『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第五話「炭治郎、夢を斬る」

無限列車の屋根を吹き抜ける夜風が、血と蒸気の匂いを運んでいた。

 

先ほどまで列車の屋根を覆っていた魘夢の血鬼術は、獪岳が目覚めたことで大きく崩れ始めている。

 

それでも、下弦の壱は笑っていた。

 

「柱が……自力で眠りを破っただと……?」

 

屋根の上に降り立った獪岳を見つめ、魘夢の顔から初めて余裕が消える。

 

「あり得ない……! 人間の精神なんて、眠ってしまえば僕のものだ! どんな強い人間だって、幸せな夢を見せられれば、そこから出ようなんて思わなくなる!」

 

「……幸せな夢、ねえ」

 

獪岳は鼻で笑った。

 

その瞳には、先ほどまで夢の中で見せられていた光景の残滓が浮かんでいる。

 

幼い頃。

 

実弥との確執。

 

自分が何度も泥をすすり、何度も踏みつけられながら、それでも這い上がってきた記憶。

 

そして――今、自分の背中を追いかけてくる善逸たちの姿。

 

「俺に夢を見せるなら、もっとマシなもんを用意しやがれ」

 

バチッ。

 

獪岳の刀身から青白い雷光が弾けた。

 

「俺がどれだけ泥をすすって生きてきたと思ってやがる。痛みも、後悔も、恥も、全部ひっくるめて俺の人生だ。都合のいい夢なんぞで捨てられるほど、安い命じゃねえんだよ」

 

「……!」

 

魘夢が歯噛みする。

 

その隣では、炭治郎もまた必死に呼吸を整えていた。

 

「炭治郎!」

 

「はい!」

 

「お前も気を抜くな!」

 

獪岳が鋭く叫ぶ。

 

「夢から抜け出すために何度も自分の首を斬っただろうが、あれを現実でやったら終わりだ! 夢と現実の境目を見誤るんじゃねえ!」

 

「……っ!」

 

炭治郎の背筋に冷たいものが走った。

 

夢の中で自分の首を斬る。

 

あまりにも繰り返したため、その感覚が身体に染みつき始めている。

 

一歩間違えれば、現実の自分自身を傷つけてしまう。

 

「分かりました……! もう、迷いません!」

 

「その意気だ!」

 

魘夢が苛立たしげに両手を掲げた。

 

「だったら、何度でも眠らせてやるよ!」

 

無数の眼球が開く。

 

「血鬼術――強制昏倒睡眠・眼!」

 

「眠れぇぇぇぇッ!!」

 

ドォンッ!!

 

瞬間、空気そのものが歪んだ。

 

炭治郎の視界が白く染まり、獪岳の姿も、夜空も、無限列車も消えていく。

 

「くっ……!」

 

まただ。

 

また夢へ引きずり込まれる。

 

炭治郎の意識に、懐かしい家族の声が響いた。

 

「炭治郎、おかえり」

 

「兄ちゃん!」

 

「ご飯できたよ!」

 

あの温かな家。

 

あの囲炉裏。

 

もう二度と戻れない、かつての日常。

 

「……ごめん」

 

炭治郎の目から涙が零れる。

 

「本当に……帰りたいよ」

 

それでも、拳を強く握った。

 

「でも――ここにいるわけにはいかない!」

 

夢の家族が驚いたように炭治郎を見る。

 

「俺は、みんなを守るために戦う!」

 

父・炭十郎の幻影が、静かに微笑んだ。

 

『ならば、行きなさい』

 

その声を聞いた瞬間、炭治郎は刀を抜いた。

 

「俺の見るべき夢は、ここじゃない!」

 

ザンッ!!

 

自らの首を斬り落とす。

 

次の瞬間――

 

「ハッ!」

 

炭治郎が現実へと戻った。

 

しかし、その瞬間だった。

 

「眠れ」

 

「……っ!?」

 

再び魘夢の術が発動する。

 

「ハハハハッ! 無駄だよ! 目覚めても、目覚めても、また眠らせればいい! 君の精神が擦り切れるまで、永遠に繰り返してやる!」

 

夢。

 

現実。

 

夢。

 

現実。

 

炭治郎は何度も何度も意識を引き戻される。

 

そのたびに、自分の首を斬る。

 

そして現実へ戻る。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

呼吸が乱れる。

 

思考が霞む。

 

刀を握る手に力が入らない。

 

「もう少しだ……!」

 

魘夢が歓喜に顔を歪めた。

 

「そうだ! その顔だ! 絶望しろ! 眠れ! 眠ってしまえば楽になれる!」

 

その瞬間。

 

バチィィィィン!!

