『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第二話 水柱・冨岡義勇の稽古

――鬼殺隊本部から少し離れた山中。

 

朝靄の残る広場には、数十人の隊士たちが集められていた。

 

柱稽古。

 

最終決戦を目前に控え、鬼殺隊士一人ひとりの実力を底上げするために始まった、過酷極まりない鍛錬である。

 

その最初の担当は――水柱・冨岡義勇。

 

「……もっと踏み込め」

 

静かな声が響く。

 

「足が遅い。構えが甘い。これでは鬼の攻撃を受ける」

 

「は、はいっ!」

 

隊士たちは必死に刀を振る。

 

しかし、誰一人として義勇に一太刀も届かない。

 

水の呼吸を極めた剣士の動きは、まるで流れる水そのもの。

 

力みがない。

 

無駄がない。

 

それでいて、一瞬の隙も存在しなかった。

 

「もう一度」

 

「は、はい!」

 

何度倒されても隊士たちは立ち上がる。

 

だが――。

 

「……俺は、お前たちとは違う」

 

ふと、義勇が呟いた。

 

その声は決して大きくなかった。

 

だが、その場にいた全員の耳にははっきりと届いた。

 

隊士たちの動きが止まる。

 

そして――。

 

少し離れた場所で腕を組みながら稽古を見ていた獪岳の眉間に、深い皺が刻まれた。

 

「……あぁ?」

 

低い声。

 

周囲の空気が、一瞬で変わった。

 

「今、なんつった?」

 

義勇が振り返る。

 

「俺は、お前たちとは違うと言った」

 

「ハッ……」

 

獪岳の口元が歪む。

 

「相変わらず、人を舐め腐ったような物言いしやがるな。水柱様よぉ」

 

「そういう意味ではない」

 

「じゃあ、どういう意味だ?」

 

義勇は黙った。

 

「……」

 

「……おい」

 

「……」

 

「黙ってねえで答えろ」

 

獪岳が一歩踏み出す。

 

その瞬間――。

 

バチッ!

 

黒紫色の雷気が、獪岳の身体から漏れ出した。

 

隊士たちが思わず後退する。

 

「自分だけ特別だって言いたいのか?」

 

「違う」

 

「俺たちと一緒に鍛えるのが嫌だってのか?」

 

「そういうことでもない」

 

「だったら、なんでそんな言い方しやがる!」

 

獪岳の声が山中に響き渡る。

 

義勇はただ、静かに獪岳を見つめていた。

 

その表情からは、感情がほとんど読み取れない。

 

それが余計に獪岳を苛立たせる。

 

「てめぇ……!」

 

刀の柄へ手が伸びる。

 

「柱の分際で自分だけ稽古を拒否するってんなら――」

 

バリバリバリッ!

 

雷気が一気に膨れ上がる。

 

「俺が力ずくで引きずり出してやるよ!」

 

「待ってください、獪岳さん!」

 

その間に飛び込んだのは、竈門炭治郎だった。

 

「義勇さんは、そんなつもりで言ったんじゃありません!」

 

「だったら説明しろ!」

 

「それは……!」

 

炭治郎は義勇を見る。

 

そして、少しだけ苦しそうに眉を下げた。

 

「義勇さんには……義勇さんにしか分からない苦しみがあるんです」

 

「……」

 

「最終選別の時、義勇さんは親友だった錆兎さんに助けられた。でも、その錆兎さんは亡くなった」

 

義勇の瞳が僅かに揺れる。

 

「自分だけが生き残ったことを、ずっと責めていたんです」

 

炭治郎は続けた。

 

「だから、自分は柱にふさわしくない。自分は他の柱とは違う。……そう思ってしまっているんです」

 

獪岳は黙って義勇を見る。

 

「……俺は」

 

義勇が口を開いた。

 

「錆兎がいなければ、あの日死んでいた」

 

静かな声だった。

 

「俺は何もできなかった。鬼を倒したのも、最終選別を生き残ったのも……俺の力ではない」

 

