『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第六話 花魁獪岳、正体を現す

「お前ら全員、遅ぇんだよ」

 

月明かりに照らされた京極屋の屋根の上。

 

激しい戦闘によって瓦は無数に砕け、夜風が焼け焦げた帯の切れ端を宙へと舞い上げていた。

 

その中心に立っていたのは、一人の美しい花魁だった。

 

――否。

 

それは花魁などではない。

 

鬼殺隊・鳴柱、獪岳。

 

先ほどまで彼を覆っていた豪華絢爛な漆黒と金の振袖は、もはや原形を留めていなかった。

 

裾は大きく裂け、帯は引き千切られ、長い黒髪も激しい戦闘によって乱れている。

 

それでもなお、その姿は異様なほど美しかった。

 

月光を浴びる白い肌。

 

鋭く吊り上がった瞳。

 

そして、その全身から迸る凄まじい殺気。

 

吉原中の男たちを魅了した「獪子」という絶世の美女は、完全に消え失せていた。

 

そこにいるのは、鬼を斬るためだけに鍛え上げられた一人の剣士だった。

 

「獪岳さん……!」

 

屋根へ駆け上がった炭治郎が、目を丸くする。

 

「その姿……!」

 

「見るな、クソガキ」

 

「えっ?」

 

「今の俺の格好を見て笑ったら、鬼より先にお前の首を斬る」

 

「笑いませんよ!?」

 

炭治郎は慌てて首を横に振った。

 

だが、その隣では宇髄天元が腹を抱えて笑っている。

 

「ハーッハッハッハッ! おいおい獪岳! お前、最高に派手じゃねえか!」

 

「……」

 

獪岳のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「何が派手だ」

 

「これほど見事な女装で大立ち回りする柱なんざ、俺は初めて見たぜ!」

 

「黙れ、ド派手野郎」

 

「おう!」

 

「この格好のまま戦わせたこと……後で絶対に後悔させてやるからな」

 

「ハッハッハ! 元気そうで何よりだ!」

 

「誰のせいだと思ってやがる!!」

 

獪岳が怒鳴った瞬間だった。

 

「よくも……!」

 

低く、震える声が響いた。

 

屋根の向こう。

 

瓦礫の中から、堕姫がゆっくりと立ち上がる。

 

その美しい顔には、獪岳によって焼かれた傷が残っていた。

 

帯も大部分が焼け落ち、着物は乱れ、白い肌には焦げ跡が走っている。

 

何よりも――その表情には、これまでの余裕が完全に消えていた。

 

「よくも私の顔を……!」

 

堕姫の瞳が血走る。

 

「私の綺麗な顔を傷つけたわねぇぇぇッ!!」

 

「知るか」

 

獪岳は冷たく吐き捨てた。

 

「お前が鬼だってことは、もう分かってんだ。化粧が崩れた程度で騒ぐんじゃねえよ」

 

「なんですってぇぇぇッ!?」

 

堕姫の背後から、無数の帯が噴き出した。

 

まるで巨大な蛇の群れ。

 

一本一本が鋭利な刃物のように変化し、夜空を切り裂きながら四人へ襲いかかる。

 

「死ねぇぇぇッ!!」

 

「炭治郎、下がれ!」

 

「はい!」

 

天元が炭治郎の腕を掴み、後方へ跳ぶ。

 

しかし獪岳は退かなかった。

 

むしろ――前へ出た。

 

「邪魔だ」

 

右手が日輪刀の柄を握る。

 

「雷の呼吸――」

 

バチッ。

 

刀身から青白い電光が迸った。

 

次の瞬間。

 

「陸ノ型・電轟雷轟!!」

 

バリバリバリバリィィィッ!!

 

凄まじい雷鳴が吉原の夜空を震わせた。

 

獪岳の身体を中心として、幾筋もの雷撃が爆発的に放たれる。

 

襲いかかってきた帯が次々と雷に貫かれた。

 

一本。

 

二本。

 

十本。

 

二十本。

 

瞬く間に無数の帯が黒焦げになり、夜空へと散っていく。

 

「なっ……!?」

 

堕姫の目が大きく見開かれた。

 

「私の帯が……!」

 

「遅ぇんだよ」

 

獪岳の姿が消える。

 

「――え?」

 

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

堕姫の目の前に獪岳が現れた。

 

「がっ……!?」

 

刀の峰が堕姫の腹部へ叩き込まれる。

 

