『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

158 / 237
無限列車編 第一話 無限列車・炎柱と雷柱

 

 

夜の闇を切り裂き、白い蒸気を吐き出しながら、一台の巨大な鉄塊が大地を駆け抜けていた。

 

轟音。

 

車輪が線路を噛み締めるたび、大地そのものが震えているような重低音が響く。

 

蒸気機関車。

 

それは、この時代を生きる人々にとっても、まだどこか異質な存在だった。

 

そして今、その巨大な列車には、鬼殺隊の剣士たちが乗り込もうとしている。

 

「……無限列車」

 

駅のホームに立った竈門炭治郎は、目の前にそびえる鉄の怪物を見上げていた。

 

幾つもの車両が連なり、窓から漏れる明かりが夜の闇を細長く照らしている。

 

「す、すげえ……!」

 

炭治郎の隣では、嘴平伊之助が興奮した様子で列車を見上げていた。

 

「なんだこれはァァァ!?」

 

伊之助は猪の頭をぐいっと持ち上げ、列車を睨みつ    ける。

 

「馬か!? いや、馬にしてはデカすぎる! 巨大なイモムシか!? それとも鉄でできた猪か!?」

 

「列車だよ、伊之助!」

 

「列車だぁ!?」

 

「だから列車だって!」

 

その横では我妻善逸が、すでに顔を真っ青にしていた。

 

「嫌だ……」

 

「善逸?」

 

「嫌な予感がする……」

 

「え?」

 

善逸は震えながら列車を指差した。

 

「だってさ……こんなにデカくて、こんなに長くて……しかも夜だぞ!? もし鬼が出てきたらどうするんだよ!?」

 

「鬼を倒す」

 

伊之助が即答した。

 

「俺様が全部斬る!」

 

「そういう問題じゃねえよぉぉ!!」

 

「二人とも、駅員さんに迷惑だろ!」

 

炭治郎が慌てて二人を止める。

 

その時だった。

 

三人の背後から、落ち着いた低い声が響いた。

 

「……相変わらず騒がしいな、お前ら」

 

「え?」

 

三人が振り返る。

 

そこに立っていた人物を見た瞬間、炭治郎の表情がぱっと明るくなった。

 

「獪岳さん!」

 

「獪岳あぁぁぁん!」

 

「うるせえ!」

 

黒地に金の雷模様をあしらった羽織。

 

腰には日輪刀。

 

鋭い眼光と、身体から滲み出る圧倒的な威圧感。

 

鳴柱・獪岳。

 

その姿を見るだけで、善逸の恐怖がほんの少しだけ和らいだ。

 

獪岳は三人を一瞥すると、深いため息を吐く。

 

「任務前から騒ぐんじゃねえ。特に善逸。お前の悲鳴は鬼より先に乗客を逃がすぞ」

 

「だって怖いんだもん!」

 

「だったら怖くても立ってろ。何度言わせる気だ」

 

「うぅ……」

 

獪岳は呆れたように鼻を鳴らした。

 

しかし、その眼差しは決して冷たくない。

 

三人が無事にここまで成長してきたことを、誰よりもよく知っている。

 

最終選別。

 

那田蜘蛛山。

 

幾つもの死線を越えてきた弟弟子たちは、もう単なる新人ではなかった。

 

まだ未熟ではある。

 

だが、自分の足で戦場に立てる剣士へと成長している。

 

「……まあいい」

 

獪岳が列車へ視線を向ける。

 

「今回の任務は、今までとは格が違う可能性がある。油断するな」

 

「はい!」

 

炭治郎たちが頷いた。

 

すると――。

 

「うむ! その意気や良し!」

 

突然、車両の中から凄まじい声が響き渡った。

 

「!?」

 

三人が顔を見合わせる。

 

そして次の瞬間。

 

「うまい!」

 

「うまい!」

 

「うまい!」

 

列車の一角から、何度も同じ言葉が響いてくる。

 

「……なんだ?」

 

伊之助が首を傾げる。

 

善逸は嫌そうな顔をした。

 

「何かすごい人がいる……」

 

炭治郎が車内を覗き込む。

 

そこには――。

 

「うまい!」

 

大量の弁当を豪快に食べている男がいた。

 

炎のような黄金色と赤の髪。

 

堂々たる体格。

 

そして、燃え盛る炎を思わせる羽織。

 

炎柱・煉獄杏寿郎。

 

「うまい!」

 

また一つ弁当を平らげる。

 

その姿を見て、炭治郎は思わず目を丸くした。

 

「煉獄さん!」

 

「おお!」

 

煉獄が顔を上げる。

 

「竈門少年ではないか!」

 

「お久しぶりです!」

 

「うむ! 元気そうで何よりだ!」

 

煉獄は豪快に笑った。

 

「そして我妻少年! 嘴平少年! 君たちも来たか!」

 

「は、はい!」

 

善逸が背筋を伸ばす。

 

伊之助はというと――。

 

「お前、強そうだな!」

 

煉獄の前までずいっと歩み出た。

 

「俺と勝負しろ!」

 

「うむ! 良い心掛けだ!」

 

「待て伊之助!」

 

炭治郎が慌てて止める。

 

そのやり取りを、少し離れた席から獪岳が眺めていた。

 

