『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第四話 嘴平伊之助、獣の呼吸

那田蜘蛛山の深部。

 

木々の隙間を縫うように張り巡らされた蜘蛛の糸が、月明かりを受けて不気味に光っていた。

 

一本、また一本。

 

炭治郎と伊之助が操られた隊士たちを救出するたび、新たな糸がどこからともなく伸びてくる。

 

「くそっ……!」

 

炭治郎は刀を振るい、襲いかかってきた隊士の身体を傷つけないよう、その背後に伸びる糸だけを斬り落とした。

 

「大丈夫です! もう少しで助けます!」

 

「頼む……!」

 

隊士が地面に倒れ込む。

 

しかし、安堵する暇はない。

 

「次だぞ、炭治郎!」

 

「分かってる!」

 

伊之助が二刀を振り回し、木々の間を縦横無尽に駆け抜けていく。

 

「猪突猛進!! 猪突猛進だああああ!!」

 

ギィン!

 

ギィン!

 

二本の刀が蜘蛛の糸を次々と断ち切る。

 

だが、伊之助の表情から余裕が消えていく。

 

「おい炭治郎!」

 

「何だ!」

 

「糸の大元はどこだ!?」

 

「それが……!」

 

炭治郎は鼻を利かせる。

 

血。

 

汗。

 

土。

 

鬼の臭い。

 

そして無数の蜘蛛の糸。

 

「……駄目だ!」

 

炭治郎が悔しそうに顔を歪めた。

 

「隊士たちの血と鬼の臭いが混ざりすぎている! この山全体に糸が張り巡らされていて、正確な位置を特定できない!」

 

「クソッ!」

 

伊之助が地面を蹴った。

 

「だったら片っ端から探すぞ!」

 

「待ってくれ、伊之助!」

 

「待ってられるか!」

 

伊之助は二刀を構え、さらに奥へ進もうとする。

 

そのときだった。

 

「――止まれ」

 

炭治郎の声ではない。

 

低く、よく通る声。

 

二人が振り返る。

 

木の枝の上に、鳴柱・獪岳が立っていた。

 

「獪岳さん!」

 

「兄貴!」

 

獪岳は周囲を見渡した。

 

「焦るな。敵の思う壺だ」

 

「でも、このままじゃ隊士たちが……!」

 

「だからこそ頭を使え」

 

獪岳の鋭い視線が伊之助へ向く。

 

「豚頭。お前はどうだ?」

 

「あぁ!?」

 

「炭治郎の鼻が使えねえなら、お前の出番だろ」

 

伊之助の動きが止まった。

 

「俺様の……?」

 

「そうだ。お前には鼻とは別の武器がある」

 

獪岳は自分の胸元を軽く叩く。

 

「肌だ」

 

「肌……?」

 

「お前は獣だろうが。目で見るだけでも、鼻で嗅ぐだけでもねえ。空気の揺れ、地面の震動、殺気――身体全部で周囲を感じ取れ」

 

伊之助はしばらく黙り込んだ。

 

そして――。

 

「……ハッ!」

 

突然、口元を吊り上げた。

 

「そういうことか!」

 

二本の刀を地面へ突き立てる。

 

「だったら俺様の得意分野だ!」

 

伊之助は目を閉じた。

 

両腕を大きく広げる。

 

呼吸を整える。

 

森の音が消えていく。

 

木々のざわめき。

 

遠くで鳴く鳥。

 

炭治郎の呼吸。

 

そして――蜘蛛の糸が空気を震わせる微かな音。

 

ピン。

 

ピン……。

 

無数の糸が、山全体で繋がっている。

 

伊之助の皮膚が、その振動を捉える。

 

「……そこだ」

 

「伊之助?」

 

「右じゃねえ……左でもねえ……」

 

伊之助がゆっくりと顔を上げる。

 

「もっと奥だ!」

 

一気に目を見開いた。

 

「山の奥! 大きな木の上だ!」

 

炭治郎が息を呑む。

 

「分かったのか!?」

 

「当たり前だ!」

 

伊之助が胸を張る。

 

「俺様の肌は全部感じ取ってんだよ! 糸がどこから伸びてるのか、どこへ繋がってるのか……全部な!」

 

その瞬間、伊之助の身体から凄まじい殺気が放たれた。

 

「獣の呼吸――漆ノ型!」

 

二本の刀を握り直す。

 

「空間識知!!」

 

ドンッ!

 

伊之助を中心として、周囲の空間が一瞬で彼の感覚へと変わった。

 

木々。

 

岩。

 

糸。

 

隊士。

 

鬼。

 

そのすべてが、まるで目を閉じたまま見えているかのように脳裏へ浮かび上がる。

 

そして、その中心。

 

「見つけたぞおおおお!!」

 

伊之助が叫んだ。

 

「この山の糸を操ってる奴は、あっちだ!」

 

指差した先には、巨大な樹木がそびえ立っていた。

 

炭治郎の鼻にも、ようやく強烈な鬼の臭いが届く。

 

「……いる!」

 

炭治郎が刀を握り締める。

 

「間違いない! あそこに鬼がいる!」

 

獪岳は口元を僅かに吊り上げた。

 

「上出来だ、伊之助」

 

「へへっ! もっと褒めろ!」

 

「調子に乗るな、豚頭」

 

「誰が豚頭だ雷男ぉぉぉ!!」

 

伊之助が怒鳴り散らす。

 

獪岳は小さく笑った。

 

「だが……今のは見事だった」

 

「……!」

 

伊之助が一瞬、言葉を失う。

 

柱から真正面から認められた。

 

それが嬉しくないはずがない。

 

「へへへ……そうだろう! 俺様は強いからな!」

 

「その強さを今から証明してこい」

 

獪岳が刀を抜く。

 

バチッ――!

 

青白い電光が刀身を走った。

 

「道は俺が作る」

 

炭治郎と伊之助が獪岳を見る。

 

「お前らは、その道を走れ」

 

「はい!」

 

「任せろ!」

 

「それから――」

 

獪岳の眼光が、森の奥を射抜く。

 

「操られてる隊士を一人も死なせるな」

 

「……はい!」

 

炭治郎が力強く頷く。

 

伊之助も二刀を構えた。

 

「当然だ! 俺様が全部ぶっ倒して助けてやる!」

 

「よし」

 

獪岳が地面を蹴った。

 

バリィィィッ!!

 

青白い雷光が森を駆け抜ける。

 

蜘蛛の糸が次々と切断され、行く手を塞いでいた木々が吹き飛んでいく。

 

「行け!」

 

獪岳の怒号が響く。

 

「炭治郎! 伊之助!」

 

「はい!」

 

「おおおおおっ!!」

 

二人は雷光の後を追って駆け出した。

 

那田蜘蛛山のさらに深部。

 

そこには、無数の糸を操る「母蜘蛛」が待ち構えている。

 

だが、彼女はまだ知らない。

 

自らの張り巡らせた蜘蛛の巣が、逆に自分の居場所を暴く道標となってしまったことを。

 

そして――。

 

蜘蛛の巣を断ち切る雷鳴と、獣の嗅覚ならぬ感覚、そして水の剣士の刃が、少しずつその巣の中心へ迫っていることを。

 

「待ってろよ、クソ鬼ぃぃぃ!!」

 

伊之助の咆哮が、那田蜘蛛山の深奥へ轟いた。

 

 

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