『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第二話 霞柱・時透無一郎との再会

「……ねえ。そこ、邪魔なんだけど」

 

刀鍛冶の里、その裏手に設けられた広い鍛錬場。

 

朝から響いていた刀鍛冶たちの槌音も一段落し、山から吹き下ろす涼やかな風が木々を揺らしていた。

 

その静かな場所で、獪岳は一人、日輪刀を手にしていた。

 

まだ修復中の愛刀ではない。

 

里から借り受けた訓練用の刀だ。

 

「……ふっ!」

 

振り下ろす。

 

ヒュンッ!

 

空気が裂ける。

 

もう一度。

 

さらにもう一度。

 

獪岳は黙々と刀を振り続けていた。

 

遊郭での戦いによって、自分の力がまだ足りないことを痛感していたからだ。

 

妓夫太郎。

 

堕姫。

 

そして、あの二人を相手に放った『帝釈天』。

 

勝利はした。

 

だが、紙一重だった。

 

「……まだ足りねえ」

 

額から流れる汗を乱暴に拭う。

 

「もっと速く。もっと強く……」

 

その時だった。

 

「だから、そこを退いてって言ってるんだけど」

 

背後から、淡々とした声が響いた。

 

獪岳の動きが止まる。

 

ゆっくり振り返った先。

 

そこに立っていたのは、長い黒髪を風に揺らす少年だった。

 

霞柱・時透無一郎。

 

鬼殺隊最年少の柱にして、若くして柱の座へ上り詰めた天才剣士。

 

無一郎は感情の薄い瞳で獪岳を見つめていた。

 

「……あぁん?」

 

獪岳の眉が跳ね上がる。

 

「後から来たガキが、何ぬかしてんだ?」

 

「僕が先に使いたかったんだけど」

 

「俺が先にいるだろうが」

 

「だから退いてほしいんだよ」

 

「……」

 

数秒の沈黙。

 

二人の間を、山風が吹き抜ける。

 

「お前……」

 

獪岳のこめかみに青筋が浮かんだ。

 

「相変わらず、人を小馬鹿にしたようなツラしてやがるな」

 

「そう?」

 

無一郎は首を傾げる。

 

「別に馬鹿にしてないよ」

 

「余計に腹が立つんだよ、その態度が!」

 

獪岳の身体から、バチッと小さな雷が弾けた。

 

無一郎の瞳がわずかに細くなる。

 

「……雷の人」

 

「誰が『雷の人』だ」

 

「前に見たときも怒ってたから」

 

「俺は鳴柱だッ!」

 

「そうだったっけ」

 

「忘れんな!」

 

「ごめん」

 

まったく悪びれていない。

 

「……こいつ」

 

獪岳の拳が震える。

 

そこへ――。

 

「獪岳さん! 時透さん!」

 

鍛錬場の入口から、炭治郎が慌てた様子で駆け込んできた。

 

その後ろには、からくり人形・縁壱零式の整備をしていた小鉄の姿もある。

 

「また喧嘩ですか!?」

 

「喧嘩じゃねえ!」

 

「喧嘩だよ」

 

「お前は黙ってろ!」

 

「ほら、やっぱり喧嘩じゃん」

 

「時透さんまで……!」

 

炭治郎が頭を抱える。

 

「獪岳さん、ここは里の鍛錬場なんですから、刀鍛冶の皆さんに迷惑をかけちゃ駄目です!」

 

「俺は迷惑なんざかけてねえ」

 

「でも時透さんと睨み合ってます!」

 

「こいつが喧嘩を売ってきたんだよ!」

 

「僕は場所を譲ってほしいって言っただけだけど」

 

「それが喧嘩売ってんだよ!」

 

「……よく分からないな」

 

「テメェ……!」

 

獪岳が一歩踏み出した、その瞬間。

 

「まあまあ。二人とも、落ち着いてください」

 

鈴を転がすような声が響いた。

 

全員が振り返る。

 

そこには、湯上がりの浴衣姿で立つ胡蝶しのぶがいた。

 

蝶の髪飾りが朝日に照らされ、濡れた髪からわずかに水滴が落ちている。

 

「しのぶさん!」

 

炭治郎が安堵の声を上げる。

 

「ちょうどよかったです。獪岳さんと時透さんが……」

 

「ふふ。大体分かりました」

 

