『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第三話 雷鳴、藤襲山に轟く

夜の藤襲山。

 

 先ほど一体の鬼を倒した炭治郎と善逸は、再び森の奥へ向かって歩いていた。

 

 月明かりは木々に遮られ、足元は暗い。

 

 炭治郎は慎重に周囲を見回していた。

 

「……静かだな」

 

「静かじゃないよ」

 

 善逸が即座に否定する。

 

「俺には聞こえてる」

 

「何が?」

 

「遠くで戦ってる音」

 

「……!」

 

 炭治郎も耳を澄ませる。

 

 確かに聞こえた。

 

 遠くから響く、金属音。

 

 誰かが刀を振っている。

 

 そして――。

 

「うわあああああっ!」

 

 悲鳴。

 

 炭治郎の表情が変わった。

 

「誰かいる!」

 

「待って、炭治郎!」

 

 善逸の制止を振り切り、炭治郎は走り出した。

 

「助けに行かないと!」

 

「だからって俺も行くの!?」

 

「善逸!」

 

「分かったよぉぉ!」

 

 二人は森の中を駆け抜ける。

 

     ◇

 

 その先。

 

 一人の少年が鬼に追い詰められていた。

 

「くそっ……!」

 

 少年は必死に刀を振る。

 

 しかし鬼は、その刃を腕で受け止めた。

 

「遅い!」

 

「ぐあっ!」

 

 少年の身体が吹き飛ぶ。

 

「いただきまぁす!」

 

 鬼が飛びかかる。

 

「水の呼吸――!」

 

 炭治郎が割り込んだ。

 

「弐ノ型・水車!」

 

 ザンッ!

 

 鬼の腕が斬り飛ばされた。

 

「なに!?」

 

「大丈夫ですか!」

 

 炭治郎が少年を庇う。

 

「早く立って!」

 

「お、お前……!」

 

「ここは俺たちが引き受けます!」

 

「でも……!」

 

「行ってください!」

 

 少年は一瞬迷った。

 

 しかし、炭治郎の目を見て頷く。

 

「……分かった!」

 

 少年が走り去っていく。

 

 鬼は腕を再生させながら、炭治郎を睨みつけた。

 

「余計なことしやがって……!」

 

「人を喰わせるわけにはいかない」

 

「生意気なガキが!」

 

 鬼が突進する。

 

 炭治郎は刀を構えた。

 

「善逸!」

 

「分かってる!」

 

 二人が左右へ散る。

 

 鬼の爪が空を切った。

 

「水の呼吸――参ノ型!」

 

 炭治郎が懐へ入り込む。

 

「流流舞い!」

 

 斬撃。

 

 鬼が身を捻る。

 

 そこへ――。

 

「雷の呼吸――!」

 

 善逸が踏み込む。

 

「壱ノ型!」

 

 バリッ!

 

「霹靂一閃!」

 

 青白い閃光が森を駆け抜けた。

 

「ぐああああっ!」

 

 鬼の首が斬り落とされる。

 

 灰が夜風に舞う。

 

 善逸は着地した。

 

「……やった」

 

 そして、へたり込む。

 

「やったよ炭治郎……!」

 

「ああ!」

 

「俺、今ちゃんと戦った!」

 

「すごかったぞ、善逸!」

 

「獪岳の兄貴に報告したい……!」

 

「きっと褒めてくれる」

 

「本当かな……」

 

 善逸が涙を拭う。

 

「……褒めてくれたらいいな」

 

 炭治郎は微笑んだ。

 

「きっと褒めてくれるよ」

 

 しかし。

 

 その瞬間だった。

 

 遠くから――。

 

 悲鳴が聞こえた。

 

「――うわあああああっ!!」

 

 二人の表情が変わる。

 

「また……!」

 

 さらに別の方向から。

 

「助けてくれぇぇぇ!!」

 

 そして――。

 

「ギャアアアアアッ!!」

 

 一つではない。

 

 二つ。

 

 三つ。

 

 四つ。

 

 次々と悲鳴が上がる。

 

「……おかしい」

 

 炭治郎が呟いた。

 

「どうした?」

 

「鬼の臭いが……急に増えた」

 

 善逸が青ざめる。

 

「え?」

 

「さっきまでこんなにいなかった」

 

「……」

 

 森の奥。

 

 複数の気配が動いている。

 

 炭治郎は刀を握り直した。

 

「何か起きてる」

 

「じゃあ逃げよう!」

 

「善逸」

 

「だって!」

 

「逃げるのも一つの方法だ」

 

「……!」

 

「でも、逃げた先にも鬼がいるかもしれない」

 

 善逸が固まる。

 

「……それは嫌だ」

 

「なら、一緒に進もう」

 

「……うん」

 

 二人は森の奥へ進んだ。

 

     ◇

 

 藤襲山の別の場所。

 

 一人の少女が、必死に走っていた。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

 背後から鬼の声が迫る。

 

「待てぇぇぇ!」

 

「いや……!」

 

 少女は足を取られ、転倒した。

 

「しまった!」

 

 鬼が迫る。

 

「終わりだぁ!」

 

 その瞬間。

 

「雷の呼吸――」

 

 声が響いた。

 

 次の瞬間。

 

 バリィィィン!!

