『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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『遊郭編』 第一話 音柱・宇髄天元と遊郭潜入

夜の帳が下りた蝶屋敷。その庭に、ひときわ豪快な怒声が響き渡っていた。

 

「いいか、よく聞け! 俺は神だ! お前らは塵だ! まずはそれを叩き込め!」

 

「……何を言ってるんですか、あの人」

 

「派手派手うるせぇな……」

 

「俺様は神より偉いぞ!」

 

庭の中央で仁王立ちしているのは、派手な装束に身を包んだ大男。

 

音柱・宇髄天元。

 

その両腕には巨大な二振りの日輪刀が携えられ、額には宝石をあしらった額当て。全身から漂う圧倒的な存在感は、まさに「派手」という言葉を人間にしたような男だった。

 

そして、その前に並んでいるのは、無限列車での激戦を乗り越え、ようやく傷を癒した竈門炭治郎、我妻善逸、嘴平伊之助の三人。

 

さらに少し離れた場所には、腕を組みながら不機嫌そうに宇髄を睨みつけている男がいた。

 

「……で? 朝っぱらから俺たちを呼び出して、何の用だデカブツ」

 

鳴柱・獪岳。

 

無限列車で上弦の参・猗窩座との死闘を経験した彼もまた、凄まじい負傷から回復し、すでに任務へ復帰できるまでになっていた。

 

宇髄は獪岳を見て、ニヤリと笑う。

 

「ほう。相変わらず威勢がいいねぇ、鳴柱!」

 

「褒めてねえで用件を言え」

 

「せっかちだなぁ。まあいい。今回の任務は、かなり重要だ」

 

宇髄は懐から一枚の地図を取り出した。

 

「場所は吉原遊郭」

 

「遊郭……?」

 

炭治郎が首を傾げる。

 

宇髄は地図を広げながら、普段の派手な態度から一転、真剣な表情を見せた。

 

「そうだ。昼間は華やか、夜になれば人間の欲望が渦巻く場所。表向きはただの歓楽街だが……そこに鬼が潜んでいる可能性が高い」

 

その言葉に、炭治郎たちの表情が引き締まった。

 

「実は俺の嫁三人が、そこへ潜入捜査に入っている」

 

「お嫁さんが三人!?」

 

善逸が飛び上がる。

 

「三人も!? 宇髄さん、どういう人生送ってるんですか!?」

 

「細かいことを気にするな! 俺は派手な男だからな!」

 

「そこは細かいことじゃないだろうが!」

 

獪岳が呆れたように吐き捨てる。

 

しかし宇髄の表情は再び険しくなった。

 

「その嫁たちから、しばらく連絡がない」

 

空気が変わった。

 

「雛鶴、まきを、須磨。三人とも優秀なくノ一だ。普通なら消息を絶つような連中じゃねぇ」

 

「つまり……鬼に何かされた可能性があるんですね」

 

炭治郎が尋ねる。

 

「ああ。だから俺自身が遊郭へ潜入する。お前らには、その手伝いをしてもらう」

 

宇髄は三人を指差した。

 

「まず、お前ら三人には女装してもらう」

 

「…………は?」

 

炭治郎が固まった。

 

「女装……ですか?」

 

「そうだ。遊郭の店に入り込むなら、男のままじゃ目立ちすぎる」

 

「嫌だぁぁぁぁぁっ!!」

 

善逸の絶叫が蝶屋敷中に響き渡った。

 

「俺は絶対嫌だ! なんで俺が女装なんかしなくちゃいけないんだよぉぉぉ!!」

 

「俺は構わん!」

 

伊之助は即答した。

 

「むしろ面白そうだ!」

 

「猪子は黙ってろ!」

 

そして炭治郎は困ったように頭を掻く。

 

「俺も……任務ならやります」

 

「お前は真面目だな、炭治郎!」

 

「俺は神だ! 任務のためなら女装くらい派手にやれ!」

 

「お前がやるんじゃないだろうが!」

 

獪岳が即座に突っ込んだ。

 

「俺は絶対にやらねえからな」

 

「何だと?」

 

宇髄の眉がピクリと動く。

 

「お前も潜入するんだよ、鳴柱」

 

「俺は男の姿のままでいいだろ」

 

「お前は強すぎる。真正面から乗り込んだら、遊郭の鬼が警戒する。裏から探ってもらう」

 

