『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第七話 鳴柱・獪岳、参戦

手鬼を討ち果たした藤襲山には、ようやく静寂が戻り始めていた。

 

夜の帳は少しずつ薄れ、木々の隙間からは淡い朝もやが流れ込んでいる。

 

炭治郎は肩で息をしながら、地面に突き立てた日輪刀へ手を添えていた。

 

「……終わった……」

 

その隣では、善逸が仰向けに倒れ込んでいる。

 

「もう……無理……足が動かない……。俺、今日ものすごく頑張った……獪岳に褒めてもらえる……」

 

「善逸、まだ最終選別は終わってないぞ」

 

「えええええっ!?」

 

善逸が飛び起きた。

 

「嘘だろ炭治郎!? 手鬼を倒したんだから終わりじゃないの!? もう十分だよ! 俺の人生、ここで一区切りにしようよ!」

 

「そんなこと言ってる場合じゃ――」

 

その時だった。

 

二人の会話を遮るように。

 

「……グルルル……」

 

森の奥から、不気味な唸り声が響いた。

 

炭治郎の表情が変わる。

 

「……善逸」

 

「な、何?」

 

「鼻を使わなくても分かる」

 

炭治郎は刀を握り直した。

 

「来る」

 

次の瞬間。

 

「ヒヒヒヒヒッ!」

 

「血の匂いだぁぁ!」

 

「美味そうな人間がいるぞ!」

 

木々の向こうから、次々と鬼が姿を現した。

 

一匹。

 

二匹。

 

十匹。

 

二十匹。

 

さらにその奥にも、無数の気配が蠢いている。

 

手鬼との戦いで大量に流れた血。

 

そして手鬼が消滅したことで、藤襲山の鬼たちが一斉に獲物を求めて動き始めたのだ。

 

「嘘だろ……」

 

炭治郎の額に冷や汗が浮かぶ。

 

善逸は真っ青になった。

 

「多い多い多い多い!!」

 

「善逸!」

 

「何十匹いるんだよぉぉぉ!! 俺もう疲れたんだよぉぉ!!」

 

「背中を合わせるんだ!」

 

「嫌だぁぁぁ!」

 

「善逸!」

 

「分かったよぉぉぉ!」

 

二人は互いの背中を合わせた。

 

鬼たちが一斉に飛び掛かる。

 

「喰わせろぉぉ!!」

 

「死ねぇぇ!!」

 

炭治郎は刀を振り抜いた。

 

「水の呼吸――弐ノ型・水車!」

 

身体を回転させながら迫る鬼を斬り飛ばす。

 

しかし、一匹を斬れば二匹が来る。

 

二匹を倒せば、さらに五匹が襲ってくる。

 

「くっ……!」

 

炭治郎の呼吸が乱れ始める。

 

手鬼との戦闘ですでに限界近くまで消耗していた身体には、この数はあまりにも重かった。

 

善逸も必死に雷の呼吸を使う。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

バリィッ!!

 

一瞬で三匹の首を斬り飛ばす。

 

だが、着地した瞬間に膝が崩れた。

 

「うわぁぁっ!」

 

「善逸!」

 

「だ、大丈夫! まだ動ける……!」

 

「無理するな!」

 

「無理しないと死ぬんだよぉぉ!」

 

善逸が涙目で叫ぶ。

 

その時。

 

「グオオオオオッ!!」

 

巨大な鬼が森の奥から現れた。

 

その両手には、巨大な岩石。

 

「まとめて潰れろぉぉ!!」

 

「炭治郎!!」

 

巨大な岩が投げ飛ばされた。

 

逃げ場がない。

 

炭治郎は刀を構える。

 

(避けられない……!)

 

善逸も歯を食いしばった。

 

(兄貴……!)

 

そして――。

 

「ったく……」

 

声が響いた。

 

「朝っぱらから、山中に響き渡る情けねえ悲鳴を上げてんじゃねえよ」

 

次の瞬間。

 

ドォォォォン!!

 

空から青白い雷が落ちた。

 

巨大な岩石が粉々に砕け散る。

 

同時に周囲の地面へ無数の雷撃が走り、襲い掛かっていた鬼たちが一斉に吹き飛ばされた。

 

「ギャアアアアアッ!!」

 

「な、なんだこの雷は!?」

 

「熱い! 熱いィィ!!」

 

爆風が森を駆け抜ける。

 

炭治郎は腕で顔を覆いながら、その向こうを見つめた。

 

黒煙。

 

青白い閃光。

 

そして――。

 

ゆっくりと歩いてくる一人の男。

 

黒地に雷の意匠を纏った隊服。

 

首元には薄青い装飾。

 

手にした日輪刀からは、絶えず青白い電光が漏れている。

 

「……獪岳さん!」

 

「兄貴ぃぃぃ!!」

 

鳴柱・獪岳。

 

二人にとって、誰よりも頼もしい先輩だった。

 

獪岳は二人を一瞥する。

 

「お前ら……」

 

炭治郎と善逸の傷。

 

荒い呼吸。

 

泥まみれの衣服。

 

そして周囲に転がる鬼の死骸。

 

それらを確認すると、獪岳は小さく鼻を鳴らした。

 

「……随分と派手にやったじゃねえか」

 

