『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第九話 炭治郎たち、夜明けを掴む

「ヒィィィィッ!! 助けてくれぇぇッ!! わしは何も悪くない! 悪いのはあいつらじゃぁぁッ!!」

 

夜明け前の森を、半天狗の悲鳴が不気味に駆け抜けていく。

 

上空では、憎珀天が生み出した巨大な木竜が何本も絡み合い、地面を抉りながら暴れ狂っていた。

 

「甘露寺さん! 右です!」

 

「分かってるわ!」

 

ドゴォォォン!!

 

木竜の一撃を、甘露寺蜜璃が紙一重でかわす。

 

「恋の呼吸――伍ノ型・揺らめく恋情・乱れ爪!」

 

しなやかな日輪刀が鞭のようにしなり、巨大な木竜を次々と切り刻んでいく。

 

「はぁ……はぁ……! まだよ……! 炭治郎君たちが頑張ってるんだもの! 私も負けられないわ!」

 

蜜璃の頬には汗と泥が付着していた。

 

腕は痺れ、脚にも疲労が溜まっている。

 

それでも、彼女は一歩も退かなかった。

 

その頃――。

 

森のさらに奥。

 

「逃がすかぁぁぁッ!!」

 

炭治郎が全速力で駆けていた。

 

その前方を、豆粒ほどの大きさしかない半天狗の本体が必死に逃げている。

 

「ひぃっ! 来るな! わしは弱い! わしは可哀想な老人じゃぁぁッ!」

 

「ふざけるな!」

 

炭治郎の目が怒りに燃える。

 

「お前が弱いかどうかなんて関係ない! お前はたくさんの人を殺した! 刀鍛冶の人たちを苦しめた!」

 

隣では玄弥が銃を構えながら追走していた。

 

「炭治郎! あと少しだ!」

 

「分かってる!」

 

半天狗は木々の隙間を縫うように逃げる。

 

小さな身体。

 

異常なまでの逃走能力。

 

そのうえ、憎珀天によって時間を稼がれている。

 

「くそっ……!」

 

炭治郎が歯を食いしばる。

 

その時だった。

 

ふっと、世界の音が遠のいた。

 

木々の揺れ。

 

土を踏む音。

 

半天狗の鼓動。

 

すべてが鮮明になる。

 

炭治郎の瞳が研ぎ澄まされた。

 

透き通る世界。

 

「……見えた」

 

半天狗の小さな身体。

 

その内部。

 

「そこだ……!」

 

心臓。

 

血管。

 

筋肉。

 

そして、命の核。

 

「逃がさない!!」

 

炭治郎が跳躍する。

 

しかし――。

 

東の空が、白み始めた。

 

「……え?」

 

炭治郎の顔から血の気が引いた。

 

朝。

 

太陽が昇る。

 

そして、そのすぐ後ろから――。

 

「炭治郎!!」

 

玄弥の叫びが響いた。

 

「禰豆子が!」

 

「……ッ!?」

 

炭治郎が振り返る。

 

そこには、朝焼けの光を浴びた禰豆子がいた。

 

「禰豆子!!」

 

ジュッ……。

 

白い煙が立ち上る。

 

「いやぁぁぁぁッ!!」

 

禰豆子の皮膚が焼ける。

 

 

苦しそうな声。

 

炭治郎の身体が凍りついた。

 

前方には、逃げ続ける半天狗。

 

背後には、陽光に焼かれる禰豆子。

 

「……どうすれば……」

 

刀を握る手が震える。

 

(半天狗を追えば、禰豆子が……!)

 

(禰豆子を助ければ、半天狗を逃がしてしまう……!)

 

どちらか一つしか選べない。

 

「くそ……!」

 

炭治郎の脳裏に、これまで出会ってきた人々の姿が浮かぶ。

 

守るべき人。

 

失いたくない命。

 

そして、自分のために命を懸けてくれた仲間たち。

 

「俺は……!」

 

その時だった。

 

ドンッ!!

