『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第七話 蟲柱・胡蝶しのぶ、参戦

「ヒヒヒヒッ! 毒だと!? この玉壺に毒を盛ったつもりかねぇ!? 愚か! 実に愚かですぞ、人間どもォ!」

 

刀鍛冶の里、その一角。

 

幾重にも破壊された家屋の間を、異様な笑い声が響き渡っていた。

 

そこに立っているのは、もはや先ほどまでの玉壺ではない。

 

脱皮によって醜悪な肉体を脱ぎ捨てた上弦の伍は、全身を硬質な鱗で覆い、まるで異形の魚を思わせる姿へと変貌していた。

 

「この肉体は芸術そのもの! 並の刃など通しはしない! まして毒など、この玉壺には――」

 

玉壺が勝ち誇ったように両腕を広げる。

 

その瞬間だった。

 

「……あ?」

 

ぽつり。

 

玉壺の頬に、紫色の斑点が浮かび上がった。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

それは瞬く間に顔面全体へと広がり、硬質な鱗の隙間から黒紫色の血管が浮き上がっていく。

 

「……な、なんだ……これは?」

 

次の瞬間。

 

「ぎゃああああああああッ!!」

 

玉壺の絶叫が里中に轟いた。

 

「身体が……ッ! 私の身体が内側から腐っていくぅぅッ!? こんな毒、いつの間にィィッ!?」

 

「まあ。ようやく効いてきましたか」

 

鈴のように涼やかな声が響く。

 

玉壺が弾かれたように顔を上げた。

 

月明かりを背に、ひらり、ひらりと蝶の羽ばたきを思わせる動きで樹上から降りてくる人影。

 

紫色の瞳。

 

蝶の髪飾り。

 

そして、微笑みを浮かべた細身の剣士。

 

「蟲柱……胡蝶しのぶ……!」

 

しのぶは地面へ音もなく着地すると、手にした日輪刀を静かに構えた。

 

「ええ。こんばんは、玉壺さん」

 

その声には、いつもの柔らかな響きがある。

 

だが、その瞳には一切の笑みがなかった。

 

「あなたの鱗は想像以上に厄介ですね。普通の藤の花毒では、効果が出るまでに時間がかかりすぎます」

 

刀身に塗布されているのは、藤の花から精製した毒。

 

さらに刀鍛冶の里に自生していた薬草を組み合わせ、しのぶ自身が即座に調整した対・上弦用の特殊毒だった。

 

「毒を一種類だけだと思っていただいては困りますよ」

 

「き、貴様ァ……!」

 

玉壺が怒りに顔を歪める。

 

その瞬間。

 

「――おい」

 

低い声が響いた。

 

「余計な口出しすんじゃねえと言ったはずだぞ、しのぶ」

 

黒紫の雷が地面を走った。

 

バリ……バリバリバリッ!!

 

獪岳だった。

 

先ほどまで玉壺の配下を相手に戦い続けていたため、その身体には無数の傷が刻まれている。

 

さらに遊郭で受けた妓夫太郎の毒も完全には抜け切っていない。

 

それでも彼は、日輪刀を握ったまま立っていた。

 

「一人で片付けるつもりだったんだよ」

 

「そう言うと思っていました」

 

しのぶは微笑む。

 

そして、獪岳の隣まで歩み寄った。

 

「ですが、獪岳さん」

 

「なんだよ」

 

「あなたのお体は、もう十分すぎるほど無茶をしています」

 

「……うるせえ」

 

「遊郭で上弦の陸と戦い、その直後に刀鍛冶の里まで来て、今度は上弦の伍と交戦。しかも、先ほどから傷口が開いています」

 

「だからどうした」

 

「どうした、ではありません」

 

しのぶが獪岳の腕を掴む。

 

「これは重傷です」

 

「……チッ」

 

素早く薬布を取り出し、傷口へ巻きつける。

 

その手つきは驚くほど優しかった。

 

「痛みますか?」

 

「痛くねえ」

 

「嘘ですね」

 

「……」

 

「あなたは痛くても『痛い』と言わないでしょう?」

 

「……余計なこと言うな」

 

獪岳は顔を背ける。

 

その耳が、ほんの僅かに赤くなっている。

 