その細身の身体が大きく吹き飛び、屋根を何枚も破壊しながら転がっていく。

 

「ぐぁぁぁっ!!」

 

「獪岳さん……速い……!」

 

炭治郎は息を呑んだ。

 

無限列車での戦い。

 

上弦の参・猗窩座との死闘。

 

そして己の限界を超えて放った『帝釈天』。

 

あの戦いを経て、獪岳の剣技は明らかに以前とは違っていた。

 

雷の速度。

 

踏み込み。

 

刀の威力。

 

そして、敵を仕留める判断力。

 

すべてが一段上の領域へと進んでいる。

 

「なんなの……こいつ……!」

 

堕姫が立ち上がる。

 

「柱……? こんな奴が……柱だっていうの!?」

 

「鳴柱だ」

 

獪岳が刀を肩に担ぐ。

 

「覚えとけ」

 

「俺はな――」

 

黒紫の雷気が、全身から噴き上がる。

 

「お前みたいな三流の鬼に、手間取ってる暇はねえんだよ」

 

「三流……ですって?」

 

堕姫の顔が醜く歪んだ。

 

「私は上弦の陸よ!」

 

叫びと共に、堕姫の帯が再び膨れ上がる。

 

今度は先ほどとは比較にならない。

 

屋根の上だけではない。

 

隣接する建物。

 

路地。

 

遊郭の大通り。

 

あらゆる場所から帯が伸び、吉原そのものを覆い尽くそうとしていた。

 

「この私を馬鹿にしたこと……絶対に許さない!」

 

「来るぞ!」

 

天元が二本の日輪刀を抜いた。

 

「炭治郎、俺の後ろから離れるな!」

 

「はい!」

 

獪岳も刀を構える。

 

「おい、ド派手野郎」

 

「なんだ?」

 

「こいつの相手、俺一人で十分だ」

 

「馬鹿言え!」

 

天元が笑う。

 

「上弦相手に一人で突っ込む奴があるか! それに俺は音柱だぜ? 派手に参戦させてもらう!」

 

「チッ……」

 

獪岳は舌打ちした。

 

しかし、その口元には僅かな笑みが浮かんでいる。

 

「なら足手まといになるなよ」

 

「そっくりそのまま返してやるぜ!」

 

二人の柱が並び立つ。

 

その光景を見た炭治郎は、刀を強く握り直した。

 

――その時だった。

 

堕姫が突然、背後を振り返った。

 

「お兄ちゃん……!」

 

声が震える。

 

「お兄ちゃん、出てきて……!」

 

「……?」

 

炭治郎の鼻が反応する。

 

強烈な鬼の匂い。

 

しかも、先ほどまで感じていた堕姫の匂いとは明らかに違う。

 

もっと濃い。

 

もっと禍々しい。

 

そして――恐ろしい。

 

「獪岳さん……!」

 

「ああ」

 

獪岳も気づいていた。

 

「まだいやがるな」

 

堕姫の背中から、黒い血肉がゆっくりと盛り上がっていく。

 

「お兄ちゃん……!」

 

堕姫の顔に、安堵と狂気が入り混じった笑みが浮かぶ。

 

「私をいじめた奴らを……全部殺して……!」

 

ズズズズズ……。

 

背中から伸びた血肉が、人の形を作っていく。

 

やがて姿を現したのは――痩せ細った男。

 

異様に長い手足。

 

醜く歪んだ顔。

 

そして、手には巨大な二本の鎌。

 

「……妹を泣かせるたぁ」

 

男がゆっくりと顔を上げる。

 

その眼には――

 

『上弦』

 

『陸』

 

の文字が刻まれていた。

 

「随分とええ度胸しとるやないか」

 

空気が変わった。

 

炭治郎の背筋を、今まで感じたことのない悪寒が駆け抜ける。

 

天元の表情からも笑みが消える。

 

そして獪岳は、静かに日輪刀を握り直した。

 

「……こいつが本命か」

 

男――妓夫太郎が、醜悪な笑みを浮かべる。

 

「俺の名前は妓夫太郎や」

 

「妹の堕姫と合わせて――」

 

二本の鎌を構える。

 

「上弦の陸や」

 

吉原の夜を支配していた鬼が、ついに二人の姿を現した。

 

花魁・獪岳の潜入捜査は終わった。

 

ここから始まるのは――鳴柱・獪岳、音柱・宇髄天元、そして竈門炭治郎による、上弦の陸との本当の死闘だった。

 

 

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