『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第九話「音と雷、上弦の陸を撃破」

「お兄ちゃん……! お兄ちゃんの首が……治らないよぉぉぉッ!」

 

堕姫の絶叫が、半壊した吉原の夜空を震わせた。

 

切り落とされた二つの首が、瓦礫の上を転がっていく。

 

妓夫太郎と堕姫。

 

上弦の陸として百年以上もの間、数え切れないほどの人間を喰らってきた兄妹。その二人が、今や再生すらできず、無惨な姿を晒していた。

 

「ぐ……ぎ……っ!」

 

妓夫太郎が歯を食いしばる。

 

首を落とされた程度ならば、本来ならば瞬く間に再生できる。

 

しかし、今回は違った。

 

「帝釈天」によって叩き込まれた黒紫の雷気が、妓夫太郎の細胞を内部から焼き続けている。

 

さらに天元の爆破によって肉体そのものが徹底的に破壊され、再生しようとする細胞が次々と弾け飛んでいた。

 

「な……ぜだ……!」

 

妓夫太郎の目が血走る。

 

「俺たちは……上弦の陸だぞ……! 百年以上も……鬼殺隊の柱を喰ってきた……! なのに……なんで……!」

 

「なんでだと?」

 

その問いに答えたのは、屋根の上で刀を構える獪岳だった。

 

全身傷だらけ。

 

首筋には血鎌による傷。

 

毒は未だに身体を蝕んでいる。

 

それでも、獪岳は倒れなかった。

 

「簡単な話だ」

 

バチッ。

 

その日輪刀から、弱々しくも鋭い雷光が走る。

 

「俺たちが……お前らより強かっただけだ」

 

「……ッ!」

 

妓夫太郎の顔が醜く歪む。

 

「ふざけるなぁぁぁッ!!」

 

怒りに任せ、残された胴体から大量の血が噴き出す。

 

「血鬼術……円斬旋回!!」

 

無数の血の刃が渦を巻きながら周囲へ広がっていく。

 

瓦礫を。

 

柱を。

 

家屋を。

 

すべてを切断しながら、猛毒を帯びた血鎌が獪岳たちへ殺到した。

 

だが――。

 

「往生際が悪ぃんだよ」

 

獪岳が一歩、前へ出る。

 

「雷の呼吸――」

 

バリバリバリッ!!

 

黒紫の雷が刀身へ集中する。

 

「伍ノ型――熱界雷!!」

 

ドガァァァァンッ!!

 

至近距離から叩き込まれた黒雷が、妓夫太郎の胴体を直撃した。

 

「ぐおおおおおおおおッ!?」

 

血鬼術そのものを吹き飛ばすほどの爆発。

 

妓夫太郎の肉体が大きく弾け、黒煙とともに瓦礫の中へ叩き込まれる。

 

「もう一発だ!」

 

「おいおい!」

 

天元が獪岳の肩を掴む。

 

「お前、今の一撃でぶっ倒れそうな顔してるぜ?」

 

「うるせえ……!」

 

獪岳は血を吐きながら睨み返す。

 

「ここで止めを刺さなきゃ……また立ち上がるだろうが……!」

 

「ハッ!」

 

天元は豪快に笑った。

 

「その根性、嫌いじゃねえぜ!」

 

二本の日輪刀を構える。

 

「なら、派手に終わらせるとするか!」

 

その頃。

 

少し離れた瓦礫の上では、炭治郎が堕姫と妓夫太郎の二つの首を見つめていた。

 

「……お兄ちゃん……」

 

「うるさい……」

 

「私のせいじゃないもん……!」

 

「お前が……もっとちゃんとしてりゃ……」

 

「お兄ちゃんだって……!」

 

いつものように兄妹は互いを責め始める。

 

しかし、その声には先ほどまでの勢いがない。

 

消滅が近づいている。

 

それを感じ取っているのだろう。

 

