『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第六話 下弦の伍・累

那田蜘蛛山の奥深く。

 

これまでとは明らかに空気が違っていた。

 

木々の隙間から月明かりが差し込む開けた場所。その中央に、一人の幼い少年が立っている。

 

白銀の髪。

 

蜘蛛の巣を思わせる模様が刻まれた顔。

 

そして、少年の指先から伸びる無数の糸。

 

一本一本が月光を反射し、鋼の刃のような殺気を放っていた。

 

「……家族の絆は、尊いものだ」

 

少年――下弦の伍・累は、淡々とした声で言った。

 

「父さん、母さん、兄さん、姉さん……僕たちは家族だ。だから僕は、家族を守る」

 

累の周囲には、蜘蛛の鬼たちが控えている。

 

だが、その表情には恐怖が滲んでいた。

 

家族と呼ばれている者たちが、累を恐れている。

 

それを見た炭治郎は、強く眉を寄せた。

 

「それが……家族?」

 

隣では禰豆子が身構えている。

 

「違う」

 

炭治郎は累を真っ直ぐ見据えた。

 

「本当の家族なら、そんなふうに相手を脅して従わせたりしない!」

 

累の指が、ぴくりと動いた。

 

「……何?」

 

「家族っていうのは、互いに助け合って、守り合うものだ!」

 

炭治郎の脳裏に浮かぶのは、亡き家族の姿だった。

 

父の温かな背中。

 

母の優しい笑顔。

 

弟妹たちと過ごした、かけがえのない日々。

 

そして今、鬼となってしまった禰豆子。

 

「苦しい時には支えて、嬉しい時には一緒に喜ぶ。それが俺の知っている家族だ!」

 

累の瞳から、温度が消えた。

 

「……不愉快だ」

 

指先がゆっくりと動く。

 

「君に僕たちの何が分かる?」

 

シュルルルルッ!!

 

次の瞬間、周囲の木々から大量の糸が飛び出した。

 

赤く染まった糸。

 

それらが複雑に絡み合いながら、炭治郎と禰豆子へ迫ってくる。

 

「禰豆子!」

 

炭治郎が咄嗟に刀を抜いた。

 

「水の呼吸――!」

 

ザンッ!!

 

水流を纏った刃が糸を迎え撃つ。

 

しかし――。

 

ギィンッ!!

 

「なっ!?」

 

刀が弾かれた。

 

糸が切れない。

 

それどころか、刀身に深い傷が刻まれている。

 

「硬い……!」

 

炭治郎が後退する。

 

「これが僕の糸だ」

 

累は無表情のまま告げた。

 

「僕の血鬼術によって強化された糸は、鋼よりも硬い。君程度の刃では切れないよ」

 

無数の糸が再び迫る。

 

「死ね」

 

炭治郎は禰豆子を庇うように前へ出た。

 

「ぐっ……!」

 

逃げ場がない。

 

その瞬間――。

 

バリバリバリッ!!

 

轟音と共に、空から青白い雷光が降り注いだ。

 

ドォン!!

 

地面が爆ぜ、猛烈な風圧が林を駆け抜ける。

 

累の糸が、一斉に細切れになって宙へ舞った。

 

「……え?」

 

炭治郎が目を見開く。

 

その前に、漆黒の羽織が翻った。

 

「おいおい」

 

男がゆっくりと刀を構える。

 

その刀身には、青白い電光が絶え間なく走っていた。

 

「人の後輩を殺そうとしてるってのに、随分と余裕こいてやがるじゃねえか」

 

「獪岳さん!」

 

炭治郎の顔が明るくなる。

 

鳴柱・獪岳。

 

その姿を見た瞬間、周囲の鬼たちが本能的に後退した。

 

「鳴柱……」

 

累が初めて僅かに目を細める。

 

「君が、この山に来ていたのか」

 

「来てたんじゃねえ」

 

獪岳は刀を肩に担ぐ。

 

「呼ばれたんだよ。山にいる鬼どもが妙な動きをし始めたからな」

 

そして、累を睨みつけた。

 

「……それに、俺の後輩が危ねえ目に遭ってるなら、放っておくわけにもいかねえだろ」

 

「獪岳さん……」

 

炭治郎の胸が熱くなる。

 

一方、累は静かに手を掲げた。

 

「僕の邪魔をするなら、君も切り刻む」

 

シュルシュルシュルッ!!

 

周囲の木々から、さらに大量の糸が飛び出した。

 

鋼鉄すら容易く切断する血鬼術。

 

それが幾重にも重なり、獪岳を包囲していく。

 

「僕の糸は、どんな刃よりも硬い」

 

「……ハッ」

 

獪岳は鼻で笑った。

 

「硬い?」

 

刀を握る手に力が込められる。

 

「笑わせんな」

 

青白い雷が、刀身から地面へと走った。

 

「俺が今まで相手にしてきた絶望に比べりゃ、お前の糸なんざ――」

 

一歩。

 

獪岳の足が地面を踏み抜く。

 

「蜘蛛の巣以下だ」

 

ドンッ!!

 

姿が消えた。

 

「雷の呼吸――」

 

累の瞳が僅かに見開かれる。

 

「壱ノ型――」

 

次の瞬間。

 

バリィィィッ!!

 

雷光が林を横切った。

 

「霹靂一閃――疾風!!」

 

ギャギャギャギャッ!!

 

獪岳の刀が、累の糸を真正面から切り裂いていく。

 

一筋。

 

二筋。

 

十筋。

 

百筋。

 

鋼より硬いはずの糸が、青白い雷光の中で次々と断ち切られていった。

 

「な……!?」

 

累の表情が初めて崩れる。

 

「僕の糸が……!」

 

「だから言っただろ」

 

獪岳は雷光の中から姿を現した。

 

すでに累の眼前。

 

「俺を舐めるなってな」

 

「速い……!」

 

累が反射的に後退する。

 

だが、獪岳は逃がさない。

 

「炭治郎!」

 

「はい!」

 

「禰豆子を連れて下がれ!」

 

「でも、獪岳さん!」

 

「いいから行け!」

 

鋭い怒声。

 

炭治郎は一瞬だけ迷ったが、すぐに頷いた。

 

「……分かりました!」

 

禰豆子の手を取り、後方へ下がる。

 

累はそれを見送りながら、静かに呟いた。

 

「……君は、仲間を守るんだね」

 

「当たり前だろ」

 

獪岳は刀を構え直す。

 

「俺が育てた後輩だ。簡単に殺させるわけねえだろうが」

 

「……家族」

 

累の瞳に、奇妙な感情が浮かんだ。

 

「君も……家族を求めているの?」

 

「くだらねえこと聞くな」

 

獪岳の雷気が膨れ上がる。

 

「家族だろうが仲間だろうが、守りたい奴は自分の手で守る。それだけだ」

 

「……理解できない」

 

累の指先から、再び赤い糸が伸びる。

 

「なら、殺して確かめる」

 

「上等だ、下弦の伍」

 

獪岳の口元が不敵に吊り上がった。

 

「お前の偽物の家族ごっこも、ここで終わらせてやる」

 

青白い雷光と赤い蜘蛛糸。

 

二つの異質な力が、月明かりの林の中で激しく衝突する。

 

那田蜘蛛山の戦いは、ついに鬼殺隊の鳴柱と下弦の鬼による、本当の死闘へと突入した。

 

 

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