『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第16話 霹靂一閃

朝。

 

山の空気は冷たかった。

 

獪岳は道場の中央に立ち、木刀を握っている。

 

その隣には善逸。

 

二人とも汗だくになっていた。

 

「今日は何をするんですか?」

 

善逸が恐る恐る尋ねる。

 

桑島慈悟郎は腕を組んだ。

 

「今日は――壱ノ型を完成させる」

 

「……!」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

雷の呼吸。

 

その基本にして、最も重要な型。

 

――壱ノ型・霹靂一閃。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

「お前はすでに壱ノ型の形だけなら出来ておる」

 

「……はい」

 

「だが、まだ完成しておらん」

 

獪岳は黙って頷いた。

 

桑島は木刀を構える。

 

「雷の呼吸・壱ノ型――」

 

一瞬。

 

桑島の姿が消えた。

 

「霹靂一閃」

 

轟音。

 

木刀が道場の端にある藁束を正確に打ち抜いた。

 

善逸が目を丸くする。

 

「速っ……!」

 

獪岳も息を呑んだ。

 

何度見ても凄まじい。

 

ただ速いだけではない。

 

踏み込み。

 

重心。

 

呼吸。

 

刀を抜く角度。

 

すべてが一つになっている。

 

「これが霹靂一閃じゃ」

 

桑島が言う。

 

「お前たちもやってみろ」

 

「はい!」

 

獪岳は腰を落とした。

 

呼吸を整える。

 

「雷の呼吸――壱ノ型」

 

足に力を込める。

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!!

 

「……!」

 

獪岳が一気に駆け抜ける。

 

しかし。

 

「遅い」

 

「……!」

 

桑島の声。

 

獪岳は振り返る。

 

「今のでは、ただの速い斬撃じゃ」

 

「…………」

 

「霹靂一閃とは違う」

 

「何が足りませんか?」

 

「覚悟じゃ」

 

「……覚悟?」

 

「ああ」

 

桑島は獪岳を見る。

 

「一歩目に全てを懸ける覚悟じゃ」

 

獪岳は黙った。

 

「霹靂一閃は、迷えば遅くなる」

 

「…………」

 

「恐れれば遅くなる」

 

「…………」

 

「躊躇えば遅くなる」

 

「…………」

 

「一瞬だけ、自分の全てを信じる」

 

桑島は木刀を下ろした。

 

「それが霹靂一閃じゃ」

 

獪岳は目を閉じた。

 

自分の中にあるもの。

 

焦り。

 

恐怖。

 

原作の未来。

 

死ぬ仲間たち。

 

鬼になる自分。

 

善逸に殺される未来。

 

――全部。

 

「…………」

 

獪岳はゆっくり目を開いた。

 

「俺は……」

 

拳を握る。

 

「もう逃げない」

 

 

「もう一度!」

 

「はい!」

 

獪岳は構える。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

踏み込む。

 

「霹靂一閃!!」

 

――ドォンッ!!

 

先ほどより速い。

 

桑島の眉が僅かに動く。

 

「……まだじゃ」

 

「はい!」

 

再び構える。

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!!

 

「まだじゃ!」

 

「はい!」

 

「もう一度!」

 

「はい!」

 

「もう一度!」

 

「はい!」

 

何十回。

 

何百回。

 

獪岳は繰り返した。

 

足が痛む。

 

肺が焼ける。

 

筋肉が悲鳴を上げる。

 

それでも止まらない。

 

「まだ!」

 

「はい!」

 

「遅い!」

 

「はい!」

 

「もっと速く!」

 

「はい!」

 

「迷うな!」

 

「はい!」

 

やがて。

 

夕暮れ。

 

獪岳は膝をついた。

 

「はぁ……はぁ……」

 

手が震えている。

 

桑島が近づく。

 

「今日は終わりじゃ」

 

「……まだです」

 

「何?」

 

「まだ……出来てない」

 

「十分じゃ」

 

「嫌です」

 

獪岳は立ち上がろうとする。

 

「俺は……」

 

足に力を込める。

 

「霹靂一閃を……」

 

その瞬間。

 

足が崩れた。

 

「獪岳!」

 

桑島が支える。

 

「無茶をするな!」

 

「…………」

 

「型を極めることと、身体を壊すことは違う!」

 

「……すみません」

 

桑島はため息を吐いた。

 

「お前は本当に頑固じゃな」

 

「よく言われます」

 

「誰に?」

 

「……悲鳴嶼さんに」

 

「なるほど」

 

桑島は納得した。

 

「ならば、その頑固さを正しく使え」

 

「…………?」

 

「自分を壊すためではない」

 

「…………」

 

「強くなるために使え」

 

獪岳は黙っていた。

 

そして。

 

「……はい」

 

小さく頭を下げた。

 

 

一方。

 

「霹靂一閃!」

 

善逸が走る。

 

――ドンッ!

