『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第15話 地獄の雷の呼吸修行

――翌朝。

 

「走れぇぇぇぇぇ!!」

 

山中に桑島慈悟郎の怒声が響き渡った。

 

「「はいっ!!」」

 

獪岳と善逸は、山道を全力で駆けていた。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

善逸は涙目。

 

一方の獪岳は、額から汗を流しながらも歯を食いしばって走っている。

 

「獪岳兄貴ぃ……!」

 

「何だ!」

 

「これ……本当に修行……!?」

 

「当たり前だ!」

 

「昨日も走ったよ!?」

 

「今日は昨日より速く走れ!」

 

「無理ぃぃぃ!」

 

「無理じゃねぇ!」

 

獪岳は振り返る。

 

「雷の呼吸を使うなら、まず足腰を鍛えろ!」

 

「雷の呼吸って刀の技じゃないの!?」

 

「刀だけで戦えると思うな!」

 

「ひぃっ!」

 

その後ろから。

 

「口を動かす暇があるなら足を動かせぇぇぇ!!」

 

桑島の怒声。

 

「「はいぃぃぃ!!」」

 

二人はさらに速度を上げた。

 

 

午前。

 

走り込み。

 

昼。

 

素振り。

 

午後。

 

型の反復。

 

夕方。

 

階段昇降。

 

夜。

 

体幹鍛錬。

 

そして――。

 

「まだ終わりではないぞ」

 

桑島が言った。

 

善逸の顔が絶望に染まる。

 

「……え?」

 

「呼吸の鍛錬じゃ」

 

「まだあるの!?」

 

「当たり前じゃ!」

 

獪岳も額の汗を拭う。

 

「……これは、想像以上だな」

 

前世の記憶があっても。

 

原作知識があっても。

 

実際に体験する修行は別物だった。

 

雷の呼吸。

 

それは単なる剣術ではない。

 

全身の筋肉。

 

瞬発力。

 

呼吸。

 

足運び。

 

集中力。

 

すべてを極限まで高める必要がある。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

「雷の呼吸とは何じゃ」

 

「……一瞬にすべてを懸ける呼吸です」

 

「違う」

 

「……?」

 

「一瞬にすべてを懸けるだけなら、ただの無謀じゃ」

 

桑島は木刀を構える。

 

「雷の呼吸とは――一瞬を作り出すために、千の鍛錬を積むものじゃ」

 

「…………」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

「一撃のために、千回振る」

 

「そうじゃ」

 

「一歩のために、千回走る」

 

「そうじゃ」

 

「……なるほど」

 

獪岳は木刀を握り直した。

 

「なら、やります」

 

「うむ」

 

「千回でも一万回でも」

 

桑島は満足そうに頷いた。

 

「それでこそ獪岳じゃ」

 

 

夜。

 

善逸は完全に床に倒れていた。

 

「もう……動けない……」

 

「立て」

 

「無理……」

 

「立て」

 

「死ぬ……」

 

「死んでない」

 

「兄貴ぃ……」

 

「何だ」

 

「水……」

 

「自分で飲め」

 

「冷たい……」

 

「なら飲め」

 

「優しくして……」

 

「修行中だ」

 

「鬼ィ……」

 

獪岳は呆れながら水を渡す。

 

「ほら」

 

「……ありがとう」

 

善逸が水を飲む。

 

「兄貴は疲れてないの?」

 

「疲れてる」

 

「嘘だ」

 

「本当だ」

 

「顔が平気そう」

 

「平気な顔をしてるだけだ」

 

獪岳は自分の手を見る。

 

震えている。

 

指先が僅かに痙攣していた。

 

善逸がそれに気づく。

 

「……兄貴も大変なんだ」

 

「当たり前だろ」

 

「じゃあ、俺も頑張る」

 

「…………」

 

獪岳は少し驚いた。

 

「お前……」

 

「何?」

 

「いや」

 

獪岳は視線を逸らす。

 

「……その調子で続けろ」

 

「うん!」

 

善逸は笑った。

 

 

翌日。

 

桑島は二人を道場へ呼んだ。

 

「今日は型を覚える」

 

獪岳は背筋を伸ばす。

 

「はい」

 

善逸も緊張した顔で構える。

 

「雷の呼吸・壱ノ型」

 

桑島が一歩踏み出す。

 

次の瞬間。

 

――バンッ!!

 

轟音。

 

一瞬で距離が消えた。

 

獪岳の目が見開かれる。

 

「…………!」

 

速い。

 

分かっていた。

 

原作知識として知っていた。

 

だが。

 

実際に見ると全く違う。

 

「これが雷の呼吸じゃ」

 

桑島が戻ってくる。

 

「やってみろ」

 

「はい!」

 

獪岳は構える。

 

足に力を込める。

 

呼吸を整える。

 

「雷の呼吸――」

 

踏み込む。

 

「壱ノ型!」

 

――ドンッ!!

