『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第八話 霹靂・帝釈天、上弦を穿つ

「ヒヒヒヒヒッ……! ふざけるなァァァッ!!」

 

刀鍛冶の里を覆う森の中に、玉壺の狂笑が響き渡る。

 

無数の木々がなぎ倒され、地面には巨大な亀裂が走っていた。そこに立つのは、脱皮によって醜悪な外殻を捨て、硬質な鱗を全身に纏った玉壺の完全体。

 

しかし、その余裕に満ちた顔には、明らかな異変が生じていた。

 

「この私が……この玉壺がァ! 貴様らのような羽虫ごときに追い詰められるなど、あってはならんのだァァッ!!」

 

顔面を走る紫色の斑点。

 

しのぶの毒が、確実に玉壺の体内を侵食している証拠だった。

 

「芸術とは永遠! 美とは不滅! 私の作品は未来永劫語り継がれるのだ! それを貴様らは――!」

 

「……長いな」

 

ぽつり。

 

玉壺の怒号を遮ったのは、時透無一郎だった。

 

「え?」

 

「君の話、長いよ。しかも、ちっとも面白くない」

 

無一郎は淡々と刀を構える。

 

「だから、もう終わりにしよう」

 

「き……貴様ァァァッ!!」

 

玉壺の顔が怒りで歪んだ。

 

「ならば、この至高の芸術をその身で味わえェェェッ!!」

 

ドォン!!

 

完全体となった玉壺が大地を蹴る。

 

その速度は、先ほどまでとは比較にならない。

 

「陣殺魚鱗!!」

 

無数の打撃が嵐のように放たれた。

 

ドガガガガガガッ!!

 

巨木が砕け、岩盤が抉れ、土砂が宙へ舞い上がる。

 

一撃一撃が必殺。

 

まともに受ければ柱といえど致命傷は免れない。

 

だが――。

 

「霞の呼吸……漆ノ型」

 

無一郎の姿が、ふっと消えた。

 

「朧」

 

シュッ――。

 

玉壺の視界から無一郎が消える。

 

右。

 

いや、左。

 

次の瞬間には背後。

 

さらに前方。

 

霞が濃くなったかのように、無一郎の姿が幾重にも揺らめいていく。

 

「なっ……どこだァッ!?」

 

「ここだよ」

 

ザシュッ!

 

玉壺の腕が斬り裂かれる。

 

「ぐおっ!?」

 

振り向いた瞬間には、無一郎はすでに消えていた。

 

「こっちです」

 

今度は背後から声。

 

「な――」

 

シュッ!

 

さらに一閃。

 

玉壺の鱗が切り裂かれる。

 

「おのれェェェッ!! 小賢しい真似をォォッ!!」

 

玉壺が周囲をめちゃくちゃに殴りつける。

 

しかし、無一郎の姿を捉えることができない。

 

「焦っていますね」

 

そこへ、しのぶが静かに入り込んだ。

 

「な……!?」

 

「失礼します」

 

「蟲の呼吸――蝶ノ舞・戯れ」

 

シュシュシュシュッ!!

 

幾つもの鋭い突きが玉壺の身体へ叩き込まれる。

 

一撃。

 

二撃。

 

三撃。

 

すべてが毒を仕込んだ突き。

 

「ぐぎゃああああっ!!」

 

玉壺の身体が大きく痙攣する。

 

「貴様……! また毒をォォッ!!」

 

「ええ。先ほどより濃くしてあります」

 

しのぶが微笑む。

 

「あなたの再生速度に合わせて、毒の濃度も調整しました」

 

「ふざけるなァァッ!!」

 

玉壺が腕を振り上げる。

 

だが――。

 

「今です、獪岳さん!」

 

しのぶの声が響いた。

 

「言われなくても分かってんだよォッ!!」

 

バリィィィィッ!!

 

森の奥から、漆黒の雷光が炸裂した。

 

地面が爆発する。

 

獪岳だった。

 

全身は傷だらけ。

 

遊郭で負った傷も完全には癒えておらず、さらに玉壺の配下との戦闘によって肉体は限界へ近づいている。

 

それでも――。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

獪岳は刀を握り締めた。

 

指先から血が滴る。

 

呼吸をするだけで肺が焼ける。

 

筋肉が悲鳴を上げる。

 

それでも、その瞳だけは死んでいなかった。

 

むしろ――燃えていた。

 

(あのガキに……)

 

無一郎を見る。

 

霞を纏いながら玉壺を翻弄する天才剣士。

 

(遅れを取るわけにはいかねえ……!)

