『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第14話 弟子入り志願

翌朝。

 

まだ空が白み始めたばかりの山中に、雷鳴のような怒声が響いた。

 

「起きろォォォ!!」

 

「ひゃあああああ!?」

 

布団が跳ね上がる。

 

「な、何!? 何事!?」

 

寝ぼけ眼の我妻善逸が飛び起きた。

 

その目の前には、腕を組んだ獪岳。

 

「朝だ」

 

「朝だじゃないよ! まだ眠いよ!」

 

「修行だ」

 

「昨日来たばっかりなのに!?」

 

「だから何だ」

 

「普通はもう少し休ませるだろぉ!?」

 

「鬼はお前が寝てる間に待ってくれるのか?」

 

「…………」

 

「待ってくれねぇだろ」

 

「うぅ……」

 

善逸は布団にしがみつく。

 

「じいちゃぁん……」

 

「自分で起きんか、善逸」

 

奥から桑島慈悟郎の声が飛んだ。

 

「獪岳の言う通りじゃ」

 

「そんなぁ!」

 

獪岳は鼻を鳴らす。

 

「ほら、行くぞ」

 

「嫌だぁ!」

 

「だったら置いていく」

 

「待ってよ兄貴!」

 

「誰が兄貴だ」

 

「兄貴じゃん!」

 

「まだ言うか!」

 

朝から、騒がしい。

 

その様子を見ながら、桑島は小さく息を吐いた。

 

「……騒がしい奴が二人も揃うとはのう」

 

だが。

 

その顔は、どこか嬉しそうだった。

 

 

山道。

 

獪岳と善逸は並んで走っていた。

 

いや。

 

正確には。

 

獪岳は走っている。

 

善逸は――。

 

「もう無理ぃぃぃ!!」

 

「まだ五分も走ってねぇぞ!」

 

「五分も走ったよ!」

 

「五分で何が分かる!」

 

「足が死んだ!」

 

「死んでねぇ!」

 

「心が死んだ!」

 

「それも死んでねぇ!」

 

「兄貴ィ!」

 

「だから兄貴って呼ぶな!」

 

獪岳は善逸の襟首を掴み、そのまま引っ張っていく。

 

「自分の足で走れ!」

 

「走ってるよぉ!」

 

「それは歩いてるって言うんだ!」

 

「無茶言うなぁ!」

 

獪岳は呆れながらも、善逸の速度に合わせていた。

 

――原作の善逸。

 

臆病で、泣き虫で。

 

自分の力を信じられない少年。

 

けれど。

 

獪岳は知っている。

 

こいつは、本当は強い。

 

極限状態になれば、誰よりも速い。

 

そして。

 

雷の呼吸を極める才能もある。

 

だからこそ。

 

「……ここで腐らせるわけにはいかねぇ」

 

獪岳は善逸を見る。

 

「善逸」

 

「な、何?」

 

「お前、雷の呼吸を覚えたいか?」

 

「……え?」

 

善逸の足が止まった。

 

「雷の呼吸?」

 

「ああ」

 

「俺が?」

 

「そうだ」

 

「でも……俺、才能ないよ?」

 

「誰が決めた」

 

「だって、じいちゃんにもよく怒られるし……」

 

「それはお前がサボるからだ」

 

「ぐっ……」

 

「才能の話じゃねぇ」

 

獪岳は真っ直ぐ善逸を見る。

 

「やるか、やらねぇかだ」

 

善逸は黙った。

 

「…………」

 

「どうする?」

 

「……やりたい」

 

小さな声だった。

 

「もう一回」

 

「やりたい!」

 

今度は大きな声。

 

「雷の呼吸を覚えたい!」

 

獪岳は口元を僅かに上げた。

 

「なら走れ」

 

「結局走るの!?」

 

「当たり前だ」

 

「鬼ぃ!」

 

「鬼じゃねぇ!」

 

 

その日の午後。

 

桑島の前に、善逸が正座していた。

 

「じいちゃん」

 

「何じゃ」

 

「俺……弟子になりたい」

 

桑島は目を細めた。

 

「……何?」

 

「俺も雷の呼吸を覚えたい」

 

「ほう」

 

「獪岳みたいになりたい」

 

獪岳が横で固まった。

 

「…………俺みたいに?」

 

「うん!」

 

「…………」

 

「怖いけど、強くて」

 

「おい」

 

「なんだかんだ優しくて」

 

「おい」

 

「俺をちゃんと見てくれるから」

 

「…………」

 

獪岳は顔を逸らした。

 

「……馬鹿」

 

桑島はそんな二人を見ていた。

 

「善逸」

 

「はい」

 