 

背中に衝撃が走った。

 

「うわぁぁっ!?」

 

炭治郎の身体が前方へ吹き飛ばされる。

 

「禰豆子!?」

 

振り返った炭治郎の目に映ったのは――。

 

焼けただれながらも、必死に笑う妹の姿だった。

 

「い……って……」

 

禰豆子は痛みに耐えながら、両手を伸ばす。

 

そして――。

 

炭治郎を太陽の下へ蹴り飛ばした。

 

炭治郎の目から涙が溢れた。

 

「禰豆子ォォォォッ!!」

 

叫びながら、日輪刀を強く握り締める。

 

怒り。

 

悲しみ。

 

決意。

 

すべての感情が一つに重なっていく。

 

刀身が、徐々に赤く染まった。

 

「ヒノカミ神楽――」

 

半天狗が振り返る。

 

「ひ、ひぃぃっ!?」

 

「飛輪陽炎!!」

 

ズバァァァァッ!!

 

赫く染まった刃が閃いた。

 

逃げ惑う極小の身体を正確に捉え――。

 

「ぎゃあああああああッ!!」

 

半天狗の首が宙を舞った。

 

「わしは悪くない……! わしは……!」

 

その言葉を最後に、上弦の肆の身体が崩れ始める。

 

「ぎ……ぎぎ……!」

 

肉体が灰となり、朝風にさらわれていく。

 

「やった……!」

 

玄弥が息を呑む。

 

だが、炭治郎は勝利を喜ばなかった。

 

「禰豆子……!」

 

刀を放り捨て、炭治郎は妹のもとへ駆け戻る。

 

「禰豆子! 禰豆子ぉぉぉッ!!」

 

膝をつき、焼け焦げた身体を抱きしめる。

 

「ごめん……! ごめんな禰豆子! 俺が……俺が選んだせいで……!」

 

返事がない。

 

「禰豆子……!」

 

炭治郎の頬を、大粒の涙が伝う。

 

その時――。

 

「……お……はよう……」

 

「……え?」

 

聞き間違いかと思った。

 

炭治郎がゆっくり顔を上げる。

 

そこには――。

 

朝日の中に立つ禰豆子がいた。

 

「お……はよう……」

 

「禰豆子……?」

 

炭治郎の瞳が大きく見開かれる。

 

「太陽の下に……いる……?」

 

禰豆子の身体から、もう煙は上がっていない。

 

焼けた皮膚も、ゆっくりと元へ戻っている。

 

「禰豆子……!」

 

炭治郎は妹を強く抱きしめた。

 

「禰豆子ぇぇぇぇッ!!」

 

「お兄ちゃん……」

 

二人は朝日の中で抱き合い、涙を流した。

 

「生きてる……! 禰豆子が生きてる!」

 

少し離れた場所では、玄弥が呆然とその光景を見つめていた。

 

「鬼が……太陽を……克服した……?」

 

さらに森の向こう。

 

玉壺との戦いを終えた獪岳、しのぶ、無一郎。

 

憎珀天との激戦を終えた蜜璃。

 

全員が、朝日の中で立つ禰豆子を見つめていた。

 

「……あれが、太陽を克服した鬼……」

 

しのぶが静かに呟く。

 

無一郎も珍しく驚いた表情を浮かべている。

 

「鬼なのに……日光を浴びても平気なんだ」

 

蜜璃の瞳には、驚きと喜びが入り混じっていた。

 

「すごい……! 本当に奇跡よ……!」

 

そして獪岳は、黙って禰豆子を見つめていた。

 

「……太陽を克服、か」

 

その言葉の意味を、彼は直感的に理解していた。

 

これは単なる奇跡ではない。

 

鬼舞辻無惨が、千年以上もの間追い求めてきたもの。

 

太陽を克服する鬼。

 

「……無惨の野郎が、黙って見てるわけねえな」

 

獪岳の眼光が鋭くなる。

 

「これで、戦いが終わったわけじゃねえ」

 

むしろ――始まったのだ。

 

鬼舞辻無惨が、禰豆子を狙う。

 

そして鬼殺隊もまた、最後の戦いへ向けて動き出す。

 

「炭治郎!」

 

獪岳が声を飛ばす。

 

「妹を守りたきゃ、もっと強くなれ!」

 

炭治郎は涙を拭い、力強く頷いた。

 

「はい!」

 

東の空から昇った太陽が、刀鍛冶の里を照らしていく。

 

長かった夜が終わった。

 

だが――。

 

その朝日は、鬼殺隊にとって希望であると同時に、鬼舞辻無惨にとっても最大の標的を知らせる光となった。

 

太陽を克服した少女。

 

その存在によって、千年以上続いた鬼と人間の戦いは、ついに最終局面へと動き始める。

 

――夜明けは、終わりではない。

 

――最後の戦いの、始まりだった。

 

 

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