「義勇さん……」

 

「だから俺は、柱になっていい人間ではない」

 

その言葉を聞いた獪岳は――。

 

「……くだらねえ」

 

「……何?」

 

「くだらねえって言ったんだよ」

 

獪岳が義勇の前まで歩いていく。

 

「死んだ奴に生きろって言われたから生きた。だったら、生き残ったてめぇがやることは何だ?」

 

義勇は答えない。

 

「死んだ奴の分まで生きることだろうが」

 

「……」

 

「『俺は柱にふさわしくねえ』?」

 

獪岳が鼻で笑う。

 

「だったら今からふさわしくなれ」

 

その言葉に、義勇の目が僅かに見開かれた。

 

「錆兎って奴が命懸けで繋いだてめぇの命を、てめぇ自身が腐らせてどうすんだ」

 

炭治郎も静かに頷く。

 

「義勇さん。俺も、錆兎さんに会っていなかったら、ここまで来られなかったと思います」

 

「炭治郎……」

 

「だから、義勇さんが生きていることは、錆兎さんが無駄に死んだってことじゃありません」

 

炭治郎はまっすぐ義勇を見つめる。

 

「義勇さんが生きて、戦って、誰かを守っている。それが……錆兎さんが繋いだ命なんじゃないでしょうか」

 

長い沈黙。

 

やがて義勇が、ゆっくりと自分の手を見る。

 

脳裏に蘇る。

 

錆兎の笑顔。

 

あの日、鬼の前に立ちはだかった背中。

 

そして――。

 

『お前は生きろ』

 

「……錆兎」

 

義勇が目を閉じる。

 

「……俺は」

 

静かに息を吐く。

 

「……生きる」

 

その声には、今までとは違う力が宿っていた。

 

「錆兎に託された命を……繋がなければならない」

 

そして義勇は、腰の刀を抜いた。

 

「獪岳」

 

「なんだ」

 

「……手合わせを頼む」

 

一瞬。

 

獪岳の口元が吊り上がった。

 

「ハッ!」

 

黒紫の雷気が弾ける。

 

「やっとその気になりやがったか!」

 

義勇が構える。

 

「水の呼吸――」

 

獪岳も刀を抜く。

 

「雷の呼吸――」

 

隊士たちが一斉に距離を取った。

 

「始め!」

 

誰かの声と同時に――。

 

ドォンッ!

 

二人の姿が消えた。

 

「雷の呼吸・肆ノ型――遠雷!」

 

バリィィンッ!

 

黒紫の雷光が地面を走る。

 

対する義勇は、その軌道を読むように身体を滑らせた。

 

「水の呼吸――弐ノ型・水車」

 

ガキィィィンッ!

 

雷と水が激突する。

 

衝撃で土煙が舞い上がる。

 

「……速い」

 

隊士の一人が呆然と呟く。

 

「これが……柱同士の戦い……」

 

獪岳が笑う。

 

「悪くねえな、水柱!」

 

「……君も」

 

義勇の瞳に、初めて明確な闘志が宿る。

 

「以前より速くなった」

 

「当たり前だ!」

 

獪岳が踏み込む。

 

「俺は止まらねえ!」

 

再び雷光が弾ける。

 

水が舞う。

 

雷が轟く。

 

互いに一歩も引かない剣戟が、山中へ轟音を響かせていく。

 

その姿を見つめながら、炭治郎は嬉しそうに笑った。

 

「……よかった」

 

水柱・冨岡義勇。

 

自分は他の柱とは違う。

 

その言葉の意味は、孤独を示すものではなかった。

 

自分だけが生き残ったという罪悪感。

 

その過去を抱えたまま、それでも前へ進むための言葉だった。

 

そして――。

 

柱稽古は、ようやく本当の意味で始まった。

 

水柱が前を向いた。

 

ならば次に待つのは――。

 

さらに苛烈な柱たちによる、地獄のような鍛錬である。

 

 

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