『霹靂、そして慈雨。転生獪岳の鬼殺隊無双ルート』   作:夜幻

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第2話 俺は、この世界の未来を知っている

 

――俺は、この世界の未来を知っている。

 

それが、この状況において唯一の救いだった。

 

「…………」

 

寺の縁側に座り、獪岳は朝焼けの空を睨んでいた。

 

昨日までなら、ただの美しい朝だっただろう。

 

だが、今の彼には違う。

 

この先に起こる出来事を知っている。

 

鬼が来る。

 

子供たちが殺される。

 

悲鳴嶼行冥が疑われる。

 

そして――。

 

「……ふざけんな」

 

小さく呟く。

 

拳が震えた。

 

「そんな未来、誰が受け入れるかよ」

 

もちろん、未来を知っていると言っても万能ではない。

 

原作の物語が、そのまま進む保証などない。

 

自分がこの世界に転生した時点で、すでに物語は変わり始めている。

 

それでも。

 

大筋の流れは覚えている。

 

『鬼滅の刃』。

 

自分が前世で知っていた物語。

 

鬼舞辻無惨という鬼の始祖。

 

鬼殺隊。

 

呼吸。

 

柱。

 

そして数え切れないほどの悲劇。

 

獪岳は、頭の中で必死に情報を整理していた。

 

「まず……俺自身の未来だ」

 

原作の獪岳。

 

自分と同じ身体を持つ少年。

 

雷の呼吸の使い手。

 

才能があり、努力もしていた。

 

しかし、常に「自分より上の存在」を恐れていた。

 

善逸。

 

黒死牟。

 

そして鬼。

 

「俺は鬼にならない」

 

これは絶対条件だ。

 

鬼になれば終わる。

 

人を喰う。

 

仲間を裏切る。

 

そして最後には――善逸に殺される。

 

「……冗談じゃねぇ」

 

善逸の顔が脳裏に浮かんだ。

 

まだ会っていない。

 

だが、未来の記憶には知っている。

 

泣き虫で。

 

臆病で。

 

女好きで。

 

騒がしくて。

 

それでも――最後の最後では、誰よりも強くなる男。

 

「……あいつと殺し合う未来なんて、絶対に嫌だ」

 

ならば、善逸との関係も変える。

 

敵ではなく。

 

兄弟弟子として。

 

「俺が兄貴になってやる」

 

獪岳は、自分でも驚くほど自然にそう呟いていた。

 

そして次。

 

「悲鳴嶼さん」

 

寺の中を見る。

 

そこには、一人の盲目の僧侶がいる。

 

悲鳴嶼行冥。

 

鬼殺隊最強の柱。

 

しかし、原作ではこの頃――。

 

悲劇によって、全てを失う。

 

「……それも、絶対に変える」

 

悲鳴嶼は悪くない。

 

子供たちを守ろうとしていた。

 

それなのに。

 

一人の子供の行動によって、最悪の誤解が生まれてしまう。

 

その誤解を知っているなら。

 

「俺が止めればいい」

 

獪岳は立ち上がった。

 

だが、そこで問題に気づく。

 

「……どうやって?」

 

自分は子供だ。

 

鬼と戦う力なんてない。

 

剣もない。

 

呼吸もない。

 

ましてや、鬼が本当に存在することすら、この時点では自分以外には証明できない。

 

「……だったら、証明する必要なんてねぇ」

 

重要なのは。

 

悲鳴嶼に信じてもらうこと。

 

「鬼が来る」

 

それを伝える。

 

だが――。

 

「俺がそんなこと言ったら、どう思われる?」

 

ただの子供の妄言。

 

夢でも見たのかと思われるかもしれない。

 

最悪、頭がおかしくなったと思われる。

 

「……なら」

 

獪岳は考える。

 

「未来を全部話す必要はない」

 

鬼の特徴。

 

夜に来ること。

 

人間を食うこと。

 

寺を狙っていること。

 

これだけを伝えればいい。

 

そして――。

 

「寺の戸締まりを徹底する」

 

「子供たちを一人にしない」

 

「夜になったら絶対に外へ出さない」

 

少しずつ対策する。

 

それでも。

 

一番重要なことがある。

 

「あいつだ」

 

獪岳の脳裏に、一人の少年の姿が浮かぶ。

 

寺にいる子供の一人。

 

原作で悲劇の引き金となる少年。

 

彼が夜中に寺を抜け出し、鬼と遭遇する。

 

だからこそ。

 

「こいつを絶対に外へ出さない」

 

それが第一だ。

 

「……やることは決まったな」

 

獪岳は拳を握った。

 

