『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第八話 霹靂・帝釈天

ドドドドンッ――!!

 

轟音とともに藤襲山の夜空を青白い雷光が貫いた。

 

大地が震え、木々が大きく揺れる。地面に落ちた雷は周囲の鬼たちをまとめて吹き飛ばし、濃い紫煙が辺り一面を覆い尽くした。

 

「な、なんだ……今の雷は……!?」

 

「まさか……雷を纏ってやがるのか!?」

 

鬼たちが恐怖に顔を歪める。

 

その煙の向こうから、ゆっくりと一人の男が歩いてくる。

 

黒地に雷の意匠を施した隊服。

 

腰には日輪刀。

 

その周囲には、未だ消えきらない青白い火花が走っている。

 

鳴柱――獪岳。

 

「……ったく。最終選別だってのに、山中の鬼が一斉に騒ぎ出しやがって」

 

獪岳は面倒そうに首を鳴らした。

 

そして、その鋭い視線が炭治郎と善逸へ向けられる。

 

「おい、バカども。生きてるか?」

 

「獪岳さん……!」

 

炭治郎の顔がぱっと明るくなる。

 

一方の善逸は、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった顔を上げた。

 

「獪岳あぁぁぁん!! 遅いよぉぉぉ!! 俺たち死ぬところだったんだよぉぉぉ!!」

 

「……まだ死んでねえだろうが」

 

「そうだけどぉぉぉ!!」

 

「なら黙って立て」

 

獪岳が善逸の頭を小突く。

 

「痛いぃぃ!」

 

「騒ぐ元気があるなら問題ねえな」

 

「ひどい!」

 

炭治郎は思わず苦笑した。

 

だが、次の瞬間。

 

獪岳の表情から笑みが消える。

 

視線の先には、まだ無数の鬼が残っていた。

 

「……さて」

 

獪岳が一歩前へ出る。

 

鬼たちは本能的に後ずさった。

 

「柱だ……」

 

「逃げろ! あいつは俺たちじゃ勝てねえ!」

 

「馬鹿野郎! 逃げ道なんて――」

 

「ねえよ」

 

獪岳の声が響いた。

 

「俺の弟弟子と、俺が認めた後輩を追い詰めたんだ」

 

刀の柄に手を添える。

 

「覚悟はできてんだろうな?」

 

「ひっ……!」

 

鬼たちが一斉に散開する。

 

木々の間へ。

 

岩陰へ。

 

地面へ潜ろうとする者までいる。

 

だが――獪岳は動かない。

 

ただ静かに目を閉じた。

 

「善逸、炭治郎」

 

「はい!」

 

「……な、何?」

 

「よく見ておけ」

 

獪岳が刀を抜く。

 

カァン――。

 

静かな鍔鳴り。

 

その瞬間、空気が変わった。

 

周囲の温度が一気に下がったような錯覚。

 

いや。

 

実際には、獪岳の周囲に膨大な雷気が集中しているのだ。

 

地面の小石が浮き上がり、木々が震える。

 

バチバチバチッ!!

 

青白い雷が獪岳の身体を駆け巡った。

 

炭治郎は息を呑む。

 

(これが……鳴柱……獪岳さんの本気……!)

 

善逸は震えていた。

 

しかし、それは恐怖だけではなかった。

 

自分が幼い頃から追い続けてきた背中。

 

厳しくて、怖くて、口が悪くて。

 

それでも誰よりも自分を見捨てなかった兄弟子。

 

善逸は涙を拭った。

 

「兄貴……」

 

獪岳は背中を向けたまま、低く告げる。

 

「俺が何度も言ってきたことを覚えてるか?」

 

善逸は頷いた。

 

「……泥をすすってでも、生きろ」

 

「そうだ」

 

獪岳の口元が僅かに上がる。

 

「どんなに怖くても、足を止めるな。這ってでも前へ進め」

 

刀身に雷光が集束していく。

 

「それができねえ奴は、そこで終わりだ」

 

そして――。

 

獪岳の瞳が開いた。

 

「だがな」

 

雷鳴が轟く。

 

「生き残ろうと足掻いた奴には――俺が道を開けてやる」

 

「雷の呼吸――」

 

空気が震える。

 

大地が軋む。

 

青白い雷光が獪岳を中心に渦を巻き始めた。

 

「漆ノ型――」

 

無数の鬼が恐怖に叫ぶ。

 

「帝釈天!!」

 

ドォォォォンッ!!

