「うああああッ!! 許さない……許さないぞぉぉぉッ!!」
無限列車の先頭部。
機関室の床下に広がる異様な光景に、炭治郎は息を呑んだ。
そこにあったのは、列車の構造そのものへと食い込んだ魘夢の肉体だった。
太い血管が鉄骨を絡め取り、巨大な骨が車体の内部を這い回っている。さらに、その隙間から無数の触手が生え、まるで生き物の臓腑そのものが列車になったかのように蠢いていた。
「ここだ……! この奥に魘夢の本体がある!」
炭治郎が刀を構える。
「なら、斬るだけだァァ!!」
伊之助も両手の刀を握り締め、巨大な肉塊へと突っ込んだ。
「獣の呼吸――!」
しかし――。
ドガァンッ!!
「ぐあっ!」
「伊之助!」
横から伸びてきた巨大な触手が、伊之助を弾き飛ばした。
炭治郎も咄嗟に刀で受け止めるが、凄まじい重量に身体が後方へ押し流される。
「くっ……!」
「ヒヒヒヒッ!! 無駄だよォ!!」
魘夢の声が機関室全体から響き渡る。
「僕はこの列車そのものなんだ! 肉を斬ればまた生える! 骨を壊せば別の場所から繋がる! 君たちがどれだけ頑張ったところで、僕には届かないんだよ!!」
無数の触手が一斉に二人を包囲する。
「死ねぇぇぇッ!!」
「くそっ……!」
炭治郎が歯を食いしばる。
斬っても斬っても肉が再生する。
このままでは本体へ届かない。
その時――。
ゴォォォォォッ!!
突然、機関室を凄まじい熱風が吹き抜けた。
「――何だ!?」
魘夢の触手が、一斉に動きを止める。
熱い。
まるで目の前に巨大な炎が出現したかのような熱気。
そして――。
「よもやよもやだ!!」
轟!!
先頭車両の扉が、内側から吹き飛んだ。
「柱として不甲斐なし!! 穴があったら入りたい!!」
炎のような髪。
黄金と赤の羽織。
燃え盛る太陽を思わせる眼差し。
炎柱・煉獄杏寿郎が、堂々と機関室へ踏み込んできた。
「煉獄さん!」
炭治郎の顔がぱっと輝く。
「竈門少年! 嘴平少年! そして獪岳! よくぞここまで耐えた!」
「煉獄……!」
獪岳も肉塊を斬り払いながら振り返る。
「遅えんだよ。こっちはとっくにクソ鬼の腹ン中まで来てんぞ」
「ハハハッ! それはすまなかったな、獪岳!」
煉獄は豪快に笑った。
だが、次の瞬間。
その表情から笑みが消える。
「後方の乗客は我妻少年たちが守っている。こちらへ来ることができたのは、君たちが作った道のおかげだ」
静かに腰を落とす。
右手が日輪刀の柄へ伸びる。
「ならば、俺も柱として役目を果たそう!」
カチリ。
鍔が鳴った。
抜刀された日輪刀が、機関室の暗闇を照らす。
刃の周囲に赤々とした炎が渦巻いた。
「な……何だ、この熱は……!?」
魘夢が怯えた声を漏らす。
「僕の肉体を……焼くつもりか!?」
「その通りだ!」
煉獄の瞳が燃える。
「炎の呼吸――」
足元の床が大きく沈み込んだ。
「壱ノ型――不知火!!」
ゴォォォォォォッ!!
次の瞬間。
煉獄の姿が消えた。
いや――消えたように見えただけだった。
爆発的な踏み込みによって、一瞬で機関室の奥まで到達していたのだ。
「な――!?」
ザンッ!!
巨大な触手が一本、両断される。
ザシュッ!!
続いて二本。
三本。
十本。
数え切れないほどの肉塊が、一瞬にして切り裂かれていく。
そして煉獄の刀から噴き出した炎が、切断された肉塊を包み込んだ。
ゴォォォッ!!
「うぎゃああああッ!! 熱い!! 僕の肉がぁぁぁッ!!」
魘夢の絶叫が響き渡る。
再生しようと蠢いていた肉塊が、炎によって次々と炭化していく。
「す、すごい……!」
炭治郎は思わず目を見開いた。
煉獄の一撃は、ただ肉を斬っただけではない。
再生する隙すら与えず、炎で焼き尽くしていた。
「これなら……!」
炭治郎が前へ踏み出す。
しかし、その肩を獪岳が掴んだ。
「待て、炭治郎」
「獪岳さん?」
「まだだ」
獪岳の視線が機関室の奥へ向けられる。
燃え盛る炎の向こう。
大量の肉塊が焼き払われたことで、その奥に隠されていた巨大な骨が露出していた。
「見ろ」
炭治郎は息を呑む。
「……首の骨……!」
魘夢の本体へと繋がる巨大な骨格。
これまで幾重もの肉に覆われていた急所が、ついに剥き出しになった。
「これで道はできたな」
獪岳が口元を吊り上げる。
煉獄も力強く頷いた。
「うむ! あとは竈門少年、お前の仕事だ!」
「はいっ!!」
炭治郎は刀を握り直した。
だが――。
「そうは……させるかぁぁぁぁッ!!」
魘夢の絶叫と共に、焼け焦げた肉塊の奥からさらに巨大な触手が飛び出す。
「竈門少年!」
煉獄が叫ぶ。
「俺が道を作る! 獪岳、援護を頼む!」
「言われなくても分かってる!」
獪岳の刀から青白い雷光が爆ぜる。
「炭治郎! お前は止まるな!!」
「はいっ!!」
炎と雷。
二人の柱が左右から襲い来る肉塊を切り裂く。
その中央を、炭治郎が一直線に駆け抜けていく。
目の前にあるのは、魘夢の剥き出しになった巨大な首の骨。
「これが……最後の一撃だ!!」
炭治郎が大きく跳躍する。
日輪刀を両手で握り締め――。
無限列車を支配する悪夢へ向かって、渾身の刃を振り下ろした。