『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第六話 鳴柱・獪岳、霞柱を救う

「おいガキィィッ!! いつまで水遊びしてやがる!!」

 

深い森の中に、怒号が響き渡った。

 

玉壺の血鬼術によって生み出された異様な水の塊――『水獄鉢』。

 

その内部に閉じ込められていたのは、霞柱・時透無一郎だった。

 

身動きは取れず、呼吸もできない。

 

肺に残された僅かな空気も、すでに底を尽きかけていた。

 

「……っ……!」

 

無一郎の意識が徐々に薄れていく。

 

刀を振るうどころか、指一本を動かすことさえ困難だった。

 

その時――。

 

森の奥から、凄まじい雷鳴が轟いた。

 

「雷の呼吸――」

 

バリバリバリバリッ!!

 

黒紫の雷気が夜の森を駆け抜ける。

 

「伍ノ型――熱界雷!!」

 

ドッッッゴォォォォン!!

 

高熱を帯びた雷撃が水獄鉢へ直撃した。

 

一瞬で水が沸騰し、巨大な水塊が内部から爆発する。

 

「――ッ!」

 

無一郎の身体が放り出された。

 

ドサッ!

 

地面に叩きつけられた無一郎は、両手を地面について激しく咳き込む。

 

「ゲホッ……! ゴホッ……!」

 

肺へ一気に空気が流れ込み、苦しそうに何度も呼吸を繰り返す。

 

「ハッ……ハァ……」

 

その視界に映ったのは、黒紫の雷を纏った日輪刀を握る男だった。

 

鳴柱・獪岳。

 

「……君……?」

 

無一郎が呆然と呟く。

 

獪岳は肩で息をしながら、傷だらけの身体で無一郎を見下ろしていた。

 

隊服には裂傷が走り、頬にも血が流れている。

 

玉壺の刺客たちと戦いながら、ここまで駆けつけたのだ。

 

「ハッ!」

 

獪岳は鼻で笑った。

 

「天才様が水遊びで死にかけるたぁ、笑わせてくれるじゃねえか」

 

「……」

 

無一郎は何も言い返さない。

 

ただ、目の前にいる獪岳を見つめていた。

 

少し前まで、鍛錬場で顔を合わせれば互いに睨み合っていた。

 

自分より年下の無一郎を、獪岳は何かと気に食わない存在として扱っていた。

 

それなのに。

 

「……なんで、僕を助けたの?」

 

無一郎の問いに、獪岳は眉間に皺を寄せる。

 

「勘違いするな」

 

刀を肩に担ぐ。

 

「お前を助けたくて来たんじゃねえ」

 

「……じゃあ、どうして?」

 

「お前が死んだら――」

 

獪岳の表情が険しくなる。

 

「俺が『柱を死なせた』って言われるだろうが。それが胸糞悪いんだよ」

 

「……」

 

「それに、柱が一人欠けりゃ鬼殺隊全体の戦力が落ちる。俺が気に食わねえ奴だからって、死ぬのを黙って見てるほど腐っちゃいねえ」

 

ぶっきらぼうな言葉。

 

けれど、その行動は誰よりも雄弁だった。

 

無一郎はしばらく獪岳を見つめ――。

 

「……そっか」

 

小さく呟いた。

 

「君って、本当に素直じゃないね」

 

「うるせえ」

 

「助けてくれたのに」

 

「黙れ」

 

「心配してくれたんだ」

 

「黙れっつってんだろ!」

 

獪岳のこめかみに青筋が浮かぶ。

 

しかし――。

 

無一郎の口元には、ごく僅かな笑みが浮かんでいた。

 

「……ありがとう」

 

「……チッ」

 

獪岳は顔を背ける。

 

「礼なんざいらねえ」

 

その時だった。

 

「グルルルル……!!」

 

森の奥から不気味な唸り声が響く。

 

ズズズズズ……。

 

木々の間から、巨大な魚のような異形が何体も姿を現した。

 

玉壺が生み出した化け物たちだ。

 

「見つけたぞォォ!!」

 

「ヒヒヒッ! 人間どもを喰らえぇ!!」

 

無数の異形が二人を取り囲む。

 

獪岳が舌打ちした。

 

「……面倒くせえ奴らが来やがった」

 

無一郎もゆっくりと立ち上がる。

 

まだ肺には痛みが残っている。

 

身体も完全には動かない。

 

それでも――。

 

「僕も戦える」

 

「無理すんな」

 

獪岳が即座に言い放つ。

 

「さっきまで水の中で溺れてたんだぞ」

 

「でも、刀は握れる」

 

無一郎が日輪刀を構えた。

 

「それに……刀鍛冶の人たちが襲われてる」

 

その瞳から、霞のような迷いが消えていく。

 

「助けないと」

 

「……ハッ」

 

獪岳が口元を吊り上げる。

 

「やっと柱らしい顔になりやがったな、ガキ」

 

「君に褒められても、あまり嬉しくないけど」

 

「喧嘩売ってんのか?」

 

二人の間に、いつもの険悪な空気が戻る。

 

だが――。

 

その背中は、互いに預け合うように並んでいた。

 

「来るぞ!」

 

無一郎の声。

 

「分かってる!」

 

獪岳が刀を抜く。

 

バリィィィィッ!!

 

黒紫の雷が夜の森を駆け抜ける。

 

同時に、無一郎の周囲には白い霞が立ち込めた。

 

雷。

 

そして霞。

 

性格も戦い方もまるで違う二人の柱が、初めて肩を並べる。

 

「雷の呼吸――陸ノ型!」

 

「霞の呼吸――」

 

「電轟雷轟!!」

 

「参ノ型・霞散の飛沫!」

 

ズガァァァァン!!

 

黒紫の雷撃と白い霞が同時に炸裂した。

 

迫り来る魚型の鬼たちが、次々と吹き飛ばされる。

 

「おいガキ!」

 

獪岳が叫ぶ。

 

「動けるなら、とっとと刀鍛冶の連中を護りに行くぞ!」

 

「うん」

 

無一郎は頷いた。

 

「獪岳さんもね」

 

「……あ?」

 

「一人で全部倒そうとしないでよ」

 

「誰に口利いてやがる」

 

「僕より強いって威張ってた人」

 

「てめぇ……!」

 

獪岳が怒鳴りかける。

 

しかし、その口元には――ほんの僅かに笑みが浮かんでいた。

 

「……上等だ。ついて来い、霞柱」

 

「うん。よろしく、鳴柱」

 

二人は同時に地面を蹴った。

 

雷鳴が轟く。

 

霞が舞う。

 

刀鍛冶の里を守るため、二人の柱が並び立った。

 

その姿は、先ほどまでの険悪な関係からは想像もつかないほど自然だった。

 

そして――森のさらに奥では、上弦の伍・玉壺が不気味な笑みを浮かべていた。

 

「ほほう……柱が二人揃いましたか」

 

壺の中から無数の目がぎょろりと動く。

 

「ならば、二人まとめて私の芸術作品にして差し上げましょう……!」

 

刀鍛冶の里を舞台にした戦いは、さらなる激戦へと突入していく。

 

 

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