『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第九話 鳴柱・獪岳、帝釈天

「黙れ……黙れぇぇぇぇぇ!!」

 

那田蜘蛛山の夜を、累の絶叫が引き裂いた。

 

父蜘蛛を倒され、自らの糸すら三人の柱によって容易く切り払われたことで、累の中に残されていた最後の理性が崩れ落ちる。

 

幼い顔に浮かんでいたのは、もはや冷静さではない。

 

怒り。

 

恐怖。

 

そして、自分の『家族』を失いたくないという歪んだ執着。

 

「僕の家族は……僕のものだ……! 誰にも壊させない!!」

 

累が両腕を大きく広げた。

 

ドクンッ――。

 

鬼の身体を巡る血が激しく脈打つ。

 

次の瞬間、累の全身から真紅の糸が爆発するように噴き出した。

 

「血鬼術――目眩く輪廻!!」

 

ギャギャギャギャッ!!

 

無数の赤い鋼糸が周囲へ一斉に走った。

 

木々が斬り裂かれる。

 

大地が抉れる。

 

巨大な岩すら瞬時に細切れとなって宙を舞った。

 

一本一本の糸が刃となり、無数の刃が円環状に重なりながら戦場全体を呑み込んでいく。

 

「これは……!」

 

炭治郎が息を呑んだ。

 

先ほどまでとは明らかに違う。

 

速さも、硬さも、殺気も桁違いだった。

 

義勇が即座に刀を構える。

 

「水の呼吸――拾壱ノ型、凪」

 

静寂が広がる。

 

義勇の周囲へ侵入してきた糸が次々と切断されていく。

 

しかし――。

 

「……!」

 

一本。

 

二本。

 

切断された糸の向こうから、さらに数十本の糸が押し寄せる。

 

累は叫びながら糸を操り続けた。

 

「死ね……死ねぇぇぇ!!」

 

「義勇、下がりな」

 

低い声が響いた。

 

義勇の前へ、一人の男が歩み出る。

 

黒地に金の雷模様が刻まれた羽織。

 

鳴柱・獪岳。

 

その右手は静かに日輪刀の柄へ添えられていた。

 

「このクソガキの相手は、俺がする」

 

「獪岳」

 

「お前は炭治郎たちを守れ。しのぶも後ろを頼む」

 

「分かりました」

 

しのぶが即座に頷く。

 

炭治郎は獪岳の背中を見つめた。

 

「獪岳さん……!」

 

「炭治郎」

 

獪岳は振り返らない。

 

「よく見ておけ」

 

バチ……。

 

刀の鍔元から青白い火花が弾ける。

 

「お前らがこれから先、何度絶望しようが――それを叩き割って前へ進むってのが、どういうことなのか」

 

獪岳の足元から、雷気が広がった。

 

バチバチバチッ!!

 

空気が震える。

 

周囲の木々が軋む。

 

地面に転がっていた小石が、まるで見えない力に弾かれたように浮き上がった。

 

炭治郎の肌が粟立つ。

 

(選別の時とは違う……!)

 

あの藤襲山で見た雷も凄まじかった。

 

だが、今の獪岳から感じるものは、その比ではない。

 

静かだった。

 

それなのに――重い。

 

一歩踏み出すだけで、周囲の空気そのものが支配されている。

 

(これが……鳴柱・獪岳さんの、本当の強さ……!)

 

累もまた、その異変を感じ取っていた。

 

「な……なんだ……?」

 

初めて、累の声に怯えが混じる。

 

「その雷……何なんだ……!」

 

獪岳がゆっくりと刀を抜いた。

 

青白い電光が刃全体を走り、暗闇を照らす。

 

「硬い糸?」

 

獪岳が鼻で笑った。

 

「切れない絆?」

 

一歩。

 

大地が沈む。

 

「――くだらねえ」

 

累の目が見開かれる。

 

「どんなに硬え壁だろうが、どんなに深い絶望だろうがな」

 

獪岳の身体が低く沈んだ。

 

「上から叩き割りゃいいんだよ!!」

 

その瞬間――。

 

世界から音が消えた。

 

炭治郎には、獪岳の姿が一瞬消えたように見えた。

 

次の瞬間。

 

「雷の呼吸――」

 

ゴロゴロゴロゴロ……。

 

空が鳴った。

 

山そのものが震える。

 

「漆ノ型――」

 

獪岳の瞳が鋭く光る。

 

「帝釈天!!」

 

ドォォォォォンッ!!