しのぶは微笑みながら二人の間へ歩み寄る。

 

そして獪岳を見上げた。

 

「獪岳さん」

 

「……なんだよ」

 

「時透くんは、縁壱零式を使いたいのでしょう?」

 

「だから何だ」

 

「でしたら、少し譲ってあげてください」

 

「俺だって鍛錬中だ」

 

「ええ。ですから、私と一緒に別の場所へ行きませんか?」

 

「……」

 

「あなたの刀が完成するまで、私がお相手しますよ」

 

その言葉に、獪岳の表情が少しだけ変わった。

 

「……お前が?」

 

「はい」

 

しのぶはニッコリ笑う。

 

「恋人との鍛錬なら、獪岳さんも文句はないでしょう?」

 

「……チッ」

 

獪岳は舌打ちしながら刀を肩に担いだ。

 

「仕方ねえな」

 

そのまま立ち去ろうとする。

 

しかし――。

 

「でも」

 

無一郎がぽつりと言った。

 

「君、僕より弱いのに、なんでそんなに偉そうなの?」

 

「…………」

 

空気が凍った。

 

炭治郎の顔から血の気が引く。

 

小鉄がそっと後ずさる。

 

しのぶは笑顔のまま額に手を当てた。

 

「時透くん……」

 

「だって事実でしょ?」

 

「……テメェ」

 

獪岳の肩が震える。

 

「誰が……誰より弱いだと?」

 

「僕」

 

「知ってるわ!」

 

獪岳の足元で雷が爆ぜる。

 

「今すぐここで白黒つけてやろうか、クソガキィィィッ!!」

 

「獪岳さん、めっ、ですよ」

 

「しのぶ! こいつだけは許せねえ!」

 

「駄目です」

 

「なんでだ!」

 

「ここは刀鍛冶の里ですから」

 

「……チッ!」

 

しのぶが笑顔のまま指を一本立てる。

 

その笑顔の奥に漂う、妙に圧のある気配。

 

獪岳は渋々、雷気を収めた。

 

「……覚えてろよ、時透」

 

「うん」

 

「いつか必ず叩き潰してやる」

 

「そのときは相手するよ」

 

無一郎は興味が薄れたように、すぐさま縁壱零式へ視線を戻した。

 

「……あの野郎」

 

獪岳が忌々しげに振り返る。

 

だが、その瞳にあるのは単なる怒りだけではなかった。

 

(天賦の才だけで柱になったようなツラしやがって……)

 

無一郎の剣技を思い出す。

 

あの若さ。

 

あの落ち着き。

 

そして、底の知れない才能。

 

(気に入らねえ)

 

拳を握る。

 

(俺は泥をすすって、血を吐いて、ようやくここまで這い上がったんだ)

 

だからこそ。

 

才能だけで自分より高い場所へ立つ者を、獪岳は認められなかった。

 

(いつか絶対に追い越してやる)

 

それは獪岳にとって、怒りであると同時に新たな原動力でもあった。

 

「獪岳さん?」

 

「……なんだ」

 

「行きましょう」

 

しのぶが手を差し出す。

 

獪岳は一瞬だけその手を見ると、乱暴に掴んだ。

 

「……俺はもっと強くなるぞ」

 

「ええ。知っています」

 

「次に会ったときは、あのガキを絶対に黙らせる」

 

「ほどほどにしてくださいね」

 

「無理だな」

 

二人が鍛錬場を離れていく。

 

その背中を、無一郎は一瞬だけ見送った。

 

「……雷の人」

 

そして、何かを思い出しかけたように眉を寄せる。

 

「……前にも、会ったことがあるような……?」

 

だが、その記憶は霞の向こうへ消えていく。

 

一方――。

 

刀鍛冶の里を取り囲む深い森。

 

そこでは、二人の異形が静かに里を見下ろしていた。

 

一人は、上弦の伍。

 

もう一人は、上弦の肆。

 

「……柱がいるねぇ」

 

「うん。面白そうだなぁ」

 

笑い声が、誰にも届かない森の奥で響く。

 

穏やかな里の一日。

 

その裏側では、鬼舞辻無惨が送り込んだ上弦の鬼たちが、確実にその牙を研いでいた。

 

そして獪岳と時透無一郎。

 

二人の柱の再会もまた、間もなく始まる壮絶な戦いの前触れに過ぎなかった。

 

 

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