『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第十九話 夜明け、炎柱生還

「うおおおおおおッ!! これで――終わりだぁぁぁぁッ!!」

 

夜明け前の荒野を、煉獄杏寿郎の咆哮が震わせた。

 

全身から血を流しながらも、炎柱の両脚は大地を踏みしめている。

 

その眼前では、上弦の参・猗窩座が苦悶に顔を歪めていた。

 

黒紫の雷に焼かれ。

 

藤の花の毒に蝕まれ。

 

さらに煉獄の炎によって肉体を炭化させられたその身体は、もはやかつての圧倒的な再生力を維持できていない。

 

それでも――猗窩座は倒れない。

 

「まだだ……まだ、終わっていない……!」

 

血を吐きながら、猗窩座が唸る。

 

その瞬間、煉獄が大きく踏み込んだ。

 

「終わらせる!!」

 

日輪刀が燃え上がる。

 

灼熱の炎が刀身から噴き出し、荒野を赤く染め上げた。

 

「炎の呼吸――奥義!」

 

煉獄の姿が、一瞬で炎の奔流へと変わる。

 

「玖ノ型・煉獄!!」

 

ズガァァァァァァンッ!!

 

巨大な炎の奔流が地面を抉りながら猗窩座へ突進した。

 

「ぐおおおおおおッ!!」

 

猗窩座は両腕を交差させ、残された力をすべて頸へ集中させる。

 

ギギギギギィィッ!!

 

煉獄の刀が頸へ食い込む。

 

あと少し。

 

あと僅か。

 

「俺は――ここで終わらぬ!!」

 

猗窩座の頸骨が異常な硬度へと変化した。

 

「なにッ!?」

 

ガキィィィン!!

 

凄まじい金属音。

 

煉獄の刃が、頸を完全に断ち切る寸前で弾き飛ばされた。

 

「ぐはぁッ!!」

 

煉獄の身体が宙を舞い、数メートル先の地面を転がる。

 

「煉獄さん!!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

しかし――。

 

猗窩座自身も、すでに限界だった。

 

頸には深々と傷が刻まれ、そこから大量の血が噴き出している。

 

再生しようとしても、黒紫の雷が細胞を焼き、しのぶの毒が再生を阻害する。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

猗窩座は荒い呼吸を繰り返した。

 

その時だった。

 

東の空が、ほんの僅かに白んだ。

 

「……ん?」

 

伊之助が空を見上げる。

 

「おい……あれは何だ?」

 

炭治郎も振り返った。

 

暗黒だった空の向こう。

 

山々の稜線が、淡い橙色に染まり始めている。

 

そして――。

 

一筋の光が荒野へ差し込んだ。

 

「……朝……」

 

炭治郎の瞳が大きく開く。

 

「朝だ!!」

 

その声に、猗窩座の表情が凍りついた。

 

「……太陽……だと?」

 

東の空から、徐々に光が広がっていく。

 

「まずい……!」

 

猗窩座が初めて明確な焦りを見せた。

 

「このままでは……!」

 

上弦の鬼であろうと、太陽だけは恐れる。

 

猗窩座は煉獄たちへ向き直ることすらせず、反射的に森へ向かって走り出した。

 

「待てッ!!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

「逃げるなァァァッ!!」

 

傷ついた身体を無理やり起こす。

 

腹部から激痛が走った。

 

それでも炭治郎は止まらなかった。

 

「逃げるな!! 卑怯者!!」

 

日輪刀を握る力すら残っていない。

 

ならば――。

 

炭治郎は刀を両手で掴み、全身の力を込めて投げつけた。

 

「うおおおおおおッ!!」

 

ヒュンッ!!

 

日輪刀が夜明け前の空を一直線に飛翔する。

 

「ッ!?」

 

逃走する猗窩座の胸へ、刀が深々と突き刺さった。

 

「ぐっ……!」

 

猗窩座が身体をよろめかせる。

 

炭治郎は血を流しながら叫んだ。

 

「鬼殺隊はいつだって暗闇の中で戦ってるんだ!!」

 

「……!」

 

「お前たち鬼みたいに、光を恐れて逃げたりしない!」

 

炭治郎の声が荒野に響く。

 

「煉獄さんは逃げなかった!」

 

「獪岳さんも!」

 

「しのぶさんだって、誰一人置いて逃げなかった!!」

 

猗窩座が振り返る。

 