 

藤襲山全体を揺るがす轟雷。

 

獪岳の刀から放たれた瞬間、九頭の巨大な雷龍が一斉に夜空へ飛び出した。

 

「な……なんだ、あれは……!?」

 

「雷が……龍になってやがる……!」

 

九頭の雷龍はそれぞれ別の方向へ散った。

 

一頭は木々を薙ぎ倒しながら鬼を追う。

 

一頭は岩陰へ逃げ込んだ鬼を包囲する。

 

一頭は地面を這う鬼の退路を塞ぐ。

 

そして残る雷龍たちが、逃げ場を完全に奪っていく。

 

「う、うわああああ!!」

 

鬼たちが一斉に逃げ惑う。

 

しかし、どこへ逃げても雷が待っている。

 

「逃げられると思ってんじゃねえよ」

 

獪岳が刀を横薙ぎに振るった。

 

瞬間。

 

九頭の雷龍が一斉に牙を剥いた。

 

轟音。

 

閃光。

 

そして――静寂。

 

鬼たちは悲鳴を上げる暇すらなく、次々と灰へ変わっていった。

 

やがて最後の雷光が消える。

 

焦げた土。

 

倒れた木々。

 

舞い上がる灰。

 

その中心に、獪岳は一人立っていた。

 

刀を鞘へ納める。

 

カチン。

 

「……終わりだ」

 

炭治郎は、しばらく言葉を失っていた。

 

「すごい……」

 

目の前で見たものが信じられない。

 

これほどの数の鬼を、たった一人で。

 

しかも、一瞬で。

 

「これが……柱……」

 

善逸は誇らしげに胸を張った。

 

「だから言っただろ……」

 

涙を浮かべながら笑う。

 

「俺の兄貴は、世界一強くて……世界一かっこいいんだよ!」

 

「……うるせえ」

 

獪岳は振り返る。

 

そして二人の前まで歩いてくると――。

 

バシンッ!

 

「痛っ!」

 

「ぐぇっ!」

 

二人の頭をまとめて小突いた。

 

「いってえな!」

 

「何すんですか獪岳さん!」

 

「調子に乗るな。まだ選別は終わってねえ」

 

獪岳は二人の傷を確認する。

 

善逸の足。

 

炭治郎の腕。

 

呼吸の乱れ。

 

どちらも限界に近い。

 

それでも――生きている。

 

それを確認すると、獪岳は小さく息を吐いた。

 

「……よくやったな」

 

「え?」

 

「手鬼を倒したんだろ」

 

「はい!」

 

炭治郎が力強く頷く。

 

「善逸と一緒に、倒しました!」

 

「そうか」

 

獪岳は二人の頭へ手を置く。

 

今度は叩かなかった。

 

「なら、胸を張れ」

 

善逸の目から、また涙が溢れた。

 

「……兄貴……」

 

「泣くな。鬱陶しい」

 

「だってぇぇ……!」

 

「泣くなら帰ってからにしろ」

 

その時だった。

 

東の空が、ほんのりと白み始める。

 

夜明けが近い。

 

紫藤の花々が、朝の風に揺れていた。

 

獪岳は空を見上げる。

 

「もうすぐ朝だ」

 

そして二人へ視線を戻す。

 

「最後まで生き残れ。最終選別ってのは、鬼を何匹殺したかを競う場所じゃねえ」

 

「……?」

 

「生きて帰るために、最後まで足掻く場所だ」

 

炭治郎はその言葉を胸に刻んだ。

 

善逸も涙を拭い、力強く頷く。

 

「うん……俺、絶対に帰る」

 

「俺もです!」

 

「よし」

 

獪岳は背を向ける。

 

「行くぞ、バカども」

 

「はい!」

 

「待って兄貴ぃぃ! 歩くの速いよぉぉ!」

 

三人の足音が、朝を迎えつつある藤襲山へ響いていく。

 

やがて空が黄金色に染まる。

 

長く暗い夜を切り裂いたのは、霹靂の雷光。

 

そしてその雷光の後には――。

 

若き剣士たちを包み込む、穏やかな朝の光があった。

 

こうして藤襲山の最終選別は、若き二人の剣士にとって忘れられない一夜となった。

 

そして炭治郎と善逸は、この日、改めて心に刻んだ。

 

――生きる。

 

どれほど惨めでも。

 

どれほど怖くても。

 

泥をすすってでも。

 

大切な人の待つ場所へ、生きて帰る。

 

それこそが、鳴柱・獪岳から受け継いだ――「霹靂」の教えだった。

 

 

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