その時。

 

「獪岳」

 

「!」

 

背後から声がした。

 

振り返る。

 

そこには悲鳴嶼行冥が立っていた。

 

「朝から何を考えているのだ」

 

「……悲鳴嶼さん」

 

思わず緊張する。

 

原作を知っているからこそ。

 

目の前の男が、どれほど重要な人物なのか分かっている。

 

「……話があります」

 

「何だろうか」

 

獪岳は一瞬迷った。

 

そして――。

 

「この寺に、鬼が来ます」

 

空気が止まった。

 

悲鳴嶼の表情が変わる。

 

「…………何?」

 

「今夜か、近いうちに来る」

 

「なぜ、そう思う」

 

「……勘です」

 

嘘だ。

 

本当は未来を知っている。

 

しかし、それを言えるわけがない。

 

悲鳴嶼は黙っている。

 

「獪岳」

 

「はい」

 

「それは、夢か?」

 

「違います」

 

「では、何故だ」

 

獪岳は答えられない。

 

それでも。

 

「……俺には、そう思えるんです」

 

「…………」

 

「だから、信じてください」

 

頭を下げる。

 

「子供たちを、絶対に外へ出さないでください」

 

悲鳴嶼は何も言わない。

 

獪岳は唇を噛む。

 

やはり無理か。

 

そう思った瞬間。

 

「分かった」

 

「……え?」

 

「今夜から警戒しよう」

 

獪岳は目を見開いた。

 

「信じるんですか?」

 

「ああ」

 

悲鳴嶼は静かに頷いた。

 

「お前が、嘘をついているとは思えない」

 

「…………」

 

胸の奥が熱くなる。

 

「それに」

 

悲鳴嶼は、獪岳の頭にそっと手を置いた。

 

「子供がそこまで怯えているのならば、守るのが大人の役目だ」

 

「…………っ」

 

獪岳は顔を俯けた。

 

原作では。

 

この人を救えなかった。

 

でも。

 

今回は違う。

 

「……ありがとうございます」

 

小さく呟く。

 

悲鳴嶼は微笑んだ。

 

「礼を言うのはこちらだ」

 

「え?」

 

「仲間を心配してくれたのだろう」

 

「……仲間?」

 

「そうだ」

 

悲鳴嶼は、穏やかに言った。

 

「ここにいる子供たちは、皆、お前の家族だ」

 

「…………」

 

その言葉が。

 

胸の奥に突き刺さった。

 

家族。

 

前世では、そんな言葉を深く考えたことなどなかった。

 

だが今。

 

この寺の子供たちは。

 

目の前の悲鳴嶼は。

 

自分にとって、守るべき存在なのだと。

 

初めて実感した。

 

「……分かりました」

 

獪岳は顔を上げた。

 

「俺が守ります」

 

「無理をしてはいけない」

 

「それでも」

 

「……獪岳」

 

「俺は……」

 

拳を握る。

 

「この世界の未来を知っている」

 

もちろん、その言葉は口には出さない。

 

「だから、今度は――」

 

誰も死なせない。

 

それが。

 

獪岳の二度目の人生で最初に決めた約束だった。

 

――夜。

 

寺の外で。

 

風が吹いた。

 

木々がざわめく。

 

獪岳は暗闇を睨む。

 

「……来る」

 

遠くから。

 

何かが近づいている。

 

人間ではない。

 

獪岳はまだ知らない。

 

いや。

 

本当は知っている。

 

原作の物語なら。

 

ここから――寺の悲劇が始まる。

 

だが。

 

今回は違う。

 

寺の中では、悲鳴嶼が子供たちを守っている。

 

そして獪岳もまた。

 

小さな身体で拳を握り締めていた。

 

「来いよ」

 

少年の瞳に、恐怖はなかった。

 

あるのは――決意だけ。

 

「俺が、お前らの未来をぶっ壊してやる」

 

その夜。

 

本来ならば悲劇の始まりとなるはずだった寺に。

 

運命を変えるための最初の一歩が刻まれた。

 

【大正コソコソ噂話】

 

この頃の獪岳は、まだ悲鳴嶼行冥のことを「悲鳴嶼さん」と呼んでいる。

 

しかし、悲鳴嶼はすでに獪岳のことをかなり気にかけている。

 

そして後に、獪岳が悲鳴嶼を「親父」と呼ぶようになる未来を知る者は――まだ誰もいない。

 

なお、獪岳本人はその未来を想像しただけで、

 

「……絶対に呼ばねぇからな」

 

と顔を真っ赤にしていた。

 

――大正コソコソ噂話・終。

 

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