『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第四話 上弦の伍・玉壺、蟲柱の怒り

「ヒヒヒヒッ! 素晴らしい! なんと素晴らしい光景でしょう! これぞ至高の芸術! これぞ、私だけに許された美の極致でございますよぉ!!」

 

破壊された刀鍛冶の里。

 

瓦礫と煙が立ち込める小道の中央で、不気味な壺がぐにゃりと蠢いた。

 

次の瞬間。

 

ぬるり。

 

壺の口から這い出してきたのは、人間とは到底呼べぬ異形だった。

 

頭部にはいくつもの目と口。

 

身体には魚のような鱗。

 

そして、歪んだ笑みを浮かべながら周囲を見渡すその姿は、見る者に生理的な嫌悪感を抱かせるには十分すぎるものだった。

 

上弦の伍。

 

玉壺。

 

その周囲には、血まみれになった刀鍛冶たちが転がっていた。

 

壺の中に閉じ込められた者。

 

肉体を魚のような異形へと変えられた者。

 

そして、まだ息があるにもかかわらず、玉壺の「作品」として弄ばれている者。

 

「見てください! この素晴らしき作品を!」

 

玉壺が両腕を広げる。

 

「鍛冶師どもを捏ね繰り回し、苦痛と恐怖を一つの形へと昇華させた傑作! 題して――『鍛冶屋の断末魔』!!」

 

「……」

 

その場にいたしのぶは、何も言わなかった。

 

ただ、静かに玉壺を見つめている。

 

普段ならば、どれほど不愉快な相手でも笑顔を崩さない。

 

しかし今の彼女の顔からは、その微笑みすら消えていた。

 

「……醜い」

 

「……なに?」

 

玉壺の笑顔が止まる。

 

しのぶはゆっくりと刀を構えた。

 

「あなたは、ご自分を芸術家だと思っていらっしゃるのですか?」

 

声は穏やかだった。

 

穏やかすぎるほどに。

 

「でしたら、ずいぶんと可哀想な方ですね。命を弄び、苦しむ人を見て喜ぶ。それを芸術だと勘違いしているなんて……」

 

しのぶの瞳が細くなる。

 

「あなたの作品より、あなた自身のほうがよほど醜いですよ」

 

「……私が……醜いだとぉぉぉッ!?」

 

玉壺の顔が醜悪に歪んだ。

 

「無知な人間がぁ! この私の芸術を侮辱するとはッ! 許さんぞォォォッ!!」

 

壺が大きく脈動する。

 

「血鬼術――千本針魚殺!!」

 

ドバァァァッ!!

 

壺から無数の魚が飛び出した。

 

その口から吐き出されたのは、鋭い針の雨。

 

一本一本に猛毒が仕込まれ、触れただけでも身体を麻痺させる凶悪な攻撃だった。

 

「しのぶ、下がってろ!」

 

獪岳が一歩前へ出る。

 

「俺がやる!」

 

「獪岳さん!」

 

「雷の呼吸――」

 

全身から黒紫の雷気が噴き上がる。

 

「肆ノ型・遠雷!!」

 

バリバリバリィィッ!!

 

獪岳の身体が掻き消えた。

 

次の瞬間。

 

無数の雷光が戦場を駆け抜け、飛来した毒針を一つ、また一つと弾き飛ばしていく。

 

「なにぃ!?」

 

玉壺が目を見開く。

 

「この数の毒針を、全て叩き落としただとぉ!?」

 

「毒を使う相手は、もう慣れてんだよ!」

 

獪岳が着地すると同時に、刀を玉壺へ向ける。

 

「その程度の芸当で、俺たちを止められると思うな!」

 

「おのれぇぇ……! ならば直接、私の芸術作品にしてくれるわ!!」

 

玉壺が壺の中へ潜り込む。

 

「血鬼術――蛸壺地獄!!」

 

ドゴォォォン!!

 

巨大な触手が地面を突き破った。

 

太い触腕が獪岳へ殺到する。

 

「チッ!」

 

獪岳が雷撃を纏わせて斬り払う。

 

しかし、その隙を狙うように別の触手が横から迫った。

 

「獪岳さん、右です!」

 

しのぶの声。

 

「分かってる!」

 

獪岳が身を捻る。

 

触手が目の前を掠めた。

 

だが――。

 

「……遅いですよ」

 

しのぶが消えた。

 

「なっ……!?」

 

玉壺が振り返る。

 

いつの間にか、その背後にしのぶが立っていた。

 

「私の恋人に、これ以上触れないでくださいね」

 

「き、貴様……いつの間に――」

 

「蟲の呼吸――」

 

しのぶの刀が閃く。

 

「蝶ノ舞・戯れ」

 

シュッ!!

 

細身の日輪刀が、玉壺の身体へ深々と突き刺さった。

 

「ぐおおおおッ!?」

 

玉壺が絶叫する。

 

刀身から流し込まれた藤の花の毒が、一気に鬼の体内へ侵入していく。

 

「ぐっ……毒だとぉ!? また毒だとぉぉ!?」

 

「ええ」

 

しのぶは静かに答える。

 

「私、毒を扱うのが得意なんです」

 

にこり。

 

そこで初めて、いつもの笑顔が戻った。

 

ただし、その笑顔には一切の温かさがなかった。

 

「それに……」

 

しのぶは玉壺の身体から刀を引き抜く。

 

「あなたのような方には、少し強めのお薬が必要みたいですね」

 

「貴様ぁぁぁッ!!」

 

玉壺が激昂し、無数の触手を振り回す。

 

だが――。

 

「しのぶ、下がれ!」

 

獪岳の怒声。

 

バリィィィッ!!

 

黒紫の雷撃が炸裂し、触手をまとめて焼き切った。

 

「こいつは俺が削る!」

 

「ふふ。では、私は毒を追加しておきますね」

 

「好きにしろ!」

 

炎、雷、そして蟲。

 

刀鍛冶の里に集った三人の柱たちが、上弦の伍へと牙を剥く。

 

その一方。

 

里の別の場所では、炭治郎と蜜璃もまた、それぞれの敵と激突していた。

 

そして玉壺はまだ知らない。

 

目の前にいる鳴柱・獪岳が、無限列車と遊郭で二度にわたる死闘を経験し、以前とは比較にならないほどの力を手にしていることを。

 

そして――。

 

その恋人である蟲柱・胡蝶しのぶが、愛する者を傷つける存在に対しては、決して容赦しないことを。

 

「上弦の伍……」

 

獪岳が刀を握り直す。

 

黒紫の雷が、夜の里を照らす。

 

「ここで俺たちがまとめて叩き潰してやるよ」

 

「ヒヒッ……!」

 

玉壺の口が大きく裂ける。

 

「面白い……! ならば、あなた方の死に様も私の芸術作品にして差し上げましょう!!」

 

再び、上弦の鬼の血鬼術が炸裂する。

 

轟音。

 

雷鳴。

 

毒。

 

そして鬼の狂笑。

 

刀鍛冶の里を舞台にした柱と上弦の死闘は、ここからさらに激しさを増していくのだった。

 

 

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