 

しかし。

 

「遅い」

 

桑島の木刀が獪岳の肩を打った。

 

「ぐっ!」

 

「力みすぎじゃ」

 

「……はい」

 

「速さを求めるあまり、身体全体が硬くなっておる」

 

「…………」

 

獪岳は歯を食いしばる。

 

「もう一度」

 

「よし」

 

再び構える。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

――ドンッ!

 

「遅い!」

 

「もう一度!」

 

「遅い!」

 

「もう一度!」

 

「遅い!」

 

何度も。

 

何度も。

 

何度も。

 

獪岳の身体が地面に転がる。

 

それでも。

 

「立て」

 

「……はい」

 

「もう一度」

 

「はい」

 

「もう一度」

 

「はい!」

 

「もう一度!」

 

「はいッ!!」

 

夕暮れ。

 

獪岳は泥だらけになっていた。

 

腕は震え。

 

脚は感覚がない。

 

それでも。

 

木刀を握っていた。

 

「……まだ」

 

桑島が眉を上げる。

 

「まだやるのか?」

 

「やります」

 

「何故じゃ」

 

獪岳は答える。

 

「……守りたいからです」

 

「誰を?」

 

「全員です」

 

「…………」

 

「寺の子供たちも」

 

「うむ」

 

「悲鳴嶼さんも」

 

「うむ」

 

「善逸も」

 

「…………」

 

そして。

 

獪岳は静かに言った。

 

「これから出会う人たちも」

 

桑島は黙っていた。

 

「俺は……原作通りになんかならない」

 

小さく呟く。

 

「誰も死なせない」

 

桑島には、その言葉の意味までは分からない。

 

だが。

 

そこにある覚悟だけは伝わった。

 

「……ならば」

 

桑島は木刀を構えた。

 

「もう一度じゃ」

 

「はい!」

 

獪岳も構える。

 

「雷の呼吸――!」

 

踏み込む。

 

――ドンッ!!

 

今までとは違う。

 

僅かに速い。

 

桑島の目が細くなる。

 

「……そうじゃ」

 

獪岳は止まらない。

 

「もう一度!」

 

――ドンッ!

 

「もう一度!」

 

――ドンッ!

 

「もう一度!」

 

――ドンッ!

 

その横では。

 

善逸も必死に構えていた。

 

「俺も……!」

 

震える足。

 

怖い。

 

苦しい。

 

逃げたい。

 

それでも。

 

「俺だって……兄貴に置いていかれたくない!」

 

善逸が踏み込む。

 

――ドンッ!

 

小さな身体が、一瞬だけ雷のように走った。

 

「…………!」

 

獪岳が振り返る。

 

「善逸……」

 

善逸は転んでいた。

 

「痛ぇぇぇ!」

 

「…………」

 

獪岳は呆れた。

 

「お前なぁ……」

 

だが。

 

その顔には笑みが浮かんでいた。

 

「……今のは悪くなかったぞ」

 

「ほんと!?」

 

「ああ」

 

「やった!」

 

桑島は二人を見る。

 

雷の呼吸。

 

一人は未来を変えるため。

 

一人は自分自身を変えるため。

 

二人の少年が。

 

同じ道を歩いている。

 

「……さて」

 

桑島は腕を組む。

 

「明日は、今日の倍じゃ」

 

「「え?」」

 

「走り込みも、素振りも、型も倍じゃ」

 

「「ええええええ!?」」

 

山中に二人の絶叫が響いた。

 

桑島は満足そうに笑った。

 

「まだまだこれからじゃ!」

 

 

その夜。

 

獪岳は布団に入った。

 

身体は限界だった。

 

しかし。

 

眠りにつく直前。

 

ふと思う。

 

――少しだけ。

 

ほんの少しだけ。

 

原作の自分とは違う。

 

ここにいる自分は。

 

善逸と笑っている。

 

桑島に教えを受けている。

 

寺には帰る場所がある。

 

悲鳴嶼さんが待っている。

 

「……悪くねぇな」

 

獪岳は目を閉じた。

 

そして。

 

明日もまた。

 

地獄の修行が始まる。

 

【大正コソコソ噂話】

 

桑島慈悟郎の修行初日。

 

善逸は三回泣いた。

 

二日目。

 

五回泣いた。

 

三日目。

 

なんと一回しか泣かなかった。

 

獪岳が、

 

「お前、少し根性ついたな」

 

と褒めたところ。

 

善逸は嬉しさのあまり泣いた。

 

結果。

 

「結局泣くのかよ!」

 

と獪岳に怒鳴られたという。

 

ちなみに桑島は。

 

「泣くのも修行のうちじゃ」

 

と、妙に納得していたそうだ。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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