 

次に、しのぶを見る。

 

自分の傷を気遣いながらも、戦場では一切の躊躇なく毒を叩き込んでいる恋人。

 

(ましてや、しのぶの前で……情けねえところなんざ見せられるかよ……!)

 

獪岳の口元が歪む。

 

「俺は……!」

 

バリバリバリバリッ!!

 

雷鳴が森を震わせる。

 

「誰よりも上に行くんだよォォォッ!!」

 

ドクンッ!!

 

心臓が大きく脈打った。

 

全身の血液が沸騰する。

 

肺が裂けそうになるほど呼吸を深くする。

 

そして――。

 

黒紫だった雷が、徐々に色を失っていく。

 

紫。

 

黒。

 

漆黒。

 

最後には、光そのものを呑み込むような暗黒の雷へと変貌した。

 

「獪岳さん!」

 

しのぶが叫ぶ。

 

「無茶は――!」

 

「うるせえッ!!」

 

獪岳が吼える。

 

「ここで無茶しなくて、いつ無茶するんだよォォッ!!」

 

無一郎が玉壺の動きを完全に封じる。

 

「獪岳さん」

 

霞の向こうから声が届く。

 

「今なら、斬れるよ」

 

「上等だ……!」

 

獪岳が腰を落とした。

 

足元の大地が、ミシリと沈む。

 

「雷の呼吸――」

 

玉壺が振り返る。

 

「な……なんだ、その構えは……!?」

 

しのぶが静かに笑った。

 

「玉壺さん」

 

「な、なんだァッ!?」

 

「あなたの敗因は、一つです」

 

しのぶの瞳が細くなる。

 

「私たち三人を、最後まで別々に戦う相手だと思っていたことでしょう」

 

無一郎が霞を広げる。

 

しのぶが玉壺の再生を毒で縛る。

 

そして獪岳が――。

 

「異形――」

 

世界が静止した。

 

風が止まる。

 

木々の葉が止まる。

 

玉壺の叫びすら、遠くへ消えたように感じられる。

 

「帝釈天――ッ!!」

 

ドカアァァァァァンッ!!

 

森が爆ぜた。

 

漆黒の雷光が一条の神槍となり、大地を一直線に駆け抜ける。

 

その速度は、玉壺の視認能力を完全に超えていた。

 

「な……っ!?」

 

玉壺の瞳が見開かれる。

 

「消え――」

 

次の瞬間。

 

獪岳は、玉壺の懐にいた。

 

「――遅ぇんだよ」

 

ギィィィンッ!!

 

日輪刀が振り抜かれる。

 

硬質な鱗を。

 

筋肉を。

 

骨を。

 

すべてをまとめて断ち切る。

 

「そ……そんな……!」

 

玉壺の首が宙へ舞った。

 

「あ……ああああああッ!!」

 

頭部だけになった玉壺が絶叫する。

 

「私の首がァァッ!! この美しい私の首がァァァッ!!」

 

ドサッ。

 

地面へ落ちた頭部を、無一郎が静かに見下ろす。

 

「……美しくないよ」

 

「な――」

 

「全然」

 

「き、貴様ァァァァッ!!」

 

怒号を上げる玉壺。

 

だが、すでに首から下の肉体は崩壊を始めていた。

 

しのぶの毒。

 

無一郎の霞。

 

そして獪岳の『帝釈天』。

 

三柱の連携によって、上弦の伍・玉壺の再生能力は完全に限界を迎えていた。

 

「俺たち三人を相手にして……」

 

獪岳が血まみれの刀を肩へ担ぐ。

 

「よく粘ったじゃねえか、バケモノ」

 

「貴様……! 私を誰だと――」

 

「知るか」

 

獪岳は吐き捨てる。

 

「俺が知ってるのは一つだけだ」

 

漆黒の雷が、刀身から静かに散った。

 

「上弦だろうが何だろうが――俺の前に立つなら、叩き斬る」

 

その言葉と同時に、玉壺の身体が大きく崩れた。

 

「ぎ……ぎぎ……!」

 

上弦の伍。

 

玉壺。

 

その命の灯火は、ついに消滅寸前まで追い詰められていた。

 

 

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