炭治郎は静かに二人へ歩み寄った。

 

「……もう、喧嘩しなくていいんだよ」

 

妓夫太郎の瞳が炭治郎を捉える。

 

「……あ?」

 

「二人とも、本当は仲良しだったんでしょう?」

 

「……」

 

「世界でたった二人の兄妹なんだから……最後まで、お互いを責めなくてもいいんじゃないかな」

 

妓夫太郎の表情が歪む。

 

「……うるせぇ……」

 

その声は、怒鳴り声ではなかった。

 

「知ったような口……きくんじゃねぇ……」

 

けれど。

 

その目から、一筋の涙が零れた。

 

「俺は……こいつを……」

 

言葉が続かない。

 

堕姫もまた、涙を流していた。

 

「お兄ちゃん……」

 

二人の身体が、少しずつ灰へと変わっていく。

 

「……ずっと……一緒だった……」

 

炭治郎は何も言わず、その二人を見つめ続けた。

 

やがて、朝焼けの風が吹く。

 

兄妹の身体は灰となり、淡い光の中へ溶けていった。

 

――上弦の陸・妓夫太郎、堕姫。

 

討伐。

 

しかし、勝利の余韻に浸る暇はなかった。

 

「……終わった、のか……?」

 

炭治郎が呟く。

 

その直後。

 

「終わったみたいだな!」

 

天元が二本の刀を肩に担ぎ、豪快に笑った。

 

「派手に勝ったぜ!」

 

だが、その声にも疲労が滲んでいる。

 

天元の身体には毒が回っていた。

 

そして獪岳もまた、限界寸前だった。

 

「……チッ」

 

獪岳が刀を地面へ突き立てる。

 

「……身体が……重ぇ……」

 

膝が崩れた。

 

「獪岳さん!」

 

炭治郎が駆け寄る。

 

「触るな……!」

 

「でも!」

 

「……大丈夫だ」

 

獪岳は荒い息を吐きながら、なんとか身体を起こす。

 

「俺は……まだ死んでねえ」

 

その直後。

 

「おいおい、鳴柱!」

 

天元がニヤリと笑った。

 

「今回の一番手柄は俺だろ?」

 

「は?」

 

獪岳の眉が跳ね上がる。

 

「寝言は寝て言え、ド派手野郎」

 

「何だと?」

 

「妓夫太郎の首を斬ったのは俺だ」

 

「俺が堕姫の首を斬っただろうが!」

 

「俺があの野郎の再生を止めた」

 

「俺が毒を食らいながら戦った!」

 

「俺だって毒食らってんだよ!」

 

二人の柱が睨み合う。

 

その光景に、炭治郎は思わず苦笑した。

 

「……二人とも、元気ですね」

 

「どこがだよ!!」

 

「どこがだぁ!!」

 

見事なまでに声が重なった。

 

そして――。

 

「……ふっ」

 

炭治郎の口元から、小さな笑みが零れた。

 

誰も死ななかった。

 

それだけで十分だった。

 

やがて東の空から、朝日が昇り始める。

 

血と炎と雷に彩られた長い夜が、ようやく終わろうとしていた。

 

崩壊した吉原。

 

傷ついた二人の柱。

 

そして、傷だらけになりながらも生き残った炭治郎たち。

 

その全員を、朝の光が静かに照らしていく。

 

「……勝ったんだな」

 

炭治郎が呟く。

 

獪岳は空を見上げ、静かに鼻を鳴らした。

 

「当然だ」

 

そして、わずかに口角を上げる。

 

「俺がいるんだからな」

 

こうして――。

 

音柱・宇髄天元。

 

鳴柱・獪岳。

 

二人の柱による共闘によって、上弦の陸・妓夫太郎と堕姫は討ち果たされた。

 

吉原の夜に刻まれた、二人の柱の勝利。

 

その戦いは、鬼殺隊の歴史に新たな一頁を刻むこととなった。

 

 

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