その瞳には、怒りと悔しさが入り混じっていた。

 

「人間が……!」

 

「人間だから戦うんだ!!」

 

炭治郎の叫びに、猗窩座は何も言い返せなかった。

 

次の瞬間。

 

朝日が森の木々を照らし始める。

 

「くっ……!」

 

猗窩座は日輪刀を胸から引き抜くと、森の奥へ飛び込んだ。

 

「覚えていろ……!」

 

最後にそれだけを残して。

 

上弦の参は、深い森の闇へと姿を消していった。

 

「……逃げやがったか」

 

荒野に倒れ込みながら、獪岳が呟いた。

 

その身体もまた満身創痍だった。

 

黒紫色の雷を纏った『帝釈天』の反動で、全身には無数の裂傷。

 

呼吸をするだけでも激痛が走る。

 

「獪岳さん!」

 

しのぶが駆け寄った。

 

「動かないでください。これ以上動けば本当に死にますよ」

 

「へっ……俺がこの程度で死ぬかよ」

 

「その台詞を言う人ほど危ないんです」

 

しのぶは即座に止血を始める。

 

「まったく……無茶をしすぎです」

 

「……うるせえ」

 

獪岳は苦笑した。

 

そして――。

 

「うむ……」

 

少し離れた場所から、穏やかな声が聞こえた。

 

「朝陽が、とても美しいな」

 

煉獄杏寿郎だった。

 

腹部には深い傷。

 

肩にも大きな裂傷。

 

全身は血まみれ。

 

それでも、彼は立っていた。

 

東の空から昇った太陽を、真っ直ぐに見つめている。

 

「煉獄さん……!」

 

炭治郎の目から、涙が溢れた。

 

「煉獄さん……! よかった……本当に……!」

 

「うむ!」

 

煉獄はいつものように、力強く笑った。

 

「竈門少年!」

 

「はい!」

 

「よく戦ったな!」

 

「……!」

 

「我妻少年! 嘴平少年! 君たちもだ!」

 

「煉獄さぁぁぁん!!」

 

善逸が涙を流しながら駆け寄る。

 

「死んじゃうかと思ったよぉぉぉ!!」

 

「うむ! 俺も少々危なかった!」

 

「少々じゃねえだろ!!」

 

伊之助が叫ぶ。

 

「腹に穴が開いてんぞ!!」

 

「はっはっは!」

 

煉獄は豪快に笑った。

 

「だが、俺は生きている!」

 

その言葉に、炭治郎はさらに涙を零した。

 

「……はい!」

 

煉獄は炭治郎の肩へ手を置く。

 

「誰も死ななかった。それが何よりだ」

 

「……はい!」

 

「君たちは立派だった。柱の力だけで勝ったのではない。君たち若者が最後まで戦い抜いたからこそ、我々も勝機を掴めたのだ」

 

その言葉を聞いた獪岳が鼻を鳴らす。

 

「……褒めすぎだ、杏寿郎」

 

「そうか?」

 

「ガキどもが調子に乗る」

 

「ならば、もっと褒めよう!」

 

「おい!」

 

荒野に笑い声が響いた。

 

やがて朝日が完全に昇る。

 

血に染まった大地。

 

横転した無限列車。

 

傷ついた剣士たち。

 

そして――生き残った三人の柱。

 

そのすべてを、朝の光が優しく照らしていく。

 

長かった夜が終わった。

 

下弦の壱を討ち、上弦の参を退け、二百人を超える乗客の命を守り抜いた。

 

そして何より――。

 

炎柱・煉獄杏寿郎は、生き残った。

 

燃え尽きることなく。

 

その魂の炎を、次の戦いへ繋ぐために。

 

「さあ!」

 

煉獄が立ち上がる。

 

「まずは皆の治療だ! そして、無事に本部へ帰ろう!」

 

「はい!」

 

「おう!」

 

「うん!」

 

「……ったく、元気な奴だ」

 

獪岳も刀を杖にして立ち上がる。

 

しのぶはそんな二人を見て、小さく微笑んだ。

 

「本当に……無茶な人たちですね」

 

朝陽の下。

 

五人の若き剣士と三人の柱たちは、互いに支え合いながら歩き始めた。

 

無限列車での戦いは終わった。

 

しかし、鬼舞辻無惨へと続く戦いは――まだ始まったばかりだった。

 

 

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