「雷の呼吸は、簡単なものではない」

 

「はい」

 

「お前は泣き虫で、臆病で、逃げ癖もある」

 

「うっ……」

 

「だが」

 

桑島の声が変わる。

 

「それでも強くなりたいと思ったのなら、その意思だけは本物じゃ」

 

「…………!」

 

「よかろう」

 

善逸の顔が輝いた。

 

「では、お前を正式に弟子として預かる」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

「やったぁぁぁ!」

 

善逸が飛び上がる。

 

その横で。

 

「……よかったな」

 

獪岳が呟いた。

 

「兄貴!」

 

「だから兄貴じゃねぇ」

 

「兄貴だよ!」

 

「……勝手にしろ」

 

獪岳はため息を吐いた。

 

だが。

 

その表情は。

 

どこか嬉しそうだった。

 

 

その夜。

 

獪岳は一人、庭で木刀を振っていた。

 

一。

 

二。

 

三。

 

何度も。

 

何度も。

 

「…………」

 

頭の中に原作の未来が浮かぶ。

 

善逸。

 

自分。

 

鬼。

 

そして――。

 

「……変える」

 

木刀を振る。

 

「絶対に」

 

もう一度。

 

「変えてやる」

 

さらに一撃。

 

「俺は、あいつを置いていかねぇ」

 

善逸が鬼殺隊に入る。

 

自分も入る。

 

二人で戦う。

 

二人とも人間のまま。

 

「今度こそ……」

 

木刀を振り下ろす。

 

「兄弟弟子として、最後まで一緒にいる」

 

その時。

 

「……獪岳」

 

桑島が声をかけた。

 

「はい」

 

「お前も正式に弟子になるか?」

 

「…………」

 

獪岳の手が止まる。

 

「俺はもう、教えてもらう気満々ですけど」

 

「口ではな」

 

「……」

 

桑島は真剣な顔になる。

 

「雷の呼吸は厳しいぞ」

 

「分かってます」

 

「命懸けになる」

 

「望むところです」

 

「何年もかかる」

 

「何年でも」

 

桑島は黙った。

 

そして。

 

「ならば」

 

ゆっくり頷く。

 

「お前も今日から、私の弟子じゃ」

 

獪岳は深く頭を下げた。

 

「……お願いします」

 

「うむ」

 

「俺、絶対に強くなります」

 

「ああ」

 

「雷の呼吸を極めます」

 

「ああ」

 

「そして――」

 

獪岳は顔を上げた。

 

「誰も守れないような弱い自分とは、今日で決別します」

 

桑島はその言葉を聞き。

 

「……馬鹿者」

 

と呟いた。

 

「え?」

 

「強くなることばかり考えるな」

 

「…………」

 

「強さは目的ではない」

 

「じゃあ、何ですか?」

 

「守るための手段じゃ」

 

獪岳は黙った。

 

「忘れるな」

 

「……はい」

 

「そして」

 

桑島は善逸の眠っている家を見る。

 

「弟子を守るのも、師の務めじゃ」

 

獪岳は微笑んだ。

 

「じゃあ俺も、善逸を守ります」

 

「お前は弟弟子じゃ」

 

「兄弟子みたいなもんでしょう」

 

「勝手にせい」

 

「はい」

 

獪岳は木刀を握り直した。

 

「明日から、よろしくお願いします」

 

「うむ」

 

こうして。

 

桑島慈悟郎の弟子として。

 

獪岳と善逸の本格的な修行の日々が始まった。

 

一人は。

 

「過去の自分を変えるため」

 

もう一人は。

 

「自分の弱さを変えるため」

 

二人の少年は。

 

同じ雷の道を歩き始める。

 

やがて。

 

その雷は――。

 

鬼殺隊の歴史を大きく変えることになる。

 

【大正コソコソ噂話】

 

正式に兄弟弟子となった翌朝。

 

善逸は朝から大喜び。

 

「兄貴!」

 

「何だ」

 

「俺、今日から正式な弟弟子!」

 

「……そうだな」

 

「じゃあ兄貴って呼んでいい?」

 

「好きにしろ」

 

「やったぁ!」

 

そこへ桑島が現れる。

 

「では、兄弟弟子二人とも、まずは山を十往復じゃ」

 

「「え?」」

 

「返事!」

 

「「はいっ!!」」

 

その日。

 

山中には、

 

「じいちゃんの鬼ィィィ!」

 

「桑島さん、容赦なさすぎるだろォォォ!」

 

という二人の悲鳴が響き渡った。

 

なお、桑島はその声を聞きながら、

 

「元気で結構」

 

と満足そうに頷いていたという。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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