「はい! 手鬼を――」

 

「話は後だ」

 

獪岳が刀を抜く。

 

「まだ終わってねえ」

 

炭治郎が周囲を見る。

 

確かに、残った鬼たちが再び立ち上がっていた。

 

「どうして獪岳さんがここに?」

 

「最終選別の鬼どもが予定以上に活性化しやがった」

 

獪岳は面倒そうに答えた。

 

「本部から緊急指令が来た。俺と冨岡が駆除に入ってる」

 

「冨岡さんも!?」

 

「ああ。あいつは別方向だ」

 

獪岳は刀を肩に担いだ。

 

「勘違いするな。お前らを助けに来たわけじゃねえ。山の異常を処理しに来ただけだ」

 

そう言いながらも、獪岳は善逸の足元を見る。

 

「……善逸」

 

「は、はい!」

 

「立てるか」

 

「立てます!」

 

「嘘つけ。膝が笑ってんぞ」

 

「……」

 

「馬鹿が」

 

獪岳はため息をついた。

 

だが、その声には怒りよりも安堵が混じっていた。

 

「よく生き残ったな」

 

「……!」

 

善逸の目が潤む。

 

「兄貴……」

 

「泣くな。まだ終わってねえ」

 

「泣いてないよぉ……!」

 

「だったら鼻水拭け」

 

「はいぃ……!」

 

炭治郎はその光景を見ながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 

獪岳は厳しい。

 

口も悪い。

 

だが――。

 

自分たちが生きていることを、誰よりも喜んでいる。

 

「獪岳さん」

 

「なんだ」

 

「俺たちも戦います」

 

炭治郎が刀を構えた。

 

「まだ戦える!」

 

獪岳は炭治郎をじっと見つめた。

 

そして、ほんの少しだけ口元を上げる。

 

「……上等だ」

 

獪岳は前を向いた。

 

その瞬間、鬼たちが一斉に襲い掛かる。

 

「人間が三人!」

 

「柱から喰ってやる!」

 

「殺せぇぇぇ!!」

 

獪岳の瞳が鋭く細められた。

 

「……俺の弟弟子と、俺が認めた後輩を」

 

刀身に雷光が集束していく。

 

「好き勝手に喰おうとしてんじゃねえぞ」

 

バチバチバチッ!!

 

空気そのものが震えた。

 

炭治郎は思わず息を呑む。

 

善逸は目を輝かせる。

 

「兄貴……!」

 

獪岳が一歩踏み出した。

 

「雷の呼吸――」

 

青白い雷が、山中を駆け巡る。

 

「漆ノ型――」

 

周囲の鬼たちが、本能的な恐怖を覚えて後ずさる。

 

「帝釈天!!」

 

ドォォォォォン!!

 

九頭の青白い雷龍が一斉に出現した。

 

一本ではない。

 

二本でもない。

 

四方八方。

 

あらゆる方向から雷龍が襲い掛かる。

 

鬼たちが逃げようとする。

 

しかし、逃げ道など存在しなかった。

 

「な――」

 

「馬鹿な……!」

 

「こんな……!」

 

雷龍が大地を駆ける。

 

木々の間を縫う。

 

鬼たちを包囲する。

 

そして――。

 

一斉に牙を剥いた。

 

「「「ギャアアアアアアッ!!」」」

 

轟音。

 

閃光。

 

爆風。

 

ほんの数秒後。

 

そこに立っていたのは、獪岳だけだった。

 

鬼たちは一匹残らず灰となって消えている。

 

善逸は呆然とした。

 

「……やっぱり」

 

拳を握り締める。

 

「やっぱり兄貴は……すげえ……!」

 

炭治郎もまた、獪岳の背中を見つめた。

 

強い。

 

圧倒的に強い。

 

だが、ただ強いだけではない。

 

自分たちを守るために、その強さを振るっている。

 

獪岳は刀を振って灰を払い、鞘へ収めた。

 

「さて」

 

振り返る。

 

「お前ら」

 

「はい!」

 

「まだ選別は終わってねえぞ」

 

「……はい!」

 

「だったら最後まで生き残れ」

 

獪岳は二人の頭を、それぞれ乱暴に叩いた。

 

「俺の弟弟子と、俺が認めた剣士が途中でくたばったなんて話になったら、俺の面子が丸潰れだ」

 

善逸が涙を浮かべながら笑う。

 

「絶対、生き残る……!」

 

炭治郎も力強く頷いた。

 

「俺もです!」

 

その時、東の空が白み始めた。

 

紫藤の花が朝日に照らされる。

 

獪岳は二人の前を歩き始めた。

 

「来い」

 

「はい!」

 

「置いていくぞ」

 

「待ってよ兄貴ぃぃ!」

 

炭治郎と善逸が、その背中を追いかける。

 

やがて藤襲山には、再び静かな朝が訪れようとしていた。

 

しかし――。

 

最終選別は、まだ終わっていない。

 

若き二人の剣士は、鳴柱・獪岳という大きな背中を道標にして、残された試練へと挑んでいく。

 

その胸には一つの決意があった。

 

――絶対に、生きて帰る。

 

それこそが、獪岳から受け取った「泥をすすってでも生き抜く」という教えへの、何よりの答えだった。

 

 

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