 

「遅い!」

 

「うぅぅ……!」

 

「もう一度じゃ!」

 

「はい!」

 

善逸は目を閉じた。

 

怖い。

 

失敗したら怒られる。

 

遅かったら笑われる。

 

でも。

 

――獪岳兄貴に置いていかれたくない。

 

善逸は足に力を込める。

 

「……俺だって」

 

息を吸う。

 

「俺だって、出来る!」

 

踏み込む。

 

「霹靂一閃!!」

 

――バァンッ!!

 

一瞬。

 

善逸の身体が消えた。

 

桑島の目が見開かれる。

 

「…………!」

 

次の瞬間。

 

善逸は道場の壁に激突した。

 

「ぐへっ!」

 

「…………」

 

獪岳は無言。

 

「…………」

 

桑島も無言。

 

「……痛い」

 

善逸が顔を上げる。

 

「今の、どうだった?」

 

獪岳が近づく。

 

「……速かった」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

善逸の顔が輝く。

 

「やった!」

 

「ただし」

 

「え?」

 

「止まり方を覚えろ」

 

「…………」

 

「壁に突っ込む奴があるか」

 

「ごめんなさい……」

 

獪岳はため息を吐いた。

 

「まあ、初めてなら上出来だ」

 

「兄貴……!」

 

「だから兄貴って呼ぶな」

 

「兄貴ぃ!」

 

「……ったく」

 

だが。

 

獪岳は笑っていた。

 

 

その夜。

 

獪岳は一人で庭に出た。

 

月明かり。

 

静かな夜。

 

木刀を握る。

 

「…………」

 

目を閉じる。

 

桑島の言葉。

 

――一歩目に全てを懸ける。

 

獪岳は呼吸を整えた。

 

自分の未来を思い出す。

 

鬼になる。

 

仲間を裏切る。

 

善逸に殺される。

 

悲鳴嶼に見捨てられる。

 

――そんな未来。

 

「……認めるかよ」

 

目を開く。

 

「雷の呼吸――」

 

足に力を込める。

 

「壱ノ型」

 

世界が静かになる。

 

「霹靂一閃!!」

 

――轟!!

 

獪岳の身体が弾丸のように駆け抜けた。

 

木刀が藁束を斬り裂く。

 

「…………」

 

獪岳は振り返る。

 

今までとは違う。

 

明らかに速い。

 

「……これが」

 

獪岳は自分の足を見る。

 

「霹靂一閃……」

 

背後から声。

 

「まだまだじゃ」

 

「……師匠」

 

桑島が立っていた。

 

「今のは良かった」

 

「……!」

 

獪岳の顔が僅かに緩む。

 

「ありがとうございます」

 

「だが」

 

「はい」

 

「まだ完成ではない」

 

「分かっています」

 

桑島は頷く。

 

「いつか、お前はもっと速くなる」

 

「……はい」

 

「その速さで何をする?」

 

獪岳は迷わず答えた。

 

「守ります」

 

「誰を?」

 

「全員です」

 

「……そうか」

 

桑島は微笑む。

 

「ならば、鍛えろ」

 

「はい!」

 

「もっと速く」

 

「はい!」

 

「もっと強く」

 

「はい!」

 

「そして――」

 

桑島は静かに言った。

 

「誰よりも優しい雷になれ」

 

獪岳は目を見開いた。

 

「……優しい雷」

 

「ああ」

 

「…………」

 

その言葉は。

 

後の獪岳の生き方を、大きく変えることになる。

 

雷は。

 

人を焼き殺すだけではない。

 

暗闇を照らすこともできる。

 

獪岳は木刀を握り直した。

 

「……俺は」

 

夜空を見上げる。

 

「そんな雷になります」

 

――霹靂一閃。

 

それは。

 

ただ速く斬るための技ではない。

 

自分の迷いを断ち切り。

 

守るべきものへ、一瞬で駆けつけるための一歩。

 

この日。

 

転生獪岳は。

 

その意味を初めて理解した。

 

【大正コソコソ噂話】

 

獪岳が霹靂一閃を初めて成功させた翌朝。

 

善逸が嬉しそうに言った。

 

「兄貴! 俺も昨日ちょっと速くなった!」

 

「そうか」

 

「見てて!」

 

「……嫌な予感がする」

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!!

 

善逸は庭を横切り――。

 

そのまま木に激突。

 

「ぐえっ!」

 

「…………」

 

獪岳は頭を抱えた。

 

「だから止まり方を覚えろって言っただろ!」

 

「痛いよぉぉぉ!」

 

その後。

 

桑島は二人に、

 

「速さだけでなく、制御も鍛えよ」

 

と厳しく指導。

 

この日から二人の修行には、

 

「霹靂一閃で速く走る」

 

だけでなく、

 

「霹靂一閃で安全に止まる」

 

という謎の課題まで追加されたという。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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