「……なるほどな」

 

獪岳は少し考えた後、鼻を鳴らした。

 

「なら俺は別行動だ。表に出て騒ぎを起こすより、周辺の気配を探った方が効率がいい」

 

「話が早くて助かるぜ!」

 

宇髄は満足げに笑った。

 

「よし! 潜入開始だ!」

 

そして数時間後。

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

三人の少年は、見事なまでに女装させられていた。

 

炭治郎は『炭子』。

 

善逸は『善子』。

 

伊之助は『猪子』。

 

化粧まで施された三人の姿を見た瞬間、獪岳はしばらく無言になった。

 

「…………ぷっ」

 

「笑うなぁぁぁぁぁっ!!」

 

善逸が顔を真っ赤にする。

 

「アンタもやれよ! なんで俺たちだけこんな目に遭ってんだよ!」

 

「断る」

 

「卑怯者ぉぉぉ!!」

 

「うるせえ。俺まで女装したら、潜入どころか遊郭の客全員が逃げるだろうが」

 

「自覚あるんだ!?」

 

炭治郎も複雑そうな表情を浮かべる。

 

「獪岳さん……似合うと思いますよ」

 

「お前、俺を怒らせたいのか?」

 

「す、すみません!」

 

一方、伊之助は鏡を見ながら満足そうに胸を張っていた。

 

「どうだ! 俺様は美しいだろう!」

 

「お前は猪のままでいいんだよ!」

 

「何だと善子ォ!」

 

「やめろ二人とも!」

 

そんな騒ぎを横目に、宇髄は腕を組んで満足げに頷く。

 

「よし。これなら十分潜入できるな」

 

「本当にこれで大丈夫なのか……?」

 

炭治郎は不安そうに呟いた。

 

やがて一行は吉原へ向かった。

 

夜。

 

巨大な門をくぐった瞬間、炭治郎たちは目を見開いた。

 

無数の提灯。

 

華やかな着物。

 

客を呼び込む声。

 

酒の匂い。

 

香水の匂い。

 

そして、その華やかさの裏側に漂う、言葉では説明できない異様な空気。

 

「ここが……吉原遊郭……」

 

炭治郎は周囲を見渡した。

 

だが、その鼻が捉えたのは人間の匂いだけではなかった。

 

「……鬼の匂いは……まだ分からない」

 

「無理もねえ。これだけ人間の匂いが混じってりゃ、簡単には見つからねえさ」

 

宇髄が低い声で答える。

 

「だからこそ、潜入する価値がある」

 

そして三人は、それぞれ別々の店へと送り込まれていくことになった。

 

炭治郎は荻屋。

 

善逸は京極屋。

 

伊之助はときわ屋。

 

「いいか。無理に鬼を探すな。まずは情報を集めろ」

 

宇髄が最後に念を押す。

 

「そして何か妙なことがあれば、すぐに俺へ知らせろ」

 

「はい!」

 

「了解!」

 

「任せろ!」

 

三人がそれぞれの店へ入っていく。

 

その背後。

 

屋根の上では、獪岳が一人、夜の街を見下ろしていた。

 

「……妙だな」

 

風が吹く。

 

獪岳の髪が揺れ、鋭い瞳が遊郭全体を睨みつける。

 

「人間の街にしちゃあ……鬼の気配が濃すぎる」

 

彼は目を閉じた。

 

聴覚を研ぎ澄ます。

 

足音。

 

話し声。

 

三味線の音。

 

酔客の笑い声。

 

その全てを雷の呼吸によって整理し、異常な音を探る。

 

「……どこだ」

 

その瞬間。

 

遠く離れた一角から、ほんのわずかな違和感が伝わってきた。

 

獪岳の目が開く。

 

「……見つけた、か?」

 

しかし、その気配は一瞬で消えた。

 

「チッ……」

 

獪岳は日輪刀の柄に手を置く。

 

「待ってろよ。必ず引きずり出してやる」

 

華やかな光に包まれた吉原。

 

その地下深くでは、上弦の鬼が静かに笑っていた。

 

そして、炭治郎たちの知らないところで——。

 

「今夜も、いい子が入ってきたわね」

 

花魁の瞳が、妖しく細められる。

 

眠らない街を舞台に、鬼殺隊と上弦の鬼。

 

新たなる死闘の幕が、静かに上がろうとしていた。

 

 

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