 

夜空が爆発した。

 

一本の雷ではない。

 

二本でも、三本でもない。

 

九頭。

 

巨大な青白い雷龍が、獪岳の一閃から解き放たれた。

 

「な――!?」

 

累が絶句する。

 

九頭の雷龍が咆哮しながら四方八方へ散開する。

 

上空へ。

 

地面へ。

 

左右の森へ。

 

そして――累が張り巡らせた無数の赤い鋼糸へ。

 

ズガァァァン!!

 

雷龍の爪が糸の網を噛み砕いた。

 

一本。

 

十本。

 

百本。

 

累が全力で操る糸が、次々と雷光に呑み込まれていく。

 

「嘘だ……!」

 

累の顔が歪む。

 

「僕の糸は……僕の血鬼術は……!」

 

「だからどうした」

 

獪岳の声が雷鳴の向こうから響く。

 

「俺はな――」

 

二頭目の雷龍が糸を粉砕する。

 

三頭目が森を駆け抜ける。

 

四頭目、五頭目、六頭目が累の退路を完全に塞ぐ。

 

「今まで何度も、何度も――」

 

七頭目が累の血鬼術を正面から食い破る。

 

「どうしようもねえ絶望を叩き割ってきたんだよ!!」

 

八頭目。

 

九頭目。

 

全ての雷龍が一つに収束する。

 

「だから――」

 

獪岳が踏み込んだ。

 

「お前程度の絶望に、俺が負けるかぁぁぁぁッ!!」

 

バチィィィィンッ!!

 

最後の一閃が、雷鳴と共に戦場を横切った。

 

累の瞳が大きく見開かれる。

 

「……え?」

 

次の瞬間。

 

首筋に、一筋の赤い線が走った。

 

「――あ……」

 

ゴトン。

 

累の頭部が地面へ落ちる。

 

遅れて、胴体が大きく揺らいだ。

 

「……そんな……僕の……家族……」

 

身体が崩れ始める。

 

「僕の……絆……」

 

累の声が小さくなる。

 

「……お父さん……お母さん……」

 

そして――。

 

サァァァ……。

 

下弦の伍・累の身体は、紫煙と灰となって夜風へ溶けていった。

 

静寂が戻る。

 

獪岳はしばらく灰を見つめていた。

 

やがて、ゆっくりと刀を振り、血を払う。

 

カチン。

 

鍔が鳴った。

 

それと同時に、夜空を覆っていた九頭の雷龍も消え去った。

 

「……フン」

 

刀を納める。

 

「歪んだ絆にしがみついたままじゃ、誰も救えねえんだよ」

 

その背中を、炭治郎は黙って見つめていた。

 

「獪岳さん……」

 

あまりにも強い。

 

けれど、その背中に感じるものは恐怖だけではなかった。

 

自分たちが何度倒れても立ち上がれるように、泥をすすってでも生きろと教えてくれた人。

 

その人が今、絶望そのものを雷で叩き割った。

 

しのぶが静かに微笑む。

 

「相変わらず、派手ですね」

 

「うるせえ」

 

「でも――」

 

しのぶは灰の舞う夜空を見上げる。

 

「これで、この山にいた鬼たちの脅威も大きく減りましたね」

 

「ああ」

 

獪岳は那田蜘蛛山の奥を睨む。

 

「だが、まだ終わっちゃいねえ」

 

その言葉に、炭治郎も顔を引き締める。

 

累を倒した。

 

それでも山には、まだ無数の鬼の気配が残っている。

 

そして何より――。

 

この戦いの裏には、さらに大きな存在がいる。

 

鬼舞辻無惨。

 

炭治郎は拳を握り締めた。

 

「俺も……もっと強くなります」

 

獪岳は振り返り、炭治郎の頭を乱暴に小突いた。

 

「だったら生き残れ」

 

「はい!」

 

「死んだら強くなるもクソもねえ。泥をすすってでも生きろ。それが一番大事だ」

 

「はいっ!!」

 

那田蜘蛛山に響いた最後の雷鳴。

 

それは下弦の伍・累の最期を告げるだけではなかった。

 

若き鬼殺隊士たちが、柱の背中を追いながらさらに強くなる――。

 

そんな、新たな戦いの幕開けを告げる雷鳴でもあった。

 

 

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