「……暑苦しい奴がいると思ったら、やっぱりお前か。杏寿郎」

 

「おお、獪岳!」

 

煉獄は嬉しそうに声を上げた。

 

「君も同行するのだな!」

 

「俺が来るのは当然だろ」

 

獪岳は窓の外を見ながら答える。

 

「今回の失踪者は多すぎる。下っ端だけで片付けられる任務じゃねえ」

 

「うむ!」

 

煉獄が力強く頷いた。

 

「俺も同じ考えだ! 今回の任務、全力を尽くして乗客を守る!」

 

「……お前は相変わらずだな」

 

「君もだろう!」

 

二人の柱。

 

炎と雷。

 

性格こそ正反対だが、共通しているものが一つある。

 

それは――。

 

「人を守る」

 

その一点だった。

 

炭治郎は二人の会話を聞きながら、胸の奥が熱くなるのを感じていた。

 

「煉獄さん……獪岳さん……」

 

自分も、この人たちのようになりたい。

 

強く。

 

そして、誰かを守れる剣士に。

 

そんな炭治郎の視線に気づいたのか、煉獄が豪快に笑う。

 

「竈門少年!」

 

「はい!」

 

「君は以前よりも、随分と良い目をするようになった!」

 

「ありがとうございます!」

 

「それに――」

 

煉獄は炭治郎の腰の日輪刀を見る。

 

「その黒い刀! 実に興味深い!」

 

「黒刀……ですか?」

 

「ああ! どのような呼吸に適性があるのか、まだ分からないのだろう?」

 

「はい……」

 

炭治郎が頷く。

 

煉獄は腕を組んで唸った。

 

「ならば、この任務で己の道を見つければいい!」

 

「……!」

 

炭治郎の目が輝く。

 

だが、その隣で獪岳が鼻を鳴らした。

 

「おい杏寿郎。勝手に煽るな」

 

「む?」

 

「こいつらはまだ新人だ。張り切りすぎて死なれたら困る」

 

そう言いながらも、獪岳の視線は炭治郎、善逸、伊之助の三人を順番に確認している。

 

刀。

 

隊服。

 

傷。

 

呼吸。

 

全てを見ている。

 

「今回の相手がどんな鬼だろうが、まず生き残れ。勝つのはその後だ」

 

「はい!」

 

三人が声を揃えた。

 

その時――。

 

獪岳の表情が変わった。

 

「……静かにしろ」

 

「え?」

 

「……何かいる」

 

獪岳が刀の柄へ手を添える。

 

煉獄も弁当を置き、表情を引き締めた。

 

車内には多くの乗客がいる。

 

笑い声。

 

話し声。

 

列車の走行音。

 

蒸気の音。

 

それらが混ざり合っている。

 

しかし。

 

その中に、確かに異質な気配が混じっていた。

 

「炭治郎」

 

「はい!」

 

「鼻を使え」

 

「……!」

 

炭治郎が目を閉じる。

 

ゆっくりと息を吸う。

 

すると――。

 

「……!」

 

炭治郎の表情が強張った。

 

「血の匂い……?」

 

「そうだ」

 

獪岳が答える。

 

「まだ薄い。だが、確実に鬼の匂いが混ざってやがる」

 

善逸の顔から血の気が引いた。

 

「ほ、本当に……?」

 

伊之助は逆に刀へ手を伸ばした。

 

「来たか!」

 

煉獄が立ち上がる。

 

その瞬間、列車が大きく揺れた。

 

ガタンッ!

 

「うわっ!」

 

乗客たちがざわめく。

 

そして――。

 

車内の照明が、一つ、また一つと消えていく。

 

パチッ。

 

パチッ。

 

パチッ。

 

暗闇が、列車の奥から迫ってくる。

 

「……おい」

 

獪岳の声が低くなる。

 

「来るぞ」

 

日輪刀の鍔に、青白い雷光が走った。

 

バチッ……。

 

炭治郎が刀を抜く。

 

伊之助も二刀を構える。

 

善逸は震えながらも、足を止めなかった。

 

煉獄は炎のような瞳で暗闇を見据える。

 

「竈門少年!」

 

「はい!」

 

「我妻少年!」

 

「は、はい!」

 

「嘴平少年!」

 

「おう!」

 

煉獄の声が車内に響き渡った。

 

「乗客を守るぞ!」

 

「はいっ!!」

 

獪岳が小さく笑う。

 

「……上等だ」

 

そして、暗闇の奥から。

 

ズズズズズ……。

 

何かが這いずるような音が聞こえてきた。

 

無限列車という巨大な密室。

 

数十人の乗客。

 

二人の柱。

 

三人の若き剣士。

 

そして、正体を隠して潜む鬼。

 

逃げ場のない列車の中で、鬼殺隊と鬼の戦いが、静かに幕を開けようとしていた。

 

「……来やがれ」

 

獪岳の刀身に、青白い雷が走る。

 

「泥をすすってでも生き残る。それが俺たちのやり方だ」

 

その言葉に呼応するように、列車の汽笛が夜空を震わせた。

 

――無限列車、発車。

 

炎と雷。

 

二本の柱を乗せた列車は、闇の中へと走り出した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。