『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第二十話 救われた炎、慈雨の雷

東の空から昇った朝日が、長い夜を終わらせるように荒野へ差し込んでいた。

 

横転した無限列車の車体は黒く焼け焦げ、周囲には砕けた木々と大量の土煙が残っている。激しい戦闘の爪痕はあまりにも凄惨だった。

 

それでも――。

 

生きている。

 

二百人を超える乗客も。

 

炭治郎も、善逸も、伊之助も。

 

そして三人の柱も。

 

誰一人として、この夜に命を奪われなかった。

 

「煉獄さん……!」

 

炭治郎は、煉獄の姿を見つけた瞬間、堪えていた涙を一気に溢れさせた。

 

「よかった……本当によかった……!」

 

ボロボロと涙を流しながら、炭治郎は地面に膝をつく。

 

「煉獄さんが……生きてる……!」

 

「うわぁぁぁん! よかったよぉぉぉ!!」

 

善逸も泣き崩れた。

 

「俺、絶対死ぬと思ったんだからなぁぁぁ!」

 

「ガハハハハッ!!」

 

伊之助も泣いているのか笑っているのか分からない顔で叫ぶ。

 

「生き残ったぞォォォ!! 俺様は死なねえんだ!!」

 

そんな三人を見つめながら、煉獄杏寿郎はいつもの力強い笑みを浮かべていた。

 

「泣くな、少年たち!」

 

腹部の傷には深い包帯が巻かれている。

 

決して軽傷ではない。

 

それでも、煉獄の声には衰えを感じさせない力があった。

 

「我々は生き残ったのだ! それならば、まずはその生を喜ぼう!」

 

「……はい!」

 

炭治郎は涙を拭った。

 

「はい……!」

 

煉獄は笑った。

 

しかし、その笑顔の奥には、誰にも見せない深い実感があった。

 

――もし、獪岳がいなければ。

 

――もし、胡蝶が駆けつけてくれなければ。

 

自分は今、この朝日を見ることができなかった。

 

そう理解しているからこそ、煉獄は素直に感謝していた。

 

「まったく……」

 

その隣で、しのぶが包帯を締め直す。

 

「無茶にも程がありますよ、煉獄さん」

 

「うむ!」

 

「もう少し到着が遅れていたら、本当に危なかったんですからね」

 

「承知している!」

 

「……本当に分かっています?」

 

しのぶは笑顔のまま、煉獄の腹部を軽く押した。

 

「ぐっ……!」

 

「痛いでしょう?」

 

「うむ! かなり痛い!」

 

「なら、もう無茶はしないでくださいね」

 

「……努力しよう!」

 

しのぶは呆れたように息を吐いた。

 

しかし、その瞳には隠しきれない安堵が浮かんでいた。

 

仲間を失わずに済んだ。

 

その事実が、何より嬉しかった。

 

一方――。

 

少し離れた場所では、別の戦いが続いていた。

 

「動かないでください!」

 

「うるせえ……触んな……!」

 

隠たちが獪岳の身体を固定し、必死に止血を続けている。

 

獪岳の状態は、煉獄とは比べものにならないほど酷かった。

 

全身の筋肉が裂け。

 

血管が破れ。

 

『帝釈天』の反動によって、身体そのものが限界を超えて損傷している。

 

指一本動かすだけでも激痛が走る。

 

それでも獪岳は、目を閉じなかった。

 

「……クソが」

 

朝日を見上げる。

 

「生き残った……か」

 

その声には疲労が滲んでいた。

 

だが、口元には僅かな笑みが浮かんでいる。

 

上弦の参。

 

あの化物に、自分の雷を叩き込んだ。

 

そして――生きている。

 

「獪岳」

 

聞き覚えのある声がした。

 

「……あ?」

 

振り返る。

 

そこには、隠の肩を借りながら歩いてくる煉獄がいた。

 

「おい……怪我人が動くんじゃねえ」

 

「君にだけは言われたくないな!」

 

「……チッ」

 

獪岳が顔を背ける。

 

「何の用だよ」

 

煉獄は獪岳の前で足を止めた。

 

そして――。

 

深々と頭を下げた。

 

「ありがとう、獪岳」

 

「……」

 

獪岳の眉が僅かに動く。

 

「君の雷がなければ、俺はあの場で命を落としていただろう」

 

煉獄はまっすぐに獪岳を見つめた。

 