しのぶはそんな恋人の横顔を見つめ、小さく笑った。

 

「ふふ。そういう意地っ張りなところも、私は好きですよ」

 

「……戦場で惚気てんじゃねえ」

 

「惚気ではありません。事実を言っただけです」

 

「同じだろうが!」

 

「おやおや」

 

二人のやり取りを眺めていた無一郎が、ぽつりと呟いた。

 

「仲良いんだね」

 

「どこがだッ!」

 

獪岳が即座に怒鳴る。

 

「僕にはそう見えるけど」

 

「時透くん。今はあまり刺激しないほうがいいですよ」

 

「分かった」

 

無一郎は素直に頷き、刀を構え直した。

 

その瞬間だった。

 

「貴様らァァァァッ!!」

 

ズドォォォン!!

 

玉壺が大地を叩き割った。

 

「私を無視して恋人ごっこだと!? 許さん! この玉壺を愚弄する者は、全員私の最高傑作にしてくれるわァァッ!」

 

無数の壺が地面から出現する。

 

そこから巨大な魚の化け物たちが次々と飛び出し、鋭い牙を剥き出しにして三人へ殺到した。

 

「来ます!」

 

しのぶが跳躍する。

 

「蟲の呼吸――蝶ノ舞・戯れ!」

 

シュッ!!

 

紫電のような軌跡を残し、しのぶの刀が魚鬼の身体を次々と貫く。

 

「ギャアアアッ!」

 

「数が多いね」

 

無一郎も霞のように姿を消した。

 

「霞の呼吸・肆ノ型――移流斬り」

 

ヒュンッ!

 

次の瞬間には、無数の魚鬼の首が宙を舞っていた。

 

「チッ……俺に雑魚の相手をさせるな!」

 

そして獪岳。

 

全身から、漆黒に近い黒紫の雷が爆発的に噴き上がる。

 

「雷の呼吸――陸ノ型・電轟雷轟!!」

 

バリバリバリバリィィィッ!!

 

大地を走った雷撃が一瞬で周囲を覆い、残っていた魚鬼をまとめて吹き飛ばす。

 

爆発。

 

轟音。

 

そして静寂。

 

三人が同時に着地する。

 

霞。

 

蟲。

 

雷。

 

異なる戦い方をする三柱が、初めて完全に同じ敵へ刃を向けた。

 

「ヒ……ヒヒ……!」

 

玉壺の笑みが引きつる。

 

「三人がかりだと……? この私を相手に……?」

 

「ええ」

 

しのぶが刀を構える。

 

「三人がかりです」

 

「僕も、もう逃がすつもりはないよ」

 

無一郎の瞳から迷いが消える。

 

そして獪岳が、刀を低く構えた。

 

「三人で十分だ」

 

「な……なんだ、その目は……!?」

 

獪岳の瞳に宿るのは、凄まじい殺気だった。

 

「俺はな……上弦に負けるためにここへ来たんじゃねえ」

 

バリ……バリバリ……。

 

黒紫の雷が日輪刀へ集束していく。

 

「俺より上にいる奴を、全部叩き落とすために来たんだよ」

 

「生意気な人間めェェェッ!!」

 

玉壺が怒号を上げる。

 

同時に、しのぶと無一郎が左右へ散開。

 

獪岳が正面へ踏み込んだ。

 

「行きましょう、時透くん」

 

「うん」

 

「俺に合わせろ、二人とも!!」

 

「「はい!」」

 

三つの殺気が、一つの標的へ収束する。

 

毒によって蝕まれた上弦の伍。

 

記憶を取り戻した霞柱。

 

そして、己の限界を超え続ける鳴柱。

 

「来るなァァァァッ!!」

 

玉壺の絶叫とともに、無数の壺が一斉に割れた。

 

「雷!」

 

黒紫の閃光。

 

「霞!」

 

白い霧が視界を覆う。

 

「蟲!」

 

蝶のような斬撃が舞う。

 

次の瞬間、刀鍛冶の里を震わせる三柱の猛攻が、上弦の伍へと一斉に襲いかかった。

 

――上弦の伍・玉壺。

 

その命運は、いよいよ風前の灯となっていた。

 

 

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