『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第二話 美人すぎる鳴柱・獪岳、女装する

「……おい、天元」

 

吉原・京極屋。

 

その裏手にある細い路地で、一人の「女」が凄まじい殺気を放っていた。

 

艶やかな漆黒の髪は美しく結い上げられ、そこには金細工の簪が何本も差し込まれている。身に纏うのは漆黒を基調に金糸の雷模様が走る豪奢な振袖。白粉を施した肌は雪のように白く、切れ長の瞳には鋭い光が宿っていた。

 

しかし、その「美女」は額に青筋を浮かべている。

 

「……ふざけてんのか?」

 

鳴柱・獪岳。

 

本人である。

 

「ハーッハッハ! 何をそんなに怒ってるんだ、鳴柱!」

 

その隣で腹を抱えて笑っているのは、音柱・宇髄天元だった。

 

「俺は至って真面目だぜ? 炭治郎たちを潜入させた以上、俺たちも店の内部を探る必要がある。だが、男の姿じゃ目立ちすぎる」

 

「だからって、なんで俺なんだよ」

 

「決まってるだろう!」

 

天元は獪岳を指差し、堂々と言い放った。

 

「お前、顔が良すぎるんだよ!」

 

「…………」

 

「身長もある。体つきもいい。目つきは鋭いが、それすら遊郭じゃ『気の強い美女』として武器になる!」

 

「褒めてんのか、貶してんのか分かんねえな……」

 

獪岳は苛立たしげに前髪を払う。

 

「俺は鬼を探しに来たんだぞ。遊女の真似事をするためじゃねえ」

 

「だからこそ潜入捜査なんだよ!」

 

天元はニヤリと笑った。

 

「それに、お前ならできる。いや——お前にしかできない」

 

「……何?」

 

「鬼が潜んでいる可能性が高い京極屋の内部に、自然に入り込める奴が必要なんだ。炭治郎たちは下働きとして潜り込んでいる。なら、お前はもっと上の階層へ行けばいい」

 

獪岳は黙り込んだ。

 

確かに理屈は通っている。

 

そして何より——。

 

「……鬼の気配を直接探れる」

 

「ああ」

 

天元が頷く。

 

「お前の聴覚なら、普通の人間じゃ聞き取れない異変も拾える。俺たちが探している『何か』が、ここにいるならな」

 

獪岳は大きく息を吐いた。

 

「……チッ」

 

そして振袖の袖を乱暴に整える。

 

「分かった。やる」

 

「おお!」

 

「ただし」

 

獪岳は天元を睨みつけた。

 

「この任務が終わったら、お前には絶対に借りを返す」

 

「ハハハ! 怖いねぇ!」

 

天元はまるで気にしていない。

 

むしろ満足そうだった。

 

「よし。それじゃあ、仕上がりを確認してみるか!」

 

「仕上がり?」

 

獪岳が振り返る。

 

その瞬間。

 

京極屋の者たちが、一斉に息を呑んだ。

 

「…………」

 

「…………」

 

「な、なんて……」

 

誰も言葉を発せない。

 

やがて、遣手婆が震える声を漏らした。

 

「な……なんて綺麗な姐さん……」

 

「え?」

 

「ちょっと待ってください! こんな方、今まで京極屋にいました!?」

 

「いや、知らねえぞ……!」

 

「どこの店から来たんだ……?」

 

獪岳は眉間に皺を寄せた。

 

「……何見てんだよ」

 

その低い声に、周囲の者たちがビクッと震える。

 

だが——。

 

「まあ……!」

 

遣手婆の目が輝いた。

 

「その気の強そうなお顔!」

 

「……は?」

 

「それに、その冷たい目! 素晴らしいじゃありませんか!」

 

獪岳のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「おい、婆さん。俺は遊女になるつもりは——」

 

「今すぐ店に入りなさい!」

 

「話を聞け!」

 

遣手婆は獪岳の手を取ると、そのまま強引に引っ張っていく。

 

「こんな逸材、絶対に逃がしませんよ!」

 

「離せ! 俺は鬼殺隊だぞ!」

 

「まあ、随分と勇ましい姐さんだこと!」

 

「違うっつってんだろ!」

 

その声を聞いた天元が、腹を抱えて笑った。

 

「ハハハハハ! 大成功じゃねえか!」

 

「天元ァァァッ!」

 

獪岳が振り返って怒鳴る。

 

だが、その姿を見た通行人たちまで足を止めてしまった。

 

「おい、あの女……誰だ?」

 

「見たことねえぞ」

 

「すげえ美人だな……」

 

「いや、あの目つき……怖ぇ……」

 

「そこがいいんじゃねえか!」

 

「…………」

 

獪岳の表情が引きつった。

 

「……なんでこうなる」

 

天元は肩を叩く。

 

「吉原じゃあ、派手さと個性が武器になる。お前は完璧だぜ!」

 

「誰が好き好んで武器になりてえんだよ……」

 

さらに最悪なことに、獪岳の鋭い口調まで遊郭では好意的に受け取られてしまった。

 

「おい、近づくな」

 

「はい!」

 

「触るな」

 

「喜んで!」

 

「俺を舐めてんのか?」

 

「もっと罵ってください!」

 

「…………」

 

獪岳は完全に無言になった。

 

「……吉原って頭おかしい奴しかいねえのか?」

 

「それが遊郭だ!」

 

天元が豪快に笑う。

 

「さあ行け! 『獪子』姐さん!」

 

「その名前をつけたのもお前かァァァッ!」

 

「似合ってるぜ!」

 

「殺す!」

 

「ハハハハハ!」

 

こうして、本人の意思とは完全に無関係に——。

 

鳴柱・獪岳。

 

吉原における仮の名、『獪子』として京極屋への潜入を開始した。

 

だが、門を潜った瞬間。

 

「……!」

 

獪岳の表情が変わった。

 

笑い声。

 

三味線。

 

客の足音。

 

遊女たちの囁き。

 

それら無数の音の奥に、ほんのわずかな異音が混じっている。

 

ズ……。

 

まるで壁の向こうで、何か巨大なものが蠢いたような音。

 

獪岳は足を止めた。

 

「…………鬼か?」

 

耳を澄ます。

 

だが、音はもう聞こえない。

 

「獪子姐さん?」

 

呼ばれて、獪岳はすぐに表情を戻した。

 

「……なんでもねえ」

 

しかし、その瞳だけは鋭く細められていた。

 

「いる」

 

確信。

 

「この店には……何かいる」

 

華やかな京極屋の奥。

 

そこには、炭治郎たちがまだ知らない恐ろしい存在が、静かに息を潜めていた。

 

そして獪岳は、誰よりも早くその気配へと近づいていく。

 

「待ってろよ……」

 

振袖の袖口に隠した日輪刀へ、そっと指を添える。

 

「必ず正体を暴いてやる」

 

吉原潜入捜査。

 

その裏側で、鳴柱・獪岳による独自の追跡が始まった。

 

 

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