『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第18話 雷の呼吸、全ての型

壱ノ型を極めた翌日。

 

獪岳はいつもより早く道場へ来ていた。

 

まだ空が薄暗い。

 

朝露が草を濡らし、山の静寂だけが辺りを包んでいる。

 

獪岳は一人、木刀を握っていた。

 

「…………」

 

目を閉じる。

 

呼吸を整える。

 

「雷の呼吸――壱ノ型」

 

踏み込む。

 

「霹靂一閃」

 

――ドンッ!!

 

一瞬で藁束の前へ。

 

そのまま止まる。

 

「……よし」

 

昨日よりも速い。

 

そして、何より身体が軽い。

 

「基礎はできた」

 

背後から声がした。

 

「師匠」

 

桑島慈悟郎が立っている。

 

「壱ノ型は合格じゃ」

 

「ありがとうございます」

 

「ならば次へ進む」

 

桑島は木刀を手に取った。

 

「雷の呼吸――全ての型を覚える」

 

獪岳の目が輝く。

 

「……全て」

 

「ああ」

 

「俺に、できるでしょうか」

 

「出来るかどうかではない」

 

桑島は厳しく言った。

 

「出来るようになるまで鍛える」

 

「……はい!」

 

その返事には迷いがなかった。

 

 

雷の呼吸。

 

その基本は壱ノ型。

 

しかし、壱ノ型だけではない。

 

雷の呼吸には複数の型が存在する。

 

それぞれが異なる動き。

 

異なる距離。

 

異なる敵への対応。

 

桑島は一つずつ教えていく。

 

「まずは弐ノ型」

 

木刀を構える。

 

「稲魂」

 

――シュンッ!

 

鋭い連撃。

 

「一撃で終わらせる壱ノ型とは違う」

 

「複数の斬撃……」

 

「そうじゃ」

 

獪岳は目で動きを追う。

 

「相手が回避した場合や、間合いが近い場合に有効」

 

「理解が早いな」

 

「見た動きを分析するのは得意なんです」

 

「ならば身体でも覚えろ」

 

「はい!」

 

 

弐ノ型。

 

稲魂。

 

獪岳はひたすら繰り返した。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

連続する斬撃。

 

「もっと滑らかに!」

 

「はい!」

 

「腕だけで振るな!」

 

「はい!」

 

「足も使え!」

 

「はい!」

 

「腰を回せ!」

 

「はい!」

 

「呼吸を乱すな!」

 

「はい!」

 

木刀が空気を裂く。

 

「雷の呼吸――弐ノ型!」

 

――ザッ!

 

藁束が何度も切り裂かれる。

 

「……まだだ」

 

獪岳自身が言う。

 

「もう一度」

 

 

次は参ノ型。

 

「聚蚊成雷」

 

桑島が説明する。

 

「相手を翻弄するための動きじゃ」

 

複雑な足運び。

 

方向転換。

 

連続攻撃。

 

獪岳の眉が寄る。

 

「これは……難しい」

 

「そうじゃ」

 

「壱ノ型とは全然違う」

 

「雷の呼吸は、一つの型だけで戦うものではない」

 

桑島は言った。

 

「状況に応じて型を使い分ける」

 

獪岳は頷いた。

 

「なるほど」

 

「壱ノ型だけに頼るな」

 

「分かりました」

 

 

修行は続く。

 

肆ノ型。

 

遠雷。

 

距離を取った敵への攻撃。

 

獪岳は遠間から一気に踏み込む。

 

「雷の呼吸――肆ノ型!」

 

――ドンッ!

 

木刀が藁束を捉える。

 

「良い」

 

桑島が頷く。

 

「次じゃ」

 

伍ノ型。

 

熱界雷。

 

より強烈な攻撃。

 

獪岳の刀が空気を唸らせる。

 

「……重い」

 

「力任せではない」

 

「はい」

 

「雷の呼吸は速さだけではない」

 

「…………」

 

「速さの中に、力を乗せる」

 

獪岳は何度も試す。

 

失敗。

 

修正。

 

失敗。

 

修正。

 

そして。

 

「雷の呼吸――伍ノ型!」

 

――ズドンッ!!

 

藁束が大きく吹き飛んだ。

 

「……できた」

 

「よし」

 

 

そして。

 

陸ノ型。

 

「電轟雷轟」

 

桑島が技を披露する。

 

一瞬。

 

道場の中を雷が走ったように見えた。

 

獪岳は目を見開く。

 

「…………」

 

「どうじゃ」

 

「凄い」

 

思わず本音が漏れる。

 

「これが雷の呼吸……」

 

「そうじゃ」

 

「俺も……」

 

獪岳は刀を握り直した。

 

「俺も出来るようになります」

 

「うむ」

 

 

それから数週間。

 

獪岳は一つずつ型を覚えていった。

 

壱ノ型。

 

霹靂一閃。

 

弐ノ型。

 

稲魂。

 

参ノ型。

 

聚蚊成雷。

 

肆ノ型。

 

遠雷。

 

伍ノ型。

 

熱界雷。

 

陸ノ型。

 

電轟雷轟。

 

そして――。

 

「漆ノ型」

 

桑島が言った。

 

「……」

 

獪岳は息を呑む。

 

「雷の呼吸・漆ノ型は――」

 

