『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第17話 壱ノ型を極める

朝。

 

山の空気は冷たく、吐く息が白い。

 

道場の中央に、獪岳と善逸が並んで立っていた。

 

二人の足元には、昨日まで何度も踏み荒らした土。

 

桑島慈悟郎は二人を見据え、静かに告げた。

 

「今日から、壱ノ型を極める」

 

「……極める?」

 

善逸が首を傾げる。

 

「昨日、できるようになったんじゃないの?」

 

「馬鹿者」

 

桑島の声が飛ぶ。

 

「一度成功した程度で、型を極めたつもりになるな」

 

「ひぃっ!」

 

獪岳は黙って頷いた。

 

「師匠の言う通りです」

 

「うむ」

 

桑島は木刀を構える。

 

「一度だけ出来る技は、技ではない」

 

「…………」

 

「百回やって百回成功する。千回やって千回成功する。それでようやく戦場で使える」

 

獪岳の目が鋭くなる。

 

「なるほど」

 

「しかも鬼との戦いは、道場とは違う」

 

桑島は続ける。

 

「相手は動く。傷つく。血を流す。仲間もおる。恐怖もある」

 

「…………」

 

「その状況でも霹靂一閃を撃てるようになってこそ、壱ノ型を極めたと言える」

 

獪岳は木刀を握った。

 

「やります」

 

善逸も震えながら構える。

 

「俺も……!」

 

「よし」

 

桑島が頷いた。

 

「では、始めるぞ」

 

 

最初の課題は単純だった。

 

直線。

 

二十間。

 

その先に立てられた一本の藁束。

 

それを霹靂一閃で斬る。

 

「雷の呼吸――壱ノ型!」

 

獪岳が踏み込む。

 

――ドンッ!!

 

一瞬で距離を詰める。

 

木刀が藁束を捉えた。

 

だが。

 

「中心から僅かにずれた」

 

桑島が言った。

 

「……はい」

 

「もう一度」

 

「はい!」

 

再び構える。

 

「雷の呼吸――壱ノ型、霹靂一閃!」

 

――ドンッ!

 

今度は中心。

 

「よし」

 

「……!」

 

獪岳の目が光る。

 

だが。

 

「次は百回じゃ」

 

「…………」

 

「百回連続で成功させろ」

 

「はい!」

 

獪岳は迷わなかった。

 

「一!」

 

踏み込む。

 

「二!」

 

「三!」

 

「四!」

 

「五!」

 

何度も。

 

何度も。

 

同じ動作を繰り返す。

 

足を置く位置。

 

腰の角度。

 

呼吸。

 

刀を抜く速度。

 

すべてを微調整していく。

 

十回。

 

二十回。

 

五十回。

 

八十回。

 

九十七。

 

九十八。

 

九十九。

 

「百!」

 

――ドンッ!!

 

百回目。

 

見事に藁束の中心を捉えた。

 

獪岳は息を整えた。

 

「……できた」

 

桑島は頷く。

 

「見事じゃ」

 

「……!」

 

初めて。

 

師匠から明確に褒められた。

 

その瞬間。

 

獪岳の胸の奥に、熱いものが込み上げる。

 

「ありがとうございます」

 

「だが」

 

「……はい?」

 

「まだ終わりではない」

 

「…………」

 

「次は千回じゃ」

 

「……」

 

獪岳の顔が固まった。

 

「千……?」

 

「千じゃ」

 

「…………」

 

横で善逸が青ざめる。

 

「じ、じいちゃん……」

 

「何じゃ」

 

「俺も?」

 

「当然じゃ」

 

「うわあああああ!!」

 

山に悲鳴が響いた。

 

 

昼。

 

五百回。

 

獪岳の足は限界に近づいていた。

 

それでも止まらない。

 

「五百一!」

 

――ドンッ!

 

「五百二!」

 

――ドンッ!

 

「五百三!」

 

――ドンッ!

 

一回ごとに。

 

自分の身体と向き合う。

 

――速く。

 

――正確に。

 

――無駄なく。

 

獪岳の中で、壱ノ型の動きが少しずつ洗練されていく。

 

ただ速いだけではない。

 

最短距離。

 

最小の動作。

 

最大の加速。

 

そして。

 

「…………」

 

獪岳はふと思った。

 

――原作の獪岳は。

 

壱ノ型を使えなかった。

 

雷の呼吸の使い手でありながら、壱ノ型だけは使えなかった。

 

だから。

 

善逸と自分の間には、大きな溝が生まれた。

 

「……違う」

 

獪岳は木刀を握り締める。

 

「俺は……」

 

一歩。

 

「誰かを見下すために、強くなるんじゃない」

 

もう一歩。

 

「誰かと競うためでもない」

 

さらに一歩。

 

「守るためだ」

 

その瞬間。

 

獪岳の身体が走った。

 

――ドォン!!

 

藁束が真っ二つになる。

 

桑島の目が細くなる。

 

「……今のじゃ」

 

「……はい」

 

「今までで一番良い」

 

獪岳は息を切らしながら笑った。

 

「ありがとうございます」

 

 

一方。

 

善逸は。

 

「六百……」

 

「七百……」

 

「八百……」

 

今にも泣きそうな顔で木刀を振っていた。

 

「もう……足が……」

 

「善逸」

 

獪岳が声をかける。

 

「何……?」

 

「力を抜け」

 

「え?」

 

「お前は速くしようとしすぎている」

 

「でも、速くないと駄目なんでしょ?」

 

「違う」

 

獪岳は善逸の構えを直す。

 

「速さは結果だ」

 

「結果?」

 

「身体の動きが無駄なく繋がれば、自然に速くなる」

 

善逸はじっと獪岳を見る。

 

「兄貴は……どうしてそんなこと分かるの?」

 

「……経験だ」

 

「まだ若いのに?」

 

「うるせぇ」

 

善逸は少し笑った。

 

「分かった」

 

そして。

 

もう一度構える。

 

「雷の呼吸……壱ノ型」

 

深く息を吸う。

 

身体の力を抜く。

 

足。

 

腰。

 

肩。

 

腕。

 

すべてを一つにする。

 

「霹靂一閃!」

 

――ドンッ!!