 

 一条の雷光が森を横切った。

 

「ギャアアアアアッ!!」

 

 鬼の腕が斬り飛ばされる。

 

「え……?」

 

 少女が呆然とする。

 

 しかし、雷光は止まらない。

 

 木々の間を縫うように走り――。

 

 鬼の首を一閃。

 

 ドサッ。

 

 鬼の身体が崩れ、灰へと変わった。

 

「……助かった?」

 

 少女が顔を上げる。

 

 そこには誰もいなかった。

 

 ただ、遠くで雷鳴だけが響いていた。

 

     ◇

 

 同じ頃。

 

 山麓に設けられた監督所。

 

 一人の隊士が、慌てた様子で駆け込んできた。

 

「緊急報告です!」

 

 その場にいた隊士たちが振り向く。

 

「どうした?」

 

「藤襲山の内部で、複数の鬼が一か所に集中して移動しています!」

 

「何だと?」

 

「参加者を狙っているようです!」

 

 その報告を聞いていた男が立ち上がった。

 

 黒地に雷の意匠を施した羽織。

 

 腰には日輪刀。

 

 鳴柱――獪岳。

 

「……場所は?」

 

「北東側です!」

 

「分かった」

 

 獪岳は刀を手に取った。

 

「選別参加者には?」

 

「まだ知らせていません」

 

「それでいい」

 

 獪岳は立ち上がる。

 

「最終選別そのものに手を出すつもりはねぇ」

 

「では……?」

 

「参加者が自力で倒せる程度なら見守る」

 

 獪岳の目が鋭くなる。

 

「だが、想定を超えた数が集まってるなら話は別だ」

 

「……!」

 

「死なせる必要のねぇ人間まで死なせるのは、試験じゃねぇ」

 

 獪岳は歩き出した。

 

「俺が行く」

 

     ◇

 

 その頃。

 

 炭治郎と善逸は、鬼の群れに囲まれていた。

 

「ヒヒヒ……!」

 

「二人とも喰っちまえ!」

 

「柱の弟子らしいぞ!」

 

「なら、喰えば力がつく!」

 

 五体。

 

 六体。

 

 さらに森の奥から気配が増えていく。

 

「……多い」

 

 炭治郎が息を呑む。

 

 善逸は完全に青ざめていた。

 

「炭治郎……」

 

「どうした?」

 

「俺、今までで一番怖い」

 

「……俺もだ」

 

「だよね!?」

 

「でも――」

 

 炭治郎は刀を構える。

 

「ここで負けるわけにはいかない」

 

 善逸も震えながら刀を抜いた。

 

「……うん」

 

 鬼たちが一斉に飛びかかる。

 

「来るぞ!」

 

「水の呼吸――!」

 

 炭治郎が迎え撃つ。

 

「参ノ型・流流舞い!」

 

 斬撃が鬼の腕を切り裂く。

 

 しかし、別の鬼が横から迫る。

 

「炭治郎!」

 

「善逸!」

 

 善逸が踏み込む。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

 バリッ!

 

「霹靂一閃!」

 

 一体を斬り伏せる。

 

 だが――。

 

 さらに別の鬼が襲いかかる。

 

「くっ!」

 

 炭治郎が受け止める。

 

 重い。

 

「ぐ……!」

 

 腕が痺れる。

 

「炭治郎!」

 

「大丈夫!」

 

 しかし、その背後。

 

 もう一体の鬼が迫っていた。

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

「しまった!」

 

 善逸が振り向く。

 

「炭治郎!!」

 

 間に合わない。

 

 鬼の爪が振り下ろされる。

 

 ――その瞬間。

 

 空が光った。

 

「……え?」

 

 善逸が空を見る。

 

 雲の向こう。

 

 青白い光が走る。

 

 次の瞬間――。

 

 轟音。

 

 バァァァァン!!