桑島が言葉を止める。

 

「善逸」

 

「はい?」

 

「お前にはまだ教えん」

 

「え!?」

 

「今のお前には早い」

 

「そんなぁ!」

 

善逸が泣きそうになる。

 

獪岳は黙っていた。

 

原作知識がある。

 

善逸の漆ノ型。

 

「火雷神」。

 

善逸が自ら生み出す型。

 

そして――。

 

獪岳自身にも。

 

いつか自分だけの漆ノ型を作る未来がある。

 

だが。

 

まだ、その時ではない。

 

「師匠」

 

「何じゃ」

 

「漆ノ型は……自分で作るものなんですか?」

 

桑島の目が細くなる。

 

「ほう」

 

「雷の呼吸を極めた先にあるのは、そういうものなのかなと」

 

「……面白いことを考える」

 

桑島は微笑んだ。

 

「お前なら、いつか自分だけの型を生み出すかもしれんな」

 

獪岳の胸が熱くなる。

 

「……俺だけの型」

 

「そうじゃ」

 

「…………」

 

獪岳は空を見上げる。

 

まだ名前すらない。

 

まだ形すらない。

 

それでも。

 

自分だけの雷。

 

「……作ります」

 

「何?」

 

「俺だけの型を」

 

獪岳は強く言った。

 

「いつか必ず」

 

桑島は頷いた。

 

「楽しみにしておる」

 

 

その夜。

 

善逸が縁側で獪岳に尋ねた。

 

「ねえ、兄貴」

 

「何だ」

 

「兄貴は、どの型が一番好き?」

 

「…………」

 

獪岳は少し考える。

 

「壱ノ型だな」

 

「やっぱり?」

 

「ああ」

 

「なんで?」

 

獪岳は月を見上げた。

 

「一番最初に覚えた型だからだ」

 

「それだけ?」

 

「それだけじゃねぇ」

 

獪岳は笑う。

 

「一歩目に全部を懸ける技だからな」

 

善逸は黙って聞いていた。

 

「俺は……一歩目を間違えたくない」

 

「…………」

 

「昔の俺は、きっと間違えた」

 

善逸には、その言葉の意味は分からない。

 

だが。

 

「じゃあ、今度は俺も一緒に走るよ」

 

「……」

 

「兄貴がどこに行っても」

 

獪岳は目を見開く。

 

「……馬鹿」

 

「え?」

 

「勝手についてくるな」

 

「でも――」

 

「……置いていくつもりはねぇよ」

 

「!」

 

獪岳は前を向く。

 

「お前も俺も」

 

「うん」

 

「雷の呼吸を極める」

 

「うん!」

 

「鬼殺隊に入る」

 

「うん!」

 

「そして――」

 

獪岳は拳を握った。

 

「誰も死なせない」

 

善逸も拳を握る。

 

「うん!」

 

二人の声が。

 

夜の山に響いた。

 

 

翌朝。

 

獪岳は一人、道場の中央に立っていた。

 

「雷の呼吸――」

 

一つずつ。

 

型を繋いでいく。

 

壱。

 

弐。

 

参。

 

肆。

 

伍。

 

陸。

 

それぞれの型を状況に合わせて繋げる。

 

速さ。

 

力。

 

技術。

 

判断。

 

全てが一つになっていく。

 

「…………」

 

桑島は道場の外から見ていた。

 

「見事じゃ」

 

獪岳は止まる。

 

「ありがとうございます」

 

「お前は、雷の呼吸を極めようとしておる」

 

「はい」

 

「だが」

 

桑島は続けた。

 

「本当に極めるというのは、型を全部覚えることではない」

 

「…………」

 

「その型を使って、誰かを守れるようになることじゃ」

 

獪岳は静かに頷いた。

 

「……はい」

 

そして。

 

刀を握る。

 

「俺は、そうなります」

 

雷の呼吸。

 

全ての型。

 

それは獪岳にとって。

 

過去を変えるための力ではない。

 

未来を守るための力。

 

そして。

 

まだ誰も知らない。

 

この少年がいつか。

 

既存の六つの型を極めた先で――。

 

「帝釈天」

 

という、自らの名を冠する雷を生み出すことを。

 

【大正コソコソ噂話】

 

桑島慈悟郎の弟子になってからしばらく経った頃。

 

善逸は獪岳に尋ねた。

 

「兄貴って、全部の型使えるようになったんだよね?」

 

「ああ」

 

「じゃあ俺も全部覚える!」

 

「そうしろ」

 

「兄貴より速くなる!」

 

「上等だ」

 

「でも……」

 

善逸が少し考える。

 

「兄貴の雷って、なんか怖いよね」

 

「……は?」

 

「なんていうか……雷が怒ってる感じ」

 

「…………」

 

獪岳は少し考えた後。

 

「そうか?」

 

「うん」

 

善逸は笑う。

 

「でも、俺は嫌いじゃないよ」

 

獪岳は一瞬だけ黙って。

 

「……そうかよ」

 

と、そっぽを向いた。

 

なお、後に獪岳が「帝釈天」を完成させた際。

 

善逸は、

 

「やっぱり兄貴の雷、龍になったぁぁぁ!?」

 

と驚愕することになる。

 

――大正コソコソ噂話・終。

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