『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第七話 妓夫太郎、襲来

「お兄ちゃぁぁんッ! こいつらが私をいじめるのぉぉッ!!」

 

堕姫の悲鳴が、夜の吉原を震わせた。

 

その声に呼応するように、彼女の背中から何かが這い出してくる。

 

ズル……ズルズル……。

 

肉を引き裂くような不気味な音。

 

堕姫の背中から溢れ出した血肉が人の形を取り、やがて一人の男へと変貌していく。

 

異様なまでに痩せ細った身体。

 

病的なほど白い肌。

 

血走った眼。

 

そして両手に握られた、巨大な二本の鎌。

 

その姿を見た瞬間、炭治郎の鼻を猛烈な鬼の臭いが襲った。

 

「……っ!」

 

息が詰まる。

 

堕姫だけでも十分に強大だった。

 

だが、今現れた男から放たれている気配は、それとはまるで別物だった。

 

「お兄ちゃん……!」

 

堕姫が嬉しそうに駆け寄る。

 

「私、こいつらに酷いことされたの! 顔も焼かれたし、帯もいっぱい斬られたの!」

 

「そうかぁ……そうかぁ……」

 

男――妓夫太郎は、妹の傷を眺める。

 

その顔に浮かんでいたのは、妹を心配する感情だけではない。

 

憎悪。

 

嫉妬。

 

そして、底なしの醜い執念。

 

「可哀想になぁ……」

 

妓夫太郎は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「俺の妹を傷つけるなんてなぁ……」

 

ギロリ。

 

黄色く濁った瞳が、獪岳たちを捉える。

 

「いい顔してるなぁ、お前ら」

 

舌なめずり。

 

「恵まれた身体……いい顔……強そうな身体……」

 

その声が次第に震えていく。

 

「妬ましいなぁ……」

 

ギリッ。

 

妓夫太郎が鎌を握り締める。

 

「羨ましいなぁ……」

 

そして――。

 

「なぁぁぁぁッ!!」

 

ブンッ!!

 

二本の血鎌が同時に振り抜かれた。

 

「血鬼術――飛血鎌!!」

 

シュババババババッ!!

 

空間そのものを埋め尽くす、無数の血の刃。

 

円を描くように飛び散った血の斬撃が、屋根を、壁を、柱を、何もかもまとめて切り刻んでいく。

 

「ッ……!」

 

獪岳の表情が険しくなる。

 

「なんつう数だ……!」

 

バリィッ!!

 

黒紫の雷気を爆発させ、獪岳がその場から飛び退く。

 

すぐ横を血の刃が通過し、屋根瓦を粉々に吹き飛ばした。

 

だが――。

 

「チッ!」

 

獪岳が首筋を押さえる。

 

ほんの僅かな傷。

 

血が一筋、流れていた。

 

「……毒か」

 

傷口から、猛烈な熱と痺れが広がっていく。

 

獪岳の眉間に皺が寄った。

 

「へへへ……気づいたかぁ」

 

妓夫太郎が嬉しそうに笑う。

 

「俺の血鎌はなぁ……斬っただけで終わりじゃねえんだ」

 

鎌を舐めるように見せつける。

 

「猛毒が身体中を巡るんだよぉ……」

 

「……」

 

「じわじわ苦しんで、最後には死ぬ」

 

妓夫太郎は、楽しそうに笑った。

 

「お前みたいな美人さんが苦しんで死ぬところ……見てみてぇなぁ」

 

「誰が美人だ」

 

獪岳の声が低くなる。

 

「俺は男だ」

 

「……は?」

 

妓夫太郎が固まる。

 

堕姫も固まる。

 

「男……?」

 

「今さらかよ」

 

獪岳が苛立たしげに吐き捨てる。

 

「その目は節穴か?」

 

「……」

 

妓夫太郎の顔が引きつる。

 

「お前……男なのか……?」

 

「だからそう言ってんだろうが!」

 

「兄ちゃん、この人男なの!?」

 

