『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第四話 眠りの罠

ゴオオオオオッ――!!

 

夜の闇を裂きながら、無限列車は疾走していた。

 

屋根の上を猛烈な風が吹き抜け、蒸気と煙が渦を巻く。その中で、炭治郎は両足を踏ん張り、日輪刀を構えていた。

 

対する魘夢は、まるで舞台の上に立つ役者のように、楽しげな笑みを浮かべている。

 

「おやおや……もう起きてしまったのかい?」

 

魘夢の瞳が細められる。

 

「せっかく、あんなに素敵な夢を見せてあげたのに。家族と再会できる夢なんて、人間なら誰だって喜ぶものだろう?」

 

「ふざけるな!」

 

炭治郎の怒声が夜空を震わせた。

 

「夢だからって、人の大切なものを踏みにじっていい理由にはならない!」

 

脳裏に浮かぶ家族の姿。

 

母の笑顔。

 

弟妹たちの声。

 

そして、笑顔の禰豆子。

 

あまりにも温かく、あまりにも優しい夢だった。

 

だからこそ――。

 

「俺は、あの夢を捨ててでも現実に戻る!」

 

炭治郎は一気に踏み込んだ。

 

「水の呼吸――!」

 

しかし。

 

「フフフ……」

 

魘夢が笑う。

 

「そう簡単にはいかないよ」

 

パチンッ。

 

魘夢が指を鳴らした。

 

その手甲に浮かんでいた無数の目が、一斉に見開かれる。

 

「血鬼術――」

 

ゾワッ。

 

空気が変わった。

 

「強制昏倒催眠・眼(きょうせいこんとうさいみん・まなこ)」

 

「――眠れ」

 

その一言。

 

ただそれだけで、炭治郎の意識が急激に沈み始めた。

 

「な……っ!?」

 

足から力が抜ける。

 

刀を握る指が震える。

 

視界が暗くなっていく。

 

「くそっ……!」

 

炭治郎は必死に意識を繋ぎ止めようとする。

 

だが、眠気は凄まじかった。

 

「眠れ……眠れ……」

 

魘夢の声が遠ざかっていく。

 

「もう一度、幸せな夢を見ようじゃないか」

 

そして――。

 

世界が暗転した。

 

「……っ!」

 

気がつけば、炭治郎は再び家の前に立っていた。

 

「兄ちゃん!」

 

「炭治郎、おかえり!」

 

懐かしい声。

 

暖かな光。

 

そこには、死んだはずの家族がいる。

 

「……またか」

 

炭治郎は拳を握った。

 

「俺は……ここにいちゃいけない」

 

しかし、胸の奥が叫んでいる。

 

ここにいたい。

 

家族と暮らしたい。

 

禰豆子と笑いたい。

 

母に「おかえり」と言ってもらいたい。

 

「炭治郎」

 

母が微笑む。

 

「もう、どこにも行かなくていいのよ」

 

「……!」

 

その言葉に、炭治郎の心が揺らぐ。

 

だが。

 

「違う……」

 

炭治郎は唇を噛み締めた。

 

「俺には、帰る場所がある」

 

家族の笑顔が揺らぐ。

 

「現実に……帰らなきゃ……!」

 

炭治郎は夢の中で刀を抜いた。

 

「目を覚ませ!」

 

ザシュッ!!

 

自らの首を斬る。

 

「――ハッ!!」

 

現実。

 

炭治郎が飛び起きる。

 

だが。

 

「眠れ」

 

「――っ!」

 

再び意識が落ちる。

 

夢。

 

「起きろ……!」

 

自分の首を斬る。

 

現実。

 

「眠れ」

 

夢。

 

「起きろ!」

 

現実。

 

「眠れ」

 

夢。

 

「起きろ!」

 

現実。

 

何度も。

 

何度も。

 

何度も。

 

「ぐっ……!」

 

精神が削られていく。

 

現実なのか。

 

夢なのか。

 

境界が分からなくなる。

 

「フフフフ……」

 

魘夢の笑い声だけが響いていた。

 

「どうだい? 自分の首を斬り続ける気分は」

 

炭治郎の呼吸が乱れる。

 

「君はもう、自分で自分を殺すことすら恐れなくなっている」

 

「……違う」

 

「あと少しだよ」

 

「違う……!」

 

「君の心が壊れるまで――」

 

「黙れぇぇぇ!!」

 

炭治郎が刀を振り抜いた。

 

だが、その瞬間。

 

現実と夢の境界が崩れた。

 

「……あれ?」

 

炭治郎の目の前に、魘夢がいる。

 

そして自分の手には、日輪刀。

 

「今度こそ……!」

 

振り下ろす。

 

しかし。

 

「待て、炭治郎!!」

 

遠くから声が響いた。

 

「――そのまま斬るな!!」

 

「え……?」

 

次の瞬間。

 

バリバリバリバリッ!!