 

善逸の姿が消える。

 

「…………!」

 

獪岳が目を見開いた。

 

善逸は藁束を斬り抜け、数歩先で止まった。

 

「……え?」

 

自分でも驚いている。

 

「今……」

 

獪岳は笑った。

 

「やったな」

 

「兄貴!」

 

「今のは良かった」

 

「本当!?」

 

「ああ」

 

善逸は嬉しそうに笑う。

 

「俺、できた!」

 

「まだ一回だ」

 

「…………」

 

「だから、あと九百九十九回だ」

 

「鬼ぃぃぃぃ!!」

 

「誰が鬼だ!」

 

桑島は二人を見ながら笑っていた。

 

 

夕暮れ。

 

最後の一回。

 

獪岳は道場の中央に立つ。

 

身体は限界。

 

だが。

 

不思議と頭は冴えていた。

 

「千回目」

 

桑島が告げる。

 

「はい」

 

「最後だからと力むな」

 

「分かっています」

 

「最初と同じようにやれ」

 

「…………」

 

獪岳は目を閉じる。

 

呼吸を整える。

 

――一歩目。

 

その一歩に。

 

これまで積み重ねたすべてを乗せる。

 

寺での日々。

 

悲鳴嶼との約束。

 

子供たちの笑顔。

 

桑島との出会い。

 

善逸との修行。

 

そして。

 

未来を変えるという決意。

 

「……行く」

 

獪岳が目を開く。

 

「雷の呼吸――」

 

腰を落とす。

 

「壱ノ型」

 

一瞬。

 

世界から音が消えた。

 

「霹靂一閃!!」

 

――轟ッ!!

 

凄まじい雷鳴。

 

獪岳の身体が一直線に駆け抜ける。

 

刀が藁束を斬り裂く。

 

さらにその後ろに立てられていた細い竹まで。

 

二本。

 

三本。

 

まとめて切断された。

 

「…………」

 

静寂。

 

獪岳は振り返る。

 

「……今のは」

 

桑島が答えた。

 

「見事じゃ」

 

獪岳の目が見開かれる。

 

「壱ノ型を、極めた」

 

「…………!」

 

獪岳は深く頭を下げた。

 

「ありがとうございます!」

 

その声には。

 

今までにない喜びがあった。

 

桑島は頷く。

 

「お前の雷は、確実に強くなっておる」

 

「はい!」

 

「だが、忘れるな」

 

「はい」

 

「型を極めることは、終わりではない」

 

桑島は空を見上げる。

 

「それは始まりじゃ」

 

獪岳も空を見る。

 

「……始まり」

 

「ああ」

 

「なら――」

 

獪岳は刀を握る。

 

「もっと先へ行きます」

 

「うむ」

 

「弐ノ型も、参ノ型も」

 

「ああ」

 

「全部、極めます」

 

そして。

 

獪岳は静かに笑った。

 

「いつか俺だけの雷を作ります」

 

桑島の眉が上がる。

 

「俺だけの?」

 

「はい」

 

「面白いことを言う」

 

「雷の呼吸を極めるだけじゃない」

 

獪岳は未来を見据える。

 

「俺自身の戦い方を、俺自身で作ります」

 

その言葉は。

 

後に。

 

「雷の呼吸・漆ノ型――帝釈天」

 

という、獪岳だけの雷へと繋がっていく。

 

 

夜。

 

縁側。

 

善逸が隣に座る。

 

「兄貴」

 

「何だ」

 

「今日はすごかったね」

 

「お前もな」

 

「俺も?」

 

「ああ」

 

獪岳は善逸を見る。

 

「壱ノ型は、お前にとっても大事な型だ」

 

「うん」

 

「だから絶対に極めろ」

 

「……分かった」

 

善逸は拳を握る。

 

「兄貴には負けないからね」

 

「上等だ」

 

二人は笑う。

 

――まだ。

 

二人とも知らない。

 

いつかこの兄弟弟子が。

 

鬼殺隊の歴史を変えるほどの雷の使い手になることを。

 

そして。

 

それぞれの「漆ノ型」を手にすることを。

 

今はただ。

 

一歩ずつ。

 

雷の道を進んでいく。

 

【大正コソコソ噂話】

 

壱ノ型を千回成功させた日の夜。

 

善逸が嬉しそうに、

 

「俺もいつか、兄貴みたいに速くなる!」

 

と言った。

 

すると獪岳は、

 

「俺より速くなってもいいぞ」

 

と答えた。

 

善逸は驚いて、

 

「いいの?」

 

と尋ねた。

 

獪岳は笑って、

 

「ああ。その時は俺が、お前を追いかける」

 

と答えたという。

 

なお、その会話を聞いていた桑島は、

 

「……良い兄弟弟子になったのう」

 

と一人でしみじみしていた。

 

ちなみに翌朝。

 

善逸が、

 

「じゃあ今日から兄貴より速くなるための修行を――」

 

と言った瞬間。

 

獪岳は、

 

「まず朝飯食ってからだ」

 

と即答。

 

善逸は、

 

「兄貴やっぱり優しい!」

 

と大喜びしたそうだ。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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