堕姫まで驚愕している。

 

「俺だって今知ったよぉ!!」

 

「何でだよ!」

 

「知るかぁ!!」

 

緊迫した戦場に、一瞬だけ奇妙な沈黙が流れた。

 

だが――。

 

「……まあ、いい」

 

妓夫太郎の表情から笑みが消える。

 

「男だろうが女だろうが関係ねぇ」

 

両手の鎌がギラリと輝いた。

 

「俺の妹を傷つけた奴は、みんな殺す」

 

その瞬間。

 

「四の五の言ってんじゃねえ!!」

 

轟音と共に、宇髄天元が跳び込んだ。

 

「ド派手に首を叩き落としてやるぜぇぇッ!!」

 

二本の日輪刀が大きく振り下ろされる。

 

ガキィィィィン!!

 

妓夫太郎の血鎌と天元の二刀が激突した。

 

火花が夜空へ散る。

 

「ほぉ……!」

 

妓夫太郎の口元が歪む。

 

「力もあるなぁ……!」

 

「そりゃどうも!」

 

天元が二本の刀を交差させ、一気に押し込む。

 

「だがな――!」

 

ドンッ!!

 

「俺は音柱だ! 上弦だろうが何だろうが、派手にぶった斬る!」

 

その背後から、堕姫の帯が伸びる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「分かってるよぉ!」

 

妓夫太郎が天元の刀を弾き飛ばし、同時に堕姫の帯が天元の背後へ迫る。

 

「天元さん!」

 

炭治郎が叫ぶ。

 

「させるか!」

 

バリバリバリッ!!

 

獪岳が雷光となって割り込んだ。

 

日輪刀が帯を薙ぎ払い、そのまま妓夫太郎へと斬り込む。

 

「雷の呼吸――!」

 

「おっとぉ!」

 

妓夫太郎が身体を捻る。

 

獪岳の刀が頬を掠め、血が飛び散った。

 

「へへっ……!」

 

妓夫太郎の笑みが深くなる。

 

「速ぇなぁ……!」

 

「だったら――もっと速くしてやるよ!」

 

獪岳の全身から黒紫の雷気が噴き上がる。

 

だが、首筋の傷から毒がさらに体内へ侵入していく。

 

「……っ」

 

一瞬だけ、獪岳の膝が揺らいだ。

 

炭治郎はそれを見逃さなかった。

 

「獪岳さん、毒が……!」

 

「黙ってろ!」

 

獪岳は荒い息を吐きながら刀を構え直す。

 

「こんな毒……俺が克服できねえとでも思ってんのか?」

 

「へへへ……強がるねぇ」

 

妓夫太郎が鎌を構える。

 

「でもなぁ……毒ってのは、強がりじゃ止まらねぇんだよぉ」

 

堕姫も左右から帯を展開する。

 

「お兄ちゃん、あいつ殺して!」

 

「ああ」

 

兄妹の殺気が、一気に膨れ上がった。

 

天元も二刀を構え直す。

 

「来るぞ、炭治郎!」

 

「はい!」

 

炭治郎が刀を握り締める。

 

夜空には無数の帯。

 

屋根には血の刃。

 

そして、その中心に立つ二人の上弦。

 

対するは、音柱・宇髄天元と鳴柱・獪岳、そして竈門炭治郎。

 

「上弦の陸が兄妹で一組ってわけか……」

 

獪岳が不敵に笑う。

 

「だったら――二人まとめて叩き潰すだけだ」

 

「派手に同感だ!」

 

天元が叫ぶ。

 

「行くぞ、獪岳!」

 

「命令すんじゃねえ!」

 

「ハッハッハ! そういうところも気に入ったぜ!」

 

次の瞬間。

 

雷鳴と爆音が、吉原の夜を再び引き裂いた。

 

上弦の陸――堕姫と妓夫太郎。

 

兄妹二人を同時に相手取る、死闘の幕が今、切って落とされた。

 

 

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