「君が命を削って放った『帝釈天』が、猗窩座の力を大きく削いだ。そして、俺たちが夜明けまで戦い抜くための時間を作ってくれた」

 

「……」

 

「俺だけではない」

 

煉獄は炭治郎たちへ視線を向ける。

 

「竈門少年たちも、胡蝶も、君のおかげで生き残った」

 

「やめろ」

 

獪岳が低く呟いた。

 

「そういう綺麗事は聞きたくねえ」

 

「綺麗事ではない!」

 

「……!」

 

「俺は心から感謝している!」

 

煉獄の声が荒野に響いた。

 

獪岳はしばらく黙っていた。

 

やがて――。

 

「……ハッ」

 

鼻で笑う。

 

「勘違いすんじゃねえよ」

 

「うむ?」

 

「俺は誰かを助けるために帝釈天を撃ったんじゃねえ」

 

獪岳は血に濡れた手を握り締める。

 

「俺は俺自身のために戦ったんだ」

 

「……」

 

「誰にも負けたくねえ。誰の足元にも伏したくねえ。泥をすすってでも這い上がって……最後には俺が一番上に立つ」

 

それが獪岳の生き方だった。

 

誰かに認められるためではない。

 

誰かに褒められるためでもない。

 

ただ、自分が踏みつけられてきた過去を否定するために。

 

「だから……」

 

獪岳は煉獄から目を逸らした。

 

「お前を助けたなんて、勘違いすんな」

 

煉獄は黙って獪岳を見つめ――。

 

「そうか!」

 

突然、豪快に笑った。

 

「ならば、それでいい!」

 

「……は?」

 

「君が自分のために戦った結果、俺たちの命が救われた。それもまた君の力だ!」

 

「……」

 

「俺はその事実に感謝する!」

 

獪岳は何も言えなかった。

 

ただ、ほんの少しだけ口元を緩める。

 

「……変な奴だな、お前」

 

「よく言われる!」

 

その二人を、少し離れた場所からしのぶが見ていた。

 

「ふふ……」

 

そして、朝日に照らされる獪岳の姿へ目を向ける。

 

昨夜、獪岳が放った黒紫の雷。

 

あれは決して美しいものではなかった。

 

怒り。

 

憎しみ。

 

執念。

 

己の限界を超えるほどの、凄まじい負の感情。

 

けれど――。

 

その雷が、結果として一人の炎柱を救った。

 

一人の炎を守り。

 

若き剣士たちの未来を守り。

 

二百人以上の命を守った。

 

「……不思議ですね」

 

しのぶが小さく呟く。

 

「あなたの雷は、とても荒々しいのに……」

 

獪岳が振り返る。

 

「なんだよ」

 

「いえ」

 

しのぶは微笑んだ。

 

「とても優しい結果を残したんだな、と」

 

「……」

 

獪岳はしばらく黙り――。

 

「うるせえよ」

 

そう言って顔を背けた。

 

しかし、その耳はほんの少し赤くなっていた。

 

「獪岳さん、照れてるんですか?」

 

「殺すぞ、胡蝶」

 

「ふふふ」

 

荒野に、久しぶりの穏やかな空気が流れる。

 

遠くでは隠たちが乗客の救護を進めている。

 

炭治郎たちは互いの無事を喜び。

 

煉獄は朝日を見つめ。

 

しのぶは静かに微笑み。

 

獪岳は悪態を吐きながら、それでも確かに生きていた。

 

昨夜、那田蜘蛛山で炭治郎が祈ったように。

 

鬼との戦いであっても――。

 

すべてが憎しみだけで終わるわけではない。

 

誰かを守ろうとして放った炎。

 

自分自身のために振るった雷。

 

命を救うために突き刺した毒。

 

それぞれ違う力が重なり合った結果、一つの奇跡が生まれた。

 

「……朝だな」

 

獪岳が呟く。

 

「うむ!」

 

煉獄が答える。

 

「実に美しい朝だ!」

 

東の空から差し込む陽光が、三人の柱を照らした。

 

炎は消えなかった。

 

雷も消えなかった。

 

そして――。

 

その二つを繋いだ慈雨のような奇跡も、決して消えることはない。

 

無限列車での戦いは終わった。

 

だが、鬼殺隊の戦いは続く。

 

そして彼らはまだ知らない。

 

この夜を生き延びたことが、やがて訪れるさらなる激闘へ向けた――大きな転機となることを。

 

 

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