 

凄まじい雷光が屋根を走った。

 

「――黙れッ!!」

 

獪岳の一喝が轟いた。

 

雷気が爆発し、魘夢の血鬼術を正面から吹き飛ばす。

 

「俺の後輩に、くだらねえ夢を押しつけてんじゃねえ!」

 

獪岳が一歩踏み込む。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

ドォンッ!!

 

「霹靂一閃・連!!」

 

青白い雷光が幾重にも弾け飛ぶ。

 

獪岳の姿が消えた。

 

次の瞬間には魘夢の目の前。

 

「な――」

 

バキィッ!!

 

魘夢の手甲に浮かんでいた無数の眼球が、一瞬で斬り裂かれた。

 

「ぎゃあああああッ!!」

 

「今だ、炭治郎!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「夢を斬れぇぇぇッ!!」

 

その声が、炭治郎の胸を貫いた。

 

「はいっ!!」

 

炭治郎は大きく息を吸い込む。

 

水の呼吸。

 

全身に力を巡らせる。

 

そして脳裏に浮かぶのは、家族の笑顔だけではない。

 

錆兎。

 

真菰。

 

鱗滝。

 

禰豆子。

 

善逸。

 

伊之助。

 

そして、自分を何度も叱り、何度も背中を押してくれた獪岳。

 

「俺は……一人じゃない!」

 

炭治郎が刀を握り締めた。

 

「家族の想いも、仲間の想いも――全部、俺が繋ぐ!」

 

水流が渦を巻く。

 

「水の呼吸――拾ノ型!」

 

刀身に水龍が絡みつく。

 

「生生流転!!」

 

ドォォォン!!

 

激しい水流とともに炭治郎が駆け抜けた。

 

「うおおおおおおッ!!」

 

「な……なんだ、その眼は……!?」

 

魘夢が後退する。

 

だが、もう遅い。

 

「家族の夢を利用して、人の心を壊そうとするお前を――!」

 

炭治郎の刃が閃く。

 

「俺は絶対に許さない!!」

 

ザンッ!!

 

魘夢の首が宙を舞った。

 

「……やった……!」

 

炭治郎が息を切らしながら立ち尽くす。

 

獪岳も刀を納め、静かに魘夢を見つめていた。

 

だが――。

 

「……ふふ」

 

宙を舞う魘夢の顔に、歪んだ笑みが浮かんだ。

 

「残念だったね……」

 

「……何?」

 

魘夢の肉体が、ドロリと崩れ始める。

 

「僕の本体は……もう、とっくに……」

 

ドクン。

 

無限列車そのものが、大きく脈打った。

 

「……え?」

 

炭治郎が目を見開く。

 

次の瞬間。

 

グシャアアアアッ!!

 

車両の壁が肉のように膨張し、座席が巨大な血管へと変貌する。

 

車内から無数の肉塊がせり上がり、列車全体を包み込んでいく。

 

「なんだ、これ……!?」

 

獪岳の表情が険しくなる。

 

「チッ……そういうことか」

 

魘夢の首が、愉悦に歪んだ。

 

「そうさ……僕はもう、無限列車そのものと一体化しているんだよ……!」

 

蒸気を噴き上げながら、列車が巨大な鬼の肉体へと変貌していく。

 

「さあ、どうする!?」

 

「この列車に乗っている人間は――全員、僕の獲物だ!!」

 

無限列車が咆哮する。

 

炭治郎は刀を握り直した。

 

獪岳もまた、青白い雷を全身に纏う。

 

「……上等だ」

 

鳴柱が不敵に笑った。

 

「だったら列車ごと叩き潰すまでだ」

 

新たなる死闘が始まる。

 

下弦の壱・魘夢との戦いは、ここからが本当の決戦だった。

 

 

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