

 

「きっと喜んでくれる」

 

「……うん」

 

 善逸は立ち上がる。

 

「よし……」

 

「行こう」

 

「ああ」

 

 二人は再び歩き始める。

 

 だが――。

 

 炭治郎は気づいていた。

 

 この山にいる鬼は、今倒した一匹だけではない。

 

 森の奥から、いくつもの異様な臭いが漂っている。

 

 遠くから聞こえる悲鳴。

 

 木々を揺らす咆哮。

 

 そして――。

 

 誰かが逃げる足音。

 

「……まだ戦いは続く」

 

 炭治郎は刀を握り直した。

 

「善逸」

 

「分かってる」

 

 善逸も震えながら刀を握る。

 

「俺たち、生きて帰るんだろ?」

 

「ああ」

 

「だったら……行こう」

 

 二人は暗い森の奥へ進んでいった。

 

 藤襲山の最終選別。

 

 その夜は、まだ始まったばかり。

 

 そして炭治郎たちはまだ知らない。

 

 この山の奥に――。

 

 これまでとは比べものにならないほどの脅威が、静かに息を潜めていることを。

 

 

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