 

 凄まじい雷が藤襲山を貫いた。

 

「なっ!?」

 

 鬼たちが一斉に動きを止める。

 

 雷は地面へ落ちた。

 

 そして――。

 

 一瞬の閃光。

 

 目の前にいた鬼の首が斬り飛ばされた。

 

「……!」

 

 炭治郎が目を見開く。

 

 雷の向こうから、一人の男が歩いてくる。

 

「……ったく」

 

 獪岳だった。

 

 その周囲には、青白い雷気が纏わりついている。

 

「山中に響き渡るほど騒がしいと思ったら――」

 

 獪岳が善逸を見る。

 

「やっぱりお前か」

 

「獪岳ああああああん!!」

 

 善逸が泣きながら叫ぶ。

 

「兄貴ぃぃぃ!!」

 

「泣くな!」

 

「だってぇぇぇ!!」

 

「まだ戦闘中だぞ!」

 

「はいぃ!」

 

 獪岳は炭治郎を見る。

 

「炭治郎」

 

「はい!」

 

「怪我は?」

 

「少しだけです!」

 

「善逸は?」

 

「俺も大丈夫!」

 

「そうか」

 

 獪岳は鬼たちへ視線を戻した。

 

「なら、ここから先は俺の仕事だ」

 

 炭治郎が目を見開く。

 

「獪岳さん!」

 

「勘違いするな」

 

 獪岳は刀の柄へ手を置く。

 

「お前らを合格させるために来たんじゃねぇ」

 

「……!」

 

「これは緊急事態への対処だ」

 

 獪岳の目が鋭くなる。

 

「お前らは、自分の足で最後まで進め」

 

「はい!」

 

「善逸」

 

「はい!」

 

「お前もだ」

 

「……うん!」

 

 獪岳は満足そうに頷いた。

 

「よし」

 

 刀を抜く。

 

 バチバチバチッ!!

 

 大気が震える。

 

 鬼たちが後退する。

 

「な、なんだ……こいつ……」

 

「柱……!」

 

「逃げろ!」

 

 獪岳が笑った。

 

「逃げられると思ってんのか?」

 

 青白い雷が刀身を包む。

 

「雷の呼吸――」

 

 炭治郎は息を呑んだ。

 

 善逸は目を輝かせる。

 

「壱ノ型――」

 

 獪岳の姿が消えた。

 

「霹靂一閃・八連」

 

 バリィィィィン!!

 

 雷鳴。

 

 閃光。

 

 一瞬。

 

 そして――。

 

 静寂。

 

 獪岳が刀を納める。

 

 その背後で、鬼たちが次々と灰へ変わっていく。

 

「……すごい」

 

 炭治郎が呟いた。

 

 善逸は胸を張る。

 

「当然だよ」

 

「善逸?」

 

「俺の兄貴だからな!」

 

 獪岳が振り返る。

 

「聞こえてんぞ」

 

「ひぃっ!」

 

「終わったら覚えてろ」

 

「ごめんなさぁぁい!」

 

 炭治郎は思わず笑った。

 

 獪岳はそんな二人を見て、小さく息を吐く。

 

「……まったく」

 

 そして、二人の前へ歩み寄る。

 

「炭治郎」

 

「はい」

 

「善逸」

 

「はい」

 

「この山にはまだ鬼がいる」

 

 二人の表情が引き締まる。

 

「だから気を抜くな」

 

「はい!」

 

「そして――」

 

 獪岳は二人の肩を軽く叩いた。

 

「生きて帰れ」

 

「はい!」

 

「絶対に」

 

 善逸が力強く答える。

 

「絶対帰る!」

 

「それでいい」

 

 獪岳は背を向けた。

 

「俺は別の場所へ行く」

 

「獪岳さん!」

 

 炭治郎が呼び止める。

 

「ありがとうございます!」

 

 獪岳は振り返らない。

 

「礼は合格してから言え」

 

「……はい!」

 

「善逸」

 

「なに!?」

 

「死ぬなよ」

 

「……うん!」

 

 獪岳はそのまま闇の中へ消えていった。

 

 やがて――。

 

 遠くで再び雷鳴が轟く。

 

 ゴロゴロゴロ……。

 

 善逸が空を見上げる。

 

「……兄貴、まだ戦ってる」

 

 炭治郎も頷く。

 

「俺たちも負けていられないな」

 

「うん」

 

 二人は刀を握り直す。

 

 そして――。

 

 再び森の奥へ歩き始めた。

 

 藤襲山の夜は、まだ終わらない。

 

 幾つもの命を懸けた戦いが続く中。

 

 鳴柱の雷鳴が山中を駆け巡っていた。

 

 それは、選別に挑む若き剣士たちへ向けられた――。

 

 生きろという、静かな激励でもあった。

 

 

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