 

ドゴオオオオオオンッ!!

 

猛烈な雷光が夜空を切り裂いた。

 

無限列車の屋根を青白い雷が貫き、鉄板が爆発する。

 

「なっ!?」

 

魘夢が飛び退く。

 

炭治郎も衝撃で吹き飛ばされる。

 

そして。

 

紫煙の中から、一人の男が歩み出た。

 

黒地に金の雷模様。

 

鋭く吊り上がった眼。

 

全身から迸る青白い雷気。

 

「……ったく」

 

獪岳だった。

 

その顔には、隠しきれない怒気が浮かんでいる。

 

「人の頭ん中に勝手に入り込みやがって……」

 

バチッ。

 

足元で雷が弾ける。

 

「しかも、しょうもねえ過去まで好き勝手に弄りやがって……」

 

さらに強烈な雷気が噴き上がる。

 

「舐めた真似してくれたなぁ……クソ鬼が」

 

「獪岳さん!」

 

炭治郎が驚きの声を上げる。

 

「目を覚ましたんですか!?」

 

「ああ」

 

獪岳は首を鳴らした。

 

「何度眠らされようが、夢を見せられようが――」

 

その脳裏には、夢の中で見せられた光景があった。

 

幼い頃。

 

実弥との確執。

 

自分の弱さ。

 

敗北。

 

惨めさ。

 

泥をすすりながら、それでも這い上がった日々。

 

そして、今の自分。

 

「俺はな……」

 

獪岳が刀の柄を握る。

 

「何度でも地獄から這い上がってきたんだよ」

 

バチバチバチッ!!

 

「眠りごときで、俺の意志を折れると思うな!!」

 

雷鳴が轟いた。

 

魘夢の笑顔が引きつる。

 

「そ、そんな馬鹿な……!?」

 

「強制睡眠だぁ?」

 

獪岳が鼻で笑う。

 

「ぬるすぎるんだよ」

 

一歩。

 

獪岳が前へ出る。

 

その瞬間、屋根の鉄板が蜘蛛の巣状にひび割れた。

 

「俺の怨念も、執念も、泥臭い生存本能も――」

 

青白い雷が日輪刀へ収束していく。

 

「眠らせられるほど安くねえんだよ!!」

 

「雷の呼吸――」

 

炭治郎も刀を構える。

 

「獪岳さん!」

 

「炭治郎!」

 

獪岳は振り返らない。

 

「ここからは二人で行くぞ!」

 

「はい!」

 

魘夢が大量の触手を伸ばす。

 

「生意気な……! 僕の夢から逃げた程度で、勝ったつもりになるなぁぁ!!」

 

無限列車の車体が大きく蠢く。

 

ズズズズズ……。

 

車両そのものが巨大な生物のように変形し始める。

 

「僕の血鬼術は、夢だけじゃない!」

 

魘夢が狂喜の笑みを浮かべた。

 

「この列車そのものが、僕の肉体なんだよ!!」

 

無数の肉塊と触手が車内から噴き出す。

 

炭治郎が息を呑む。

 

「列車全体が鬼に……!」

 

「だったら話は簡単だ」

 

獪岳が刀を構える。

 

「デカくなっただけの害虫なら――」

 

雷気が爆発的に膨れ上がる。

 

「まとめて叩き潰す!!」

 

ゴロゴロゴロゴロ……!!

 

夜空に巨大な雷雲が集まり始めた。

 

炭治郎はその背中を見つめる。

 

(これが……獪岳さん)

 

夢すら打ち破る、不屈の意志。

 

どれほど絶望的な状況でも、泥をすすって前へ進む男。

 

「行くぞ、炭治郎!」

 

「はい!!」

 

若き水の剣士と鳴柱。

 

二人の刃が、無限列車を支配する悪夢へ向けて構えられた。

 

その時――。

 

列車の最後尾。

 

誰にも気づかれぬ場所で、煉獄杏寿郎の瞳がゆっくりと開いた。

 

「……む!」

 

炎柱が立ち上がる。

 

「どうやら、俺も寝坊している場合ではないようだな!!」

 

無限列車の夜は、いよいよ激闘の幕を開けようとしていた。

 

 

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